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記憶~駅編~
八
しおりを挟む気付いたら見知った駅だった。
目を覚まして、それに気付いて降りた時、私は異次元駅での記憶は全くなかった。
そこだけ上手く切り抜かれたかのように、そして上手く繋ぎ合わせたかのようにして私は八歳前日に、友達の家に向かう途中であるのだと何故か鮮明に理解していた。
でも買ったはずの切符も、持っていたはずのバックもなく、ただ手ぶらで改札の前に立ち尽くしたのを覚えてる。
一駅分しか寝てないのに、やけに頭がぼんやりしていて、財布もなく切符も無く、泣きそうな思いで駅員に声をかけたのだ。
「…………すみません」
怖ず怖ずと声をかければ、人の良さそうな駅員が笑顔でどうしたの?と問うて来てくれる。
だがすぐに訝しげに顔を傾げて、そして視線をある方向へ動かす。
それに私も習ってフッと視線を駅員の向けてる方へ動かした。
「─────君…沙耶ちゃん?!」
駅員が問うと同時に目を見開いた。
駅員室に貼られた尋ね人。
それは恐らく改札を通るだろう人々にも、そして駅員達にもすぐに目に付くところに貼られていた。
そこに貼られてる写真はまさしく私本人だったのだ。
「沙耶ちゃん…だよね?」
確認するような問いかけ。
書いてある服装から髪形から全て一致してる今の私の姿。
そして─────
私の写真。
その上には大きな文字で尋ね人と、確かにそう書かれてる。
否定も公定もせぬまま、駅員はすぐに同僚達へと話を通し立ち尽くす私を駅員室へと通した。
大人のそんな慌ただしい対応に、何故か泣けてきた。
不安を煽られるかのように何処にいたのか問われる。
電車の中にいたと言っても大人達は何度も何度も同じ質問を繰り返す。
それは警察が来ても同じで、私はその後姿を現した母親に抱き付いて泣いた。
「もう大丈夫、恐くないよ。無事で良かった」
そう私の頭を撫でる母親に、私は更に泣いた。
それは安心したからとかじゃなく、大人達の剣幕が怖かったからだ。
私はずっと電車の中にいた。
それは私の中で事実なのに、それはあり得ないと否定され本当のことを言いなさいと促される。
それを母親とも繰り返し、訳も分からないまま返された。
「無事で良かった」
そう何度も言われて。
「誕生日会は?」
「あの娘も心配してるわよ、今年も同じクラスだから学校行ったら話しておきなさいね」
「…………………」
答えになってないよ……。
理不尽な思いを抱えながらも、私は黙った。
翌日には新聞にも載っていて、私は病院にも連れて行かれた。
記憶ははっきりしてるのに、何故か抜け落ちてる一年の記憶。
医者は首を傾げながらもこう告げた。
「余程怖い思いをしたんでしょう」
「…………………」
私的には置かれてる現状の方が恐かった─────。
そんな私を一部はこう囁いたのだ。
「まるで”神隠し”にあったみたいね」
と。
私はその後、戸惑いを抱えつつも一年の穴を必死で埋めた。
忘れようと違和感をぬぐい去りながら………。
でも周りの友達はそれを許さなかった。
消えた私は成長せぬままの姿で帰ってきたのだ。
身長から体重まで全く変わらず……。
気味悪がられ仲間外れ。
それを悲しいとも悔しいとも思わず、ただ受け入れた。
自分自身…気持ち悪かったから。
学生時代そんな風過ごして、気付けば社会人。
極普通の中小企業のOL。
そこで出会ったのが香織だった……。
「香織は私の唯一の友達なの……助けたい。一緒に此処を出たい」
力なく呟いた私。
記憶を失った原因は恐らくかんせん駅で出会った少年のせいだろう。
「匠……ごめん、ごめんね巻き込んで」
感染者は此処に還る。
私は怪異に感染していた。
此処に来る運命だった。
匠を巻き込んだそれに、謝罪の言葉しか出てこなかった。
「沙耶、謝らないでって言ったよね。電車に乗ったのも降りたのも自分の意志だ…沙耶は関係ないよ」
くすりと私を励ますようなおちゃらける口調で話す匠。
「今度は一人じゃない、香織ちゃんも俺もいる。三人で帰ろう?ね?」
頭を撫でられたその温もりに、一筋涙を流して匠の胸に顔を埋める。
「ありがとう…」
小さく呟いた言葉が匠に聞こえたか知らない。
それは余りにも小さくて、余りにも掠れてたから───。
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