貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。

ななよ廻る

文字の大きさ
20 / 56
第1部 第7章

第2話 偽装婚約相手のことを寮母さんに相談する

しおりを挟む
「なるほど」

 案内された寮母さんの部屋。
 年上の女性の私室に居心地の悪さを覚えながら椅子に座っていると、俺から説明を聞いた寮母さんがそんな呟きを零した。

 顔を上げると、寮母さんは紅茶で唇を湿らせ、考えるように瞼を瞑った。
 そして、薄っすらと目を開けて俺を見返して言う。

「それは惚気、というものですか?」
「断じて違います」
「そうですか?」

 ハッキリと否定したのだけど、寮母さんは納得いっていなさそうだった。
 俺の話を聞いて、一体どこをどう勘違いしたら惚気だなんて受け取るのか。

「昨日まではユーリアナさんが腕を組んだり、手を繋いだりしてきていたけど、今日はそれがなかった。会話もいつも以上に続かず、どうにも様子がおかしい、と」

 こつ、こつ、とテーブルを指で叩いた寮母さんが、今度はしっかりとジト目を向けてくる。

「やはり惚気では?」
「……俺もそんな気はしてきましたが、違うんです」

 事実を並べられると、俺自身惚気かも? と思ってしまった。

「夫婦喧嘩は犬も喰わないと言いますが、婚約者の場合どうなのでしょうか?」
「婚約者では――」
「では?」

 喉まで上ってきた否定を慌てて飲み込む。

「――では! あるんですけどぉ!」
「なにやら辛そうですね」

 舌を噛みそうになりながらもなんとか軌道修正すると、今度は心配された。
 誰のせいだ、誰の。
 そう文句を言いたいけど、俺のせいなんだよなぁと歯噛みする。

 つい流れに乗って寮母さんに相談してしまったが、そもそも偽装婚約を抜いて説明すると、ただただ俺とユーリの惚気になってしまう。

 正確に状況を伝えられない以上、真っ当な返事を期待してはいけなかった。

「すみません、うまく説明できなくて」
「それは構いませんが、困りましたね。色恋沙汰はあまり得意ではないのですが」
「色恋沙汰は……って、そうなんですか?」
「はい」

 なんだか意外だ。
 金糸のような艷やかな長い髪に、男子寮の生徒たちを軒並み惚れさせてしまう整った容姿。
 綺麗系は寮母さんはどこであろうとモテていそうで、色恋沙汰が無縁とは思えなかった。

 むしろ経験豊富そうな印象を持っていた。

「謙遜ですか?」
「そう仰っていただけるのは嬉しいですが、そうしたお声をかけられたことはほとんどありません」

 意外すぎる。
 というか、ほとんどない原因に学生寮の抜け駆け防止条約が含まれているかは気になる。それとも、年下なんて寮母さんからすれば色恋に数えないおままごとなのか。

 寮母さんが無表情のまま上目遣いで見る、なんて器用なことをしてくる。

「試してみますか?」
「……笑えないですからね?」
「ふむ。冗談というのは奥が深いですね」

 真面目なのか、ふざけているのか判断に困る。
 綺麗な顎のラインに指を添えて考える仕草をする寮母さんに呆れながら、紅茶で一息入れる。

 今日はやけに喉が乾く。

「正直、不明瞭なところがあるのでハッキリしたことはわかりません。その上で、どうしてそのような行動を取るのか、私自身に当てはめて考えれば――嫌われたのではないでしょうか?」
「ぶふっ」

 思わず咽てしまう。
 だらーっと口の端から紅茶が零れて、寮母さんに「滴ってますよ?」と指摘されるが開いた口を閉じられない。

 差し出されたハンカチで口を拭って、どうにか弁明する。

「その可能性は……ないん、じゃない、かと」
「そうなんですか?」

 ない……と思いたかった。
 否定しきれず、歯切れが悪くなってしまう。

 でも、根拠がないわけじゃない。

 そもそも、突然ユーリが俺を嫌う理由がなかった。
 前日に一緒のベッドで眠った……というのは、俺にとっては衝撃的な事件ではあるし、学園に広まったらどうなってしまうのかは想像したくもない。

 それくらい問題のある行動で、女の子に嫌われるには十分な理由になるのはわかる。
 ただ、やったのはユーリで、自らの行動の責任を他人に取らせるなんて真似、彼女がするとは思えなかった。

 傲慢だけど、そうした誇り高さがユーリにはあった。傲慢だけど。

「そもそも、嫌いなら『私は君が嫌いだ』って、正面から言っちゃうタイプだと思うんですよね」

 実際、王族であるリオネル殿下に根性なしだなんだと、不敬なことを平気で口にしていたんだ。
 俺相手に言葉を選ぶわけもない。

 だから嫌われてない……と断言できないところに、もしかしたらという俺の不安があるんだと思う。

「そうなると、私ではお力にはなれないようです。こちらから相談に乗ると提案したのに、力不足を恥じ入るばかりです」
「いえ、そんな! 話を聞いていただけただけでもありがたかったですよ」

 解決こそしなかったが、胸のモヤモヤは少し晴れた。
 やっぱり、どんな悩みも抱えてばかりでは気が滅入るばかりということなんだろう。

 相談事と紅茶も尽きた。
 おいとまするには丁度いいだろう。
 ……紅茶はほんとど飲めてないけど。

 紅茶で濡れた膝を払いながら、頭を下げる寮母さんにお礼を告げて席を立つ。

「相談に乗っていただきありがとうございました。もう少し自分で考えてみます」
「――クルールさん」

 席を離れようとする俺を寮母さんが呼び止める。
 彼女は顔を上げていて、金色の瞳に戸惑う俺の姿を映していた。

「ユーリアナさんがどうして貴方から距離を取っているのかは私にはわかりかねます。ですが、原因からではなく結果から、対処する方法は考えられます」
「それは……どんな方法ですか?」

 尋ね返すと、寮母さんは真剣な顔で深く頷いて見せた。

「――デートです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】公爵令嬢は勇者への恩返しを試みる〜サブヒロインとして頑張ります〜

マロン株式
恋愛
 公爵令嬢ユウフェには、ひとつだけ秘密がある。  ――この世界が“小説の中”だと知っていること。  ユウフェはただの“サブヒロイン”で、物語の結末では魔王のもとへ嫁ぐ運命にある……はずだった。 けれどーー  勇者の仲間、聖女、そして魔王が現れ、〝物語どおり〟には進まない恋の三角関係(いや、四角関係?)が動き出す。  サブヒロインの恩返しから始まる、ほのぼの甘くて、少し切ない恋愛ファンタジー。 ◇◇◇ ※注意事項※ ・序盤ほのぼのめ ・勇者 ✖ サブヒロイン ✖ 魔王 ✖ 巫女(?)の恋愛模様 ・基本はザマァなし ・過去作のため、気になる部分あればすみません ・他サイトと並行改稿中のため、内容に差異が出る可能性があります ・設定ゆるめ ・恋愛 × ファンタジー

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

分厚いメガネを外した令嬢は美人?

しゃーりん
恋愛
極度の近視で分厚いメガネをかけている子爵令嬢のミーシャは家族から嫌われている。 学園にも行かせてもらえず、居場所がないミーシャは教会と孤児院に通うようになる。 そこで知り合ったおじいさんと仲良くなって、話をするのが楽しみになっていた。 しかし、おじいさんが急に来なくなって心配していたところにミーシャの縁談話がきた。 会えないまま嫁いだ先にいたのは病に倒れたおじいさんで…介護要員としての縁談だった? この結婚をきっかけに、将来やりたいことを考え始める。 一人で寂しかったミーシャに、いつの間にか大切な人ができていくお話です。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

処理中です...