平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

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2-4 平凡の非凡

第74話 計画

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 小鳥がさえずる声。

 サウド周辺を北から南西へと取り囲む森と草原との境界、その草原側。
 定期的に募られる草原一帯に生息する魔物達の生態調査の仕事クエストを受注した俺は、情報を蓄積しながら木材の収集をしていた。

 森に生息する"ブラックベア"に代表される、俺一人では太刀打ちできない凶暴な魔物達は、魔物除けの効果を発揮する魔導具が置かれた冒険者達の休憩場所を挟むおかげで、滅多に草原側に姿を見せる事は無い。
 出来れば森へ分け入り木材の収集をしたいところだが、今の俺の実力ではハイリスクで、リーフルの事も考えると、なるべく接近せず弓だけで片が付く魔物との戦闘が望ましいのだ。
 
 生態調査の報酬は相場通りの銀貨三十枚で、この仕事クエストを終えれば大工のジンネマンに提示された金貨二枚相当の予算に手が届く。
 そうすれば思い付いた"計画"の第一歩目はクリア出来るので、不備の無いよう綿密に、分かりやすく資料をまとめなければ。

「リーフル、今日はお前の耳が頼りだ。よろしくな」

「ホ~」

 草原と森の境界に沿うように移動しつつ、生息している魔物の種類や数、分布域等をお手製地図と照らし合わせながら、ギルドから預かる提出用の羊皮紙に書き記してゆく。

 草原に広く生息しているスライム、ミドルラット、ラビトー、この三種は比較的数が多く危険度も最低クラス。
 ラビトーなどはリーフルのおやつにもなるので、今や遭遇すればする程魔物となった。

 他にはローウルフ、ラフボア、ストークスパイダー等、気の抜けない──俺の基準では──相手も少数ながら生息している。
 中でもストークスパイダーは、以前"牧場の牛舎内"というこちらに有利な狭い状況では、辛くも退治する事が出来たが、この広い草原で相対した場合、リーフルを守りながら勝利できるかどうか確信が持てない相手だ。
 
 このように俺の経験した、或いは立ち入る事の出来る領域内の魔物に限定して想定を始めても、すぐに頭打ちとなってしまうのが戦闘面においての現状だ。
 これではマーウ達が住まうマクアク村に遊びに行ったり、ライン達の住まうドグ村にリーフルの成長ぶりを自慢しに行く事も叶わない。
 何よりも単独で森へ入れるようになれば、冒険者として仕事クエストの幅が広まるし、その水準に到達できれば、サウドに定住している限りでは自ずとリーフルを守り切る力も付けられるという事になる。

 手っ取り早く対魔物への強さを引き上げるのならパーティーを結成すればいい。
 俺自身パーティーを組む事に対して抵抗がある訳でも、一匹狼の性分でも無い。
 この世界に転移し冒険者になりたての、ミドルラットやラビトーに短剣片手に右往左往手こずっていたあの頃とは違い、下位のクエストであれば最低限足手まといにはならない程度の自信はある。
 それこそかわいい後輩の"ロング"などは、恐らく誘えばパーティーを組んでくれる事だろう。

 なら何故未だソロ冒険者を続けているのかと考えるが、自分の事ながら明確な答えは見つからない。
 一番はっきりとした理由としては、やはり下位のクエストに徒党を組み挑んでも、割に合わないという事が大きいだろうか。
 もしくは冒険者として強さを追い求める向上心が足りないのか、はたまた『好き勝手に生きたい』という想いが大きいのか。
 いずれにせよ、今は"力"を付ける──折角のロングソードを使いこなせるようになる事が優先だ。



 仕事クエストを終え報酬を受け取ったその足で、ギルドの程近くにある木材の加工場、この街の大工達の仕事場へとやって来た。

「こんにちは、先日はどうも」 「ホホーホ(ナカマ)」

「おう。どうだ、集まったか」
 大工の親方である"ジンネマン"が図面と睨み合いながら答える。

「皆さんの露店程立派じゃなくていいんですけどね。これでどうでしょうか?」
 アイテムBOXから収集した木材を取り出す。

「……ふむ。まぁ天板はサービスしといてやる。それで、例の物は?」

「抜かりなく」
 異次元空間からかき氷を取り出す。

「おぉ! わしもこの年で甘味にはまるとは思わなんだが、これはどえらい美味いからのぉ」
 ジンネマンは差し入れたかき氷に目を輝かせている。

「ですよね~。やっぱり"冷たい"ってところが他では味わえませんもんね」

「ホーホホ(タベモノ)」

「おやつの時間だもんな。もうちょっと待っててね」

「ところで、もう許可取りは済ませたのか?」

「いえ、今からお伺いを立てに向かう所です」

「そうか。明後日受け取りに来るといい。この程度の大きさなら老いてきたとはいえ、わしでも十分こなせる」

「わかりました、それではよろしくお願いします」


 
「やぁヤマト君。今日は申請書の件だったね」

「はい。今日は諸々の使用許可についてお伺いさせていただきたく、やってまいりました」
 役所三階の執務室。
 自分の立てた計画を実行するに当たり、この街を治める最高権力者である、"統治官リーゼス"に面会に来ている。

「申請書によると……『冒険者の為の休憩所にて露店の営業、並びに滞在許可』とあるが、詳細を聞こうか」

「はい。露店の営業とは文字通り、私がパンとかき氷の出張販売をしたいという旨のものです。滞在許可に関しましては、念の為にと記載したものでして。休憩所は実質公共施設ですので、寝泊りを繰り返してもよいかの確認をしたかったもので」

「滞在許可については何ら問題は無い。むしろギルドにも通達を出しておこうじゃないか」

「わざわざそんな! ありがとうございます」

「大した事は出来ないが、少しでも君の希望に寄り添えれば、我が国──サウド支部に利する事であるし、個人的に君を気に入っている感傷的な即面もある」

「ありがとうございます。お墨付きを頂けるのであれば、憂いなく修練に励むことが出来ます」

「しかし露店とは珍しいな。君は金銭についてはあまり気に留めない男だと記憶していたが」

「あ、いえ──お恥ずかしながら、冒険者として普段の実入りがそれ程良い方では無いので、穴埋めとして何らかの収入が必要なんです」

「ふむ……それで、何か特別な品は考えているのかね?」

「はい。一応出張販売限定の品物についての相談は進めております」

「結構。こちらとしても前例のない出店場所なのでね。君の露店からどれ程の税収を見込めるかの試金石としたい思いもある。何かがあるのであれば問題なかろう」

「では御許可頂けるという事で……」

「──あぁ、待ちたまえ。休憩所での販売については許可出来ないな」

「えっ! 今問題ないと……」

「休憩所、な。君も良く知る通りかき氷、ヘレン婦人のパン、どちらもこの街で大変人気のある品々だ」

「はい」

「その"限定品"が森の入り口──とはいえ実際には森に分け入り二十メートル程進まなねば手に入らないとなると、どうかね?」

「──! おっしゃる通りですね……」
 リーゼスの言う通りで、人気のある二品の限定品が販売されていると知れ渡れば、冒険者でない者達──普段森へは近付かない、自衛手段を持たない一般市民までもが、多少の無理をしてでも赴こうとする事は想像に難くない。
 
「人気商品に目を付けたのはいいが、その潜在的な魅力を過小評価してはいけない──まぁ私もその魅力に当てられた内の一人だがね」

「そうですね──考えが及ばず、申し訳ございません」

「いや、謝る必要はない。それに露店はどうぞ出店して欲しい事に変わりはないのだよ。休憩所では許可しないが、森と草原の境界の草原側、出来る限り見晴らしの良い、魔物の接近をすぐに察知出来るような場所であれば許可しよう」

「なるほど……」

「市民の健全な消費行動を抑制するような真似はしたくないが、それによって魔物の被害が増える事も看過出来ないのでね。折衷案という訳だ」

「はい、私も同意見です。リーゼス様の思し召しに感謝いたします」

「ではそういう事でよろしく頼む。宣伝と注意喚起はこちらでギルドを通じて行っておこう」

「ありがとうございます。それでは失礼致します」 「ホ」

 さすがは"統治官"といったところだ。
 露店を出店する事にしか考えが及ばず、消費者の安全については失念していた。
 やはり正式に許可取り兼相談に来ておいて正解だった。
 休憩所の滞在許可も全面的に周知してくれるという話なので、これで休憩所を利用する冒険者達から白い目で見られる事も無いだろう。
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