111 / 190
2-6 外地にて
第91話 新顔
しおりを挟む今日はこの街までやってきた本来の目的である弓を購入する為、鍛冶屋へと赴く予定をしていたのだが、案内人を確保できた事は都合が良い。
一夜明けた早朝ギルド前、昨日偶然縁が出来たステラというイタチ族の女性と待ち合わせ、俺とロングは鍛冶屋まで案内してもらった。
イーサンの弟であるヨシュアに紹介状を渡し話を通すと、建物の裏手にある弓の試射場へと促され、早速俺に見合う弓の選定をする事となった。
的に向け矢を放つ。
弓を持ち替え再び狙い撃つ。
(うん。大きさも使い勝手も、やっぱりこの二つだな)
クロスボウ、ロングボウ、コンポジットボウ、これら三種を提示された訳だが、やはり元々の愛弓と同じ、使い慣れた大きさのロングボウ、もしくは少し小さ目のコンポジットボウがしっくり来る。
「──大体把握した。お前さん、その腰の得物も使うんだろ? だったら飛距離より速射性と威力を重視して、コンポジットボウの方が良さそうだな」
後ろで様子を見ていたヨシュアが口を開く。
「なるほど」
(う~ん……矢の飛距離と速射性、どっちも捨てがたいよなぁ)
「ホーホ? (ヤマト?)」
リーフルが弓を見比べ不思議そうにしている。
「うん、迷うなぁ。リーフルはどっちがいい?」
「ホーホホ(タベモノ)」
「はは、そりゃそうか」
ざっとした所見で考えてみる。
クロスボウは威力がそれなりで狙いがつけやすく、射程距離は一番短い。
ただ、構造上矢を装填するのに時間がかかり、なおかつ初めて触れるものなので、俺としては取り回しづらいといった印象だ。
ロングボウは元々の愛弓がそうだったこともあり、非常に手に馴染む。
威力は一番弱いが、射程距離が最も長く、狙いをつけるのが一番難しい。
コンポジットボウはロングボウよりも一回り小さく、射程距離に関しては一歩劣るが威力は十分で、速射性が高い。
そして、木の他に金属素材も含む複合材料で形作られている為、耐久性が高そうだ。
「この二つで比べると射程距離で言えば、どれ程の差がありますでしょうか?」
ロングボウとコンポジットボウを提示し尋ねる。
「うちで用意してる物なら、大体二倍強ってとこだな」
自分の思い描く基本的な戦闘スタイルとしては、出来れば先手を取り、リスクを下げた上で接近戦にもつれ込むといった具合なので、遠距離から悠々と狙い撃てるロングボウは非常に魅力的だ。
だが、最近訓練を始めたサウド周辺の森の中を想定すると、ロングボウの射程距離を存分に活かせる直線的な空間は、気が生い茂っているせいでそれ程多くない。
ならば矢の飛距離より速射性、威力を重視したコンポジットボウの方がより安全に事を運べるだろう。
耐久性能が高い事も重要で、甲乙つけがたいところだ。
「ちなみに……二つ購入するとなると、おいくらでしょうか?」
「金貨十二枚だ。兄貴の紹介だし、お前さんがサウドへの卸を請け負うって話でもあるから……その分を引いて金貨十枚が限度だな」
「そうですか……」
払えない金額では無いが、リーフルの肩当て代やこの街での遊興費を考えると少々厳しいか。
ロングに金を借りるなんて情けない事はしたくないし、先輩であるビビットにも頼み辛いところ。
今まではロングボウの事しか知らず、候補に挙がる物が一点だけなら迷いも生まれはしないが、選択肢が増えると途端にこうだ。
だがそれも仕方なく、夕飯や新しい服を思案している時とは違い、選んでいるのは自分の命を預ける"武器"。
例え普段から物事を即決出来る人物だろうと、慎重にならざるを得ない問題だ。
「決めかねるか? まぁじっくり考えるといい。調整代やら何やらは気にするな、本体価格だけで面倒見てやる」
「……いえ、決めました。やっぱり両方購入します。後悔したくないので」
「そうかい……よし、気に入った! 気前がいい奴は嫌いじゃない。だったら俺ももう少し協力してやる!」
「ありがとうございます。よかったなぁリーフル」
「ホ~? (ワカラナイ)」
「調整の方は一日ありゃ済む。お前さんは心置きなく観光でも楽しんでこい」
代金の金貨九枚を支払い、鍛冶屋を後にした。
◇
無事弓を購入出来た俺は、休憩を兼ねてステラに案内を頼みカフェへとやってきた。
何故なら、今朝から逃避していた事実と向き合うには、どうしても腰を落ち着かせられる場所が必要だったからだ。
「もぉ~ロン君? また口に付いてるわよ、ほら」
ステラがロングの食べこぼしを拭っている。
「ちょ、ちょっと! ヤマトさんの前で恥ずかしいから、やめてよステラ」
「なぁにこのシャツも! ちゃんと毎日お洗濯してるの?」
「ちゃんとやってるよ! もう前みたいに破いたりもしないし」
「そうなの? ロン君偉いわねぇ。私が見ない間に成長したのね」
身長が低いせいで必死に背伸びをしてロングの頭を撫でている。
(むぅ……俺は一体どうするべきなのか……)
「リーフル。困ったなぁ」
小声でリーフルに呟く。
んぐんぐ──「ホッ……ホ?」
リーフルは何食わぬ顔で名物であるサツマイモのクッキーを頬張っている。
先程からこの調子で、ステラはロングに椅子を寄せ密着して座り、離れていた時間を取り戻さんとばかりに、甲斐甲斐しく世話を焼いている。
今朝再会を果たした時などは、ステラは飛び上がって喜んでおり、好意がある事は明白だった。
所謂幼馴染同士という関係らしく、俺が偶然出会ったステラが、ロングと縁の深い人物だった事は、二人の繋がりの深さを象徴するような事象に思えて、何とも不思議な感覚を覚える。
タヌキ族とイタチ族は、どうやら同じ村で生活しているらしく、同年代の子供達に馬鹿にされながら生活していたロングの事を、唯一親身になって気にかけてくれていたのがステラなのだそうだ。
年はロングより二つ上で、年齢的にも性格的にも、義理のお姉ちゃんといった雰囲気だが、当のロング本人は少し気疎い様子を見せている。
「そうだわ!──ヤマトさん、ロン君の事、ありがとうございました。まさかロン君に"お兄ちゃん"が出来てたなんて、安心しました」
「あ~、あれも偶然だったよね。最初にサウドを案内した時の事はよく覚えてるよ」
「今の自分があるのは、ヤマトさんのおかげっすからね……」
「私、正直ロン君にはもう会えないと思ってたわ……センスバーチを飛び出してサウドへ行ったっていうのも、ギルドに尋ねてみて初めて知ったんだから」
「え、そうなの? ロング、ダメじゃないか。せめてステラさんには言うべきだったね」
「む、不退転の覚悟をしてたっすから。ステラに言うと、止められるってわかってったっす」
力強い眼光と共に拳で胸を打ち堂々とそう語る。
「ロン君は昔っからそう! 一生懸命だけど、視野が狭くなっちゃって空回りしちゃうのよね」
嬉しそうに笑顔を浮かべ、ロングを眺めている。
(これは厳しい……非常に厳しいです、ビビットさん……)
形勢が不利なのは明らかで、ビビットの事を想うと、何も出来ない自分が酷くもどかしい。
そうは言ってもロングの心持ち次第ではあるので、現状ではどうすることもできないのだが、"幼馴染"という要素は強力に思える。
そもそも人の面倒を見れるほど恋愛事に長けている訳でも無いので『様子見』という名の思考放棄で、今は成り行きを見守っていくしかない……。
96
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜
自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。
世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。
派手に振られて落ち込んでいる精霊王。
逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。
可愛すぎて人間が苦手になった真竜。
戦場のトラウマで休養中の傭兵――。
そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、
異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。
異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、
このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。
日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。
そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。
傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?
Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。
彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。
ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。
転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。
しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。
男であれば執事、女であればメイド。
「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」
如何にして異世界を楽しむか。
バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる