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3-2 その人の価値
閑話 初めての指名依頼 2
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キャシーさんが説明してくれた今回の依頼内容を要約すると『第一に、ヤマトさんに悟られない事。第二に、ヤマトさんを慕う人物を斡旋する事』となっていた。
依頼主はシシリーさんで、お仕事柄、長時間宿を空ける事が難しい立場なのは分かるし、慕う人物を斡旋、とあったから取り敢えず引き受けはしてみた。
てっきり、少ない空き時間の合間を縫って、ヤマトさんの事が好きな人達とお話してみたいってだけの依頼だと思っていたけど、これはなんだか大事になってしまう予感がする……。
「冒険者ヤマトを影からひっそりと応援するファンの集い……"ファンコミュニティ"よ!!」
「え??」 「ファ、ファンコミュニティ??」
シシリーさんがいつにも無く堂々と、しかも一度聞いただけでは理解の難しい単語が飛び出し、自分達は困惑してしまう。
「ヤマトさんがセンスバーチでの話をしてくれたんだけどね。エドワードさん、だっけ? ファンがいっぱいいる凄い冒険者さんだって」
「シシリーさんも聞いたんすね! 自分達の為に色々と力を貸してくれて、かっこよかったっすよ~!」
右手を突き上げ決めポーズを真似る。
ビビットさんには控えるようアドバイスされたけど、自分はとってもカッコいいポーズだと思ってる。
「ふふ、あの人形も同じポーズをしてたわね」
「へぇ~」
「うちもこの前帰省した時聞いたけど、えらい優秀な人らしいなぁ」
「そうなんすよ! 真っ白に輝くカッコいい鎧に、綺麗で長い金髪で、魔法も剣も使えて、さらには名家の跡取りなんっす!」
「そ、それは、絵に描いたような人なのね」
「そこで、よ……今の話を聞いて、みんなはどう思ったかしら?」
「うちは『へぇー。派手やな』かな」
マリちゃんさんが抑揚の無い声色で答えた。
「メイベルちゃんは?」
「う~ん……あんまり騒がしい人はちょっと……かな?」
メイベルさんの耳が倒れ、困惑したような表情をしている。
「有名冒険者って凄いっす!」
恩人であるエドワードさんの事に関しては最大限アピールした方が良いと思い、自分は出来るだけ元気にそう答えた。
「ま、まぁロング君の意見も分かるわ。けど、私達からすると正直あまり魅力を感じない。それは何故か……」
「それは??」
「それは、私達にとっての、もう一つの絵に描いたようなタイプが傍に居るからよ!」
「うんうん」
「あ~、なるほど」
「む? どういう事っすか??」
二人は大きくうなずき納得してるみたいだけど、自分にはまだよく理解できない。
「ロング君は男の子で冒険者だし、エドワードさんの事が素晴らしく見えるのも無理ないわね」
「でもね、好みや趣向は人それぞれ。豪華な装飾が施された煌びやかな剣より、無骨で堅牢堅実な包丁の方を求める人も居るって事よ」
「それに、こっちには最強の『可愛い』リーフルちゃんも居るのよ!」
「確かにリーフルちゃんは最強可愛いっすね??」
シシリーさんの言葉を受け、なんだかいつもの愛らしい『ホーホホ』という幻聴が響いた気がした。
「──あれ? でも待って欲しいっす。つまり、シシリーさんのやりたい事って、ヤマトさんの事が好きな人達を集めて、エドワードさんのファンの人達みたいに追っかけをするって事っすか?」
「人気があるのは良い事だと思うっすけど、エドワードさん自身も言ってたっす『苦労も多い』って」
「それって……ヤマトさんがそんな事望まないというか、絶対に嫌がるっすよ……?」
いくら依頼を受けている身とは言え、この流れはヤマトさんにとってまずいと気付き代弁する。
「そう、問題はその"謙虚な性格"よ」
「ふむ?」
「私ね──ううん、マリちゃんも同じ想いだわ。悔しいの」
「悔しい……っすか?」
「『未知の緑翼の腰巾着』とか『受付に取り入っているだけの、只の人たらし』やとか、うちが聞いた中で一番腹立った言葉や」
「宿を利用してくれるお客さんの中にもたまに居るの。ヤマトさんが気に入らないって人」
「フ、フンッ! 自分が上手にクエストが出来ないからって、嫉妬してるだけっすよっ!」
その話には自分も覚えがある。
例え比較的に簡単な部類のクエストばかり受けていると言っても、武力とは別の能力が必要な難しい内容もあるし、何より失敗をしないという事実に変りはない。
自分達の姿勢を顧みる事もせずに、さもヤマトさんが涼し気にクエストをこなしてると勘違いしてる、見る目の無い人達だと納得するようにはしてるけど……。
「私なんかは朝晩見送るだけだから、普段の活動については本人から遠慮したような軽い話を聞けるだけ」
「でも、親しいみんなから聞こえてくるヤマトさんの活躍ぶりったら、話してくれる内容と比較して、凄く大袈裟に感じる程の差があるわ」
「ヤマちゃんって、ちょっと心配になるぐらい自己評価低いもんなぁ」
「ふふ、そこが可愛くも見えるんだけどね」
「……うん、分かるわ。私がパン屋さんで働けるようになったのも、間違いなくヤマトさんのおかげなのに『頑張ったね。自分が掴んだんだよ』って、なんだか他人行儀に冷たく聞こえて、少し寂しく感じちゃうぐらい、自分の手柄は口にしないもの」
「やっぱりメイベルちゃんも同じ想いだったのね」
「うん……」
「冒険者としてもそうっすね。ヤマトさん、訓練や座学は頑張るっすけど、冒険者としての格? みたいなものには全く興味無さそうっすからね~」
「こんなに優しくて他人の為に頑張れて、堅実に仕事をこなしているのに、対外的には『平凡』のまま」
「本人がそういう性格だから、見落とされてたり、低く見積もられたりしても気にしないんでしょうけど、私達は悔しいのよ……」
「だから思い立ったの! エドワードさんを囲むファン達のように、外にアピールしていく訳では無いけれど、こっそりとヤマトさんを応援している人達が居てもいいんじゃないか」
「せめて、ヤマトさんを良く知る内輪だけでも、称えてあげていいんじゃないかって!」
「ふむふむ」
「……それに、ロング君もあの日の事は覚えてるわよね?」
「──っ! はい……あの現場を目にした時は、生きた心地がしなかったっす……」
あの日の事。
そう、シシリーさんの指すあの日とは、自分の人生で最も凍り付いた想いをした、ヤマトさんがダムソンに襲われた次の日の事だ。
「惨たらしい赤茶けた痕跡と短剣だけが残って、私達は何の手掛かりも無く日々を過ごした……」
「あの事件だって、もし私達がその日の予定を把握していれば、もしどんなクエストに臨んでいるのかを知っていれば、万が一にもヤマトさんを救えた可能性があるかも知れないわ」
「確かに。あの時もし自分も一緒に行動していれば、もしかしたら不意打ちは防げたかもしれないっす……」
「『彼は冒険者だから』そう納得するのがヤマトさんにとっては一番いい事なのかもしれない。けど、我がままだろうと、もう同じ想いをするのは嫌なの……」
すごく悲しそうに目を伏せ、少し肩が震えているようにも見える。
あの日、ヤマトさんを捜索するのに必死だった自分は、無思慮にもシシリーさんを訪ね、詳細を話してしまった。
当然シシリーさんは酷く動揺して、宿を放り出し、そのままギルドへと駆けて行った。
自分も必死だったと言い訳をするのは簡単だけど、既に冒険者だった自分には、一般人であるシシリーさんに不安を煽るような事は告げるべきでは無かったし、本当に申し訳の無い事をしたと、反省しなくちゃいけない立ち振る舞いだった。
シシリーさんの訴えは理解できた。
一つは、ひっそりとヤマトさんを応援し、仲間内だけでも、"平凡ヤマト"の頑張りが無駄では無い事を証明したいという想い。
一つは、冒険者を続ける以上は絶対に付き纏う、あの日のような"悲劇"を繰り返さない──受け皿になれるよう備えたいという想い。
言われてみれば、どっちも自分だって普段から想ってる、けどヤマトさんの謙虚な性格がそうさせてくれない、難しい問題だったと気付く。
「シシリーさん、なるほどっす。だからヤマトさんには秘密なんすね!」
「ヤマちゃんに迷惑かからんよう、うちらだけで応援するのは自由やん? それに、同志でこうやって集まれば、自分が知らんヤマちゃんの情報も共有出来るし」
「そっかぁ……ふふ、呼んでくれて嬉しいわ! そういう事なら是非私も!」
「ふふ~ん!──と、いうことで。ロンちゃんにはこのファンコミュニティの"会長"をお願いします!」
「──えぇっ!? な、なんで自分なんすかっ。発起人はシシリーさんで……」
「それは……まぁ……」
マリちゃんさんが歯切れ悪く呟く。
「代表たる会長は唯一人、ロング君。後はみ~んな対等な平会員、そう決まってるの」
まるで魔物と対峙している冒険者かと見紛うような、確固たる目をしたシシリーさんが、きっぱりとそう言い切る。
「はぁ……?」
「よく考えてみて。今後も増える予定の、ヤマトさんを応援したい熱意のある人達を束ねるのに、誰が一番ふさわしいのか。誰が統率するのなら説得力があるのか」
「"弟"であるロング君を置いて、他には居ないでしょう?」
「──!! 弟……!」
「まぁうちはいつでも交代──」
「──マリちゃん?」
シシリーさんの鋭い語気が、この秘密会合の空間に響く。
「じょ、冗談やんアハハ~……こわっ」
マリちゃんさんがボソリと怖がってる。
「そうね。ロング君は冒険者でもあるし、頼りになりそう」
メイベルさんも期待したような目でこっちを見てる。
「弟……そうでした。自分はヤマトさんの唯一の弟。ヤマトさんの私生活を守り、ヤマトさんの憂いを取り除いてあげる」
「これは弟である自分にしか出来ない、重要な使命っす!」
「ふふ……今回の指名依頼、その本意を理解してくれたようね!」
「はい、もうバッチリっす!──あ、でも、それはそれとして。具体的な活動内容や規則なんかはどうするんすか?」
「そうね。差し当たり据えた目標としては『英雄譚』の作製よ」
「英雄譚?」
「ヤマトさんを慕う会員達が日夜集まり、自分が見聞きしたヤマトさんの活躍をみんなに発表、共有して、その活躍ぶりを文字に起こしてゆくの。そしてある程度蓄積した後に、一冊の本に纏める」
「"冒険者ヤマト英雄譚"を発売するのよ!」
「あ、それいいかも! 纏まった一冊の本になっていれば分かりやすいし」
「ふふ~ん! ちなみにうちの発案やで!」
「いやぁ……情報の共有自体はヤマトさんも常日頃から言ってる大事な事っすけど、関係ない人達に報せるようなことはダメっすよ……」
「そこは安心して。本に纏める言うても、ヤマちゃんの名前は出さへんようにする。あくまでも"架空の創作物"としての体裁で纏めるから」
「む~、なら問題ない……んすかね?」
「細かな規則や活動内容なんかはこれから決めていきましょう? 定期的にこうやって集まって、ヤマトさんを影ながら応援するのよ!」
「やるでー!」
「あは!」
(ヤマトさん、ごめんなさいっす。自分──あなたの愛弟は、一つ大きな隠し事を抱える事になってしまったっす……)
初めて指名を受けて、気合十分、絶対に成功させようと意気込んでいたけど、まさかそんな想像外の──最重要の役回りを引き受ける事になるなんて。
でも、集まった面子を考えると、ヤマトさんの事を深く理解して、慮る事の出来る人達だけだし、滅多な事になる可能性は低いように思う。
それに同じ想いを持っているとはいえ、自分は"依頼"を受け、それを担っている冒険者でもある。
だったらいざとなれば、我が身に代えてでも秘密を守ればいいし、自分にはその責任がある。
何よりもシシリーさんの言うように、歯がゆい想いをみんなで共有出来るこの会合は、なんだか日常に楽しみが一つ増えたように思えて、増々仕事も頑張れるような気がする。
キャシーさんも気を使ってくれたのかな。
難しい依頼だけど、弟として、立派にやり遂げて見せるっす。
依頼主はシシリーさんで、お仕事柄、長時間宿を空ける事が難しい立場なのは分かるし、慕う人物を斡旋、とあったから取り敢えず引き受けはしてみた。
てっきり、少ない空き時間の合間を縫って、ヤマトさんの事が好きな人達とお話してみたいってだけの依頼だと思っていたけど、これはなんだか大事になってしまう予感がする……。
「冒険者ヤマトを影からひっそりと応援するファンの集い……"ファンコミュニティ"よ!!」
「え??」 「ファ、ファンコミュニティ??」
シシリーさんがいつにも無く堂々と、しかも一度聞いただけでは理解の難しい単語が飛び出し、自分達は困惑してしまう。
「ヤマトさんがセンスバーチでの話をしてくれたんだけどね。エドワードさん、だっけ? ファンがいっぱいいる凄い冒険者さんだって」
「シシリーさんも聞いたんすね! 自分達の為に色々と力を貸してくれて、かっこよかったっすよ~!」
右手を突き上げ決めポーズを真似る。
ビビットさんには控えるようアドバイスされたけど、自分はとってもカッコいいポーズだと思ってる。
「ふふ、あの人形も同じポーズをしてたわね」
「へぇ~」
「うちもこの前帰省した時聞いたけど、えらい優秀な人らしいなぁ」
「そうなんすよ! 真っ白に輝くカッコいい鎧に、綺麗で長い金髪で、魔法も剣も使えて、さらには名家の跡取りなんっす!」
「そ、それは、絵に描いたような人なのね」
「そこで、よ……今の話を聞いて、みんなはどう思ったかしら?」
「うちは『へぇー。派手やな』かな」
マリちゃんさんが抑揚の無い声色で答えた。
「メイベルちゃんは?」
「う~ん……あんまり騒がしい人はちょっと……かな?」
メイベルさんの耳が倒れ、困惑したような表情をしている。
「有名冒険者って凄いっす!」
恩人であるエドワードさんの事に関しては最大限アピールした方が良いと思い、自分は出来るだけ元気にそう答えた。
「ま、まぁロング君の意見も分かるわ。けど、私達からすると正直あまり魅力を感じない。それは何故か……」
「それは??」
「それは、私達にとっての、もう一つの絵に描いたようなタイプが傍に居るからよ!」
「うんうん」
「あ~、なるほど」
「む? どういう事っすか??」
二人は大きくうなずき納得してるみたいだけど、自分にはまだよく理解できない。
「ロング君は男の子で冒険者だし、エドワードさんの事が素晴らしく見えるのも無理ないわね」
「でもね、好みや趣向は人それぞれ。豪華な装飾が施された煌びやかな剣より、無骨で堅牢堅実な包丁の方を求める人も居るって事よ」
「それに、こっちには最強の『可愛い』リーフルちゃんも居るのよ!」
「確かにリーフルちゃんは最強可愛いっすね??」
シシリーさんの言葉を受け、なんだかいつもの愛らしい『ホーホホ』という幻聴が響いた気がした。
「──あれ? でも待って欲しいっす。つまり、シシリーさんのやりたい事って、ヤマトさんの事が好きな人達を集めて、エドワードさんのファンの人達みたいに追っかけをするって事っすか?」
「人気があるのは良い事だと思うっすけど、エドワードさん自身も言ってたっす『苦労も多い』って」
「それって……ヤマトさんがそんな事望まないというか、絶対に嫌がるっすよ……?」
いくら依頼を受けている身とは言え、この流れはヤマトさんにとってまずいと気付き代弁する。
「そう、問題はその"謙虚な性格"よ」
「ふむ?」
「私ね──ううん、マリちゃんも同じ想いだわ。悔しいの」
「悔しい……っすか?」
「『未知の緑翼の腰巾着』とか『受付に取り入っているだけの、只の人たらし』やとか、うちが聞いた中で一番腹立った言葉や」
「宿を利用してくれるお客さんの中にもたまに居るの。ヤマトさんが気に入らないって人」
「フ、フンッ! 自分が上手にクエストが出来ないからって、嫉妬してるだけっすよっ!」
その話には自分も覚えがある。
例え比較的に簡単な部類のクエストばかり受けていると言っても、武力とは別の能力が必要な難しい内容もあるし、何より失敗をしないという事実に変りはない。
自分達の姿勢を顧みる事もせずに、さもヤマトさんが涼し気にクエストをこなしてると勘違いしてる、見る目の無い人達だと納得するようにはしてるけど……。
「私なんかは朝晩見送るだけだから、普段の活動については本人から遠慮したような軽い話を聞けるだけ」
「でも、親しいみんなから聞こえてくるヤマトさんの活躍ぶりったら、話してくれる内容と比較して、凄く大袈裟に感じる程の差があるわ」
「ヤマちゃんって、ちょっと心配になるぐらい自己評価低いもんなぁ」
「ふふ、そこが可愛くも見えるんだけどね」
「……うん、分かるわ。私がパン屋さんで働けるようになったのも、間違いなくヤマトさんのおかげなのに『頑張ったね。自分が掴んだんだよ』って、なんだか他人行儀に冷たく聞こえて、少し寂しく感じちゃうぐらい、自分の手柄は口にしないもの」
「やっぱりメイベルちゃんも同じ想いだったのね」
「うん……」
「冒険者としてもそうっすね。ヤマトさん、訓練や座学は頑張るっすけど、冒険者としての格? みたいなものには全く興味無さそうっすからね~」
「こんなに優しくて他人の為に頑張れて、堅実に仕事をこなしているのに、対外的には『平凡』のまま」
「本人がそういう性格だから、見落とされてたり、低く見積もられたりしても気にしないんでしょうけど、私達は悔しいのよ……」
「だから思い立ったの! エドワードさんを囲むファン達のように、外にアピールしていく訳では無いけれど、こっそりとヤマトさんを応援している人達が居てもいいんじゃないか」
「せめて、ヤマトさんを良く知る内輪だけでも、称えてあげていいんじゃないかって!」
「ふむふむ」
「……それに、ロング君もあの日の事は覚えてるわよね?」
「──っ! はい……あの現場を目にした時は、生きた心地がしなかったっす……」
あの日の事。
そう、シシリーさんの指すあの日とは、自分の人生で最も凍り付いた想いをした、ヤマトさんがダムソンに襲われた次の日の事だ。
「惨たらしい赤茶けた痕跡と短剣だけが残って、私達は何の手掛かりも無く日々を過ごした……」
「あの事件だって、もし私達がその日の予定を把握していれば、もしどんなクエストに臨んでいるのかを知っていれば、万が一にもヤマトさんを救えた可能性があるかも知れないわ」
「確かに。あの時もし自分も一緒に行動していれば、もしかしたら不意打ちは防げたかもしれないっす……」
「『彼は冒険者だから』そう納得するのがヤマトさんにとっては一番いい事なのかもしれない。けど、我がままだろうと、もう同じ想いをするのは嫌なの……」
すごく悲しそうに目を伏せ、少し肩が震えているようにも見える。
あの日、ヤマトさんを捜索するのに必死だった自分は、無思慮にもシシリーさんを訪ね、詳細を話してしまった。
当然シシリーさんは酷く動揺して、宿を放り出し、そのままギルドへと駆けて行った。
自分も必死だったと言い訳をするのは簡単だけど、既に冒険者だった自分には、一般人であるシシリーさんに不安を煽るような事は告げるべきでは無かったし、本当に申し訳の無い事をしたと、反省しなくちゃいけない立ち振る舞いだった。
シシリーさんの訴えは理解できた。
一つは、ひっそりとヤマトさんを応援し、仲間内だけでも、"平凡ヤマト"の頑張りが無駄では無い事を証明したいという想い。
一つは、冒険者を続ける以上は絶対に付き纏う、あの日のような"悲劇"を繰り返さない──受け皿になれるよう備えたいという想い。
言われてみれば、どっちも自分だって普段から想ってる、けどヤマトさんの謙虚な性格がそうさせてくれない、難しい問題だったと気付く。
「シシリーさん、なるほどっす。だからヤマトさんには秘密なんすね!」
「ヤマちゃんに迷惑かからんよう、うちらだけで応援するのは自由やん? それに、同志でこうやって集まれば、自分が知らんヤマちゃんの情報も共有出来るし」
「そっかぁ……ふふ、呼んでくれて嬉しいわ! そういう事なら是非私も!」
「ふふ~ん!──と、いうことで。ロンちゃんにはこのファンコミュニティの"会長"をお願いします!」
「──えぇっ!? な、なんで自分なんすかっ。発起人はシシリーさんで……」
「それは……まぁ……」
マリちゃんさんが歯切れ悪く呟く。
「代表たる会長は唯一人、ロング君。後はみ~んな対等な平会員、そう決まってるの」
まるで魔物と対峙している冒険者かと見紛うような、確固たる目をしたシシリーさんが、きっぱりとそう言い切る。
「はぁ……?」
「よく考えてみて。今後も増える予定の、ヤマトさんを応援したい熱意のある人達を束ねるのに、誰が一番ふさわしいのか。誰が統率するのなら説得力があるのか」
「"弟"であるロング君を置いて、他には居ないでしょう?」
「──!! 弟……!」
「まぁうちはいつでも交代──」
「──マリちゃん?」
シシリーさんの鋭い語気が、この秘密会合の空間に響く。
「じょ、冗談やんアハハ~……こわっ」
マリちゃんさんがボソリと怖がってる。
「そうね。ロング君は冒険者でもあるし、頼りになりそう」
メイベルさんも期待したような目でこっちを見てる。
「弟……そうでした。自分はヤマトさんの唯一の弟。ヤマトさんの私生活を守り、ヤマトさんの憂いを取り除いてあげる」
「これは弟である自分にしか出来ない、重要な使命っす!」
「ふふ……今回の指名依頼、その本意を理解してくれたようね!」
「はい、もうバッチリっす!──あ、でも、それはそれとして。具体的な活動内容や規則なんかはどうするんすか?」
「そうね。差し当たり据えた目標としては『英雄譚』の作製よ」
「英雄譚?」
「ヤマトさんを慕う会員達が日夜集まり、自分が見聞きしたヤマトさんの活躍をみんなに発表、共有して、その活躍ぶりを文字に起こしてゆくの。そしてある程度蓄積した後に、一冊の本に纏める」
「"冒険者ヤマト英雄譚"を発売するのよ!」
「あ、それいいかも! 纏まった一冊の本になっていれば分かりやすいし」
「ふふ~ん! ちなみにうちの発案やで!」
「いやぁ……情報の共有自体はヤマトさんも常日頃から言ってる大事な事っすけど、関係ない人達に報せるようなことはダメっすよ……」
「そこは安心して。本に纏める言うても、ヤマちゃんの名前は出さへんようにする。あくまでも"架空の創作物"としての体裁で纏めるから」
「む~、なら問題ない……んすかね?」
「細かな規則や活動内容なんかはこれから決めていきましょう? 定期的にこうやって集まって、ヤマトさんを影ながら応援するのよ!」
「やるでー!」
「あは!」
(ヤマトさん、ごめんなさいっす。自分──あなたの愛弟は、一つ大きな隠し事を抱える事になってしまったっす……)
初めて指名を受けて、気合十分、絶対に成功させようと意気込んでいたけど、まさかそんな想像外の──最重要の役回りを引き受ける事になるなんて。
でも、集まった面子を考えると、ヤマトさんの事を深く理解して、慮る事の出来る人達だけだし、滅多な事になる可能性は低いように思う。
それに同じ想いを持っているとはいえ、自分は"依頼"を受け、それを担っている冒険者でもある。
だったらいざとなれば、我が身に代えてでも秘密を守ればいいし、自分にはその責任がある。
何よりもシシリーさんの言うように、歯がゆい想いをみんなで共有出来るこの会合は、なんだか日常に楽しみが一つ増えたように思えて、増々仕事も頑張れるような気がする。
キャシーさんも気を使ってくれたのかな。
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