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3-3 類える現実
第111話 きっかけ 3
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シャロンからの依頼、その大詰めである食事会の当夜。
不安が拭えず、何度も何度も脳内で現状についての整理を反芻している。
マルクスは俺の誘いから"出会いの場"への参加を決意し、こちらの狙いについてはあずかり知らぬ状況。
対するハンナは、自我とは別の動機でマルクスにモーションをかけようという心持ちである。
この歪な状況の二人を結びつける手は何かないものかと考え込んでいたのだが、結局『臨機応変に対応』という名の無策を携え今日を迎える事となった。
俺はこの一昼夜の間、またしても己の恋愛経験の乏しさを嘆く時を過ごしていたのだった。
そんな心許ない状況とは関係なく、予定通り幕を開けた食事会。
俺達のテーブルの周囲から、何やらひそひそとこちらを窺うような声が漏れ聞こえる。
『ほら、あそこの席……リーダーさんだよ』 『ん? まぁ……すごい席ね』
左隣に着席する熟年夫婦が声を潜め感嘆の声を上げている。
『イケメン、イケメン、イケメン。美女、美女、美女、それと……鳥?』 『あんた知らないの? 平凡の事。それにしても何で平凡があんな光る席に……』 『え~? 平凡さんも光ってると思うけど』
右隣で盛り上がる、恐らく女子会であろう女性達がこちらを眺め、集う面子に見惚れている。
ある種の物珍しさに、好奇な視線が集まってしまうのは致し方無い事だろう。
客観的に俯瞰すると、俺だって同じ所見を抱くはずだ。
何故なら十数席ある店内において、このテーブルにだけスポットライトでも当たり、妙に強調され浮いて見えるよう錯覚する程の人物達が顔を揃えているからだ。
軽い挨拶を交わした現状までは非常に順調に進んでいる。
だがそれは、この場に集う面子の良き人間性が織りなす凪なだけで、個人的には依頼遂行上よろしくない空気感とも言える。
『新しい友達が出来た、楽しかった』では不十分。自らの意思より湧き出る"恋愛"的な情緒をハンナに抱かせられるか否かは、俺の立ち回り如何にかかっているのだ。
「……おいヤマト、我らエルフ族は見世物では無いのだぞ」
ラインが少し仏頂面で、視線だけを左右させている。
「もぉ、兄さん? だから事前にヤマトが言ってたでしょ『エルフが珍しいんじゃない。単純な容姿に憧れを抱くのが人族なんだ』って」
「現に隣の女の子達、この人の事ばかり見てるみたいよ?」
アメリアがマルクスを指し、ラインをなだめる様に語り掛けている。
「ム……そうだったな」
「同じブロンドヘアの戦士として、なんだか親近感が湧きますね」
マルクスが柔らかな笑顔で、ラインに向けグラスを掲げている。
「うむ、噂はかねがね。ヤマトから聞いている」
ラインもグラスを合わせ応える。
「た、確かにみなさん、端正なお顔立ちでいらっしゃるものね」
ハンナが頬を赤らめ、三人のイケメンを前にたじろいでいる。
「な、なぁヤマト。俺のかっこ、変じゃないか?」
馴染みの無さからだろう。一張羅のスーツに身を包むリオンが不安を耳打ちしてくる。
「大丈夫。バッチリきまってるよ」
「そ、そうか……」
「今日は食べますよー!」 「ホーホホ~! (タベモノ!)」
キャシーとリーフルが腕を回し意気込みを叫んでいる。
シャロンの『自由恋愛の一助を』という希望に沿うべく俺が計画した催し物とは、所謂コンパ形式だ。
集まってもらった面子はと言うと、ドグ村──エルフ族の集落──きっての勇士ラインと、その妹で、村のマジックエノキ栽培を取り仕切るアメリア。
二人はエルフ族ということで、生まれながらに端正な美貌を備える、人族なら誰もが羨む容姿をしている。
鍛冶師のリオン。
サウドに数件ある鍛冶屋の中でも指折りの支持を集める店の主人、王認特級鍛冶師の称号を持つイーサンの下で研鑽を積む人物で、知人の中でも付き合いが長く、俺の商売道具の面倒は専ら彼に頼っている。
リオンとの会話では異性について触れる事もままあり、未だ経験の無い俺などはよくからかわれたりするような間柄で、リオンも久しく異性が同席するような場に恵まれていないという事だったので、今回声をかけてみた。
そして、冒険者ギルドサウド支部、看板娘のキャシー。
その肩書に相応しい気品と仕事ぶりを発揮する、少々大仰で大食漢の、飽きの来ない俺の恩人だ。
ラインとアメリアに関しては偶然誘うことが出来て幸運だった。
サウドへ──リーフルに会いたいとせがむ妹の願いに応え、卸のついでにと兄妹でやって来た二人に今回の話を持ち掛けると『面白そう!』と言うアメリアの一存であっさりと参加してくれるととなった。
キャシーについては想像に容易いだろう。
無料で食べ放題。
ましてや、俺が特注しておいたキノコを中心とした、普段では味わえない一風変わったフルコースが今宵の晩餐のメニューとなれば、相談を持ち掛ける間もなく彼女が参加するに至る事は、約束されていたようなものだ。
マルクス以外には今回の趣旨を事前に共有してあり、もちろん依頼主であるシャロンには説明済みで、守秘義務については問題ない。
『貴方が協力を仰ぐ人物なら、問題には思わないわ』と、俺に信を置いてくれている事に関しては喜ばしく思う反面、望む結果を導き出せるかプレッシャーにも感じられるところだ。
「さっき話してくれたけど、ここのオーナーさんの娘さんなんだって? だったら普段から美味しいものが食べられるんだよね。羨ましいよ、はは」
マルクスがスープを一掬い口にしながら、シャロンに語り掛ける。
「は、はい! その……ママが作ってくれる料理は美味しいんだけど『料理は淑女の必須技能よ。絶対に会得しておきなさい』って。私、普段は自分でお料理しているの」
ハンナが少し遠慮気味に、だが自然な流れで自分の長所をアピールしている。
やはり勉強熱心な性格なのは確かなようで、俺も持たざる知恵を振り絞り一緒に考えた武器を着実に披露している。
「へぇ~、立派な教育方針だね。それじゃ、ある程度は自分でこなせちゃうんだ?」
「うん。こちらのシェフさん達のような綺麗な物は難しいけれど、未来の旦那さんや子供を満足させられるようには頑張っているわ!」
「ほぉ……箱入り娘と聞いていたがなかなか……」
「ちょっと兄さんっ!」
アメリアが焦り悟られぬよう小声で兄を叱りつけている。
「ムムッ……り、立派な心掛けだな、ハンナよ」
(ラインさん……案外浮世に出るとあれだな……)
「それにしても、ヤマトさんとお付き合いしていると、美味しい想いが出来てお得ですね~」
キャシーが同じキノコ仕立ての香り良いスープを三杯、立て続けに飲み干しながら、お得意の呑気な冗談を話している。
「えっ? キャシーちゃんって、ヤマトの恋人なの??」
アメリアが身を乗り出し問いかけている。
「いや、アメリア。違うよ」
「──キャシーさん、誤解されるような言い回しはまずいですよ」
「ギルド職員と冒険者の恋愛はご法度……されど! 人の情念と言うものは、時にルールなど顧みない暴走を起こすものです!」 「ホー!」
キャシーはスプーンを、リーフルは右翼を掲げ盛り上がっている。
「へぇ~! 人の情念……」
持参している羊皮紙に、ハンナがキャシーの格言めいた言葉を書き記している。
「キャシー嬢……ギルドでまみえる事はあったが、存外変わった人物のようだ」
ラインがうなずき、謎の関心を示している。
「キャシーさんはいつも明るくて安心感ありますよね~」
マルクスはいつもの爽やかな笑顔でキャシーを称えている。
「な、なぁヤマト。ネクタイ曲がってねえか?」
未だリオンは自身の身なりを気にしている。
(むー……ここからどう恋愛的な雰囲気に持っていけばいいんだ……)
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