貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。

ななよ廻る

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第2部 第6章

第2話 鉱輝祭のジンクス

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 鉱輝祭こうきさいが近づいてきているからか、学園内は活気づいてきている。
 教室の生徒たちの口にも上ってきていて、生徒たちが開催を待ち望んでいるのがわかる。

 楽しみ、待ち遠しい。
 そんな声が聞こえてくるたび、頭が重くなっていき、ついには机に落ちる。

「お疲れのようだね」
「……頭痛い」

 放課後とはいえ、2年生のユーリが1年の教室に来ているのはおかしいが、いまさらなので気にしない。クラスメイトたちはまだ慣れておらず、こちらを意識しているがどうにかなる問題でもないので頭から追いやる。

「お疲れ様、旦那様。よしよししてあげよう」
「やーめーろー」

 楽しそうにぐりぐり頭を撫でてくるが、振り払う気力もなかった。
 形だけの抵抗をして、脱力してへばる。

 あれから手紙が返ってきて、母さんから『許可』をもらった。サンプルにいくつか採掘した金鉱石と、金細工を送ってくれるとのことで、こっちの都合で融通してもらって申し訳なくなってくる。
 ただ、そんな俺の気持ちも見越してか、『良い宣伝になりますので、しっかり努めなさい』という激励が最後に添えられていた。心が軽くなる反面、それはそれでプレッシャーなんだけどと肩が重くなるばかりだ。

 あまりの重さに投げ出したくなるが、家族のことを思えば背負い続けるしかないわけで。
 リオネル殿下との話し合いを重ねて場所の確保。資材の発注をして、届いたら届いたで検品作業に置き場所の用意。その間、授業が免除ということもなく、放課後の短い時間でやりくりしながらの作業は疲労が溜まるばかりで溶けていってくれなかった。

 使用人に全部ぶん投げたい気持ちもわかる。
 俺にはその使用人がいないわけだが。

「クルールの出展を広めているが、反応は上々だ。やはり、新しい金鉱脈というインパクトは大きいらしいね」
「良いのか悪いのか」

 大変になっているだけな気もするが、「良いことだとも」とユーリが断言してくれるので、きっと良いことなんだろう。
 宣伝もだけど、リオネル殿下との話し合いにも付き合ってくれるし、ありがたいことだ。
 まだまだ始まったばかり。でも、頼れる人がいるだけでも気持ちは軽くなる。

 撫でてくれるユーリの心地良い手に身を任せてたゆたう。
 このまま寝てしまいたいと目を閉じようとしたら、不意に撫でる手が止まった。ん? と机から顔を上げると、手を浮かせたユーリがどこかを見つめていた。

 なんだ?
 思って、視線を追いかけると、その先では女子生徒たちが楚々と会話を楽しんでいた。

「婚約者から宝石はいただくのですか?」
「ええ、用意していただけるとのことで、わたくしも実家から最高の物を取り寄せていますの」
「いいですねー。私の婚約者は『必要?』と甲斐性がなくて」
「まぁ、酷い!」

 あぁ、鉱輝祭のジンクスの話か。
 途中からお互いの婚約者のダメ出しに移行する辺り、貴族らしいと言えばいいのか、人間らしいと言えばいいのか。悪口陰口の黒い花は楽しいんだろうな、と辟易してしまう。

「ユーリ?」
「……宝石を交換すると、幸せになるという話は知っているかな?」

 呼ぶと、こっちを向かずに尋ねられて、うん、と返事をする。
 つい先日、寮母さんから聞いたばかりだ。
 ユーリの言葉に“想い人と”というのが抜けているけど。

「ないけど」
「ん、そうか」

 ならいい、とこっちを向いたユーリは屈託なく笑って、また俺の頭を撫で始める。
 けど、って言ったんだけどな。
 続く言葉は彼女の納得に打ち消されて、ただ見返すことしかできない。

 わかりやすい反応だ。
 いつものユーリなら真っ向から要求してきてもおかしくないんだけど、疲れている俺を気遣ってくれたのかもしれない。まさかひよった、なんて理由で臆病とは無縁の彼女が踏み留まるわけもない。

 こういう気遣いを見せられると、俺も俺でなにかしなくちゃと思わされるのだから、その謙虚さは効果的なのかもしれない。

「どうかしたかい?」
「いーや」

 俺から言うのは頬に火を灯すくらい恥ずかしいので、顔を伏せて腕の中に逃げ込む。
 素直にやろうとは言えないけど。

 ――冷めた目で見続けて、学園を卒業すると後悔します。

 甲斐性なしにはなりたくなかった。
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