平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

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2-4 平凡の非凡

第80話 見い出す力 3

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 慣れないお世辞攻めに居たたまれなくなった俺は、空腹を満たしまどろむ皆を背に、ロングソードの素振りをしていた。

「ふっ!──ふっ!──」

(こういう時はどうすればいいのかな……可愛らしいのはそうだけど、あまりに唐突過ぎて意識する間も無いというか、訓練計画もまだやっと一回目が終わるってタイミングだし……)

「──ふっ!──ふっ!──ふっ!──」

(この剣……自動修復だと思ってたけど、明らかに形が変わって……)
 講習で教わった型をなぞり剣を上下させるが、考えたい──考えるべき事が飽和し、集中しきれずにいる。

「──ふっ!──ふっ!」

「お疲れ様です。何か分かりました?」

「あ~……ロングにも見て欲しいんだけど、どう思う?」
 ロングソードを手渡す。

「ふむ……むむっ! ケイプスクワールと戦った時は"刃"が無かったのに……」

「そうなんだよ……」
 昨日グリーンモールを仕留めた際には、馴染みの鍛冶師見習い"リオン"に見てもらった時と同じ『切れ味の悪い普通のロングソード』の状態だった。
 だが今日の昼間、ロングと共にケイプスクワールとの戦闘になり、ロングソードを抜刀した時に気付いたのだが、この剣はいつの間にか切れ味が悪いどころか、刃の無い、唯の長方形の鉄の棒へと変化していた。
 おかげで敵を切り裂くことが出来ず、殴りつける事しか出来なかった訳だが、現在素振りを開始した時点では、また『切れ味の悪い普通のロングソード』の形に戻っている。

「この剣が形を変えてるって事は間違いないと思う。ただその条件も、変化する形も、何も分からないんだ」

「う~ん……普通のロングソードを買い直した方がいいんですかね?」

「……ラーデルさんも言ってたもんね『得物は命と同義』って」

「丁度自分もリオンさんにハンマーを見てもらいたかったところなんです。街に帰ったら一緒に行きましょう!」

「そうだね──」


『──キエェェェェ!!』
 突如空から耳をつんざくけたたましい雄たけびが上がる。

「「!!」」

「──な、なんなん?!」

「ホーホ! (ヤマト!)」
 リーフルが肩に戻る。

 咄嗟に雄たけびを上げる主を見上げる。

 夜の闇に紛れ、休憩所を取り囲む木々の隙間から、全身が漆黒に染まるカラスに似た魔物が姿を現した。
 月明りのおかげで淡い輪郭は視認できるが、広げた翼を含めると、ゆうに三メートルはあろうかという巨体を誇り、光を鈍く反射する真っ赤な瞳が、星空からこちらを鋭く見つめている。

「ディープクロウ!?」 「ホー! (テキ!)」
 
「こっちを狙ってるみたいっすね……!」

「──マリン!! すぐに木の根元に身を隠すんだ! 開けた場所は危ない!」
 注意がこちらに向かうよう、わざと大声を張り上げ、マリンに避難を促す。

「わ、分かった! 気を付けてな……」
 マリンが木の密度の高い場所を目指し駆け出す。


「キエェェェッ!!──」
 こちらの思惑を看破しているかのように、戦闘力の無いマリン目掛け、ディープクロウが急降下してくる。

 翼が巻き起こす風に木々が揺れ、鉤爪が空を切る音が聞こえる。

「──キャアッッ!!」
 まるで狩りをする猛禽類が野ネズミを仕留めるが如く、その大きく太い四本の指で、着地すると同時にマリンを強固に捕らえる。

「マリンッ!!」
 間に合わない事を悟り、咄嗟にロングソードを投擲する。
 さらに続けて矢を二本放つ。

「キョキョッ!」
 柔らかいクッションを押し込んだ時に聞こえるような軽い音。
 デーィプクロウがその大きな片翼で飛来物を難なく弾き飛ばす。
 
「──どっせいっ!!」
 一瞬の隙を逃さず、ディープクロウに迫るロングが、駆ける勢いを乗せたハンマーを振り下ろす。
 
 ハンマーが地面に衝突する鈍い音。

「キエッ!」
 攻撃を回避すると同時に空中へと舞い上がる。

「キャッッ!」
 
「ちっ!──」
 急ぎマリンの下へ駆けるが間に合わない。

 ロングソードを拾い上げ、考えを巡らせる。

(何が訓練だくそっ!)

「ヤマトさん、どうしましょう……」

「迂闊だった──くそっ! どうすれば!」
 焦りから握る拳に力が入る。

「空中はちょっとマズいっす。自分達魔法も使え──」

「──早く助けないと! 弓でもなんでも──」

「──ヤマトさん!!……らしくないっす。こんな時こそ"観察"っすよ!」 「ホーホ……(ヤマト)」
 咄嗟に腕を掴み、焦る俺を制するように、ロングが冷静になるよう諫めてくれる。

「はっ!……そうだな、ごめん。そうだよな」

(ロングの言う通りだ。俺が──今の俺達が"思考"を放棄すれば、本当に唯のボンクラなんだ。救えるものも救えないだろう!)
 ディープクロウは、魔物除けの魔道具の効果の及ばない空から奇襲を仕掛けてくる鳥型の魔物で、その事はギルドの図鑑から頭に入れていた、いたのだ……。

 この訓練計画を実行する者は俺、つまり"冒険者"。
 胆力や警戒力、判断力を鍛える狙いから、あえて街に帰らず危険な場所で寝泊まりするというのは、あくまでも俺やロング──冒険者が行う想定のものだ。
 
 だがマリンは違う。
 彼女は戦闘力を持たない唯の一般的な女性で、この場に同行しているだけでも危険極まりない行為だ。
 勝手にやって来たのだと言えなくも無いが、諸々の懸念事項を心得ていた俺には、少々強引にでも、早々にマリンを街に送り届ける責任があった。

 和やかな雰囲気に油断していたのか、はたまた好意を寄せられた事に舞い上がっていたのか。
 どちらにせよ、俺の責任である以上マリンだけは絶対に助けなければならない。

(俺の弓では効果無し、魔法も使えない……)
 空中に距離を取る魔物を相手に、どうしてもその差を埋める手段が思い浮かばない。

「せめて自分も鋭い剣の一つでも持ってれば、さっきのヤマトさんみたいにんすけどね……」

「投げる……?──それだ!!」
 ふいに思い出す。
 以前ウンディーネ様の泉でコカトリスと対峙した際、斬撃を事で撃退し、事なきを得た。
 あの時はリンク縁結びという力を借り受け、やり方も依然分からないままだが『可能とする力は持っている』とはウンディーネ様の言葉だ。

 そして先日の悪霊との闘い。
 自力なのかリーフルの力なのかは定かではないが、神力を纏ったこの剣……。
 他に攻撃手段を持たない現状では、それに賭けるしかない。


「お願いだっ、リーフル……すぅ……」 「ホ~……!」 
 懇願するように一言呟き、意識をロングソードに集中する。

 体の内から俺の腕を通し、何か温かい物が剣に注がれてゆく感覚を覚える。


「──! やった……出来たぞ……!」
 ロングソードの刀身がうっすらと青白く輝きだす。

「わっ! 剣が光ってる……」

(あの時をイメージしろ……)
 
 飛び去ろうと距離を取るディープクロウ目掛け、上段に構えたロングソードを振り下ろす──。

「──ギョアッッ!!」
 放たれた神力による斬撃がディープクロウの右翼を切り裂いた。

「当たった!──いや、浅い?!」
 致命傷には至らず、ディープクロウが全力で翼をはためかせ、空高く逃げようと上昇する。

「リーフル!!──」

「──ホーッ!!」
 俺の想いを瞬時にくみ取り、リーフルがスロウを発動させる。
 
 神力の宿るロングソードをもう一度振り下ろす──。

 青白い軌跡が闇夜に走る。

「──ギョブッッ……」
 ディープクロウの身体が二つに分かれ、羽根を散らしながら重力に従い舞い落ちる。

「キャアァーーッ!」
 捕らえられていたマリンも為す術無く落下する。

「マリンッ!!」
 急ぎ駆ける──。


 ──落下地点へと全身を滑り込ませる。
 地面に激突するすんでの所で、間一髪マリンを抱きとめる。

「ふぅ、間に合った……マリちゃん、ケガしてない?」

「うぅ、大丈夫や……でも怖かったわぁ……」
 余程の恐怖だったのだろう、マリンが力一杯俺にしがみついている。
 
「ヤマトさん! マリちゃんさん!」
 ロングが駆け寄ってきた。

「ごめん、マリちゃん。もっと早く街に送って行くべきだったよ」

「……」
 マリンは俺の胸に顔を埋めたまま身を震わせ沈黙している。

 大きな鳥の魔物に鷲掴みにされるという、相当な恐怖を味わったのだ。
 非難されても仕方ない、甘んじて罵倒でもなんでも受け入れるべきだろう。

「マ、マリちゃんさん……ヤマトさん必死に──」

「──なんなんヤマちゃん!? ちょっとカッコよすぎん?!」
 急に顔を上げたかと思うと、マリンが満面の笑みで詰め寄ってくる。

「えっ……?」
 心積もりとは真逆の事を言われ、一瞬何を言われたのか理解出来ず、困惑してしまう。

「なぁなぁ!──今の魔法なん?! あんなおっきい鳥の魔物を──さすが見込んだだけの事はあるで! うちの旦那さんは将来有望やなぁ!」
 マリンがはしゃいだ様子で、まくしたてるような関西弁が口を突く。

「ハハ……あ──ダメだ……限界みたい……」
 神力を使い果たした影響か、意識が遠のいてゆく。
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