107 / 190
2-5 冒険者流遠足会
第89話 新天地
しおりを挟む早朝ニコ村を出発しはや数刻。
荷台が軋む心地よい音と振動を感じる。
澄み渡る青い空の奥の方、遥か上空からは"トンビ"のものと思しき情緒あふれる鳴き声が聞こえ、丁度良い気温も相まり、まさか仕事で移動しているとは思えない程のんびりしている。
これも偏にベテラン御者であるガリウスと相棒のバルの成せる業で、車のように衝撃を吸収する減衰装置などついていない、ただの荷台とはとても思えない穏やかな乗り心地だ。
一方同じベテランであるビビットはというと、昨夜の奮闘がさすがに堪えたのか、大盾を枕に寝入っている。
村では気丈に振舞っていたが、やはりあの魔法は体に相当な負担を強いるのだろう。
「ホホーホ(ナカマ)」──バサッ
リーフルが翼を広げて見せている。
恐らく昨夜見た、肥大した大盾の事を指している。
「そうだなぁ。凄かったね、ビビットさんの魔法」
「そうっすね~。虫に襲われたのは運が悪かったっすけど、"ベテラン"の戦いを間近で勉強できてよかったっす」
「ラーデルさんにしてもそうだけど、一体どれだけの研鑽を積んだのやら……俺達も精進しないとね」
「ヤマトさんにはあの魔導具があるっすよね? だからヤマトさんも同じっすよ!」
「あ~……あれね。ハハ……」
ロングの言う魔導具とは、以前ディープクロウからマリンを救うべく発揮した"神力の斬撃"の事だ。
自分でも苦しい説明だと思うが『秘蔵の魔導具の力なんだ』と、結局皆にはそう説明したのだった。
本当の所が言えない自分を情けなく思う反面、今はこのままでいいという想いもある。
なのできっといつか、今尚引きずる転移者であるという壁を、自らの成長と共に乗り越えられると信じて、"ヤマト"を頑張って行けばいい。
「まぁ、あんまり当てにしないでね。所詮一回だけの使い切りの道具なんだし」
「そんなものより"地力"をつけた方が安全だよ」
「なるほどっす。訓練あるのみっすね!」
「ホ! (イク!)」
「おぉ~。リーフルちゃんもやる気っすね!」
「はは。そうだロング、予定どうしようか。先に鍛冶屋にして、その後挨拶に行こうか」
「そうっすねぇ…………いや! 昨日約束したばかりでした。センスバーチで雑用してた頃の自分とは違うっす!」
「そうだロング! 一緒に胸張って行こう!」
センスバーチでの予定やサウドへ帰ってからの事など、弾む会話のおかげで、俺達の馬車は穏やかなまま時を感じさせず残りの道程を消化していった。
◇
「そろそろだ。冒険者証の準備をしておいてくれ」
御者台のガリウスが注意を促す。
「そうかい、お疲れさん。順調順調!」
「いよいよっすね」
「分かりました」
荷台から上半身を乗り出し、馬車の行く先を見据える。
「おぉ~! あれが……」
「ホ~!」
"センスバーチ"。
俺が日々営みを送るこのアンション王国の中央に位置し、国内全域への物流の心臓部となる街。
日々絶えず様々な品物がこの街を介し流れていて、アンション国民であれば知らぬものは居ないとされる一大都市だ。
遠目から伺える街の規模自体はサウドと同程度に見えるが、一つ大きな違いがある。
驚くことに、"壁"が無いのだ。
俺が唯一知る街サウドを例にあげると、街全体を取り囲むように、円形の防壁がそびえたっているのだが、なんとセンスバーチにはそれが見当たらない。
壁が無い理由を推察するに、防壁を築く意味とは、当然魔物達から街を守る為だ。
だがそうなると、必然的に出入り出来る位置が限られることになる。
国内の多方面から人や物が流入する上で、入り口や出口を目指し回り道をしなければならないとなると、非常に効率が悪い。
さらに考えられる事は、この場所を物流の拠点と定めた理由だ。
魔物の数が少ない、もしくは存在していても比較的弱い者ばかりが生息しているからこそ、ここを拠点とする事にしたのだと思われる。
なので恐らく防壁が無い理由としては、魔物よりも、人や物の流動性を重視しているからなのだろう。
街の周辺は森や林等は見当たらず、起伏の無い広い平原になっており、見晴らしがとても良い、美しい風景を表している。
街の中へと目を向けると、恐らく庁舎だと思われる大きな建物が街の中央に鎮座し、その中央に向かって整備された道が街の外から続いている様子が見える。
イメージされる街の形としては、フランス、パリにある凱旋門を中心とした周辺地理が近いだろうか。
街に近付くにつれ集う馬車の数も増え、賑わいの様相が濃くなってきた。
心なしか道行く人々の纏う服に使用されている色の数も多く見える。
流通拠点という事なので、サウドでは見かけない、様々な流行の発信地でもあるのかも知れない。
馬車が街の入り口に立つ衛兵と思われる男性に近付いてゆく。
「通行許可証、目録、冒険者証の提示をお願いします」
衛兵の男性が近寄り、確認の為俺達の乗る荷台を覗き見る。
「サウド支部所属、ガリウス。定期便だ」
ガリウスが書類と皆の身分証を提示する。
「む? 目録によると……何故物資が何も無いのでしょう? 乗合馬車にしか見えませんが」
「同じくサウド支部所属、冒険者ヤマトのユニーク魔法によるものだ」
「はい。こういう事です」
荷台の中で目録にある魔物の素材等を取り出して見せる。
「ホーホ! (ヤマト!)」──バサッ
リーフルが誇らしげに右翼を広げて見せている。
「ほぉ~!! それはまた便利な力をお持ちで! 委細承知いたしました。 どうぞお通りください」
衛兵が目を丸くして感嘆の声を上げる。
「礼を言う──ハッ」
ガリウスがバルに指示を出す。
「あの人、凄く驚いてましたね、くふふ」
「そりゃそうさ。こんな便利な魔法、唯一無二だろうしねぇ。少なくともあたしは他に見た事がないよ」
「鋭い目つきをしてましたから、少し焦りましたね」
俺達の馬車はいよいよ街に入り、冒険者ギルドセンスバーチ支部を目指し、歩を進める。
荷台から眺める街の様子で、まず新鮮なのは行き交う人々だろうか。
サウドに比べ、武器を携帯していない、所謂一般市民の比率が随分と多いように見受けられる。
さらに獣人族の数も比較的多いように思えるが、エルフ族の姿は今の所確認できない。
「ロング、実家はタヌキ族の村だよね? 他にも居るの?」
「イタチさん達も居るっすね。見た目は自分達と変わりないっすけど、小柄なのが特徴っす」
「へぇ~。あ、あの人とかそうなのかな?」
それらしい通りすがりの人物を指し尋ねる。
「んと……」
ロングが確認している。
「そうっす! あの人はイタチ族の人っす!」
「成人……だよね。結構小さいね」
恐らく成人だと思われるが、背丈が小学校高学年生程。
ロングの言う通り丸い耳や細身の体格等あまり違いは無く、強いて言うならば尻尾が細長い事が特徴だろうか。
「小柄なのも可愛いけど……あたしはタヌキの方がいいな」
ビビットがロングに聞こえない程度の声量でボソりと呟く。
(素直に言えたら進展もしそうなんだけどなぁ)
奥手なビビットを応援したい気持ちはあるのだが、如何せん純真なロングはあまり裏を読む癖が無いので、援護しようにも常々言葉選びが難しい。
「バル、ご苦労様。着いたぞ」
「ありがとうございました」
荷台から降りる。
今回の仕事の目的地であるセンスバーチ支部へと無事到着した。
ギルドへの納品や弓の購入、ロングの実家への挨拶等、この街ではすべき事が多い。
そういえばリーフル用の肩当ても見繕いたいところだ。
見知らぬ土地、都会的な雰囲気に少々緊張しているが、高揚感も同時に存在している。
一体どんな"旅行"になるのか、リーフルと行く景色が今から楽しみだ。
91
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜
自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。
世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。
派手に振られて落ち込んでいる精霊王。
逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。
可愛すぎて人間が苦手になった真竜。
戦場のトラウマで休養中の傭兵――。
そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、
異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。
異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、
このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。
日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。
そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。
傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?
Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。
彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。
ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。
転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。
しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。
男であれば執事、女であればメイド。
「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」
如何にして異世界を楽しむか。
バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる