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”さんず”から”やみ”へ
二
しおりを挟む私が思い出したのはさんずに関してだけ。
後は全くわからない。
この後どこに行くのかすらも不明だ。
『ザザッ…次は………………』
突然のアナウンスに二人同時にピクリと飛び跳ねた。
互いに顔を見合わせて、手を堅く握り締める。
『やみ。やみ。お降りの際は足元にお気をつけください』
普通のようなアナウンス。
だけど”やみ”は香織が言っていた地名だ。
やみ駅なんてものもあるのなら、”やみ”で降りるべきだと私は思う。
「匠────やみって……」
「うん。わかってる、香織ちゃんが言ってた地名だ」
互いに強ばる表情。
それを確認してコクリと頷く。
恐らく、考えてることは同じ。
きさらぎ駅まで行かなくてもいい。
香織が言っていた地名の駅がある。
それだけで降りる価値はあるのだから。
ゆらりと座席から立ち上がる私と匠。
アナウンスが始まってから辺りは美しい草原から闇一色へと変化した。
トンネル内だと錯覚してしまうような深い闇。
まるで黒の絵の具で世界を埋め尽くしてしまったみたいな闇の世界。
唯一の光は電車だった。
降りるにはかなりの勇気がいる。
っていうか……光がない中で無闇に歩き回るのかと思うとゾッとした。
向こうには見えていて此方には見えていない恐怖。
知らず知らずの間に相手は薄笑いを浮かべて目と鼻の先にいるかも知れないのだ。
もしかしたら私達が知らないだけですでに闇から此方を伺っているかも知れない。
でも──────
この闇の中にきっと香織は居るはずなのだ。
『お降りの際はお気をつけください。此方からお乗りにはなれません』
えっ?
「匠……」
「うん、降りたら此処からじゃ乗れない」
さんずと同じ条件。
降りたら帰れない。
『尚~、この電車は最終きさらぎに向かいます』
何度も出てきた”きさらぎ”。
それが最終。
やはり香織がいた此処で降りるべきだ。
それか……きさらぎで降りてトンネルをくぐるか。
残された選択肢は二つ。
「匠…降りよう」
灯りは携帯がある。
問題ない。
トンッと軽やかに降りた私。
その後をなんの躊躇もなく降りてくる匠。
「携帯の灯りは一人ずつ使おう」
「私が最初に使うよ!」
名乗り出たら、匠は少し考えるそぶりを見せる。
「どうしたの?」
「沙耶の携帯は香織ちゃんと連絡がとれるだろ?」
「……そうだけど」
匠の携帯だってはすみさんからの連絡が来るかも知れない。
それに────────
私の携帯はあれ以降鳴ってない。
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