平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

文字の大きさ
165 / 190
3-3 類える現実

第112話 準備と接待 3

しおりを挟む



 中央広場の噴水を中心に円を描き立ち並ぶ露店の一軒を冷やかし終え、アメリアが楽し気に振り返る。

「ねえねえ、今度はあっちの露店を覗いてみましょう?」 
 そう言って俺の袖を引きながら、アメリアが声色明るく微笑む。

「はは。楽しそうだね」 「ホ~(イク)」
 
「ふふ、見てこの活気ある景色! なんだかみんな生き生きとしてるし、色んなものが売ってるし。サウドってこんなに賑やかな所だったのね!」 

「ああ、そっか。この三日間は食事会に参加したぐらいで、宿で過ごしてたんだもんね?」

「だって兄さんが『うら若いエルフの娘が一人で観光など、危険すぎる!』ってうるさくって」

「そう言うくせに、付き合ってはくれないって言うのよ? もうっ」
 眉間にしわを寄せラインの真似事をしながら、少し呆れた様子でそう語る。

「あ~……気持ちは分からないでもないかなぁ。サウド、治安が比較的安定してるとは言え、"狂気"は予測がつかないし不意を打つからね……」


 仕事から帰宅し、ペット達の世話をしながら垂れ流していた、ニュース番組で報道されていたような事件や事故の数々。
 当時は全く実感の湧かなかった出来事だったが、この世界に転移してからというもの、身をもって体験したことは数度、話に聞いた事は幾度もある。

 魔物の脅威は当然として、この世界を生き抜くには、冒険者か一般人かを問わず自己責任で、人間が振りまく悪意や狂気とも自ら戦わなくてはならない。
 その点、俺は冒険者であるので武器の携帯や逮捕権等、一般人と比べればその対処も幾分か有利な立場ではある。
 だが逆を言えば、自身のみならず、善良なる他者をも守る義務を負っているとも言えるわけだ。

 慎重な性格が災いし、過度に重く受け止めているきらいがあるとも言えるだろうが、森の守護者リーフルエルフ族の娘アメリアといった、だけを見て高価に映る存在は、その危険が迫る確率も高いに違いない。

 そう強く意識してしまう理由は一つ、俺もそうなのだ。
 アメリアが呟いていたように、ゼロから手にした"特別"だからだ。


「そうね。でもあなたと一緒だから大丈夫よ」
 
「そうだといいけどね。冒険者としては頼りない方だけど」

「もぉ……しょうがない人ね」

「ん?」

「あなたは、あの湿りきって、息苦しさを覚えるようなから私を解放してくれたの」

「私にとって、こんなにも頼もしいひとが他にいるかしら? ふふ」
 俺の手を取り真っ直ぐこちらを見つめ、慈愛に満ちた微笑みを向けている。

「はは、大袈裟だなぁ。それに言ったと思うけど、救助に協力したのはあの時の精神状態に──」

「──いいから誇りなさい? 森の守護者の相棒さん」
 そう言いながらアメリアが人差し指で俺の唇を遮り、冗談めかした素振りでウインクしている。

「──!」 「ホーホ! (ヤマト)」──バサッ
 リーフルが胸を張り翼を広げ、左翼が俺の眼前を覆う。

「ほら、次に行きましょう? ヤマト」

「う、うん……」
 善意の不意打ちから、うつむき加減でアメリアの後を追い、次の露店へと向かった。



「こんにちは。少し拝見させてもらえますか?」 
 
「あ、お兄さん。珍しいわね~、うちに寄ってくれるなんて」

「それに……あは、美人さんまで連れちゃって。明日は雨かしら?」
 店主の女性が少し意地悪そうに冗談を話している。

「あらヤマト、ここもなの? あなた顔が広いのね~」
 アメリアが感心した様子で店主と俺の顔を見比べている。

「いやぁ……正直言うと、少し後ろめたさもあるんだけどね。ハハ……」 「ホ? (ニゲル?)」

「どういう事?」

「ほら、話した夕方のエサやり。あれの為にほぼ毎日ここには来るから、それで露天商の人達には覚えられちゃってて。でも他では買い物しないからそれで……」

「はぁ~、お兄さんも奇特な人ねぇ。気にしなくていいよ、そんな事」

「むしろ野良達の始末は良くなったし、例えお兄さんにそんなつもりは無くても『毎日夕方に冒険者が警らしてる』って印象のおかげで、無茶やらかす馬鹿も減ったんだ。お金は落とさなくたって、十分貢献してくれてるよ」
 
「ホーホ! (ヤマト)」──バサッ
 
「あはは、そうそう! 鳥ちゃんも可愛いしね~」
 女性が楽し気にリーフルの頭を撫でている。

「そうなんだぁ……ふふふ!」

「あらまあ。彼女さん、随分楽しそうじゃな~い?」 

「ならここはいっちょ! デートの仕上げに、男を魅せる時でしょ~」
 商機到来とばかりに目を輝かせる女性が、色とりどりに取り揃えられた宝石が収まる装飾品を手に、こちら側に勧めてくる。

「いやあの、彼女では無いので誤解の無いよう──」

「──わぁ……綺麗ねぇ……」
 その輝きに目を奪われるアメリアが、半歩身を乗り出す。

(むぅ……誤解されたままはマズい……けど、アメリア楽しそうだしなぁ)

(そういえば約束破っちゃった埋め合わせになる……かな? あんまり高いのは厳しいけど──お?)
 考えを巡らせていると、アメリアの背越し、露台の右隅の方に、気になる一品を目にする。

「あの、これって……?」

「お! さっすがお兄さん、お目が高い!」

「これはうちの目玉商品!──予定だけど。その名も"オリジナルブレスレット"よ!」
 勢いある宣言と共に、女性が品を掲げている。

「ふむ?」

「これはね、あえて主役を務める石を据えずに仕上げてある商品でね。ほらここ」

 話の通り女性が示す部分には、小さな宝石でもはめ込めば、とても見栄えのしそうな穴が開いている。
 質感からして、ブレスレットは何かの皮革素材で作られたもので、穴の部分だけが金属製のようだ。

「石の方はお客さん自身に好きな物を用意してもらって、それを私が加工、仕上げて完成させるの」

「石の原価がかかってない分、お安くお求めいただけてかつ、好きな石を使った自己流オリジナルのブレスレットが手に入るっていうコンセプトなの!」

「なるほど~。おいくらなんですか?」

「フフフ……驚くなかれ。私の加工費込みで、なんとたったの銀貨二十枚よ!」

「ふむ……」
 露台に並ぶ商品達の値段が記載された羊皮紙を確認する。

 この店で一番値の張る金製の蒼い宝石が据えられたネックレスが金貨三枚と銀貨五十枚。
 通常のブレスレットの平均が銀貨四十、五十枚といったところだ。
 
「あ~。確かにお安いですね……」

「どうです?? もし何か石をお持ちなら、彼女さん、喜ばれると思いますよ~」
 女性がアメリアを一瞥し、さらに語気に熱を込めアピールしている。

「う~ん……」

「なになに?──あ、そのブレスレットは皮製なのね~。それも可愛いかも」
 煌めく商品を眺めていたアメリアが、他の商品の吟味を終えたのかこちらの会話に興味を示す。

「随分熱心に眺めてたけど、欲しいものでも見つかった?」

「ううん。あまりに綺麗だから、つい夢中になってただけなの」

「えっ!? 彼女さん、宝石にはご興味なし……?」

「興味はあるんだけど、私達エルフ族にとって金銭の取引っていうのは、とても慎重になる事なの」

『精霊様の末裔たるはエルフ族。その大いなる慈悲の御心によって後の世にお与えくださった豊穣を尊び、自然との共生や調和で暮らしを賄える限り、他種族の文明とは距離を置くべし』

「小さい頃に、私達はそういう教えを受けて育つの」

「だから私達がお金を使う機会って凄く限られてて、例えば人間的暮らしを送る上で絶対に必要な物だったり、どうしても傍に置いておきたい物だったりね」

「へぇ~。そういう教えがあるんだ」

「だからお店には悪いけど、こちらの商品は、私にとってに傍に置いておきたい物では無いって事なの。ごめんなさいね」

「なるほどぉ……エルフさん達の教えなら仕方ないですよね……」
 女性が肩を落とし、手中にある自慢の品が寂し気に影を落としている。

「それで、それってどういう商品なの? 何だか未完成のように見えるんだけど」

「ああ、これはね──」


『──あっ! こんなところにいた!』

 何やら背後から聞き覚えのある声が俺達の方を向きこだましている。
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。 世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。 派手に振られて落ち込んでいる精霊王。 逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。 可愛すぎて人間が苦手になった真竜。 戦場のトラウマで休養中の傭兵――。 そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、 異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。 異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、 このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。 日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。 そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。 傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。 彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。 ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。 転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。 しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。 男であれば執事、女であればメイド。 「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」 如何にして異世界を楽しむか。 バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...