平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

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2-6 外地にて

第94話 変遷 2

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「お~。二種族の村だけあって、結構大きいんだね」 「ホ~」
 村の入り口まで到着し、予想を越えた敷地の規模と建物の数に面食らってしまう。
 
 友人のマーウ達が住まう猫族の村は森の中という事もあり家が十軒程と、比較的小規模な村だったが、このタヌキ族とイタチ族からなる合同の村は、ざっと観察したところ三十軒程の建物が等間隔に建っており、かなりの広さを有している。

「そ、そうっすね……」
 ロングが伏し目がちに、俺の後ろに隠れるように付いて歩いている。

「ロン君……」

「ほら、シャキっとしな!」
 ビビットがロングの背中を優しく叩く。
 
(トラウマってやつなのかもなぁ)
 サウドで話をした時からそうだが、ロングは故郷の村の事となると苦い顔をして、いつもの明るい姿に薄暗いベールを被ってしまう。

 そもそもこの村に立ち寄る事を提案したのは俺なのだが、ロングの両親に挨拶をしたいという理由以外に深い考えは無い。
 ロングにとって、故郷の村に対する苦手意識がある今の状態は可哀そうに想うが、その反面、俺としては払拭する必要も無いと思っている。

 何故なら今のロングは、立派なサウド支部所属の"冒険者"であり、センスバーチ支部、或いはこの村の住人でも無い。
 それに本人はサウドを痛く気に入り、信の置ける仲間も出来、順調な生活も送れている。
 ロングのトラウマについての詳細は未だ分からないが、もう昔の自分とは別人なのだ。
 
 この村は両親の住まう故郷であることに間違いは無いが、独り立ちした今、心を残し過ぎる場所でも無い。
 ならばトラウマを払拭する事に気を揉むよりも『そんな事もあったな』と、心の中で距離を取り、新たな自分の思い出を刻み、楽にサウドへ帰れればと思うのだが、当事者にとってはそれが難しいのも分かる。
 なので今のところは詮索はせず、様子見に留めている。

「ステラさん、ロングの実家までお願いしていいかな?」

「うん、わかったわ」
 ステラの後に続き、村内を進んでゆく。


 二、三軒の民家を過ぎた辺り、少し開けた広場でこちらに気付いた若者三人組が正面から歩み寄って来た。

「なんだステラ。獣人村の観光案内の仕事でも始めたのか~?」
 先頭を肩で風を切って歩み寄って来た青年が、意地の悪そうな嘲笑を浮かべ、ステラを小馬鹿にしたような台詞を投げる。

「ハァ~……違うわよスパイク、あなた薪割りの仕事は終わったの?」

「この俺様が仕事なんてする訳ねえだろ~」
 これ見よがしに横柄な態度を取り、気だるそうに返事をしている。

「そうよステラ。スパイク様がそんな雑用する訳無いじゃない!」
 三人組の中の一人の女性が声を荒げる。

「うんうん。スパイク様は村を守るのに忙しいんだ」
 もう一人の青年も同調し半歩後ろから話している。

「おぉ!? 後ろに居るのは冒険者じゃねえか! なぁなぁ、魔物! 魔物のいるとこ連れてってくれよ!」
 背負う大盾が目立つビビットの姿を発見し、スパイクという青年がファイティングポーズを取りながらビビットに詰め寄る。

「やめなさいスパイク! 皆さん忙しいんだからっ」

「みんな同じ歳ぐらいに見えるけど、同世代の子達なのかな?」

「あ? なんだよおっさん。剣は持ってるけど、そっちの大盾の姉ちゃんと比べて弱そうだなぁ」

「ハハ……まぁそうだね」

「ホー! (テキ!)」
 スパイクのこちらを蔑むような視線に反応したリーフルが怒りの声を上げる。

「──うわっ! んだよその鳥、うっせえなぁ」

「なぁにこの人、肩に鳥なんて連れちゃって。大道芸人か何か?」

「スパイク様、珍しい色の鳥ですね!」

「あ~? 鳥なんてどうでもいいんだよ。それよりも! なぁ姉ちゃん、魔物! 魔物のとこ行こうぜ!」
 スパイクが若さ漲る無鉄砲なお願いをしている。

「そうだねぇ、でもごめんよ。あたしは外様でね。この辺りに詳しく無いんだ」

「ちぇっ、使えねえ。おいステラ、連れてくるならもっとマシな冒険者にしろよな~」

「ちょっとスパイク!!」
 ステラがスパイクの横柄な態度に怒りを露にする。

「まぁまぁステラさん。大した事じゃないよ」

「っけ、つまんねえやつら──って、後ろのお前! ロングじゃねえか!」

「ひ、久しぶりだねスパイク……」

「あ、ホントね! 残念君じゃない!」

「やっぱり尻尾撒いて帰って来たみたいですね、スパイク様!」
 三人が三人共ロングを認識するや否や、まるで地を這うアリのような小さな虫でも観察しているかの如く、哀れみ馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

(あだ名……酷い言われようだな)

「なんだなんだぁ? やっぱり食うに困って、冒険者に頼んで村まで送って貰って来たのかよ。情けねぇ~、ははは!」

「……」

「違うわよ! ロン君はサウドで立派に冒険者をやれてるんだから! あんた達みたいな放蕩者とは違うの!」
 ステラがロングを庇い立ち、必死の形相で反論している。

「あぁ~? 信じられるかよそんなこと。あの愚図で失敗ばかり、村のお荷物の残念野郎が冒険者なんか出来っこねえよ。なぁ? お前ら」

「そうよそうよ。 薪割りの一つも出来ない残念君が、魔物の相手なんて出来るわけないわ」

「スパイク様の言う通りですね!」

「……」
 ロングが俯いたまま、投げかけられる罵詈雑言を悲し気な表情で一身に受け止めている。

「あ~、皆ごめんね。俺達少し急いでるから、このくらいで」
 このままここへ停滞していると、大人げない態度を露にしてしまいそうなので、話を切り上げようと口を挟む。

「んだよおっさん。おっさんには関係ねえだろ~。良く見りゃ真っ黒の髪に真っ黒の目して、気持ちわりいな。お前ホントに人間かよ、くくくっ」

「──!」
 俺への中傷を耳にしたロングが顔を上げスパイクを睨みつける。

「ホント、不吉な見た目ね~」

「村に災いを呼ぶ魔物でしょうか!?」

「どうせそっちの強そうな姉ちゃんの下働きか何かだろ。変な見た目のせいで、残念野郎と一緒でまともに飯食えてないんだぜ」

「──スパイク!! 自分の事は何言ってもいいけど、ヤマトさんの事は悪く言わないでよ!」
 ロングが拳を握り身を震わせながら語気を強め、怒りを露にする。

「あぁ? なんだお前?? 俺様に何か文句でもあんのかよ?」

「撤回しろって言ったんだ! ヤマトさんは大尊敬する自分の先輩冒険者……お兄ちゃんだ! 気持ち悪くなんかない!!」

「──っぷ……ふはは! だってよ! ははは!」

「笑えないわよ。いい歳してキモいんだけど」

「スパイク様、どうやら残念君は新しい寄生先を見つけたようですね、ははは」

「──ははは……はぁ~おもしれえ。ありがとな残念君。おかげでいい話のネタが出来たわ」
 ロングの態度など一切気にもとめていないといった様子で、嫌味を口にしている。

「笑い疲れて腹減って来たな。もう飽きたし、行こうぜお前ら」

「そうね~」

「今日は何にしましょうかね!」
 突然三人がそう言い残し、今まで立ち話をしていたとはとても思えない身勝手さで、この場を去って行った。

(これは……なるほどな)


「ごめんなさいヤマトさん、ビビットさん。あの子、ホントろくでもない子で……」

「はは、若さ全開って感じだったね」

「ロング。あれは本当にあんたと同世代の子なのかい? いやはや……」

「…………」
 ロングが握る拳を解けぬまま、肩を怒らせ俯いている。

「あの子随分態度が大きいけど、そんなに勇猛なんだ?」

「えと……確かに運動神経は昔から良かったわ、力も強い方だし」

「それに、三年位前に『退治してやった』って、ローウルフを一匹持ち帰ったことがあったの。それからは取り巻きも付くようになって……」

(所謂ガキ大将ってやつか。それにしてもまぁ何とも……)
 この世界では成人と認められる年齢は十五歳だ。
 ロングはもう十七の歳なので、十分大人なのだが、ビビットの言わんとする事は俺も共感するところだ。

「あぁ~……ロング? まぁどうでもいいんじゃないかな」
 ロングに問いかける。

「よくないっすよ!! ヤマトさんにあんなひどい事……」

「はは、ありがとな。でも、価値も意味も無いよ。時間の無駄だね」 「ホー! (テキ!)」

「あたしも同意見だねぇ」

「でも……」

あの子スパイクを変えたい? それとも自分が認められたい?」

「それは……」

「あの子を打ち負かして優越感を得たい? だったら殴り倒せばいい、多分ロングは負けないしね。ですよね? ビビットさん」

「そうだねぇ。ロングが負けるとは到底思えないね」
 小さな世界でふんぞり返り、日々仕事もせず過ごしているスパイクという青年。
 対して、不退転の覚悟を持ってセンスバーチを飛び出し、今やサウドで立派に生計を立てているロング。
 比べる事すらおこがましい、話にならない比較だ。
 
「そんな! 自分冒険者っすから一般人に手をあげる何て出来ないっすよ!」

「だろ? それに他人を変えようなんてただの傲慢だ」

「今やサウドで"冒険者"をやってるロングにとって、この村でくすぶってるに認められたところで、どれほどの価値がある?」

「……」

「まぁ長居するつもりも無いし、両親に挨拶したら、さっさとセンスバーチへ戻ろう」

「はい……」
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