平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

文字の大きさ
78 / 190
2-3 恋と出会いとお化け

第68話 図鑑少女

しおりを挟む

「ところで俺に用ってなんなんだ?──あ、もしかして! とうとうヤマトも盾を考えてんのか!? だったら俺で正解だぜ! バッチリ教えてやるよ! 最初はそうだなぁ……」
 早とちりしたロットが早口で語りだす。

「ああ、違います! 盾も確かに考えたいですけど、今日は別件で」
 慌てて話に割って入りロットを制する。

「おぉ? じゃあなんの要件なんだ?」

(出過ぎた真似か……? いや、情報があれば次に繋がる対処法も考えやすい……はず)

「突然なんですが、ロットさんは今どなたかと交際されてます?」
 本来なら手紙を渡して食事の約束を取り付けるだけでいい。
 お節介の自覚はあるが、真剣そうなルーティを見て、出来るだけ情報を集めようと探りを入れる。
 
「交際? ヤマトお前……そうか。まぁ正直な話、自慢じゃねえけど俺達はこの街で人気者だっつう自覚はある。まさか"ネア"じゃなくロットだとは思いもよらなかったけどな……」

「? ネアさん……?──! ち、違いますよ!! 俺の事じゃなくてですね!」
 変な方向に勘を働かせるロットに訂正し、事情を説明する。


「……なるほどなぁ。さっきも言ったけどよ、俺含め、みんなその手の手紙やら誘いやらは頻繁にあるんだよ」

「一応俺の肌感でも、みなさんは中堅と位置付けられてますけど、実際にはベテランクラスの扱い──認識をされてますもんね。人気があるのも良く分かります」

「ああ、まだまだ俺達には過ぎた評価だとは思うけどな……それだけならいいんだけどよ、実際色々とあるんだよ。その人気を目的に、『名前を使わせてくれ』だの、『一儲けしませんか』だの、善意の皮被ったうさんくせえ奴らの誘いも多い」

「今は学習したけど、最初は俺達も、それで痛い目を見た事もあった訳だ、はは」
 確かに未知の緑翼は名実共に優れたパーティーだ。
 見た目も美男美女揃い、その人気にあやかろうと、お金にしか目が向いていない不埒者が放って置くには惜しい人材だ。
 
「だからよ、いつもならそういう話は断るんだけどな。ヤマトの紹介となると話は別か……」
 
「いや、正直にお伝えしておきますが、この"ルーティ"さんとは店主と客の関係なだけで、詳しい人間性まで俺は知らないんです。さっき説明した通り、この手紙を渡しに来たのも偶然の事で」

「あぁ、友達って訳じゃないんだな」

「ただ『ライバル恋敵が多い』と言ってたので、恐らくお金にまつわる事では無いと感じました。自分をアピールしようともしてませんでしたから、真剣に想う一人の女性だと俺は思います」

「そうか……ヤマトの慎重さは俺達も良く知ってる。そのヤマトがそう感じたんなら、いっちょ応えてみるか!」

「ありがとうございます、ルーティさんも喜ぶと思います。彼女の話では露店を出すのは……」
 

 ルーティの予定を伝え、食事の席を設ける事で話がついた。
 手紙に書かれた内容を俺は把握していないが、男なら多分貰うと嬉しい文面なのだろう。
 ロットも満更では無い様子で『まともなのは滅多にねえからな』と、久しぶりの真面目な出会いに前向きのようだった。
 後は当人同士の相性次第。
 俺が出来る事はここまで、アプルがになる事を祈るばかりだ。


 
「はは、それでよ、その日からは毎晩その矢を抱いて寝てたぐらいでな」

「ふふ、ホント。見た目には分かり辛いけれど、ショートのあの喜びようったら無かったわ」

「あれは俺の最初の宝物。恥じる事は無い」

「だよね。何というか"本物"! って感じがして俺も羨ましかったよ」

「確かに憧れの人からのプレゼントなら物は関係ないですもんね──」
 
「──ホーホホ! (タベモノ!)」

「ご褒美? うんうん、ありがとなリーフル」
 いつものラビトーの肉を口元に運ぶ。
 
 んぐんぐ──「ホッ……」
 孤児院の子供達は今からおやつの時間という事で、グラウンドに居た三人は先程この応接間に戻ってきており、俺達は飲み物を前に思い出話に花を咲かせていた。
 リーフルは頑張って子供達の相手をしてくれたようで、少々お疲れの様子だ。


 目的の手紙も渡し孤児院に挨拶も終えたので、そろそろ帰ろうかと考えていると、建物の中心の吹き抜けになっている中庭に、一人の少女がおやつにも行かず、座り込んでいる様子が見えた。

「あれ……あの子はおやつはいいんですか?」

「ああ、"エマ"ちゃん。また図鑑に夢中になってるのね」
 ネアが当たり前といった口ぶりで答える。

「エマちゃんは少し変わってまして。魔物が大好きで、いつも図鑑を眺めては『早くこの目で確かめに行きたい!』って、勉強熱心な子なんですよ」

「もうすぐ十五の誕生日だから冒険者になる」

「あくまでもその、だろ? 母さん達も俺達も、まだ許可してねえよ」

「へぇ~、そうなんですね」
 本人は楽しんでいるのでとやかく言う事でもないし、彼女を知るみんなも平然としているので、俺が気にかける事でもないのだろうが、その"図鑑"には非常に興味がある。
 ここは一つ、俺の持つ秘蔵のお菓子と交換に、話をしてもらえないか交渉してみようと思う。

「すみません、エマちゃんと話をさせてもらっても大丈夫ですか?」

「構わないわよ」

「ありがとうございます。ちょっと失礼します」


 ──ガチャ
「おぉ~綺麗な庭だなぁリーフル」 「ホ~」
 中庭へと出ると、綺麗に整備された花壇に色とりどりの花が咲き誇っており、小休止を取るのになんとも心地の良さそうな空間が広がっていた。
 中心には井戸があり、花を眺めやすいようベンチも置かれ、子供の良い発育に貢献しているであろう立派な造りだ。
 先程名前を教えて貰ったエマは、ベンチに腰を掛け図鑑に夢中のようで、顔を伏せこちらに気付いている様子は無い。
 ここはリーフルの出番だ。

「リーフル、挨拶よろしく」 「ホ」
 リーフルと打ち合わせ、エマの下へと近づいてゆく。


「ホホーホ(ナカマ)」
 エマの前まで赴くと、リーフルが挨拶を口にした。
 
「なっ……! 鳥の声!?」
 少し驚いた様子のエマが顔を上げ辺りを見渡す。

「こんにちはエマちゃん。俺は未知の緑翼の皆さんの同僚で冒険者のヤマトって言うんだ。こっちは相棒のリーフル」 「ホ~」

「お兄ちゃん達の……? わ! 綺麗な鳥ちゃん!──見せて見せて!」
 エマがリーフル目掛け急接近し、まじまじと観察を始めた。

「全身緑色……それに目の羽が片方しかない……」
 ぶつぶつと呟きながらリーフルを撫でるように観察している。

「ホ、ホ~……」
 さすがのリーフルも勢いに押され、少したじろいだ様子で応えている。

「はは、やっぱり動物も好きなんだね。図鑑が好きって聞いたんだけど、ギルドのと同じやつなのかな?」
 ベンチに置かれた図鑑を指し尋ねる。

「わかんない。私、ギルドの図鑑見た事無いもん」

「それもそっか……ごめんね、俺もそういう"情報"の類には興味があってね。もし良ければその図鑑見せてくれないかな?」

「えー。あなた、冒険者だからギルドでいくらでも見れるんでしょ? 羨ましい……だからいや!」

(ふふ……拒否される事は想定内)

「もちろんタダでとは言わないよ。これでどうかな?」
 アイテムBOXからリーフルスペシャル味のかき氷を取り出す。

「何それ! 氷? お菓子なの??」

「そうだよ~、かき氷って言うお菓子なんだ。冷たくて癖になる味だよ?」

「う~ん、お菓子はいらない。それよりもその鳥ちゃんを観察させて!」
 見た事の無いお菓子であれば釣れるかと思ったのだが、代わりに提示された条件も大した事は無いので、拒否する理由も無い。

「わかった。リーフル! エマちゃんと勉強会だ! かき氷も後で一緒に食べようね」

「ホホーホ? (ナカマ?)」
 俺達三人は仲良く談笑しつつかき氷を頬張り、あれこれと動物や魔物について語り合った。
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...