平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

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3-1 浮上する黄昏れ

第101話 充実と過分 2

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 帰還した明くる日、俺はセンスバーチからの定期便の納入や、諸々の報告事項を伝える為、ギルドへとやってきた。
 ほんの一週間程度離れていただけなのだが、不思議と少しの感慨が湧き出るのは、己の心境の変化の表れだろうか。
 ギルド内の造りはセンスバーチと大した違いが無い訳で、当然ながら室内においての冒険者が占める割合が多い景色も同じなのだ。
 なのに何故か、雰囲気や空気感といった、はっきりとは形容し難いホーム所属特有の安心感とでも表現する郷愁を感じ、居心地良く想える。
 自身の心持ちもそうだが、そんな親しみを覚える一因としては、もちろん彼女の存在も大きいだろう。
 
「リーフルちゃん! 一週間ぶりね~。いっぱい美味しい物、食べさせてもらったかしら?」
 キャシーがリーフルの頭を撫でながら再会の喜びを表現してくれている。

「ホゥ……(イラナイ)」
 明るい笑顔で語り掛けるキャシーとは対照的に、リーフルは覇気の無い返事をしている。

「あれ? どうしたのかしら?」

「えっと……サウドと比べるとちょっと、期待外れだったと言いますか」

「あ~……確かに食事の質はいまいちですもんね」

「ホーホホ(タベモノ) ホゥ (イラナイ)」
 カウンターに並ぶ書類──四角形を嘴で指し、美味しくなかったという事を訴えている。

「だよなぁ……キッシュを買ってみたんです。味があまりしなくて、リーフルもほとんど食べませんでした」

「出向かれる前にお伝えしておけばよかったですね~。一応お勧めのレストランはあるんですよ」

「ご出身って言ってましたもんね?」

「ええ。"マテハニール"というレストランなんですけど、国内から様々な物が集まるセンスバーチ特有のレストランでして──」

「──あ、そこ行きました」

「え~! 羨ましい! 美味しいですよね~!」

「ロング達──俺も面喰らいましたけどね……」

「あ~、皆さん最初は驚かれますよね。私なら五十匹は食べられますが!」

(あれを五十匹……)
 恐らく"ウデムシ"の事を指しているのだろう。
 以前果物の露天商をしているルーティのお見合いを手助けした際、キャシーが相当な大食漢だという事は認識したが、平然とあれを大量に食べたいと宣言するとは、全く恐れ入る。
 それだけでなく、ウデムシを食べる際の、あの腕をちぎる所作を真似ながら、同時に書類の処理もこなすという、非常に器用な振る舞いを見せている。
 
「アハハ……」


「──あ! 特別ゲテモノと言えば。そういえばヤマトさん、感謝祭はどうされるんですか?」

「感謝祭? なんですそれ」

「あ、そうでしたね。ヤマトさんがこの街にいらしたのは丁度感謝祭の直後でしたので、ご存知ありませんもんね」

「私達が住まうこのサウドで毎年開かれる、王国の安寧を願い国王様に感謝を捧げ、サウド市民達相互の団結を図る目的も兼ねた、お祭りがあるんですよ」

「へぇ~。それは辺境都市らしい催しですね」

「ええ。それぞれサウド市民は自分の仕事に関連した出し物をするのが通例となってまして。私は前回ギルド代表として、サウド支部所属冒険者の方々の力が集約した成果である、魔物達の素材の展覧会を取り仕切りました!」
 胸を張り腰に手を当て、堂々たる態度で大仰に語っている。
 エドワードに負けずとも劣らないその見慣れた振る舞いには、妙に安心感を覚える。

「おぉ~、さすがはキャシーさんですね~」 「ホ~」
 俺もお決まりの、軽く流したような態度の冗談を交えて返答する。

「……ヤマトさん? 他人事じゃないんですよ?」

「どういうことですか?」

「この感謝祭はサウド市民にとって義務とも言える重要な催しです。計三日間の間、市民は一日ずつ出し物と漫遊を交代で担当する決まりなんですが、もちろんヤマトさんもサウド市民な訳ですから、何か出し物を考えないといけないんですよ?」

「なるほど」

「ホーホホ? (タベモノ?)」
 話の内容を微かにでも感じ取っているのだろうリーフルが、早速期待に満ちた瞳で呟いている。 

「うん、みたいだね」

「個人で手作りの装飾品等を販売する方もいらっしゃいますし、複数人で協力して食べ物の露店や、演劇を披露される方々なんかもいらっしゃいます! つまり公序良俗に反する行いで無ければ、無税かつ無礼講の許された、年に一度の大イベントな訳なんです!」
 両手を大きく開き天に掲げ、まるでミュージカルの一幕かと錯覚するような大きな動作で説明してくれている。

「ハハ……なるほど」

(エドワードさんといい勝負……共演すれば人気が出そうだなぁ)
 
「ホホーホ? (ナカマ?)」
 リーフルが右翼を控えめに上げポーズを真似ながら呟く。

「うん、似てるね」
 
「まだもう少し先の事とは言え、ヤマトさんも何かお考えになってくださいね!」

「あ、はい。事前にありがとうございます」

「──ふぅ。調書はこれで完了っと。定期便の往復、お疲れさまでした」
 
(う~ん、やっぱりすごく有能なんだよな……大袈裟だけど)
 俺がのんびり椅子に腰かけ話をしている間に、いつの間にか手続きが終わっていた。
 本当にキャシーのマルチタスクぶりにはいつも驚かされるばかりだ。

「それと、ヤマトさんにお伝えしたい事が三点ございまして」

「はい、なんでしょうか」

「一つ目は、統治官様がお呼びですので、この後お役所の方へお願い致します。二つ目は、ヤマトさんをご指名で、依頼が寄せられています」

「指名依頼ですか」

「ええ。指名依頼についての詳細は後日、依頼主様を交えてのお話ということで。三つ目なんですが……その……」
 いつもは淀みなく業務をこなすキャシーが、少し伏し目がちに、切り出しづらそうにしている。

「? 何か厄介事でも?」

「いえ、その……これは依頼と言うよりも、私からのお願いと言いますか……」

「ふむ」

「ある方から相談を受けまして。その方は、私がサウドへ赴任した際に大変良くしてくれた恩人なんですけど……」
 そう言ってキャシーが遠慮がちに事の次第を説明する。

 キャシーが言い淀んでいた内容とはこうだ。

 キャシーの恩人である女性には十六歳の、成人して一年経つ娘が居るという。
 その娘は、成人した日を境に突然の体調不良に見舞われ、みるみる衰弱の一途を辿っているそうだ。
 医者の診断を仰ぐが原因の特定には至らず、治療法も無し、気休め程度の気付け薬を服用するだけで、今では残り半年の余命宣告まで受けてしまっているのだと言う。

 このまま死にゆく娘をただ床に縛り付けているだけでは忍びないと、外の景色を見せてやりたいそうなのだが、サウド周辺が危険な事は周知の事実。
 生活費と嵩む薬代に、市井の声として依頼を出す余裕も無く、キャシーに涙ながらに己の無力を嘆いていたそうだ。


「……勝手ながら、こんな事をお願い──私にとって一番信頼出来るのはヤマトさんなんです。ほ、報酬は私がお支払いします!……ですので、どうかお力をお貸しいただけないでしょうか……!」

「そうですね……」
 お金が足りず依頼を出せないので個人的に手助けをする、というのは然程問題では無い。
 困難を解決し、その見返りとして報酬を得る事を生業とするのが冒険者の本分ではあるが、俺にとってはそれこそキャシーは恩人であるし、街──市民に貢献したいという想いもあるからだ。
 それに望みの内容自体もささやかなもので、金の話もどうでもいい。

 だが問題は、逃れ得ず、否が応でも直面する事となる『結末』を受け止める覚悟が俺にあるかどうかだ。

 関わりを持つという事は、自ら進んで悲しみに突き進むのと同義。
 当然何とか力になりたい想いもあるが、"他人"のままであれば、心を病む可能性も無いのだ。

「……すみませんキャシーさん。少し時間をいただけますか」

「そう……ですよね。すみません。ヤマトさんにはいつも厄介事ばかり相談しちゃってますね」
 キャシーはそう言いながらいつもの看板娘然とした笑顔を見せている。

 だが俺には、まるで鏡に映った自分を見ているかのように、どこか悲し気な、泣き顔にも似た表情に見て取れてしまった。
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