きさらぎ駅

水野華奈

文字の大きさ
105 / 108
記憶~駅編~

しおりを挟む


気付いたら見知った駅だった。



目を覚まして、それに気付いて降りた時、私は異次元駅での記憶は全くなかった。



そこだけ上手く切り抜かれたかのように、そして上手く繋ぎ合わせたかのようにして私は八歳前日に、友達の家に向かう途中であるのだと何故か鮮明に理解していた。


でも買ったはずの切符も、持っていたはずのバックもなく、ただ手ぶらで改札の前に立ち尽くしたのを覚えてる。



一駅分しか寝てないのに、やけに頭がぼんやりしていて、財布もなく切符も無く、泣きそうな思いで駅員に声をかけたのだ。




「…………すみません」




怖ず怖ずと声をかければ、人の良さそうな駅員が笑顔でどうしたの?と問うて来てくれる。


だがすぐに訝しげに顔を傾げて、そして視線をある方向へ動かす。


それに私も習ってフッと視線を駅員の向けてる方へ動かした。





「─────君…沙耶ちゃん?!」





駅員が問うと同時に目を見開いた。


駅員室に貼られた尋ね人。


それは恐らく改札を通るだろう人々にも、そして駅員達にもすぐに目に付くところに貼られていた。


そこに貼られてる写真はまさしく私本人だったのだ。




「沙耶ちゃん…だよね?」




確認するような問いかけ。


書いてある服装から髪形から全て一致してる今の私の姿。

そして─────

私の写真。

その上には大きな文字で尋ね人と、確かにそう書かれてる。



否定も公定もせぬまま、駅員はすぐに同僚達へと話を通し立ち尽くす私を駅員室へと通した。


大人のそんな慌ただしい対応に、何故か泣けてきた。


不安を煽られるかのように何処にいたのか問われる。


電車の中にいたと言っても大人達は何度も何度も同じ質問を繰り返す。


それは警察が来ても同じで、私はその後姿を現した母親に抱き付いて泣いた。




「もう大丈夫、恐くないよ。無事で良かった」




そう私の頭を撫でる母親に、私は更に泣いた。


それは安心したからとかじゃなく、大人達の剣幕が怖かったからだ。


私はずっと電車の中にいた。


それは私の中で事実なのに、それはあり得ないと否定され本当のことを言いなさいと促される。


それを母親とも繰り返し、訳も分からないまま返された。




「無事で良かった」




そう何度も言われて。




「誕生日会は?」


「あの娘も心配してるわよ、今年も同じクラスだから学校行ったら話しておきなさいね」


「…………………」




答えになってないよ……。


理不尽な思いを抱えながらも、私は黙った。


翌日には新聞にも載っていて、私は病院にも連れて行かれた。


記憶ははっきりしてるのに、何故か抜け落ちてる一年の記憶。


医者は首を傾げながらもこう告げた。




「余程怖い思いをしたんでしょう」


「…………………」




私的には置かれてる現状の方が恐かった─────。



そんな私を一部はこう囁いたのだ。



「まるで”神隠し”にあったみたいね」



と。


私はその後、戸惑いを抱えつつも一年の穴を必死で埋めた。


忘れようと違和感をぬぐい去りながら………。


でも周りの友達はそれを許さなかった。


消えた私は成長せぬままの姿で帰ってきたのだ。


身長から体重まで全く変わらず……。


気味悪がられ仲間外れ。


それを悲しいとも悔しいとも思わず、ただ受け入れた。



自分自身…気持ち悪かったから。

学生時代そんな風過ごして、気付けば社会人。


極普通の中小企業のOL。


そこで出会ったのが香織だった……。




「香織は私の唯一の友達なの……助けたい。一緒に此処を出たい」



力なく呟いた私。

記憶を失った原因は恐らくかんせん駅で出会った少年のせいだろう。




「匠……ごめん、ごめんね巻き込んで」




感染者は此処に還る。


私は怪異に感染していた。


此処に来る運命だった。


匠を巻き込んだそれに、謝罪の言葉しか出てこなかった。




「沙耶、謝らないでって言ったよね。電車に乗ったのも降りたのも自分の意志だ…沙耶は関係ないよ」




くすりと私を励ますようなおちゃらける口調で話す匠。




「今度は一人じゃない、香織ちゃんも俺もいる。三人で帰ろう?ね?」




頭を撫でられたその温もりに、一筋涙を流して匠の胸に顔を埋める。




「ありがとう…」




小さく呟いた言葉が匠に聞こえたか知らない。

それは余りにも小さくて、余りにも掠れてたから───。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/2/24:『ぬかるみ』の章を追加。2026/3/3の朝頃より公開開始予定。 2026/2/23:『かぜ』の章を追加。2026/3/2の朝頃より公開開始予定。 2026/2/22:『まどのそと』の章を追加。2026/3/1の朝頃より公開開始予定。 2026/2/21:『おとどけもの』の章を追加。2026/2/28の朝頃より公開開始予定。 2026/2/20:『くりかえし』の章を追加。2026/2/27の朝頃より公開開始予定。 2026/2/19:『おとしもの』の章を追加。2026/2/26の朝頃より公開開始予定。 2026/2/18:『ひざ』の章を追加。2026/2/25の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。 意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。 隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。

処理中です...