きさらぎ駅

水野華奈

文字の大きさ
104 / 108
記憶~駅編~

しおりを挟む


「此処にいる皆さ、生きることに飽き飽きして噂に惑わされて信じた挙げ句に此処にいるんだ」




あはははははと少年は高らかに笑う。

この少年もそういう理由でここにいるのだろう。




「それなのに”還りたい”んだって。どうかしてると思わない?」





楽しそうに。





「皆向こうを嫌がって噂を信じたから此処にいるのに、此処に来たら”還りたい”だなんて我が儘だよね」





クスクスと………。


少年の笑い声だけが響いた。
まるで自分はそうじゃないとでも言いたげだ。


しんっと静まり返ってしまった周囲。


それらは一様に”神隠し”の成れの果てが来たという。


バッと振り返れば目をくり抜かれた少年がべっとり私の背後の窓に張り付いていた。



口をつり上げてニタニタと笑いながらその空洞の瞳で私を見据えてる。




「──────っ!!!いやぁ!!!!!」





悲鳴と共に少年の笑い声がピタリと止まる。


電車は止まったきり、進むことなくただ戸を開けはなってる。

今にでも入ってきそうで、心臓がどくどくと音を立てながら私を追いつめる。




「僕……痛かったんだ」



ニタニタ笑いながら少年は窓から手を離して自身の目をソッと覆う。



「痛かったんだ」



もう一度呟かれたそれに一体どんな感情が入り交じっていたのかわからない。



私は少年が怖かった。



そんな”痛かった”と繰り返しながらも少年は微笑んでいたから。



シンッとした中、その少年の声はやけに響いた。




「ねぇ、君は還るんだよね?」




少年は私の答えを待たずして一言私に呟いた。




「君はもう感染者だ」




と。


その空洞の瞳から目を逸らせずに、私は少年の眼球のないその穴を見つめていた。


歪められた口元からは始終止む事なく漏れる笑い声。


自然と早くなる自身の呼吸。


激しく高鳴る心臓の音は、やけにリアルに耳についた。





「感染者だ……感染者だ…感染者だ…感染者だ…感染者だ感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者あははは…はははははははははは」






「いやぁ!!嫌、もう嫌、お父さん!!!!」




げらげらと少年は怖がり丸くなる私を見て楽しそうに笑う。


咄嗟に助けを求めたのは父だった。



「きさらぎに感染したんだから君は鬼の子だね」


クスクスと嘲笑うかのように笑う少年に、浮かび上がるのは刹那な絶望。


信じたらそれはもう感染。


私は偶然にも知ってしまった、体験してしまった、見てしまった。


今更なかったことにはできない。



”感染者”の文字が頭を巡る。



嫌だ。

そんなの───────。



こんな目の前の得体の知らないナニカになりたくない。




「嫌だ…やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ……」




自然と流れ出す涙は恐怖によるモノか絶望によるモノか。


果たして何に対する涙なのか私にはもはやわからなかった。


目の前の空洞の瞳を向けて、高笑いするその少年を私はうっすら微笑みながらそんな事をぶつぶつと呟いていた気がする。



周りのモノ達がクスクスと笑いドロリと蠢くのさえ視界に入りながらも私は気にも止めなかった。


少年のくり貫かれたような瞳から目を離せず、私はその少年の高笑いを耳に刻みながら意識を飛ばした。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/2/24:『ぬかるみ』の章を追加。2026/3/3の朝頃より公開開始予定。 2026/2/23:『かぜ』の章を追加。2026/3/2の朝頃より公開開始予定。 2026/2/22:『まどのそと』の章を追加。2026/3/1の朝頃より公開開始予定。 2026/2/21:『おとどけもの』の章を追加。2026/2/28の朝頃より公開開始予定。 2026/2/20:『くりかえし』の章を追加。2026/2/27の朝頃より公開開始予定。 2026/2/19:『おとしもの』の章を追加。2026/2/26の朝頃より公開開始予定。 2026/2/18:『ひざ』の章を追加。2026/2/25の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。 意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。 隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。

処理中です...