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記憶~駅編~
七
しおりを挟む「此処にいる皆さ、生きることに飽き飽きして噂に惑わされて信じた挙げ句に此処にいるんだ」
あはははははと少年は高らかに笑う。
この少年もそういう理由でここにいるのだろう。
「それなのに”還りたい”んだって。どうかしてると思わない?」
楽しそうに。
「皆向こうを嫌がって噂を信じたから此処にいるのに、此処に来たら”還りたい”だなんて我が儘だよね」
クスクスと………。
少年の笑い声だけが響いた。
まるで自分はそうじゃないとでも言いたげだ。
しんっと静まり返ってしまった周囲。
それらは一様に”神隠し”の成れの果てが来たという。
バッと振り返れば目をくり抜かれた少年がべっとり私の背後の窓に張り付いていた。
口をつり上げてニタニタと笑いながらその空洞の瞳で私を見据えてる。
「──────っ!!!いやぁ!!!!!」
悲鳴と共に少年の笑い声がピタリと止まる。
電車は止まったきり、進むことなくただ戸を開けはなってる。
今にでも入ってきそうで、心臓がどくどくと音を立てながら私を追いつめる。
「僕……痛かったんだ」
ニタニタ笑いながら少年は窓から手を離して自身の目をソッと覆う。
「痛かったんだ」
もう一度呟かれたそれに一体どんな感情が入り交じっていたのかわからない。
私は少年が怖かった。
そんな”痛かった”と繰り返しながらも少年は微笑んでいたから。
シンッとした中、その少年の声はやけに響いた。
「ねぇ、君は還るんだよね?」
少年は私の答えを待たずして一言私に呟いた。
「君はもう感染者だ」
と。
その空洞の瞳から目を逸らせずに、私は少年の眼球のないその穴を見つめていた。
歪められた口元からは始終止む事なく漏れる笑い声。
自然と早くなる自身の呼吸。
激しく高鳴る心臓の音は、やけにリアルに耳についた。
「感染者だ……感染者だ…感染者だ…感染者だ…感染者だ感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者感染者あははは…はははははははははは」
「いやぁ!!嫌、もう嫌、お父さん!!!!」
げらげらと少年は怖がり丸くなる私を見て楽しそうに笑う。
咄嗟に助けを求めたのは父だった。
「きさらぎに感染したんだから君は鬼の子だね」
クスクスと嘲笑うかのように笑う少年に、浮かび上がるのは刹那な絶望。
信じたらそれはもう感染。
私は偶然にも知ってしまった、体験してしまった、見てしまった。
今更なかったことにはできない。
”感染者”の文字が頭を巡る。
嫌だ。
そんなの───────。
こんな目の前の得体の知らないナニカになりたくない。
「嫌だ…やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ……」
自然と流れ出す涙は恐怖によるモノか絶望によるモノか。
果たして何に対する涙なのか私にはもはやわからなかった。
目の前の空洞の瞳を向けて、高笑いするその少年を私はうっすら微笑みながらそんな事をぶつぶつと呟いていた気がする。
周りのモノ達がクスクスと笑いドロリと蠢くのさえ視界に入りながらも私は気にも止めなかった。
少年のくり貫かれたような瞳から目を離せず、私はその少年の高笑いを耳に刻みながら意識を飛ばした。
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