魔術師さんは囲われ気味な高位貴族の愛人になりたくない

さか【傘路さか】

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 屋敷での生活が始まり、俺はノックスと婚約の準備を進めている。

 俺の出自の件はロア兄が言っていたように、モーリッツ一族が助力してくれることになった。一族の中から選ばれた貴族が俺をいちど養子にしてくれて、その上でグラウ家を含めた婚約をする。

 一族のロア兄が宰相閣下と結婚することになり、モーリッツ家はこれから国家へ密接に関わってくること、更に力を付けることが予想されている家でもある。その一族との縁はグラウ家にとっても有り難い話のようで、ノックスは上手くいきすぎでは、と何度も言葉を漏らしていた。

 その日は、ノックスの仕事が早めに終わり、食事を早々に終えて二人で寛いでいた。俺は魔術書を読み、新しい恋人は隣で本を捲っている。付き合い始めてから、俺は彼へ、ぴたりとくっついている事が増えた。

 魔力相性が良すぎて、触れていると心地いいからなのだが、今日は何故か波がずっと荒ぶっていた。黙って本を読んでいるのに、波がずっと揺れ続けて落ち着かない。

 本人が黙りこくっているので何も聞けないでいたのだが、何かを我慢している様子に、話を聞いてみよう、という気になった。付き合う前、お互いに気持ちを明かさなかった所為で沼に填まったばかりだ。

 栞を挟んで本を閉じ、覆うように重ねた指に力を込める。

「なぁ、ノックス」

「なに? ラディ」

 顔を上げたノックスは、いつも通りに柔らかい笑みを浮かべていた。勘違いだっただろうか、と思いながらも口を開く。

「なんか、気持ちが上下してる、のを。我慢してるのか……? 魔力が変に動いてて、心配になっただけなんだけど」

 うっ、と口を噤んだ様子を見るに、心当たりはありそうだ。逃れようとした掌を掴んだまま、顔を近づけた。

「いや、気にしないで────」

「そうやって黙って我慢された所為で、愛人だなんだと訳の分からない事態になったんだぞ……! …………それに、隠し事は寂しいだろ。恋人、なのに」

 言い募る内にしょんぼりとしてしまって、顔を見られなくなってしまった。丸まった肩ごと、彼の腕の中に引き込まれる。

 頭を撫でる手は、ただ優しかった。

「ごめんね。でも、言えなかったのは、その……」

 ああ、だとか、うう、だとか、ノックスは伝える言葉に迷っている。俺が涙目のまま顔を上げると、僅かに視線を逸らされた。

「私は、君を………………。性的な目で、見ているよ」

「……はぁ」

「けど、君は、そんなこと考えたこともないだろうから。……伝わってしまってごめん。私のことは、気にしなくていいよ」

 考えたこともない、と彼は言うのだが、俺をなんだと思っているんだろうか。付き合い始めて同じ布団で寝ているのに、その先を考えない人などいるのだろうか。彼の中での俺の姿は、やけに神聖化されすぎているきらいがある。

 悪戯っこな兄貴分に身体を重ねるつもりなら、と褥で使える魔術も教わったばかりだ。いずれ、そうなるだろう、と。いずれ、そうしたい、と、俺も思っていた。

 唇を、彼の首筋に沿わせる。軽く触れて離れると、彼の身体がびくりと跳ねた。

「こういうこと、したくないのか?」

「したい。けど……」

「俺もあんたのこと、好きだ、って言っただろ。黙って我慢するのはやめろ。……俺はちゃんと、したい、んだから」

 魔力を込めた指先を、空中に滑らせる。音が外に漏れないようにする結界。それと、雄を受け入れるために身体を整える術式。後者は魔術師の中でも口伝え、そして秘められたまま受け継がれるものだ。

 術式が発動すると、腹の奥がむず痒い。

「この魔術さ。使った魔術師が身体を明け渡すと、とろとろに溶けて、突っ込む側はすごく気持ちいいんだって」

 ぽそぽそと、耳元で囁いた。ぶつん、と理性の糸が切れたのを耳にした気がする。ソファで押し倒してくる猛獣に、寝台がいい、と訴えるのが精一杯だった。









 抱え上げられ、二人で寝るために用意された寝台に落とされる。ぼすん、と寝台が沈んで、俺は腕で身を支えた。

 ノックスの目元は染まりきって、呼吸は荒い。丁寧に俺を扱おうとしているのだろうが、あの震える指では難しそうだ。

「俺、脱ごうか?」

「君に任せたら、一気に全裸になる気がする」

「え、……っと、そういうのはだめなのか?」

 服に掛けた指を解かれる。傾いた顔に合わせて瞳を閉じた。柔らかく唇が触れる。ぺろ、と舐められた舌に合わせて、口を開いた。

 ねっとりと厚い舌が絡みつき、呼吸が苦しい。追い縋る舌から逃れつつ、必死で呼吸をする。覆い被さる身体を受け止めながら、望まれるままに舌を絡めた。

「……ンっ、く、ふ。……ん、ぁ…………」

 ちゅく、ちゅく、と立つ音が耳から溢れる。口の中をすべて味わい尽くして、目の前の男はようやく唇を離した。

 粘膜越しに触れた部分から、まだびりびりとした名残がある。唇に指を当てると、腫れぼったくなっていた。

「ラディ。服は、私に任せてくれるかな?」

 こくん、と頷く。

 大きな手が服に掛かり、服の釦を外しはじめた。ぷつり、ぷつりと穴から釦が抜けていく。胸元が大きく開いて、下から生白い皮膚が覗いた。

 目の前にいる男の喉が動いた。

「う……ァ」

 ノックスは頭を傾けると、首筋に吸い付く。薄い皮膚を吸われ、じんじんとした痺れが残った。

 残っていた釦も外され、服の前が全部開く。人差し指が胸の中心に当たり、そこから、つつ、と滑り降りる。

「あ……」

 腰を抱かれ、身体を持ち上げられる。下りてきた顔が、胸の尖りを捕らえた。色の薄いそこを口の中に入れ、舌が粒を弄ぶ。

 反対側の先端も空いた指に捕らえられ、ころころと転がされる。

「…………ン。……ぅ、あ……ふ」

 じわじわと高められていく見知らぬ感覚に、呼吸を乱す。胸元にしゃぶりつく男の頭を抱え、歯を当て、ぢゅうぢゅうと吸われる感触に身悶えた。

 こんなに吸ったら、形が変わってしまうんじゃないだろうか。口を離した瞬間に見た胸の先は、唾液を纏っていやらしく色を変えていた。

「へんたい……」

 呟くと、窘めるようにまた吸い付かれた。じたばたと暴れて、頭を引き剥がす。

 ノックスは懲りていないようで、自らの手で変化した乳首をぴん、と弾く。それを機に視線が逸れ、彼の手は寝台の横にある小机の引き出しを開けた。

 装飾の施された瓶は、少しでもぶつければ割れてしまいそうなほど繊細な細工だ。彼は蓋を開けると、俺を見下ろした。

「下の服を脱いで。中身を全部みせてくれる?」

「なッ……!」

 ぱくぱくと口を開けては閉じる。咄嗟に文句が口を衝いて出ようとしたが、身体を重ねるためには、恥ずかしい場所も晒さなくてはならない。

 下唇を噛んで、服に手を掛けた。指先を引っ掛け、下着ごと脱ぎ落とす。下の毛の色も頭髪と同じように薄く、茂みのなかで反応を示している自身が透けて見えた。

 寝台に生のままの尻をつけ、脚から服を引き抜く。俺が必死にそうしている様に、ノックスは意味ありげな視線を送っていた。

 瓶が股の上で傾けられ、中身がとろりと毛に纏わり付く。

「なん、か……。きもちわるい」

「素直じゃないなぁ」

 垂れた液体が、半身まで染み付く。彼は色を変えた部分を見下ろすと、瓶の蓋を閉じ、小机の上に置いた。

 濡れた部分からシーツにまでぽたぽたと染みが垂れる。拭いたいのに動けずにいると、自分のものではない指が股の間に伸びた。

 指が茎へと引っかかり、液体ごと塗り広げる。大きさの違う手は、びくびくと反応を示す物を擦り上げた。

「わ。……ア、……ひっ、ン……ぁあ、あ」

 皮膚の感触は自分の物とは違っていた。節くれ立った指先が、器用に絡んでは熱を育てる。側面を擦り、指の腹が先端を抉る。

「暴れると、怪我をするよ」

 荒れた息の合間に、粘度の高い液体がこすれる音が聞こえる。苛められた場所は、赤みを増して、腫れるように膨らんでいく。

 そのまま放出へと導かれると思っていたが、中途半端なところで指は止まった。肩を押し倒され、背をシーツへと埋める。

 顔を上げる前に、足首が掴まれて左右に開かれた。

「あぁ、可愛い処だ」

「や、……ッだ……!」

 恥ずかしさに、ぼっと頬が染まる。脚をばたつかせても力の差は歴然としていて、先ほど指で弄られた場所も、その後ろの窪みまで視線の下に晒された。

 羞恥にひくつく様まで間近で見られ、ちゅ、と持ち上がった分身の側面にキスをされた。

「沢山塗ったから、後ろまで液体が伝ってる。もうぐちゃぐちゃになって、すぐ指が挿入りそうだよ」

「や、さわるな……ァ!」

 言った途端、太い指先がぬぷりと埋まった。魔術で整えられた場所は、多少荒く扱っても傷付かない。それを知ってか知らずか、ぬめりを借り、指はずぷずぷと奥へ進んでいった。

「上手だよ」

「……うァ。……ぁ、ア」

 慣れない感触に堪えていると、指先がぴたぴたと身体の内側を触れていく。明らかに意図をもった動きだが、何をしたいのかが分からない。

 されるがまま、からだを委ねていると、深く沈んだ指先がその場所を押した。

「────っ、ひ!」

 表面を撫でるのではなく、もっと快楽を拾える場所を、指先に知られてしまった。奥から湧き上がるような快楽が、指で触れられるたびに、ずくん、ずくん、と長くひびく。

 後腔は刺激を得る度、長い指を食む。引き絞ったのをいいことに内壁を掻き分けられ、見つけた場所を使われた。

「ァ、……ぁっ。……ひ、く。……ぅう……」

「この動き、わかる?」

 言葉と共に、指先が前後にうごく。突き入るような動きは、これからの交わりを思い起こさせるものだった。

 ひっ、と喉が鳴り、きゅうと指を締め付ける。返ってきた反応に、ノックスは唇をわざとらしく持ち上げた。

「ぁ、……あ、ヒッ、ン、ぁあン!」

 脚をひらかれたまま、ぐぷ、ずぷ、と指が出入りする。暴れることを封じられたまま、肉棒を呑み込めるよう準備を整えられた。

 一番奥まで指を差し込むと、くい、と前へ持ち上げる。上手く息ができずに、喉を開けて必死で呼吸をした。

「指だけでひいひい言ってたら、ものが這入ったらどうなるんだろうね」

 ずっ、と指が勢いよく引き抜かれた。栓を抜かれた洞は、余韻に口を開閉させている。

 ぱさり、と服が脱ぎ落とされる音がした。盛り上がった胸元には汗が浮いていて、動く度に筋肉が撓る。次に、彼は下の服へと手を掛けた。躊躇いなく引きずり下ろすと、盛り上がっていた股間の一物がぶるりと震えながら顔を出す。

 茂みはもう肉砲を隠しきれず、先端は涎に濡れていた。色味の違うものが、腫れた肉輪に吸い付く。一度、二度。くっついては離れる度、ぷちゅ、くちゅ、と淫らに接吻をした。

 三度目の吸い付きで、縁がめくれ上がった。ゆるりと突き入れられる度に、男根のかたちへと可哀想なほど拡がって順応する。ずっ、ずっ、と太いものが奥へと進む度に、あの場所を思い出す。

 怯えに腰が引いた。首を横に振って、無理だと伝える。だが、男の腕は両腕でがっしりと腰を掴んだ。

「…………ごめんね」

 どちゅ、と一突きで距離を詰められた。

「────え? あ……」

 繋がった部分を見下ろす。埋まっていなかった部分が、一気に腹に埋まっていた。一拍遅れて、全身を快楽が駆け巡る。

「ぁ、ひ。────ぁ、ぁああぁあァッ!」

 指よりも広い範囲をまとめて抉られた。突き入った雄からはだらだらと精が漏れ、弱点へ染みこませるように塗り広げる。

 動揺して脚を動かすと、長い腕が伸びてその場に縫い止める。雄は俺の行動を窘めるように、その場所に狙いを定め、小刻みに腰を揺らした。

「ァ────!」

 深い快楽を、上手いこと長引かせられる。突き入れられたときの強烈な刺激とは違う、快楽の原点を押さえ込まれ、調整した上で絶頂が引き延ばされる。欲を吐き出すことは許されず、ぴったりと腰を押し付けたまま体重が掛かった。

 我に返ったときに聞こえてきたのは、自分の啜り泣きに近い声だ。ひくひくと喉を揺らし、ただひたすらに許しを請う。男が愉しんでいる間、自分に絶頂は与えられなかった。

「ここ、気持ちいいんだね。ずっと……びくびく、って、うねってる」

「……ひ、っ、う、っぐ。……ヤ、──も、やだ」

 ふ、と目の前の男が嗤った。ずるずると砲身が引き抜かれ、ちゅぷん、と久しぶりに後ろの孔が閉じた。

 彼は俺の腰を持ち上げると、脚を横に開く。腰が浮いた体勢に戸惑っている間に、無防備な窪みへと、まだ膨れ続ける欲望を押し当てた。

 ずぶずぶと一度その味を知った内壁は、悦んで男を受け入れた。上から体重を掛けられ、弱点だった場所を先端が通り過ぎる。指では届かなかった場所。さっきは見えていた肉棒が、ほとんど腹に埋まりきろうとした頃、男の亀頭がぐぷんとその場所を潜った。

 押し上げるはずのない場所に、他人の生殖器がぐっぽりと填まり込んだ。

「……っ、は。……ぁ、私も、気持ちい……なぁ……」

「────ッ! ──────!」

 開いた喉から、声にならない絶叫が迸った。見開いた目が乾いて痛い。串刺しにされた身体は動かず、押し当てられる快楽をただ受け止めることしか許されなかった。小刻みに揺らされ、いつの間にか俺の前はびっしょりと濡れていた。

 腹を押し上げる質量は、魔術で守っていても尚、暴力的なほどの欲を叩きつける。

「……ゃ、いきた、い。……も、終わらせ、ァ。……ぁああぁあッ!」

「仕方ないなぁ……」

 腰が浮き上がり、填まっていた場所から膨らみが抜け出る。解放されたというのに、胸はざわざわと騒いでいた。まだ彼の雄はかたい。みちみちと弾けんばかりに子種の詰まった袋は、腹の奥に白濁を届かせようと脈打っている。

 瘤だけを中に残して、てらてらと濡れ光る側面が股の間から姿を現す。捲れ上がった肉輪は伸びきり、みちみちと屹立に絡みついていた。

 脚を抱き直され、体勢を正される。余計なことを言った、と認識した俺が止めに入る前に、抽送が始まった。

 最初から、容赦なく大振りに突き上げられる。

「ぅ、あぁ……! あ。ぁン、あッ、ふ、……くぁ、ン、ぁああ────!」

 突き上げの度に教え込まれた場処を抉られ、男の形を覚え込まされる。ぐちゅぐちゅと撹拌する水音が大きくなった。だらだらと鈴口から液体を垂らし、味を知らない腔内へと塗り込めていく。

 繋がった場所から魔力が流れ込む。波が混ざって、彼の魔力が内側から身体を侵す。

「ン、っう……。ア、ァ、……ひ、ン────! あ、ぁあ、あ、ア!」

 揺れる袋が尻たぶを叩き、余すことなく彼自身を呑み込ませる。ぱん、ぱん、と滑らかな抽送を繰り返される度に、真っ白い腹がうねった。

 脚からは力が抜け、支える男の腕次第だ。喰らい締めた肉根がびくん、と脈動する。はやく中身を吐き出してほしい。つま先を伸ばし、男の身体を蹴った。ノックスは眉を上げ、収めていた刃をぎりぎりまで引き抜く。

「ふ……。魔術師は、吐精される時、が……気持ちいいんだってね」

「な、ん……」

 なんで、という言葉すら成立しなくなっていた。

「……本当か。試して、みよう…………?」

 ずるる、と引き抜かれた一物がまた狭道を駆け上がっていく。奥までは一瞬で、男の形を知っている場所は、容易く膨れた塊を受け容れた。

 体積が膨らんだのか、魔力の膨張を感じ取ったのか。掻き混ぜられた頭では何も分からなかった。

 膨らんだなにかから、びゅう、と腹の奥に勢いよく叩きつけられる。

「──ぁ、ア。……ンっ、ぁひ、あ。────ぁぁあああああぁアァッ!」

 奥を叩く波が、全身を揺さぶった。体感している刺激と、魔力の波が引き起こす刺激と、境が分からなくなったまま身体に襲いかかる。

 のし掛かった身体は重たく、執拗なほどぴったりとくっつけたまま離れない。藻掻いても叶わない時間は、ひたすらに長かった。

 ひぐ、と濁った音で啜り泣く。

「……や、も。……きもちい────ヤだぁ…………」

 はなして、と泣いても、男は上から退かない。男根が柔らかくなって、彼が満足してようやく、身体の中から出ていった。

 手を伸ばし、ぱくぱくと痙攣している場所を隠そうとする。だが、ノックスはあっさりと俺の手を持ち上げると、絶頂の余韻に震えている処をまじまじと観察した。

 愛人の提案をした時、俺の動揺を面白がっていたあたり、この男は意地が悪い。身体としては丁寧に扱われ、気持ちがいいだけ、なのが質が悪かった。

 それなのに、また誘われたら、俺はこの快楽を思い出して唾を飲むのだろう。魔術をぶつけてもいい筈なのに、それを選ばなかったのは俺自身だ。

「ラディ」

「…………なに」

 ノックスの手は、自身の屹立を扱き上げる。むくりと起き上がろうとしているものに、ひっと喉をひくつかせてシーツを掻いた。

 近づいてくる身体を軽く蹴る。だが、身体ごと反転させられ、寝台に押し付けられた。盛り上がった尻の肉を押しつぶすように、谷間にまだ柔らかい雄が挟み込まれる。

「もう一回しようね」

「やだよ! ……ふざけるな。やめ…………!」

 やがて芯を取り戻した肉棒は、柔らかくなった孔へと舞い戻る。やけに体力のあるノックスに一晩中振り回され、掠れた声で放つ暴言はろくな言葉にならなかった。










 目を覚ますと、窓の外では鳥がぴいちくぱあちくと鳴いていた。

 うるさい、ともぞもぞ布団へと戻る。肌に触れる布はすべて新しいものへと取り替えられ、あんなに染み付いていたはずの淫臭はさっぱりと拭い去られていた。

 胸元に触れて、服を着ていることに安堵する。ノックスがいないのは寂しいが、二度寝に足るほど眠たかった。

「きらい……」

 がらがらの声で恋人への文句を吐く。

 まだ足腰が掴まれているような感覚が残っている。初心者に対して、ひどい仕打ちだ。外見は柔らかそうな見た目をしている癖に、所業が猛獣だった。

 俺が眠りに落ちかけた時、部屋の扉が開いた。開いた扉の先から、水差しとグラスを持ったノックスが入ってくる。

 からからの喉を自覚して、水を寄越せ、という気持ちを込めて起き上がる。

「飲む?」

「のむ」

 水の入ったグラスが差し出され、こくこくと一気に飲み干す。グラスを突き出すと、使用人よろしく水を注いでくれた。冷えた水が滑り落ちるのが心地よかった。

 必死で水を飲む俺を、にこにこと見つめる視線がある。視線が合うと、ぼっと頬が熱くなった。

 慌ててグラスを返し、布団に潜り込む。

「あれ……? ラディ。どうしたの?」

「………………」

 身体の隅々まで見られた相手が、目の前にいる。あまりにも恥ずかしい。

 そもそも急に抱くとか言うものだから、何の用意もしていなかった。もうちょっと予告してくれていたら最高の身体に磨き上げられたのに。俺が布団の端を掴んでいると、上から両手で剥がされた。

 起き上がり、顔を隠すためのそれを取り戻そうと手を伸ばす。伸ばした手は、布団を放り投げたノックスの手に捕まった。

「恥ずかしがっているの?」

「な……!」

 言葉にならない俺の態度に、予想が合っていることが分かったらしい。くすくすと笑って、寝台に乗り上がってきたノックスに抱き込まれた。

「かわいいなぁ。私の愛しい人」

「………………」

 彼が言う全力の求愛は、心臓に悪かった。ぎゅうぎゅうと押しつぶされるようになって、どこどこと跳ね回って煩い。でも、やっぱり愛人でも良かったとは言えなくなっていた。

 相手の背に手を回す。この位置をひとり占めできるのが、恋人の特権だ。





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