平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

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3-5 生業の園

第117話 圧倒の果て 4

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 薄暗い局所に交差する多様な唸り声。

「ホッ! (テキ!)」

 リーフルが顔を回し背面へ向け声を上げている。

(後ろからも⁉)

 具体的な種類などを考慮する余裕は無い。

 仕留められれば幸い。外れても退路を確保出来ると考え、当てずっぽうに風の矢を後方へ解き放つ。

(チッ──あいつらいつの間に……!)

 結果を確認する間も惜しみ、姿勢を前へ向けようとした。すると視界の端に、見覚えのある細長い脚が映る。 

 ひと時得た静寂の代償としてはまだましな規模だと己を奮い立たせ、次の手順を早急に捻りだす。

「背面樹上にストーク! Bシフトを!」

 態勢を整えるべく大声を張り上げる。

 戦域後方には、漁夫の利を得ようと樹上を縫い接近するストークスパイダー。

 前方右翼側に迫るブラックベアにビビットが立ち向かい、左翼側では二人がローウルフとケイプスクワールの群れを食い止めている。

 全体像の把握に努める俺はBシフト──戦線を押し上げ、有利な位置取りを狙う攻勢の陣形──の指示を飛ばし、弓で援護を開始する。

 川沿いの道を離れ、休憩所へと繋がる微かな轍を追い始めた矢先に取り囲まれた。

 やはりサウドの森は僅かな油断さえ飲み込まんと、その深く冷淡な懐を広げているようだ。

「──ヤマト、後続は⁉」

「リーフル、遠くからも聞こえるか?」

「…………ホ (イク)」

「そうか──ありません! そのままお願いします!」

「あいよッ!」

「ムゥ~……こいつら意地が悪いから嫌い──っす!」
 
 ケイプスクワールに眉を顰めるロングがハンマーを振るう。

 恐らく空振りに終わるはずだった軌道。だがその醜悪な顔面は不自然に静止し、ハンマーの突起に衝突する。

「ロングちゃんもそう思う? 私も~」

 そう気だるげに呟くベルの手元から鞭のような半透明の魔力が視認できる。

「ありがとうございます! ホントこいつらすばしっこく──って‼」

 尚も人を嘲笑うかのような挑発的な動きで飄々と迫るケイプスクワールに対し、自分の攻撃可能な範囲を示すようにハンマーを振るいながら前進する。

 そのさらに前方ではローウルフが頭を下げ飛びかかるタイミングを窺っている。

 俺は炎を宿らせる魔石をコンポジットボウに装着しそれを狙い撃つ。

 放たれた光が薄闇に線を引き、ローウルフに突き刺さる。そして全身を炎が包み込む。

(あいつらは──)

 半身を振り返り樹上を確かめる。

(──よし、そのまま嫌らしく傍観しててくれ)

 ストークスパイダーは依然枝葉に無数の脚を広げ沈黙したままだ。

「ふふ。こんな小物じゃあ──」

 余裕綽々と身構えることも無いベルの後方。ロングの視界の外よりケイプスクワールが飛び掛かる。

「──ベル!」

 咄嗟に矢を番え狙いを定める。

(間に合──なっ⁉)

 突如静電気が発生したような鋭い音と共に、ケイプスクワールが何も無い空中で弾かれた。
 
「ん……?──ああ、まったく愚かね。この私の領域に近付こうなんて」

 まるで心底からの軽蔑を送っているような冷淡な瞳を向け手を払う動作をしている。

(なにが……いや、いつもの事か。詳細は後で聞けばいい──)

 ロングの下へ駆け寄り勢いそのままに剣を振り降ろす。

 しかしケイプスクワールは易々と刃を躱し、宙返りを見せている。

「くそ……バカにしてるよな、あれって」

「そうっすね。だったらこっちもあの作戦で行くっすよ!」

「だな!」

 背中合わせに武器を構え反撃に重きを置いた体制をとる。

 ローウルフは左右、ケイプスクワールは無軌道に移動しながらこちらを取り囲んでいる。

「現状はこいつらで終わりのはずだ。一手ずつ確実に行こう!」

「了解っす!」

「へぇ~、いいわねそいうの。ふふ……」



 最後の一匹の沈黙を境に周囲に目を凝らす。

 広がるのは踏み荒らされた下草、そして点々と残る魔物の燃え跡。

 静けさを取り戻した一帯に落ちる枝の響きが張り詰めた空気に穴を開ける。

(微かに腕が痙攣してる……疲労の──違うな。勲章だと思おう)

 剣を納め脱力した腕をぶら下げる。

「ふぅぅ。一段落……なら有難いけど。リーフル?」

「…………ホーホホ(タベモノ)」

 敵性の気配が無い事を強調するように、落ち着いたトーンで呟いた。

「そっか、ありがとな」

 俺はそんな愛くるしい頭を撫で癒しを補充させてもらう。

「自分にも何も。多分終わりっす」

「ロングもお疲れ様」

「お疲れさん。大立ち回りのしわ寄せにしちゃ、まだましなもんだったかねぇ」

(かすり傷の一つも……ハハ、さすがだ)

 つい先程までブラックベアと一対一で向き合っていたとはとても思えない、整然とした雰囲気で笑顔を向けている。

「ふふ、凄いわねあなた達。感心しちゃったわ」

 ベルもまた衣服の乱れひとつない様相でウインクしている。

「あいえ……未熟なばかりにあんな戦法で。でもありがとうございます」

「ねえ、あのゾウの時にも思ったんだけど、あなた達って相当稀な冒険者よね」

「むむ? どういうことっすか?」

「だってほら。さっき会ったなんとかって野心的な奴もそうだけど、冒険者って個が強いじゃない?」

「普段からパーティー単位で仕事してる冒険者だって、あなた達ほど互いに互いを預けて立ち回ったりはしないもの」

(個が強いって……ベルに言われるとなんともなぁ……)

 のど元を過ぎるが、すんでのところで口をつぐみ苦笑いを浮かべる。

「ハハ……一緒に訓練してますから。ロングには付き合わせて申し訳ない気持ちもありますけど、弱者の生存戦略ってやつですかね」

「同じく自分にもリーフルちゃんを守る使命がありますからね~! 一蓮托生? でしたっけ。そういう事っす!」

「ホホーホ! (ナカマ)」──バサッ

 わざわざロングの頭上に飛び乗り、翼を広げアピールしている。

「ふ~ん……」

「お? なんだなんだベル。いつの間にそんな化粧して」

「はあ? 化粧を直す暇なんて無かった──」

「──くっきりと書いてあるじゃないか『羨ましい』って。はっはっは!」

「なぁっ……⁉ ちょっとビビット! 久しぶりに張り合いのある仕事だからってはしゃぎ過ぎよ!」

「うんうん。自分にもとってもよく分かるっすよ~」

「ベルさんと自分とじゃ事情は違いますけど、心から信頼できる人が居るっていうのは、本当に安心出来て毎日が楽しくって」

「でも欲張りは程々にっすよ。ベルさんにはビビットさんが居るじゃないっすか」

「ぐぬぬっ……あなた達、黙って聞いてれば好き勝手……」

 険しい表情を浮かべる足元の下草がみるみるうちに枯れてゆく。

 そして握る拳に薄っすらとした魔力の揺らぎが漂い始める。

「ちょっとベル、シャレになりませんよそれは……」

「ふん! どうせならブラックベア諸共にメス熊も吹き飛ばしてやればよかったわ」

「なに……?」

 比喩表現をつぶさに拾い上げるビビットが脇に立つ大盾に手をかける。

「……丁度体もあったまってることだ。ここらで一つ決着をつけてやろうかねえ──!」

「はんっ! 臨むところよ──!」

「ちょ、ちょっと! こんな所でやめてくださいよ!」

「あ、ヤマトさん。そろそろ移動っすよね? 自分ちょっとトイレに行ってきます」──

「ちょっとロング!」

 幾度も目にしてきた慣れの影響なのか、二人のじゃれ合いには目もくれずそそくさと木陰へと向かってしまった。

「……ハァ。さっさと休憩所に駆けこまないと身がもたないぞこりゃ……」 「ホ? (イク?)」




(信頼の裏返しってことなんだろうけど、格下にとっちゃ肝が冷えるんだよなぁ……)

 自身の腕を揉みほぐしながら、じゃれ合いの熱が冷め手持無沙汰に警戒を続ける二人を眺めそんな事を思う。

 一触即発の空気に冷や汗が滲むこともままあるこの頃だが、こんな殺伐とした場所に身を置く現状を考慮すれば、不気味を払い活気を灯す良いBGMに感じられるかもしれない。

 現に突き合わせる角が実際に接触したこともなし。二人の様子からして、不器用ながらの娯楽代わりといった雰囲気も漂っているし、先程のロングの対応が正解に近い振る舞いのような気もする。

「……ホホーホ? (ナカマ)」

 フクロウ達特有の、首を縦に回し慎重に距離を測る動作。

 何やらリーフルが観察を始め呟いている。

「あ、そういえばそうだな……」

 それにしてもロングが木陰に隠れてからどれ程経っただろうか。

 戦闘の興奮を落ち着かせ、腕の疲労に気を取られていたばかりに失念していた。

「……なぁヤマト。男ってのは、用を足すのにこんなにかかるもんかね?」

「ええ、さすがにおかしいですよね……」

「ふん……あなたのお手製サンドイッチのせいじゃないの」

 棘のある声色で横目にビビットを一瞥した。

「おいベル、冗談を言ってる場合かい。ヤマト、こりゃあ様子を見に行った方がいいんじゃないかい?」

「です……ね。ちょっと見てきま──」

「──ホッ! (テキ!)」

 いざ確認に向かおうとロングが消えた先を見据えた瞬間、リーフルが敵の存在を叫んだ。

「えっ、同じ方向だぞ……⁉」

「──御二人共、魔物の気配を感じるみたいです。準備をお願いします」

「なんだって⁉──チッ、まだ合流出来て無いってのに」

「タイミング悪いわねぇもぉっ」

 珍しく若干の焦りが見える二人。

 だがそれもそのはずだ。恐らく俺達は、同時にただならぬ予測を浮かべている。

(……いや、あり得ない。それだけはない………!)

 よぎる馬鹿馬鹿しい発想を振りほどき柄に手をかける。 

「グルルゥゥゥ……‼」

 構える刹那、暗闇の奥から低い唸り声が不気味に響く。

 しかし見据える先には未だその正体が捉えられない。

「なんだ……ローウルフともブラックベアとも違う、聞いた事が無い種類だ……」

「なんだろうとあたしが抑える! 後の立ち回りは任せるよ!」

「はい!」

 ビビットが大盾を突き出し前進。俺達は矢じりの如くその後方で間隔を空け身構える。

 ──そして準備を整い終えたほんの数秒後。

「ウガァァーーウッッ‼」──

 見据える先の下草が突如騒ぎ出し、何者かが俺達を目掛け飛び出してきた。

「なにッ……⁉」

 ビビットがこぼす驚きを孕む吐息が漏れ聞こえる。

 そして大盾が何かに接触し、その衝撃から甲高い音が響き渡る。

(なんだ……⁉)

 薄暗い明度と構える大盾のせいでその正体が視認出来ず、俺は僅かに前進し覗き込む──


「──なッッ……‼ な、なんでッ⁉」

 これ見よがしに主張する鋭い犬歯。
 
 その特徴を端的に表す毛の逆立った丸く短い耳。

 焦点の定まらない大きく見開いた瞳孔。

 そして大盾をこれでもかと連続して打ち付ける、見覚えのある突起の付いたハンマー。

 今この時、ビビットに襲い掛かるあれは、疲弊した脳が見せる幻なのか。

 それとも、姿形を模倣する能力をもった魔物の襲撃。あるいは偶然酷似した外見を持つ、どこぞの無法者の凶行か。

 とにかくあの存在が、であるという事実を否定したいばかりに、混乱から身が固まってしまった。

「──ええっ⁉ ロングちゃん!」

 ベルも同じく、身構える姿勢のまま次の行動に移る素振りも無く驚愕の声を上げている。

「ウガッッ! ガァーーゥウッ‼」
 
 猛獣のような唸り声を上げ力任せにハンマーを振り乱す。

「ぬッ!──ふッ! やるじゃないかっ……‼」 

 対するビビットはその猛撃に大盾を的確に合わせている。

「ロ、ロング……おいロングッ‼」

「──何やってるんだよ! 聞こえないのかロングッ‼」

 必死の呼びかけも虚しく言葉は返らない。

 ロングは動物的特徴を併せ持つ獣人族ではあるが、あんなにも牙を剥きだしに、あんなにも粗暴に頭を振り乱している姿は、全くの別人──ケモノにしか認識できない程に、まるで覚えのない存在へと化してしまっている。

「ホゥ……(ナカマ)」

 リーフルも身を屈め悲痛な声色で呟いている。

「ロング……どうしたんだ一体……」

「──クソッ! ベル‼ 何か知りませんか⁉」

 声を荒げ問いかける。


「…………あ。そっか……」

 すがる想いで見つめるベルの横顔。

 しかし俺とは対照的な冷静そのもので、何かを呟いた。

「な、なんです⁉ ロングの身に何が──」

「──ビビット~? 幻惑草ウィスパーポールンよー!」

 絶え間なく打ち下ろされるハンマーを僅か半歩とブレることも無く防御するビビットの後背にベルが叫ぶ。

「──ムッ⁉ そうか‼ そうだったねぇ……まったく、肝が冷えるったらありゃしないよッ!」

 言葉を受け取った途端に雰囲気を明るめる。

「ウィスパーポールン……? どういうことですか、ロングは大丈夫なんですね⁉」
 
「ええ。よかったわぁ……私てっきり、ロングちゃんが”ネクロス”になっちゃったのかと思って」

「──お楽しみのところ悪いけど、ロングちゃんが可哀そうだし、終わらせるわよぉ」

 ベルもまた何かが解消したようなすっきりとした表情を浮かべ、ビビットの下へ歩み寄っていく。

「──名残惜しいがしょうがない。あたしらにはまだ先があるしねぇ!」

 先程まで見せていた全く近寄り難い気配は成りを潜め、まるで子供を相手取りチャンバラでもしているかのように楽し気な様子で返答している。

「ロングちゃん。今解放してあげるわね」

 そして猛攻を続けるロングの脇に歩み寄り、手のひらをかざし開く指を握り締めた。

「ウッ! ウゥゥッ……」

 すると、操り人形の糸が切れたようにロングがその場に倒れ込んだ。

「ロ、ロング……」

「──ベル、今のは……?」

「ふぅ……ギリギリまで掌握して気絶させたのよ。でも安心なさい」

 そう言いながら手元に浮かぶ魔力の塊をロングに押し込める。

「ふふ……いい攻撃だったよロング」

 ビビットが慈しむようにロングの頭を撫でている。

「よかった……ホントによかった……」 「ホホーホ……(ナカマ)」

 おびただしく湿った額を拭い、怪我ひとつないロングの体を確認する。

「ハァ……ベル、ありがとうござ──あれ……?」

 ベルを見上げる。しかしつい先程までそこに存在した姿が見当たらない。

「──ねえ~! ……わ~!」

(む……?)

 声がする方へ目を向ける。

 すると、いつの間にかロングが用を足しに向かった空間にベルが立っていた。

 そして彼女は何かを叫びながら木々を見上げている。

「……からね~!」

 もう一度微かな声が聞こえた次の瞬間、ベルの立つ空間の木々が急速に枯れ始めた。

 その枯れ跡はまるで生き物のように、ベルを中心とした放射状に辺り一帯へと広がっていく。

(枯れていく……)

(多分掌握……したんだよな)
 
「気にするんじゃないよ。あんたが知らないのも無理ないさね」

 俺の肩に触れながらビビットが語り出す。

「え?」

「ウィスパー・ポールンってのは、その厄介さから定期的に駆除命令が出される魔植物のことさね」

「魔植物……」

「詳しい生態については謎が多い。ただ一つハッキリしてるのは、を惑わす花粉をまき散らすって事さ」

「花粉……ですか」

「動物や魔物、果ては『獣人』だろうが、要はケモノ種を興奮と混乱に陥れる花粉を撒いて、他者に攻撃するよう仕向けて消耗させる」

「それで、ウィスパー・ポールン自身はその上前を撥ねるって寸法で、後から弱った者に触手を伸ばしてゆっくりと栄養を取り込むっていう狡猾な習性をしてるんさね」

「だがその花粉は人族とエルフ族には効果が無い。だからあたし達からすりゃ全く無害の植物ってことになるが、獣人族にとっては致命的だ。浅域とはいえ、彼らは森での生活を好むからねぇ」

「だから根絶を目指して、被害が報告されれば即刻駆除命令が飛ぶ。まあ、国家としての責任ってやつさね」

「ふむ……じゃあロングは、用を足しに行った先でたまたまその花粉を浴びて我を失い、俺達に向かって来た、と」

「ああ。長年の駆除活動のおかげで、もう数は少なくなっててすっかり失念しちまってたけど、今回は運が悪かったってとこだねえ」

(音も臭いも無く、動物を惑わす花粉を撒き散らす魔植物……か)

(マンイーターから二度目の遭遇だけど、そんな厄介なやつが……)

「教えて頂いてありがとうございます」

「それと、ロングの事も。傷つけずに対処して頂いて、本当にありがとうございました」

「いいって事さ。むしろあたしはロングと模擬戦が出来て、逆に心が躍ったってもんさね」

 そう言いながら穏やかな笑顔を向け俺の背を軽く叩く。


「──ふふ~ん、退治してやったわよ。これでロングちゃんも安心ね」

 少し得意げな表情のベルが俺達の下へと戻ってきた。

「ベル、助かりました。ロングを無事にありがとうございました」

「まあ、一瞬可能性がよぎった事については焦ったけどね」

「可能性? それって、先程おっしゃていたネクロスってのと、何か関係が?」

「んっと、簡単に言えば『彷徨う亡者』ってとこね」

「え……? それって……」

「ええ、あなたの想像通りの現象の事」

「例えば冒険者か何か、遺体が放置されるとするでしょ? そのまま朽ちて骨になってしまえば何の動きを見せることも無いわ。当然よね」

「けど肉体が残ってる段階でが起こると、状態は死、なのにまるで息を吹き返したかのように立ち上がって、彷徨い歩くっていうことがあるの」

「理屈としては恐らくだけど、こと切れた体に濃い魔力が注ぎ込まれると、肉体──筋肉がひとりでに動き出すって感じなのよ」

「そんな現象が……」

「──そうか。だからベルはさっき、ネクロスじゃないって判断出来たんですね」

「ふふ、そういう事」

 説明を総合して判断すると、ベテラン二人の対処が如何に正しいものだったのかが推し量れる。

 まず第一に、姿を消したロングが突如として俺達に襲い来たという状況は、サウドの森という場所を考慮すれば、信じたくは無いが知識のある物からすればネクロス状態に陥ったと考えるのが自然だろう。

 だがロングは己の四肢をスムーズに連動させ力強くハンマーを振るい、目立つ外傷も無く、ある意味では生気に満ちた状態にあった。

 これは当然、死体となった体──脳からの指令の無い筋肉が成せる動きでは無い訳だ。

 なら次に立てる推測とは。味方に対し説明のつかない凶行を引き起こす可能性としては、ウィスパー・ポールン──人を惑わす花粉の影響下にあるだろう、という可能性だ。

 まさに如実に表れた経験の差。

 知らなければどうしようもない事と、多少は反省の深度も浅く済ませられるだろう。

 だがやはり知識は要だ。冒険者であり続けたいのなら、図鑑に無い情報まで網羅できるように、もっと研鑽を積まなければいけないと強く思う事象だった。


「さ、早く行きましょう? 休憩所はもうすぐよ」

「……俺が背負っていきます。何も出来なかったのが寂しいので」

「ふっ……この無防備な寝顔が見れただけで、あたしにとっちゃ十分な討伐報酬だねぇ……」

 ロングを背負い上げ前を見据える。

 肩越しに聞こえるいつも通りのロングの寝息。リーフルも心配そうに寄り添っている。

 本当に、本当にロングが無事でよかった。

 伝わる以上の温もりに包まれ、俺達は中域に別れを告げた。
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