ひろいひろわれ こいこわれ【完結済み】

九條 連

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第4章

第3話(1)

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 明るい場所であらためて部屋の惨状を見ると、寒々しい気分が押し寄せてきた。

 被害に遭った当日は、衝撃が強すぎて頭が真っ白になってしまい、どこか他人事のように感じていた。とても自分の身に起こったこととは思えなかったからだ。だが、日にちが経って冷静な目で状況を見られるようになると、なんとも言えない嫌な気分がこみあげてきた。
 恐怖と怒り、嫌悪、そして名状めいじょうしがたい気味の悪さ。

 それでも、母がいなくてよかったといまさらのように思う。
 母が健在で、空き巣が押し入ったその場にいたとしたらと考えただけで背筋が凍る。それは、自分があのとき在宅していたら、と考える以上に怖いことだった。


 同行したヴィンセントは殊更なにも言わなかったが、おそらく莉音の心中をおもんぱかってのことだったのだろう。いつもと変わらず、ごく淡々とした様子で部屋に上がると軍手を嵌め、ゴミ袋を用意しはじめた。おかげで莉音もすぐに落ち着きを取り戻し、片付け作業に入ることができた。
 割れたコップや皿を片付け、散乱した衣類や小物関係、その他諸々の日用品などを仕分けして、それぞれの収納場所に戻していく。使えないと判断したものや不要品などは、その場で判断してり分けていった。

 ヴィンセントがじつに効率よく用途別に分類してまとめていってくれたため、莉音はその分類に基づいて判断し、片付けていくことができた。途中、持参したサンドウィッチで昼休憩を取ると、まるでピクニックでもしているようだと喜んでくれて、それもまた、ともすると沈みがちになる気分を浮上させてくれた。

 母の持ち物は、まだなにひとつ処分しておらず、手もとに残したままになっている。だがそれも、いずれはきちんと整理していかなければならないのだと冷静な気持ちで思えるようになった。

 荒らすだけ荒らして結局なにも盗らなかったのは、置いたままになっていた通帳すらも価値がなかったということなのだろうか。むろんたいした金額ではなかったが、それでも開店資金のための蓄えと莉音の学費、母の保険金などが振り込まれていたはずだった。

 犯人はどんな思いでこんなことをしたのかと、その心情を探ってみたくなる。期待したほどの金品が見つからなかったことに腹を立て、これ見よがしにその鬱憤をぶちまけた結果なのか、それともはじめからなにも盗るつもりなどなく、たんなる嫌がらせ目的で侵入してメチャクチャにしていっただけなのか。
 理由が後者にあるのなら、それはそれでかなり怖い。それほどの悪意を持った人間が、身近にいることになるからだ。

 とはいえ、該当しそうな人物は思いつかず、そこまでの恨みを自分がだれかから買っているのだとも思いたくなかった。
 考えれば考えるほど、気持ちの悪さが増す事件で、いろいろなことが釈然としなかった。
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