きさらぎ駅

水野華奈

文字の大きさ
53 / 102
”さんず”から”やみ”へ

しおりを挟む




私が思い出したのはさんずに関してだけ。
後は全くわからない。


この後どこに行くのかすらも不明だ。





『ザザッ…次は………………』





突然のアナウンスに二人同時にピクリと飛び跳ねた。


互いに顔を見合わせて、手を堅く握り締める。





『やみ。やみ。お降りの際は足元にお気をつけください』




普通のようなアナウンス。

だけど”やみ”は香織が言っていた地名だ。


やみ駅なんてものもあるのなら、”やみ”で降りるべきだと私は思う。





「匠────やみって……」

「うん。わかってる、香織ちゃんが言ってた地名だ」





互いに強ばる表情。
それを確認してコクリと頷く。


恐らく、考えてることは同じ。


きさらぎ駅まで行かなくてもいい。




香織が言っていた地名の駅がある。
それだけで降りる価値はあるのだから。




ゆらりと座席から立ち上がる私と匠。


アナウンスが始まってから辺りは美しい草原から闇一色へと変化した。

トンネル内だと錯覚してしまうような深い闇。


まるで黒の絵の具で世界を埋め尽くしてしまったみたいな闇の世界。


唯一の光は電車だった。




降りるにはかなりの勇気がいる。




っていうか……光がない中で無闇に歩き回るのかと思うとゾッとした。

向こうには見えていて此方には見えていない恐怖。




知らず知らずの間に相手は薄笑いを浮かべて目と鼻の先にいるかも知れないのだ。


もしかしたら私達が知らないだけですでに闇から此方を伺っているかも知れない。





でも──────





この闇の中にきっと香織は居るはずなのだ。





『お降りの際はお気をつけください。此方からお乗りにはなれません』





えっ?


「匠……」

「うん、降りたら此処からじゃ乗れない」





さんずと同じ条件。

降りたら帰れない。





『尚~、この電車は最終きさらぎに向かいます』





何度も出てきた”きさらぎ”。
それが最終。


やはり香織がいた此処で降りるべきだ。





それか……きさらぎで降りてトンネルをくぐるか。
残された選択肢は二つ。





「匠…降りよう」





灯りは携帯がある。

問題ない。




トンッと軽やかに降りた私。
その後をなんの躊躇もなく降りてくる匠。





「携帯の灯りは一人ずつ使おう」

「私が最初に使うよ!」




名乗り出たら、匠は少し考えるそぶりを見せる。





「どうしたの?」

「沙耶の携帯は香織ちゃんと連絡がとれるだろ?」

「……そうだけど」





匠の携帯だってはすみさんからの連絡が来るかも知れない。



それに────────

私の携帯はあれ以降鳴ってない。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

処理中です...