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23、お兄様……。
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「イザベル様! お会いしたかったですわ!」
「みなさん、ごきげんよう」
イザベルは王立学院――乙女ゲームの舞台である場所にとうとう自ら足を運んだ。
「今日から授業が一緒に受けられますわね!」
「何の科目を受講しましたの?」
途中からの出席であるが、手続きなど全く問題なく、むしろ手取り足取り事務員に教えてもらいながらイザベルは講義の登録を済ませることができた。
今までずっと不登校だった生徒が登校してくれるようになって嬉しいから……という気持ちもなくはないだろうが、恐らくクレージュ侯爵家が寄付をしていることの方が大きい。
(つくづくお兄様には感謝だわ)
登校していない間の授業料も払い続けていたのだから、頭が上がらない。いくらそれくらいの額、侯爵家にとっては些細な金額だとしても……。
(せめて残りの日数、通えるだけ通って、大事にしよう)
イザベルはそう決めて、自分を温かく迎えてくれた令嬢たちに微笑んだ。
「――ええっと、一限目の授業は……席順は……」
「あの教室ですわ。席順は特に決まっておりません」
「ありがとう。助かるわ」
「ふふ。これくらい構いませんわ。それより、イザベル様も経営学に興味がおありなんです」
「え? ええ、まぁ……。兄の手助けになればと思いまして」
「まぁ。素敵です!」
(黙って話を聞いていれば単位もらえるよ、って教えられたから受講したなんて言えない……)
学院での学び方は、基本的に好きな講義を自分で選んで受ける仕組みになっている。
イザベルはどちらかというと、ただじっと座って話を聞いているだけの講義が楽でいいかなと思ったので、そういった授業内容で計画を立てた。
(ヒロインのマリオンは確かもっと少人数で行う実践系の授業を受けていたな……レーモンやアランも剣を使う授業とかだったはず……)
それらに関連したイベントがあったことをぼんやり覚えていたので、イザベルは避けた。彼らは頭がよかったし、自分がこれから受けるような基礎の基礎である授業はもう一、二年の頃に済ませているはずだ。
「私、もしかしたら授業中舟を漕いでしまうかもしれませんが、気にしないでくださいね」
(舟を漕ぐ? ……ああ、居眠りしてしまうってことね)
どうやら彼女はあまり勤勉ではないようだ。別に珍しいことではない。
貴族の令嬢は学院を卒業すればほとんどが親が決めた相手と結婚するので、そこまで熱心に勉強する必要はない――するならば、裁縫や帳簿の付け方、見方など、屋敷を切り盛りするのに役立つことを学ぶよう言いつけられている。
「わかった。でも姿勢でけっこうばれてしまうものだから、できるだけ背筋をピンと伸ばして目だけ閉じるようにした方がいいわ」
イザベルがそうアドバイスすると、令嬢は「まるで経験したような助言ですわね」と笑ってくれた。ちなみに経験談である。叱ったのは課題がわからないと泣きついて一生懸命教えてくれていた兄であったが……。
(でも初日だし、人の目もあるから、わたしは寝ないはずよ!)
と自信たっぷりのイザベルであったが、年老いた男性教師のゆったりとした話し方に早々に挫けそうになった。見れば周りの生徒たちもすでに眠そうだ。
「えー。みなさん。今日は特別講師をお招きしておりますので、その方からいろいろ学んでください」
(特別講師? 誰かしら)
「ではどうぞ、お入りください」
促されて入室してきた男性にどよめきが走る。彼がとんでもなくかっこいい男性だったから。そして――
「フェリクス・クレージュだ。今回は領地経営の話をみなさんにしようと思う」
(お、お兄様!?)
なぜここに。なぜ特別講師などしているのだ。
呆然とするイザベルや騒めく生徒たちを放って、フェリクスは領地を治める心構えを懇々と説いていく。
「まずは何よりも領民の存在を忘れてはいけない。彼らがいるからこそ、私たちは必要とされている。そのことを何より念頭に置いて、自分がすべきことの順番を――」
不意にフェリクスはイザベルの方を見た。大勢いる中からイザベルを見つけ、真っ直ぐ見た。
イザベルはもしや兄が何か言うのではないかとどきりとしたが、幸い、兄はすぐに目を逸らして講義を続けた。
……しかし十分おきに必ず見てくるので、イザベルは周囲にどう思われるか気になって仕方なかった。
舟を漕ぐかもしれないと予告していた令嬢もばっちり起きており、「イザベル様って、愛されていますのね……」とうっとりした表情で言われた。
(愛されているというか……)
「――お兄様。いくら何でも過保護すぎます」
三限目。イザベルは授業を入れておらず、友人たちと別れると、それとなく兄を探した。
兄は自分を待っていた様子で視線のすぐ先におり、こちらにおいでと手招きする。そうしてここでは何だからと、空き教室に入った。
「お前を守るためだ」
兄はさらりと受け答えする。
「だからといって……というか、よく教師として立たせてもらえましたね」
「実は教職の資格を取っていたんだ」
「えっ、初耳です」
「お前の勉強を教える時に役立つかと思ってな」
(ええ……)
どこまでもイザベルを軸にしている兄に、彼女はさすがに言葉を失う。
「イザベル。私が講師をするのは嫌か?」
「嫌、というか、恥ずかしいというか、そこまでしていただくのが申し訳ないというか……家の方は大丈夫なんですか?」
「問題ない。我が家の使用人はみな優秀だ」
兄がきっぱり断言するので、イザベルはそれ以上何も言えなかった。
「お兄様の負担になっていないのならば、いいです。……びっくりしましたけれど、授業中にお兄様もいてくれると思うと心強いですから」
事情を知っている者からはいろいろ陰で言われそうであるが……もうここまでくると、どうでもいいやとも思い始めている自分がいる。
(それに受け持つ授業は経営学よね? 別に毎回じゃないならいっか)
「そうか。よかった。では、次の授業も頑張ろうな」
「? 次は、文学についての講義ですけれど……」
「ああ。それも、私がする。正確には、講師の補佐役だが……お前と同じ空間にいることは間違いないから安心してくれ。他にもお前が参加する授業には私が必ず同席する。講師として立てない場合は、受講生として後ろからしっかりと見守るから安心してくれ」
(お兄様……)
イザベルは遠い目をして考えることをやめた。
その時、ドタドタと騒がしい音が廊下から聞こえてくる。かと思えば、ガラリと扉が開けられた。
「あっ、やっぱりそうだ!」
(うげっ)
アランやジルベール、そしてレーモンまでいた。
「先生方から久しぶりに登校する生徒がいるから生徒会の方でも気にかけるよう言われてもしかしてと思ったら、やっぱり当たっていたな」
アランがそう言い、な、とレーモンの方を見た。彼はイザベルをじっと見つめてくる。嫌味を言うならば言えばいいのに黙ったままなのでイザベルは居心地が悪い。
「しかし……どうしてフェリクス殿まで一緒にいらっしゃるのですか?」
ジルベールのもっともな質問にフェリクスは胸を張ってイザベルにしたのと同じ説明をする。
アランとジルベールはなぜかイザベルに生暖かい眼差しを向けて、レーモンだけ不審者を見る目つきでフェリクスに言った。
「普通、そこまでするか?」
「殿下たちからすると少し過保護に見えるかもしれませんが、私はイザベルの兄ですし、婚約者ですから。何よりイザベル自身、私にそばにいてほしいと願っているのです。な、イザベル?」
「えっ、あ、そ、そうね……。ええ、そうなんです。わたしが、兄にずっとそばにいてほしいと頼んだのです。だから、そういうことです」
イザベルの説明にアランとジルベールはもう追及するだけ無駄だと思ったのか、ただ「そうか」と言った。
「イザベル嬢が望んでいることならば仕方がない」
「そうですね。他人の私たちがどうこう言う資格はないようです」
納得してもらえた……はずなのだが、妙に釈然としないのは気のせいか。
しかし、言ってしまえば、イザベルはこれで彼らも余計なちょっかいをかけてくることもないだろうと思った。
「せっかく登校してきたんだ。一緒に昼食をとるのはどうだ?」
「誘ってくださってありがたいのですが、昼食は友人たちととりますの。女同士話したいこともありますし、またの機会にしてください」
「あなたのまたの機会、は一生来なさそうだな。別に彼女たちも誘っていいじゃないか」
「ええ。アランの言う通りです。大勢で食事した方が楽しいですしね。普段交流できない方と話すことで、得られることもあるかもしれません」
(くっ。しつこいな)
「彼女たちと相談してみますわ。彼女たちがいない時は兄と食べる予定ですから、それでもよければ」
「ああ、それで構わない」
「楽しみにしていますね」
アランとジルベールは約束を取り付けることができてにこにこ微笑んだ。こうなったからには友人たちに賭けるしかない。
「殿下。先ほどから黙り込んで、どうしたのですか」
フェリクスはレーモンの態度が気になったのか尋ねる。そういえば先ほどからむっつり黙り込んだままだ。いつもなら笑顔でサクッと嫌味を言ってくるはずなのに。
「……何でもない。帰るぞ」
ぶっきらぼうに言い捨てて背を向けたレーモンにアランたちも驚いたようだった。
「おい、待てよ、レーモン」
「イザベル様、フェリクス殿、これで失礼します」
アランがレーモンの背中を追いかけ、ジルベールが挨拶して教室を出て行った。
「なに、あの態度。もう少し礼儀に気をつけるべきではない?」
イザベルが腹を立てて兄にそう言えば、彼は考え込むようにレーモンが去った方を見ていた。
「お兄様?」
「いや、何でもない。……イザベル。私がいない間は、なるべく女子生徒と一緒にいなさい」
「? ええ。もちろんそのつもりよ」
彼らが接触を試みようとしても、なるべく避けるか、他の女子生徒も一緒にいさせるつもりだ。
自分はすでに兄の婚約者であるし、男をはべらしているなどの誤解をされたら面倒なことこの上ないから。
「そうしなさい。では、そろそろ次の授業に行こうか」
「……お兄様も来る、のよね? 教室まで一緒に行っても大丈夫かしら」
「安心しろ。お前の友人がいるところまでだ」
それでもいいのかな……と思ったが、どうせ一緒に受けるのだからもういいかと諦めた。
(それにしてもあのレーモンの態度……)
何か既視感がある。ゲームの中でマリオンにとった態度だろうか。しかし彼はマリオンにはいつも興味を持って、自分からいろいろと話しかけていた。
気のせいだろうと思ってイザベルは兄と一緒に教室を出た。
「みなさん、ごきげんよう」
イザベルは王立学院――乙女ゲームの舞台である場所にとうとう自ら足を運んだ。
「今日から授業が一緒に受けられますわね!」
「何の科目を受講しましたの?」
途中からの出席であるが、手続きなど全く問題なく、むしろ手取り足取り事務員に教えてもらいながらイザベルは講義の登録を済ませることができた。
今までずっと不登校だった生徒が登校してくれるようになって嬉しいから……という気持ちもなくはないだろうが、恐らくクレージュ侯爵家が寄付をしていることの方が大きい。
(つくづくお兄様には感謝だわ)
登校していない間の授業料も払い続けていたのだから、頭が上がらない。いくらそれくらいの額、侯爵家にとっては些細な金額だとしても……。
(せめて残りの日数、通えるだけ通って、大事にしよう)
イザベルはそう決めて、自分を温かく迎えてくれた令嬢たちに微笑んだ。
「――ええっと、一限目の授業は……席順は……」
「あの教室ですわ。席順は特に決まっておりません」
「ありがとう。助かるわ」
「ふふ。これくらい構いませんわ。それより、イザベル様も経営学に興味がおありなんです」
「え? ええ、まぁ……。兄の手助けになればと思いまして」
「まぁ。素敵です!」
(黙って話を聞いていれば単位もらえるよ、って教えられたから受講したなんて言えない……)
学院での学び方は、基本的に好きな講義を自分で選んで受ける仕組みになっている。
イザベルはどちらかというと、ただじっと座って話を聞いているだけの講義が楽でいいかなと思ったので、そういった授業内容で計画を立てた。
(ヒロインのマリオンは確かもっと少人数で行う実践系の授業を受けていたな……レーモンやアランも剣を使う授業とかだったはず……)
それらに関連したイベントがあったことをぼんやり覚えていたので、イザベルは避けた。彼らは頭がよかったし、自分がこれから受けるような基礎の基礎である授業はもう一、二年の頃に済ませているはずだ。
「私、もしかしたら授業中舟を漕いでしまうかもしれませんが、気にしないでくださいね」
(舟を漕ぐ? ……ああ、居眠りしてしまうってことね)
どうやら彼女はあまり勤勉ではないようだ。別に珍しいことではない。
貴族の令嬢は学院を卒業すればほとんどが親が決めた相手と結婚するので、そこまで熱心に勉強する必要はない――するならば、裁縫や帳簿の付け方、見方など、屋敷を切り盛りするのに役立つことを学ぶよう言いつけられている。
「わかった。でも姿勢でけっこうばれてしまうものだから、できるだけ背筋をピンと伸ばして目だけ閉じるようにした方がいいわ」
イザベルがそうアドバイスすると、令嬢は「まるで経験したような助言ですわね」と笑ってくれた。ちなみに経験談である。叱ったのは課題がわからないと泣きついて一生懸命教えてくれていた兄であったが……。
(でも初日だし、人の目もあるから、わたしは寝ないはずよ!)
と自信たっぷりのイザベルであったが、年老いた男性教師のゆったりとした話し方に早々に挫けそうになった。見れば周りの生徒たちもすでに眠そうだ。
「えー。みなさん。今日は特別講師をお招きしておりますので、その方からいろいろ学んでください」
(特別講師? 誰かしら)
「ではどうぞ、お入りください」
促されて入室してきた男性にどよめきが走る。彼がとんでもなくかっこいい男性だったから。そして――
「フェリクス・クレージュだ。今回は領地経営の話をみなさんにしようと思う」
(お、お兄様!?)
なぜここに。なぜ特別講師などしているのだ。
呆然とするイザベルや騒めく生徒たちを放って、フェリクスは領地を治める心構えを懇々と説いていく。
「まずは何よりも領民の存在を忘れてはいけない。彼らがいるからこそ、私たちは必要とされている。そのことを何より念頭に置いて、自分がすべきことの順番を――」
不意にフェリクスはイザベルの方を見た。大勢いる中からイザベルを見つけ、真っ直ぐ見た。
イザベルはもしや兄が何か言うのではないかとどきりとしたが、幸い、兄はすぐに目を逸らして講義を続けた。
……しかし十分おきに必ず見てくるので、イザベルは周囲にどう思われるか気になって仕方なかった。
舟を漕ぐかもしれないと予告していた令嬢もばっちり起きており、「イザベル様って、愛されていますのね……」とうっとりした表情で言われた。
(愛されているというか……)
「――お兄様。いくら何でも過保護すぎます」
三限目。イザベルは授業を入れておらず、友人たちと別れると、それとなく兄を探した。
兄は自分を待っていた様子で視線のすぐ先におり、こちらにおいでと手招きする。そうしてここでは何だからと、空き教室に入った。
「お前を守るためだ」
兄はさらりと受け答えする。
「だからといって……というか、よく教師として立たせてもらえましたね」
「実は教職の資格を取っていたんだ」
「えっ、初耳です」
「お前の勉強を教える時に役立つかと思ってな」
(ええ……)
どこまでもイザベルを軸にしている兄に、彼女はさすがに言葉を失う。
「イザベル。私が講師をするのは嫌か?」
「嫌、というか、恥ずかしいというか、そこまでしていただくのが申し訳ないというか……家の方は大丈夫なんですか?」
「問題ない。我が家の使用人はみな優秀だ」
兄がきっぱり断言するので、イザベルはそれ以上何も言えなかった。
「お兄様の負担になっていないのならば、いいです。……びっくりしましたけれど、授業中にお兄様もいてくれると思うと心強いですから」
事情を知っている者からはいろいろ陰で言われそうであるが……もうここまでくると、どうでもいいやとも思い始めている自分がいる。
(それに受け持つ授業は経営学よね? 別に毎回じゃないならいっか)
「そうか。よかった。では、次の授業も頑張ろうな」
「? 次は、文学についての講義ですけれど……」
「ああ。それも、私がする。正確には、講師の補佐役だが……お前と同じ空間にいることは間違いないから安心してくれ。他にもお前が参加する授業には私が必ず同席する。講師として立てない場合は、受講生として後ろからしっかりと見守るから安心してくれ」
(お兄様……)
イザベルは遠い目をして考えることをやめた。
その時、ドタドタと騒がしい音が廊下から聞こえてくる。かと思えば、ガラリと扉が開けられた。
「あっ、やっぱりそうだ!」
(うげっ)
アランやジルベール、そしてレーモンまでいた。
「先生方から久しぶりに登校する生徒がいるから生徒会の方でも気にかけるよう言われてもしかしてと思ったら、やっぱり当たっていたな」
アランがそう言い、な、とレーモンの方を見た。彼はイザベルをじっと見つめてくる。嫌味を言うならば言えばいいのに黙ったままなのでイザベルは居心地が悪い。
「しかし……どうしてフェリクス殿まで一緒にいらっしゃるのですか?」
ジルベールのもっともな質問にフェリクスは胸を張ってイザベルにしたのと同じ説明をする。
アランとジルベールはなぜかイザベルに生暖かい眼差しを向けて、レーモンだけ不審者を見る目つきでフェリクスに言った。
「普通、そこまでするか?」
「殿下たちからすると少し過保護に見えるかもしれませんが、私はイザベルの兄ですし、婚約者ですから。何よりイザベル自身、私にそばにいてほしいと願っているのです。な、イザベル?」
「えっ、あ、そ、そうね……。ええ、そうなんです。わたしが、兄にずっとそばにいてほしいと頼んだのです。だから、そういうことです」
イザベルの説明にアランとジルベールはもう追及するだけ無駄だと思ったのか、ただ「そうか」と言った。
「イザベル嬢が望んでいることならば仕方がない」
「そうですね。他人の私たちがどうこう言う資格はないようです」
納得してもらえた……はずなのだが、妙に釈然としないのは気のせいか。
しかし、言ってしまえば、イザベルはこれで彼らも余計なちょっかいをかけてくることもないだろうと思った。
「せっかく登校してきたんだ。一緒に昼食をとるのはどうだ?」
「誘ってくださってありがたいのですが、昼食は友人たちととりますの。女同士話したいこともありますし、またの機会にしてください」
「あなたのまたの機会、は一生来なさそうだな。別に彼女たちも誘っていいじゃないか」
「ええ。アランの言う通りです。大勢で食事した方が楽しいですしね。普段交流できない方と話すことで、得られることもあるかもしれません」
(くっ。しつこいな)
「彼女たちと相談してみますわ。彼女たちがいない時は兄と食べる予定ですから、それでもよければ」
「ああ、それで構わない」
「楽しみにしていますね」
アランとジルベールは約束を取り付けることができてにこにこ微笑んだ。こうなったからには友人たちに賭けるしかない。
「殿下。先ほどから黙り込んで、どうしたのですか」
フェリクスはレーモンの態度が気になったのか尋ねる。そういえば先ほどからむっつり黙り込んだままだ。いつもなら笑顔でサクッと嫌味を言ってくるはずなのに。
「……何でもない。帰るぞ」
ぶっきらぼうに言い捨てて背を向けたレーモンにアランたちも驚いたようだった。
「おい、待てよ、レーモン」
「イザベル様、フェリクス殿、これで失礼します」
アランがレーモンの背中を追いかけ、ジルベールが挨拶して教室を出て行った。
「なに、あの態度。もう少し礼儀に気をつけるべきではない?」
イザベルが腹を立てて兄にそう言えば、彼は考え込むようにレーモンが去った方を見ていた。
「お兄様?」
「いや、何でもない。……イザベル。私がいない間は、なるべく女子生徒と一緒にいなさい」
「? ええ。もちろんそのつもりよ」
彼らが接触を試みようとしても、なるべく避けるか、他の女子生徒も一緒にいさせるつもりだ。
自分はすでに兄の婚約者であるし、男をはべらしているなどの誤解をされたら面倒なことこの上ないから。
「そうしなさい。では、そろそろ次の授業に行こうか」
「……お兄様も来る、のよね? 教室まで一緒に行っても大丈夫かしら」
「安心しろ。お前の友人がいるところまでだ」
それでもいいのかな……と思ったが、どうせ一緒に受けるのだからもういいかと諦めた。
(それにしてもあのレーモンの態度……)
何か既視感がある。ゲームの中でマリオンにとった態度だろうか。しかし彼はマリオンにはいつも興味を持って、自分からいろいろと話しかけていた。
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