平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

文字の大きさ
79 / 190
2-3 恋と出会いとお化け

第69話 想定外

しおりを挟む
 孤児院の綺麗に手入れの行き届いた中庭、いつも図鑑を眺めて過ごし勉強熱心だという少女、"エマ"と即席の勉強会を開き打ち解けた俺は、彼女からある相談を受けていた。

「──リーフルちゃん可愛い! ヤマトさんはどうやってリーフルちゃんと仲良くなったの?」
 やはり動物と一緒というのは羨ましく映るのか、エマが目を輝かせ尋ねる。

「ホホーホ(ナカマ)」
 まじまじと観察され、最初は少し警戒していたリーフルも、すっかり仲良しになったようだ。

「んと、俺が未知の緑翼の皆さんの荷物持ちをした時の帰りに、ブラックベアに襲われてね。リーフルもその時ローウルフに追われてて、てんやわんやだったけど何とか撃退して保護して、一緒に暮らし出してって感じかな?」

「ブラックベア!」──ペラペラッ!
 名前に反応し、エマが図鑑を素早く捲り、ものの一秒足らずでブラックベアの詳細が記述されたページを開いてみせた。
 穴が開く程とはよく言ったもので、本当に何度も何度も熟読しているという事が伝わって来る。

「ブラックベア──体長二~大きい者なら五メートル。その強靭な爪は岩をも砕き、厚い皮膚は粗悪な刃では切裂くことは難しい、サウド周辺の魔物の生態系において上位種」
 エマが説明文を読み上げる。

「すごいね! よっぽど魔物に興味があるんだ?」

「う~ん……半々って感じかなぁ……」
 少し悲し気に言い淀む。

(──そうだ、ここは孤児院……)

「でも正直言うと恨みもそんなに感じないの。だって私は一歳の頃からここに居るし、恨みや憎しみが沸く暇もないもの。お母さん達はそんな事気にならなくなるほど優しく面倒見てくれるしね」

「そっか……職員さん──お母さん達はみんな立派な人達なんだね」

「だから私ね、自分のを活かすにはどうすればいいかって考えたの。好きに観察が出来てお金も稼げる──冒険者になってお母さん達に恩返ししたいの!」
 まだ成長途中の小さな手には収まりきらない図鑑を握りしめ、決意の宿る瞳でそう宣言する。

「確かに魔物の事を人一倍知ってるエマちゃんなら、パーティーにおいてかなりの強みになると思うな」

「でしょー! でも、お母さん達もお兄ちゃん達未知の緑翼も、中々許してくれないの……」

「ん~、悪いけど俺も同意見かなぁ。何より危険だからね~。"ギルド職員"って手もあると思うけど、それは考えた事ないの?」
 先程聞いた話では、未知の緑翼の皆は偶然にも全員同じ年齢、同じような時期に孤児院に引き取られ、幸運にも各々の相性が良く、始めから四人で仲が良かったそうだ。
 そう聞くと、四人揃って冒険者を志し、パーティーを組んで働いていくというのは必然だったように思う。
 そんな未知の緑翼と違いエマのように孤児院を卒業するに当たり、女の子が単身冒険者になるというのは、誰だって賛同し難い就職先だろう。

「ギルド職員かぁ……それって魔物見れる?」

「"生き生き"としたものは見ないと思うよ。買取の時に見る程度かな。でも逆に考えれば、安全かつじっくり観察出来るんじゃないかな?」

「なるほど……ありがとうヤマトさん。いい事聞いたわ!」

「俺の方こそ図鑑ありがとうね。また見に来てもいいかな?」

「今度は違う味が食べたい!」

「わかった、次は他の子達の分も揃えてくるよ」

「やったぁ! リーフルちゃんもまた一緒に遊ぼうねっ!」

「ホホーホ(ナカマ)」



 エマや他の子供達や"お母さん達"、未知の緑翼の面々に挨拶し、孤児院を後にした俺は、その足でルーティの下へやってきた。

「ルーティさん、しっかり渡してきましたよ」

「ホント!? どうだったかしら……反応は……?」

「好感触でしたよ」
 親指を立て、ロットの態度が明るかった事を伝える。

「ホホーホ(ナカマ)」──バサッ!
 リーフルが翼を広げ、恐らく『子供達の相手をした』という事を報告している。

「はは、そうだなリーフル。ありがとな」

「リーフルちゃん、楽しそうですね。どうしたんですか?」

「あの後ギルドへ行きまして、未知の緑翼の皆さんの……」
 手紙を渡すまでに至った経緯を報告する。


「……はぁ~……やっぱり素敵ね……ロットさん」
 ため息一つ、遠くを見つめ感慨深げに呟く。

「そうですね~。孤児院出身という事は俺も初耳だったんですけど、巣立った後も恩返しに勤しんでいるなんて立派ですよね」

「そうですねぇ……──彼ね、ちょくちょく私の所で果物を買ってくれるの」

「あぁ。そういうきっかけなんですね」

「ええ、未知の緑翼と言えばこの街では大概の人が知るこの街を代表する冒険者チームだわ」

「なのにその人気に驕る事も無いし、気さくだし、いつも目の前で『お姉さんのはいつも美味いな!』って豪快に一口かじって笑顔で話してくれるの」
 
「ハハ、ロットさんらしいですね」
 思わず乾いた笑いが口を付いてしまう。
 惚気た表情の女性は魅力的に見えるが、自分に向けられたものでは無いので味がしない。

「逞しい身体つきに大きな盾を背負ってるのに、その時ばかりは少年みたいな笑顔で……はぁ……可愛いわ……」

「ヘェー。所謂"ギャップ萌え"ってやつですか」

「──ギャップモエ? どういう意味かしら?」

(あぁっ──久しぶりに迂闊だった……まぁでも元々日本人で、自然な会話中に飛び出る言葉なんだから仕方ない……オリジナルの造語を作ってる変な奴とでも思われておけばいいか)

「え、えっと……俺が考えた造語でして『場面場面で受ける印象が変わって、その差でもって相手に惹かれる』みたいな意味合いです」

「へぇ~、お兄さん変わった趣味があるのね……でもピッタリね! その言葉。今度から私も使わせてもらってもいいかしら?」

「か、構いませんけど説明が面倒ですよ?」

「"流行"っていうのは発案者のあずかり知らない所で起こるものよ」
 ルーティがウインクして見せる。

「ま、まぁ程々にお願いします──では早速明日の晩、東区のあの店で予定してますので、頑張ってください!」
 ロットは東区にある肉料理が美味いというレストランを指定していた。
 通りがかりに外観は拝んだことがあるが、高級そうな店構えをしていたような記憶がある。

「……お兄さん? 何で他人事?」

「む? どういう事でしょうか?」
 
よ、"仲人"!」

「え?? 手紙の件はもう済ませたはずですけど……」
 ルーティの指す意味がよく分からず、困惑してしまう。

「ああ~。お兄さんそういえば記憶が……でしたもんね。席を取り持つんですよ。上手くいくように」

「というと?」

「紹介人──仲人が、会食の初めは場を取りなすのよ。それで、いい具合になったところで退席してもらうの。ちょっと堅苦しい気もするけど、"正式な出会い"を演出する昔からの文化なの」

(あ! あぁ~……そういえばわざわざって言ってたもんな……)
 ルーティとの会話を思い出し青ざめる。

 所謂、古くから日本にもある"お見合い"の事だ。
 てっきり最初の一歩だけの手伝いだと思っていたのだが、まさかルーティ、ロット共に、そこまで正式な面持ちだったとは。

 嫌な予感というのは、かくも的中するものか。
 良い予感なんて感じる事自体少ないし、当たったためしが無い。
 相棒の充実した食生活の為とはいえ、アプルの半額に釣られ、安請け合いしてしまった事を今更ながら後悔したのだった。
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。 世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。 派手に振られて落ち込んでいる精霊王。 逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。 可愛すぎて人間が苦手になった真竜。 戦場のトラウマで休養中の傭兵――。 そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、 異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。 異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、 このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。 日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。 そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。 傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。 彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。 ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。 転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。 しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。 男であれば執事、女であればメイド。 「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」 如何にして異世界を楽しむか。 バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

処理中です...