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2-7 Close to You
第96話 湖の怪異 1
しおりを挟む昼食を取る皆を尻目に、食べ物をあざとく催促する愛らしいオット達に囲まれ、至福の時を過ごしていた。
「ヤマトさ~ん! 食べないんすか~?」
背越しにロングの催促する声がこだまする。
(あ……そうだった)
オット達のあまりの可愛さに、非常食用の豚肉のそのほとんどを献上してしまう程に惚けてしまっていた。
例えば動物園や花鳥園等、エサやり体験が出来る施設では、限られた量の食べ物に対し対価を支払い、動物達と触れ合う機会を購入する訳だが『自分の物を無制限に』となれば、夢中になるのも必然だ。
特にここは、気軽に立ち寄れる場所でもないので、堪能し尽そうと張り切ってしまっていた。
(かわいいな~。牙みたいな鋭い歯のギャップがまたいいアクセントなんだよなぁ)
後ろ髪をひかれつつ、皆の下に移動する。
「ヤマト、あんた夢中になるのはいいけど、リーフルちゃんが催促してるよ?」
「ホーホホ! (タベモノ!)」
空になったロングの皿をつつきながら、リーフルが少しお冠の様子だ。
「ふふ、リーフルちゃん凄く食べるのね。私の分をあげても足りなかったみたい」
「ご、ごめんね。リーフル~? 人の分まで食べるなんてダメだろ~?」
「ホーホホ! (タベモノ!)」
俺自身や、皆の前に広がる食料では無く、俺の顔の脇辺りを見据えながら訴えている。
意図するところは恐らくアイテムBOX、その中身だろう。
「ん~? アプル?」
アプルを取り出してみる。
「ホ」
どうやら正解だったようで、先程までの猛アピールと打って変わり、翼を揃えてお行儀よく待っている。
「デザートが欲しかったみたいだね」
短剣で皆の分もついでに切り分ける。
「ヤマトさん凄いのね~! リーフルちゃんの言ってる事が分かるの?」
「そうだよステラ。ヤマトさんは動物達の気持ちが少し分かるらしいんだ!」
「なんだデザートかい。どうりで干し肉を見せても喜んでくれないはずだよ」
「すみませんビビットさんも」
「はは、あんたが気にする事ないさ。あたしが好きでリーフルちゃんにやってるんだから。ねぇ~? リーフルちゃん」
そう言いながらアプルをリーフルの口元に運んでくれる。
んぐんぐ──「ホッ……」
「そうそう! その嬉しそうな顔がたまらないんだよ~」
やはりエサやり体験の素晴らしさは、元々動物への興味が薄かろうと、世界の違いをも超越するようだ。
「──そういやヤマト。仕事は終わって挨拶も済ませた。後はどうするんだい?」
「サウドへの物資が揃うのが明日か明後日か。ガリウスさんと相談ですが、それまでは自由時間ですかね?」
空荷でサウドへ帰るのは勿体無いということで、センスバーチからサウドへの定期便も俺達が請け負う手はずになっている。
願っても無い新たに収入を得る機会となるので、センスバーチ支部の都合に合わせて、この街に滞在しているのが得策だ。
現在ガリウスが打ち合わせをしてくれているが、恐らく明後日中には準備が整い、サウドへと帰還する事になるだろう。
「むむ! ヤマトさんお風呂! お風呂に行きましょうよ!」
「あぁ~! そういえば公衆浴場があるって言ってたもんね」
「帰り……」
予定を話し合う俺達を眺めるステラが微かに呟き、その表情に影を落とす。
(しまった……でも仕方ない事だし……)
無事なのかどうかも分からず、日々悶々と心配を募らせていたところ、不意にその元気な姿を持ち帰ったロング。
ステラの憂いは当然で、迫る帰還の時を考えると、俺としても明瞭に観光を楽しむ心構えではいられない気分だ。
「安心しな。帰るまではあんたに譲るさ……」
ビビットが視線を流し目を合わせぬまま、遠慮がちにそう告げる。
「ビビットさん……」
「譲る? 何すか? ステラ、ご飯が足りないならヤマトさんにもっと出してもらう?」
この状況に限っては、痛ましい優しさを発揮するロングが、斜め上の心配をしている。
「ロン君、もう! ふん!」
ステラがロングに背を向けそっぽを向いてしまった。
「ど、どうしたのステラ。あれ??」
「あぁ~……いい機会だし、サウドに帰ったら、キャシーさんにでも一緒に教わろうな!」
自分が堂々と説き伏せられる事柄でも無いので、一緒に成長出来ればと思うばかりだ。
──バサッ「ホ~?」
突然リーフルが肩に戻り、何やら湖の方を指し、疑問を口にしている。
(──なんだ? そういえばさっきより暗く……ん!?)
リーフルの訴えに従い俺も目を向けると、先程まで眩いまでに輝きを放っていた水面から輝きが失せ、水が段々と黒く濁りつつある様子が見えた。
「みんな、あれ見て」
「ん、なんだい……!?」
ビビットが振り向く。
そしてつぶさに異常を感じ取っている。
「え! 何だか濁って来てるっす……」
「そんな……オットちゃん達が居るのになんで……」
「とにかく様子を見に行こう」
広がる昼食の跡もそのままに、俺達は湖の傍まで駆け寄る。
淵に立ち止まり湖に目を凝らすと、水中の一部分が、真水に墨汁を垂らした時のように、じんわりと深い闇に染まりつつある光景が広がっていた。
先程嬉々として俺が与える豚肉を頬張っていたオット達も、異変に対する不安を現わしているかのように、互いに手を繋ぎ一塊となって、広がる闇を避け岸辺に身を寄せ合っている。
『ニゲル』 『テキ』 『ニゲル』
オット達の何かに対する恐怖が伝わってくる。
「なんなのあの黒いの……」
「オットちゃん達、怯えてるっすね」
「さっきまで何も無かったのにねぇ」
「そうですね……」
エサやりの時はもちろん、皆で昼食を取っていた先程から、湖にはオットの他に目立った生き物は見られなかった。
ステラの様子から察するに前例の無い現象のようで、今の所は伝わってくるオット達の感情だけが手掛かりだ。
「そういえば……何だかいつもより水が低い気がするわ」
「そうなの?」
(水位……平地に囲まれた孤立した湖な訳で……)
仮に降水量が少ない期間が続いていた場合や、単純に水が蒸発したのであれば、急激な水位の低下は不自然で、目に見えて変化に気付く事は無いだろう。
目に見えて、となれば考えられるのは水の流出量の増加だが、何処にも繋がりの無い孤立した湖なので、それも無い。
今の所考えられる原因としては、地盤の沈下が可能性としては高いが、素人考えで、水中を確認する事も叶わない為、はっきりとした事は不明だ。
「水位に関連があるのかは分かりませんが、黒い靄、それにオット達のあの怯えよう。何かが居ると見て間違いないでしょうね」
「ああ。オット達はこの村にとって大切な動物だ。あたし達冒険者が居合わせたのも、オット達の導きかね、はは」
ビビットが大盾を前面に構え臨戦態勢に入る。
「自分もこの村の出身として、オットちゃん達は守るっすよ!」
ロングもハンマーを両手に握り、湖に向かい合う。
「ステラさん。一応ミーロさんに確認してきてもらえるかな? 何か分かるかもしれないから。それとリーフルの事頼むよ」
リーフルの頭を一撫でし、ステラに付いて行くよう促す。
「ホーホ……(ヤマト)」
「うん、任せて! 気を付けてね、ロン君」
「うん!」
ステラがリーフルと共に村長のミーロ宅に駆け出す。
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