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プロローグ
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莉音が見ているまえで、三人のうちのひとりが動いた。あ、と思った次の瞬間、スーツの男が身を捩る。しなやかな動きで攻撃を躱すと同時に、躰を反転させて長い足を蹴り上げた。その足が、相手の脇腹を直撃して屈強な躰がよろめく。多勢に無勢だが、スーツの男は充分に黒服の男たちと渡り合っていた。それでも。
酔っぱらい同士の喧嘩だろうか。それとも、もっと別のいざこざか。仕事帰りのサラリーマンを狙った金銭目的の犯罪。いろいろ浮かぶが、いずれにせよ、このまま見過ごせる状況にないことはたしかだった。なにより、莉音の自宅は男たちが争っている路上の先にある。
闇にまぎれやすい服に身を包んだ男たちの躰は、いずれも鍛え上げられており、レスラーか格闘家を思わせた。このまま揉めつづければ、大変なことになるに違いない。
思った莉音は、建物の影に身を潜めながらもポケットを探って携帯を取り出した。画面をタップする指がふるえる。この場で電話をかければ、こちらの存在に気づかれてしまう可能性もあった。少しでも危険を回避するため、莉音は場所を移動しようと躰の向きを換えかけた。そのとき。
「危ない!」
鼓膜に突き刺さった鋭い警告と同時に、背後に不穏な気配を感じた。咄嗟に振り返った莉音の目に、すぐ真後ろに立つ黒い影が飛びこんでくる。
自分より遙かに大柄で、屈強な体格をした小山のような人影。前方の争いに気をとられすぎていて、四人目の存在にまるで気づかなかった。
その人物は、手にしたなにかを振りかぶっていた。長い、棒のようなシルエット。咄嗟に思いつくのは、鉄パイプか特殊警棒といった類いのもので、そのなんらかの凶器を握りしめた手が、勢いよく自分に向かって振り下ろされた。
よけることなど到底できず、莉音は頭を庇うように腕を上げて身を竦める。不意に、上げる角度のゆるかった左腕がぐんっと後方へ強く引かれ、同時に自分のまえにまわりこんできただれかに抱き竦められた。直後に響いた、ガツン、という鈍い物音。その衝撃が、自分に覆いかぶさる人物の躰越しに伝わるとともに、真上から体重をかけられた。
不安定な姿勢のままのしかかられて、莉音は支えることもできず、ともに地面に転がった。
あわてて上体を起こせば、スーツ姿の男が自分の腰に腕をまわしたまま昏倒している。茫然としながら目線を上げた先で、直前に自分に襲いかかろうとしていた見知らぬ相手が、なおも仁王立ちになっていた。ただでさえ薄暗い中、街灯の明かりが逆光になってその姿を正確にとらえることができない。だがその姿は、莉音の目に、とてつもなく大きく映った。
いからせた肩が大きく上下し、その口から荒い息が漏れている。背後からも荒々しい足音が近づいてきて、先程の男たちがこちらに向かってきたのだとわかった。
躰が竦んで身動きがとれず、声を発することさえかなわない。
手足の指先が氷のように急速に冷えて、冷たい汗が噴き出してきた。胸が破れそうなほどの勢いで、心臓が激しく拍動を繰り返す。
なにが起ころうとしているのか把握できないまま、莉音は自分に折り重なるようにして倒れ伏す相手に身を寄せた。頭が真っ白で、なにをどうしたらいいのかわからなかった。と、次の瞬間。
けたたましい悲鳴が辺りに響きわたった。
ビクッと身を竦ませた莉音の視界の向こうにあらたな人影が映る。
「だれか! だれか来てっ! 人が襲われてるっ」
通行人と思しき女の騒ぎ声とともに、やはり近くを通りかかったのだろう複数の足音が近づいてくる。近隣の家々からも、人が出てくる気配が感じられた。
チッと舌打ちした男たちは、途端に身を翻した。莉音はその場に座りこんだまま、茫然と走り去る男たちの背中を見送った。
酔っぱらい同士の喧嘩だろうか。それとも、もっと別のいざこざか。仕事帰りのサラリーマンを狙った金銭目的の犯罪。いろいろ浮かぶが、いずれにせよ、このまま見過ごせる状況にないことはたしかだった。なにより、莉音の自宅は男たちが争っている路上の先にある。
闇にまぎれやすい服に身を包んだ男たちの躰は、いずれも鍛え上げられており、レスラーか格闘家を思わせた。このまま揉めつづければ、大変なことになるに違いない。
思った莉音は、建物の影に身を潜めながらもポケットを探って携帯を取り出した。画面をタップする指がふるえる。この場で電話をかければ、こちらの存在に気づかれてしまう可能性もあった。少しでも危険を回避するため、莉音は場所を移動しようと躰の向きを換えかけた。そのとき。
「危ない!」
鼓膜に突き刺さった鋭い警告と同時に、背後に不穏な気配を感じた。咄嗟に振り返った莉音の目に、すぐ真後ろに立つ黒い影が飛びこんでくる。
自分より遙かに大柄で、屈強な体格をした小山のような人影。前方の争いに気をとられすぎていて、四人目の存在にまるで気づかなかった。
その人物は、手にしたなにかを振りかぶっていた。長い、棒のようなシルエット。咄嗟に思いつくのは、鉄パイプか特殊警棒といった類いのもので、そのなんらかの凶器を握りしめた手が、勢いよく自分に向かって振り下ろされた。
よけることなど到底できず、莉音は頭を庇うように腕を上げて身を竦める。不意に、上げる角度のゆるかった左腕がぐんっと後方へ強く引かれ、同時に自分のまえにまわりこんできただれかに抱き竦められた。直後に響いた、ガツン、という鈍い物音。その衝撃が、自分に覆いかぶさる人物の躰越しに伝わるとともに、真上から体重をかけられた。
不安定な姿勢のままのしかかられて、莉音は支えることもできず、ともに地面に転がった。
あわてて上体を起こせば、スーツ姿の男が自分の腰に腕をまわしたまま昏倒している。茫然としながら目線を上げた先で、直前に自分に襲いかかろうとしていた見知らぬ相手が、なおも仁王立ちになっていた。ただでさえ薄暗い中、街灯の明かりが逆光になってその姿を正確にとらえることができない。だがその姿は、莉音の目に、とてつもなく大きく映った。
いからせた肩が大きく上下し、その口から荒い息が漏れている。背後からも荒々しい足音が近づいてきて、先程の男たちがこちらに向かってきたのだとわかった。
躰が竦んで身動きがとれず、声を発することさえかなわない。
手足の指先が氷のように急速に冷えて、冷たい汗が噴き出してきた。胸が破れそうなほどの勢いで、心臓が激しく拍動を繰り返す。
なにが起ころうとしているのか把握できないまま、莉音は自分に折り重なるようにして倒れ伏す相手に身を寄せた。頭が真っ白で、なにをどうしたらいいのかわからなかった。と、次の瞬間。
けたたましい悲鳴が辺りに響きわたった。
ビクッと身を竦ませた莉音の視界の向こうにあらたな人影が映る。
「だれか! だれか来てっ! 人が襲われてるっ」
通行人と思しき女の騒ぎ声とともに、やはり近くを通りかかったのだろう複数の足音が近づいてくる。近隣の家々からも、人が出てくる気配が感じられた。
チッと舌打ちした男たちは、途端に身を翻した。莉音はその場に座りこんだまま、茫然と走り去る男たちの背中を見送った。
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