創世戦争記

歩く姿は社畜

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苏安皇国編 〜赤く染まる森、鳳と凰の章〜

サプライズボックス

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 アレンが苏月の姿をした魔物と戦っている丁度その頃。
「…!」
 戦闘を走っていた苏月が足を止める。
「わぷっ、美凛メイリンパパ、どうした?」
「…この感覚…舞蘭ウーラン、私が以前囚えられていたのはどの辺りだ?」
 舞蘭はホログラムを確認する。
『下から二番目の階層よ。今あなた達が居るのは、下から六番目ね。見た感じ、下の階層の方が地形の変化は少ないわ』
「恐らく、以前私が囚えられていた辺りにアレンが居る」
『それは、直感?』
「ああ」
 苏月が頷くと、舞蘭は心配そうな顔をした。
『あなたの直感って大体当たるものね。案内するわ』
 ロルツが長い耳をピクリと動かす。
「下の階層で大きな音がした。上の階層はまだ動いてる。しかも、上の音は近付いて来てるぞ」
 ネメシアが不安そうな顔をした。
「フレデリカ達、逃げれたかな」
社龍シャ・ロン謝坤シェ・ゴンは強い。あの二人が居れば万一にも捕まる事は無いだろう」
 その時、天井が大きく揺れた。
「美凛の父ちゃん、何か近付いて来てないか?」
 苏月は薄い唇に人差し指を当てると、勢い良く左手を下から振り上げる。すると、床から赤黒い鎖が伸びて天井を破壊する。
「うわぁぁぁ!?」
 穴が空いた天井から聞き慣れた悲鳴が聞こえてきた。
「社龍!」
 ネメシアが嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねると、社龍達が天井に空いた穴から降りてきた。
「撤退しろと言った筈だ」
 苏月がそう言うと、フレデリカはフンと鼻を鳴らした。
「彼の横に立つのは私って決まってるの。本当は先に彼の元に行きたかったんだけど」
「…随分移動が速いがどうやって来た?」
 苏月の問いに社龍がもじもじした。
「ファズミルが意外と執拗いので、俺が寸勁で床を壊しながら下へ向かってました」
「ほう、じゃあその穴を追って追いかけて来たのか、貴様は」
 そう言って天井を見上げると、穴に顔だけ突っ込んだファズミルが居た。
「ギャアアアアアアア!」
 社龍は叫ぶと叔父の後ろに隠れる。
「の、覗き見は良くないよ!お前が幾らモブ顔でもね、悪事はバレるんだよ!」 
 叔父の後ろからそう叫ぶと、謝坤が叫ぶ。
「俺みたいなイケメンになって出直して来い!イケメンでも覗き見は許されないけどな!」
 ボロクソに喚き散らす二人を見てファズミルは困った顔をする。すると、ファズミルの横から銀髪の女が出て来た。女の口元はどういう訳か血まみれで、美しいより恐ろしいが強い。
「あら、私達悪い事してないわよ?だって、裁判神官のやる事は正しいんだから」
 苏月は鼻を鳴らした。
「人の領土でアンデッドを使役するのを悪事と言わずして何と言う?オイタで済むとでも思ってるのか」
 銀髪の女はヘラヘラ笑った。
「怖い顔しないで、せっかくの綺麗な顔が台無しよ。え、あなたが苏月でしょ?前にニュースで見たけど、顔が好みだわ。私とイイ事しない?」
 苏月が顔を顰めると、舞蘭が机を拳で叩いた。
『おい阿婆擦れ、人の旦那に手ぇ出すなよぶっ殺すぞ』
 普段の優しい顔からは想像出来ない程低い声で舞蘭がそう言うと、銀髪の女は笑った。
「あらやだ怖い。こんな女が奥さんだなんて悪趣味だわ」
 そう言って穴から降りてくると、銀髪の女ヴェロスラヴァは何かの脚を齧りながら出て来る。
「…ロルツ、あれ何の脚かな…」
 聞かなくて良い事を質問した瞬間、ヴェロスラヴァは答えた。
「エルフの脚よ」
「ヒイッ!」
 ヴェロスラヴァは口の中の物を飲み込むと耳を澄ました。
「森の声が聞こえるわ。この城に人が入った事を心配しているみたい」
 そう言うと、銀色の瞳をギラつかせて一行を見る。
「あなた達全員食べたら、私はどれだけ強くなれるかしら」
 次の瞬間、苏月が壁を破壊した。
「貴公ら、移動するぞ」
 一行はまるで事前に打ち合わせでもしていたかのように一斉に走り出す。今此処で魔人と戦っている場合ではない。早くアレンを見つけ出してアンデッドが湧き上がる根源を何とかしなければならないのだから。

 閉じ込められた部屋は広いが、遺された拷問器具や高速で動き回る分銅鎖のせいで狭く感じる。
 武器がぶつかって火花が散る。
「おいユエさん!」
 思わずそう叫んでしまったが、言葉が通じない事を思い出す。何故なら、目の前の『苏月』は過去の記憶から形成された影に過ぎないからだ。言葉は話せるが、意味まで理解しているかどうかは怪しい。
(いや、理解はしてないな)
 遺っているのは若かった頃の苏月の圧倒的身体能力だけ。動きには策略もへったくれも無いが、それを身体能力だけで補っている。若い頃の苏月本人でないのが不幸中の幸い…なんて事もなく、速度と火力の二つだけでアレンが追い詰められている。ここまで無傷で済んだだけ幸運だろう。
『叔父貴なんて人間卒業してるようなもんじゃねぇか!』
 いつか、アーサーが言っていた事を思い出す。
(そりゃあ、ドーピングしてたらそうなるよ)
 男にしては細い腕は拷問で無惨にも皮を剥がれ、辛うじて残った皮膚には注射痕が残っている。苏安で行われていた隷属魔法の実験も彼は受けていたのだ。
「…そりゃあ、手当り次第にぶっ殺したくなるよな」
 憐れに思うと同時に、こんな悍ましいモノを創り出したシュルークとそれを使用する者達に恐怖を感じる。魔法で魔人を支配するばかりか、それを同族にすら使ってしまうなんて。
「…月さん、怖かったよな。この城でこんな事されたら」
 目の前に居る偽物に言ったのではない。今この場に居ない、余りにも不器用な一児の父へ向かって言ったのだ。目の前の偽物の持つ感情は、見た感じ憎悪と憤怒だけ。だから精神を揺さぶる事は不可能だろう。
(しかし、何とか完全に消滅させないと)
 放置すれば、智稜は間違いなく死の都になる。地上に残っている者達の為にも、智稜の最奥まで行かなければならない。
「うわっ!」
 防戦一方の戦闘には慣れていない分、集中力が切れてきた。躱したと思った分銅鎖がアレンの足を掬い上げる。
 先端に鋭い刃が付いた分銅鎖がアレンの防具の隙間に照準を定めたその時、シュルークの影が出てきた。
『頭上に気を付けなよ~』
「え⸺」
 次の瞬間、轟音と共に天井が大破した。天井から落ちてきた瓦礫で分銅鎖が砕け、消滅する。
「ふぃー!美凛パパ、派手にやったね!」
 ネメシアの声が砂煙の向こうからする。
「お前ら気を付けろ、相手は⸺」
 その時、天井から魔人達は入ってくる。
「その魔物だけじゃないわよ~」
 ヴェロスラヴァは妖艶に笑いながら土埃を払い落とす。
「これで袋の鼠だ。ところで鼠って美味しいのか?」
 そう言いながらファズミルが再び牢獄を回転させる。地鳴りと共に牢獄が回転し、出入り口と天井が塞がれる。しかし、数だけ見ればこちらが上だ。
「袋の鼠はどっちかしらね!月ちゃん、全力投球よ!」
 フレデリカがそう叫ぶと、苏月が手に持った大きな石をファズミルに投げ付ける。
「うわっ、野蛮すぎるだろう…!やってられない、私はもう帰る。アレンは殺せなかったけど、目的は達成した」
 そう言って転移魔法で姿を消すと、苏月は石を握り潰して残されたヴェロスラヴァに投げ付ける。
「次、散弾!」
 バラバラに砕けた石はヴェロスラヴァの肩を吹き飛ばし、近くで大人しく待っていた偽物の頭を吹き飛ばす。
「ちょっとファズミル、レディーファーストって知らないの!?もう、また殺し損ねたわ!」
 そう言って悪態を吐きながらヴェロスラヴァが撤退すると、アレンは苏月の近くに走り寄った。
「月さん、あれ、あんたの偽物だ」
「あれ相手に戦ってたのか」
 アレンが頷くと、苏月は笑った。
「やるじゃないか、恐らく最盛期の私と戦って手を擦りむくだけで済むなんて」
「いや、あんたの最盛期はあれじゃないだろ」
「え?」
 経験と智謀、それが偽物には無い。
「あれを消滅させたい。だけど、あんなのが湧いたのには何か理由があるはずだ」
 そしてその元凶、全ての始まりはこの下にある。
「分かった、私があれを引きつけておこう。謝坤、寸勁で床を壊して皆で下に移動しなさい」
「了解だ!」
 偽物の身体が再生を始めている。もう若くない苏月ではどれだけ保つか分からない。アレン達は謝坤が空けた穴に急いで飛び込む。
 アレン達が下の階層へ入ると、そこにはエルフ達の死体が転がっていた。
「あいつら、起動させたのね…!」
 フレデリカが睨んだその先には、巨大な球体が置かれている。その球体からは禍々しい瘴気が漏れていた。
「これがあいつのサプライズって事ね」
 何処からか、シュルークの笑い声が聞こえてくる。笑い声は徐々に近くなり、それに伴って瘴気が一人の青年の姿を形成する。すると、エルフの死体が動いて癒着し始めた。
「お前は、この世界がこうなる未来を十万年も前からんだ。そうでしょ、シュルーク・イブラヒム=クテシア!」
 青年の顔を見てアレンは衝撃を受ける。禍々しい瘴気を纏って狂気を帯びた笑いを上げている青年は、なんとあの冷たい踊子⸺ファーティマと瓜二つだったのだ。
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