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記憶~駅編~
九
しおりを挟む私の胸を支配するのは恐怖、それと罪悪感……。
不安も入り交じったとても心地のいいものじゃなくて、私は目をつぶり一人その思いを胸に強く強く奥歯をかみしめた。
匠にいくら謝っても彼は同じ言葉を繰り返すだろう。
それに甘え、何事もなかったかのように振る舞うのは容易い。
でも私が呼ばれてるのは事実なのだ。
きさらぎの鬼が求めてるのは私──────。
匠でも香織でもない。
だから…そう。
私一人がきさらぎに行けばもしかしたら匠と香織は無事に帰してくれるかも知れない。
私一人、祭りに参加すればいい。
それは自ずと喰われるという事になるけど、二人を無事に帰らせられるならそれも悪くないかも知れないと……そう思う。
ねぇ、匠。
ごめん。
本当にごめんね……。
私がこんなこと考えてるなんて恐らく匠は思ってもないだろう。
その優しい手付きは私を宥めるためのものだった。
咎めるための手付きじゃなかった。
馬鹿なことやめろと、匠なら恐らくそんな風に言って聞かせるんだろう……。
頭の片隅でそんな事を思いながら、私は匠の胸に顔を埋めて微かにフッと笑みを浮かべたのだった。
この時は知らなかったの。
ごめん。
私が感染したのはきさらぎだけじゃない。
それだけじゃなかったんだ。
この時の私は香織…匠……あなた達を守れると本気で思った。
本気で願った。
私は──────
無力だ。
人が創り出したはずの”それ”は、個人の願いなんて儚く飲み込んでしまうほどの大きなモノだった。
ごめん。
ごめん。
ごめんね。
ここに来て何度思ったことだろう言葉。
それを強く強く思ったのは、最期でのことだった。
まだ恐怖は始まったばかり─────。
序章にもならないような始まりにすぎなかった。
私も匠も知らない。
香織や父親ですら知り得ない。
まだ始まり。
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