バッドエンド回避のために結婚相手を探していたら、断罪した本人(お兄様)が求婚してきました

りつ

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21、過保護なお兄様

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「あー疲れたぁ……」

 馬車に乗り込んで椅子に座り込むなり、イザベルは盛大なため息をついた。

「イザベル。行儀が悪いぞ」
「いいじゃない。もうお兄様と二人きりなんだから。それに本当に疲れたの。お兄様がわたしを一人にしたせいよ」

 イザベルが軽く責めると、フェリクスは見るからに重い空気を纏って謝る。

「すまない。レーモン殿下だけでなく、アランやジルベールにも絡まれるとは思っていなかった。いや、やはりレーモンに任せるべきではなかったな。私の落ち度だ」

 あまりにも落ち込むので、イザベルは慌てて言い直す。

「もう、そんなに責めてないってば。国王陛下に話があると言われて断ることができないのはわたしにもわかるわ。レーモンの嫌味も、初めからある程度予想していたから大丈夫。それにアランやジルベールは意外と親切でまともな人だったわ。あ、でもジルベールの方はけっこう癖があるかも。というか腹黒?」

 なんにせよ、そこまで深刻にとらえる必要はない。

(発作も起きなかったし)

 レーモンと接していても以前のようにおかしくならなかった。兄と身体を繋げて、兄への想いがさらに深まったからだろう。

「わたしが好きなのはお兄様だって、あの三人にもしっかりと伝えることができたわ」

 だから安心して? とイザベルが微笑めば、フェリクスは腕を引っ張り、己の腕の中に抱きしめた。

「イザベル……ありがとう。お前がそんなに強いと、私は今の今まで知らなかった」
「強い、っていうか、図々しいというか、神経が図太いのだと思う」
「いいや、芯が強いんだ」

 素敵な言葉で言い換えてくれる兄にイザベルは頬が緩む。よしよしと背中を撫でてやれば、さらに抱擁が強まった。何だか甘えられているみたいで、愛おしさが募った。

(わたしはずっとお兄様に守られてきた。甘えさせてもらった。だからこれからは、わたしがお兄様を甘えさせたい)

「お兄様。今日も、お兄様と一緒に寝たいわ」

 我儘を言うように口にすると、兄は顔を見てきて、ああと言った。

「私も、今夜はお前を手放したくない」

     ◇

 王家の舞踏会に参加したことは、フェリクスに婚約者がおり、またその女性が長年一緒に暮らしてきた妹だということを大勢の人々に知らしめた。

 関心を持つなというのが難しい話なのか、ひっきりなしに夜会や茶会やらの招待状が届いている。

 イザベルは兄に任せられて、出席するかの有無の返事を書いていた。自分が判断していいのかと言ったが、兄は構わないと答えた。

「お前が行きたいと思うものに参加すればいい。行きたくないと思うなら無理に参加する必要はない」

 好きにしてはいいと言われたものの、イザベルは悩んだ。興味があるのだけ参加すればいい……正直、どれも興味はない。出席するだけで疲れるのだ。

 でもすべて断っては、なんて人付き合いの悪い家だと悪い噂が立ちそうだ。自分が悪く思われるのは別に構わないが、兄がそう思われるのは嫌だ。

 ……というわけで、どれかは選んで参加しようと思う。

(以前レーモンたちと会った時に思ったけれど、わたしには女性の知り合いがいないのよね)

 だからこそ彼らに囲まれたとも言える。

(年頃の令嬢がいるところに出席してみようかな)

 身体が弱くて引きこもっていたという設定があるので、それを利用させてもらおう。

(恥ずかしながら今まで友人を作る機会に恵まれず、この機会に夫人のお嬢さんと仲良くできればと思います)

 執事やメイドたち、そして兄から温厚そうな人間を選んでもらい、夜会ではなく茶会にいくつか出席することに決めた。

「私がついていかなくていいか?」

 イザベル一人行かせることにフェリクスは不安を隠しきれない様子だった。あまり人と交流してこなかった妹がきちんと会話できるか心配なのだろう。

「なんとかなると思うわ」
「楽観的なのはお前の長所だが……やはり私も一緒に参加した方がいいと思う」

 本気でそうしようとする兄にイザベルは少し呆れた。

「やめてよ。女性たちだけの集まりに殿方を……しかも婚約者を連れて行くなんて、向こうからしたら気まずいことこの上ないわ」
「牽制にはなるだろう」
「その場はね。でも、後で絶対いろいろ言われるわ。それで他の人間にも共有されるの。だからわたし一人で行った方がいいのよ」

 言うなれば女の闘いだ。イザベルが頑張るしかない。

(なんて、少し大げさかしら)

「とにかく。もし意地悪なこと言われても、言われっぱなしというのはありえないから安心して」

 自分はそんな柔な女でない。失礼なことを言われたら何倍にしても言い返す性質だ。

「お兄様が思うほどわたしは弱い存在ではないから。芯の強い女性、って言ってくれたとおり、頑張ってくるから応援して?」
「……わかった。では、これを持っていくといい」
「?」

 部屋の隅、宝箱のような箱から兄はごそごそと何かを取り出し、イザベルに手渡す。

「……お兄様。これは何?」
「見ての通り、短剣だ」

 いや、それはわかる。

「ただのお茶会に参加するのに物騒すぎるでしょ!」
「何か失礼なことを言われたら、これをテーブルやケーキにぶすりと突き立てるといい」
「そんなことしません!」

 と、言ったイザベルの脳裏にゲームの記憶が浮かぶ。レーモンと陰で遊んでいた令嬢を茶会に呼び出して、美味しそうなケーキにぶすりと鋭い短剣の切っ先を突き立てて脅すのだ。

 あなたもこうなりたい? と……。

(あれはもしかして、お兄様に譲ってもらった短剣だったの!?)

 いやいや、そんなはずない。イザベルが勝手に持ち出したのだろう。

「イザベル?」
「お兄様。わたしを心配してくださる気持ちは嬉しいですけれど、やはりそんな物騒なものを持っていては、かえって危ない人間だと思われて距離を置かれてしまいますわ」
「そうか……」

 兄はシュンとしたものの、納得してくれたので安堵する。

「では、代わりに扇や髪飾りを武器として使うのはどうだ。普段身につけているものならば怪しまれないはずだ」
「お兄様!」

 ちっともわかっていない兄にイザベルはもう一度叫ぶのだった。

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