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2-5 冒険者流遠足会
第85話 おやつは銀貨一枚まで 1
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壊れてしまった愛弓を修理してもらうべく、鍛冶公房イーサンへとやって来た俺は、イーサンの指示の下、壊れてしまった弓と同程度の弓を拝借し、構えて見せている。
「……ふん……なるほどな」
顎に手を当て、鋭い目で俺を観察していたイーサンが口を開く。
「何かお分かりですか?」
「おう。ヤマト、お前手加減してただろ」
「ええ、そりゃあ商品ですから、万が一にも壊れるとまずいので」
「違う。力の入れ具合の話じゃねえ、腕の可動域の事だ」
弓を引く動作を交えながらそう語る。
「? いえ、普段と変わりないと思いますけど」
「……扱いを制限してたんだろうよ。お前さんの愛弓の限界を超えて引き絞らねえようにな」
「そいつの軋む"悲鳴"を感じていたお前さんは、恐らく無意識のうちに腕の可動域を抑えていた。昨日の森での戦闘中、咄嗟の判断で目一杯に引き絞ったもんで、とうとう耐えられなくなったってとこだ」
「ロングソードも挑戦するって言ってたし、確かに同じ弓じゃヤマトの成長には役不足だったのかもなぁ」
リオンがテーブルの上のリーフルを撫でながら、申し訳無さそうに話す。
「なるほど……」
「で、どうする? 一度俺の弟でも訪ねてみるか?」
「弟さん……ですか」
「"センスバーチ"で鍛冶屋をやってる。"ヨシュア"なら弓に関しちゃ、俺よりも良い物を仕上げる。長弓にしろクロスボウにしろ、この先世話んなるなら、専門にしてる奴が造る代物の方が安心できるだろう」
「ふむ」
「センスバーチか~。俺もサウドへ来る時に一度寄ったけど、あんまり好きじゃないなぁ」
リオンが少し渋い表情を浮かべそう語る。
「何かあったの?」
「いや、特に何かあったって訳じゃないんだけどな。ただ、ごみごみしてるっつうか、せかせかしてるっつうか。小さな田舎の村出身の俺から見ると、何だか落ち着かなかったわ」
「へぇ~、"都会"なんだね」
「紹介状を書いてやる。ついでに仕入れもこなすってんなら、安くするよう頼んでやるぞ?」
「そうですね……一度ギルドに相談してみます」
「愛弓の方は安心しろよな! 必ず元の姿に戻してやる!」
リオンが腕まくり一つ、気合の籠る頼もしい宣言をしてくれる。
「うん、ありがとう」
愛弓を預け、ギルドへと向かった。
◇
「こんにちはキャシーさん」 「ホホーホ(ナカマ)」
「こんにちはヤマトさん、リーフルちゃん。今日のご予定は?」
「後でヒール草の買い取りをお願いします。それと、一つ聞きたいことがありまして……」
センスバーチに関する事を尋ねる。
「……アンション国内最大の、流通の拠点ですか」
「かく言う私もセンスバーチ出身なんです。優秀過ぎて、サウド支部の看板娘を任される事になりましたけど!」
キャシーがお決まりの、胸を張り腰に手を当てるポーズを取り、誇らしげにしている。
「能力によって配属先が割り振られるって話でしたっけ?」
「ええ。採用試験や研修期間の成績如何で、我々ギルド職員は最も適性のある街へと割り振られます」
「へぇ~。さすがキャシーさんですね~」 「ホ」
「ええ、そうですとも! 私が居ないとサウド支部は回りませんよ!」
誇示する言葉とは裏腹に、虚ろな目をしているキャシー。
普段の激務が垣間見える、何とも哀愁漂う光景だ。
「──こほん。冗談はそれぐらいにして。ヤマトさん、センスバーチに行かれるんですか?」
「悩んでる段階ですかね。弓は必須ですけど、買い物の為だけに他所の街に出るほど余裕もないですし」
「でしたら、"定期便"を担当されてはいかがでしょうか?」
「ふむ……それって、俺が担っても減額されたりは……」
「ご安心ください。正規の諸経費は約束されていますので、アイテムBOXを持つヤマトさんにとっては非常にお得なお仕事になります」
サウド支部にて蓄積される魔物の素材や納品物、特産品等を国内──センスバーチへと流通させる定期便。
運ぶ品数により準備される馬車の台数、護衛に就く冒険者の人数は変化する。
全てを収納できる俺が仮に担当するとなると、掛る経費が非常に安く済む事になるが、どうやら元々想定された経費分を丸々頂けるらしい。
加えて仕事の基本報酬も得られるなら、旅費に関する心配は無用か。
「でも随分気前がいいんですね。国としては節約できるなら減額しそうなものですけど」
「保険のようなものですかね? 大事な定期便の予算を渋ると、御者さんが品物をぞんざいに扱ったり、冒険者の方がネコババしたりと、基本的に人は"お金"でその行動を左右されますから」
「統治官様が定期便の予算を潤沢に押さえている理由がそうだと、以前聞いたことがあります」
「なるほど」
「ホーホホ? (タベモノ?)」
「リーフルもおやつが無かったら、やる気が出ないだろ?」
「ホー! (テキ!)」
「はは、そうそう」
「ヤマトさん次第です。当ギルドとしましても、恐らく統治官様も、ヤマトさんが担当なさる事を反対する者はいないでしょうから」
「そうですか」
渡りに船となる仕事の話を聞けて、新しい弓に対する光明が見えた。
色々と考えねばならない事は多いが、ひとまず宿に戻る事にした。
◇
「ホーホホ……(タベモノ……)」
おやつに取り出したアプル、ウーイ、ワイルドベリを前に、リーフルが吟味している。
何故悩んでいるのかというと、俺が制限しているからだ。
好きな物を好きなだけというのは、やはり健康に良くないと思い、おやつのフルーツは一日に一種類だけと指導し、リーフルに選ばせている。
賢いリーフルは俺の意図を素直にくみ取り、お利口に一種類だけを慎重に選び出し、じっくりと堪能している。
俺としては厳格に指導する気も無いが、共に心に余裕のある時は守るべき制限だろう。
(センスバーチか……)
この世界に転移したといっても、サウド以外の事は知らないまま。
そうはいっても日本に居た頃だって、全国津々浦々旅をした訳でも、仕事で飛び回っていたという事も無いので、似たようなものだ。
普通の会社員だった頃と比べ、旅行気分や未知への好奇心、冒険者となった今では、そういった欲求が心に存在する事も自覚している。
愛弓を失った寄る辺なさは拭えないままだが、"外"を体験する良い機会かもしれない。
「リーフル、ちょっと旅行しようか?」
「ホ (イク)」
真意を理解しているとは思えないが、的確な単語で躊躇なく返事をする。
恐らく『いつでもどこでも一緒』と、甲斐甲斐しい事を想っての事だろうし、愚問だったろう。
そういえば、センスバーチは故郷の村がある地域だと、以前ロングに聞いたので、話を聞けばある程度心構えもしやすいだろうと思う。
「……ふん……なるほどな」
顎に手を当て、鋭い目で俺を観察していたイーサンが口を開く。
「何かお分かりですか?」
「おう。ヤマト、お前手加減してただろ」
「ええ、そりゃあ商品ですから、万が一にも壊れるとまずいので」
「違う。力の入れ具合の話じゃねえ、腕の可動域の事だ」
弓を引く動作を交えながらそう語る。
「? いえ、普段と変わりないと思いますけど」
「……扱いを制限してたんだろうよ。お前さんの愛弓の限界を超えて引き絞らねえようにな」
「そいつの軋む"悲鳴"を感じていたお前さんは、恐らく無意識のうちに腕の可動域を抑えていた。昨日の森での戦闘中、咄嗟の判断で目一杯に引き絞ったもんで、とうとう耐えられなくなったってとこだ」
「ロングソードも挑戦するって言ってたし、確かに同じ弓じゃヤマトの成長には役不足だったのかもなぁ」
リオンがテーブルの上のリーフルを撫でながら、申し訳無さそうに話す。
「なるほど……」
「で、どうする? 一度俺の弟でも訪ねてみるか?」
「弟さん……ですか」
「"センスバーチ"で鍛冶屋をやってる。"ヨシュア"なら弓に関しちゃ、俺よりも良い物を仕上げる。長弓にしろクロスボウにしろ、この先世話んなるなら、専門にしてる奴が造る代物の方が安心できるだろう」
「ふむ」
「センスバーチか~。俺もサウドへ来る時に一度寄ったけど、あんまり好きじゃないなぁ」
リオンが少し渋い表情を浮かべそう語る。
「何かあったの?」
「いや、特に何かあったって訳じゃないんだけどな。ただ、ごみごみしてるっつうか、せかせかしてるっつうか。小さな田舎の村出身の俺から見ると、何だか落ち着かなかったわ」
「へぇ~、"都会"なんだね」
「紹介状を書いてやる。ついでに仕入れもこなすってんなら、安くするよう頼んでやるぞ?」
「そうですね……一度ギルドに相談してみます」
「愛弓の方は安心しろよな! 必ず元の姿に戻してやる!」
リオンが腕まくり一つ、気合の籠る頼もしい宣言をしてくれる。
「うん、ありがとう」
愛弓を預け、ギルドへと向かった。
◇
「こんにちはキャシーさん」 「ホホーホ(ナカマ)」
「こんにちはヤマトさん、リーフルちゃん。今日のご予定は?」
「後でヒール草の買い取りをお願いします。それと、一つ聞きたいことがありまして……」
センスバーチに関する事を尋ねる。
「……アンション国内最大の、流通の拠点ですか」
「かく言う私もセンスバーチ出身なんです。優秀過ぎて、サウド支部の看板娘を任される事になりましたけど!」
キャシーがお決まりの、胸を張り腰に手を当てるポーズを取り、誇らしげにしている。
「能力によって配属先が割り振られるって話でしたっけ?」
「ええ。採用試験や研修期間の成績如何で、我々ギルド職員は最も適性のある街へと割り振られます」
「へぇ~。さすがキャシーさんですね~」 「ホ」
「ええ、そうですとも! 私が居ないとサウド支部は回りませんよ!」
誇示する言葉とは裏腹に、虚ろな目をしているキャシー。
普段の激務が垣間見える、何とも哀愁漂う光景だ。
「──こほん。冗談はそれぐらいにして。ヤマトさん、センスバーチに行かれるんですか?」
「悩んでる段階ですかね。弓は必須ですけど、買い物の為だけに他所の街に出るほど余裕もないですし」
「でしたら、"定期便"を担当されてはいかがでしょうか?」
「ふむ……それって、俺が担っても減額されたりは……」
「ご安心ください。正規の諸経費は約束されていますので、アイテムBOXを持つヤマトさんにとっては非常にお得なお仕事になります」
サウド支部にて蓄積される魔物の素材や納品物、特産品等を国内──センスバーチへと流通させる定期便。
運ぶ品数により準備される馬車の台数、護衛に就く冒険者の人数は変化する。
全てを収納できる俺が仮に担当するとなると、掛る経費が非常に安く済む事になるが、どうやら元々想定された経費分を丸々頂けるらしい。
加えて仕事の基本報酬も得られるなら、旅費に関する心配は無用か。
「でも随分気前がいいんですね。国としては節約できるなら減額しそうなものですけど」
「保険のようなものですかね? 大事な定期便の予算を渋ると、御者さんが品物をぞんざいに扱ったり、冒険者の方がネコババしたりと、基本的に人は"お金"でその行動を左右されますから」
「統治官様が定期便の予算を潤沢に押さえている理由がそうだと、以前聞いたことがあります」
「なるほど」
「ホーホホ? (タベモノ?)」
「リーフルもおやつが無かったら、やる気が出ないだろ?」
「ホー! (テキ!)」
「はは、そうそう」
「ヤマトさん次第です。当ギルドとしましても、恐らく統治官様も、ヤマトさんが担当なさる事を反対する者はいないでしょうから」
「そうですか」
渡りに船となる仕事の話を聞けて、新しい弓に対する光明が見えた。
色々と考えねばならない事は多いが、ひとまず宿に戻る事にした。
◇
「ホーホホ……(タベモノ……)」
おやつに取り出したアプル、ウーイ、ワイルドベリを前に、リーフルが吟味している。
何故悩んでいるのかというと、俺が制限しているからだ。
好きな物を好きなだけというのは、やはり健康に良くないと思い、おやつのフルーツは一日に一種類だけと指導し、リーフルに選ばせている。
賢いリーフルは俺の意図を素直にくみ取り、お利口に一種類だけを慎重に選び出し、じっくりと堪能している。
俺としては厳格に指導する気も無いが、共に心に余裕のある時は守るべき制限だろう。
(センスバーチか……)
この世界に転移したといっても、サウド以外の事は知らないまま。
そうはいっても日本に居た頃だって、全国津々浦々旅をした訳でも、仕事で飛び回っていたという事も無いので、似たようなものだ。
普通の会社員だった頃と比べ、旅行気分や未知への好奇心、冒険者となった今では、そういった欲求が心に存在する事も自覚している。
愛弓を失った寄る辺なさは拭えないままだが、"外"を体験する良い機会かもしれない。
「リーフル、ちょっと旅行しようか?」
「ホ (イク)」
真意を理解しているとは思えないが、的確な単語で躊躇なく返事をする。
恐らく『いつでもどこでも一緒』と、甲斐甲斐しい事を想っての事だろうし、愚問だったろう。
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