31 / 93
第4章
第3話(3)
しおりを挟む
不意に、電話の着信音が室内に響いた。
鳴ったのはヴィンセントの携帯で、画面を確認したヴィンセントは、なぜか一瞬だけチラリと莉音を見やった。不審に思うまもなくすぐに応答し、その言葉が日本語ではなく、英語だったことに莉音はハッとする。そのまま英語で受け答えながら、ヴィンセントは莉音に目線だけで離席することを伝えると、なにごとかを話しながら部屋の外に出て行った。
普段、あまりにあたりまえのように日本語でやりとりしているのでうっかり忘れてしまいがちになるが、こうしてあらためて英語で話しているところを目の当たりにすると、日本人ではなかったのだなと妙に不思議な感じがしてしまう。もちろん名前も顔もスタイルも、日本人とはかけ離れているのだが、ハーフだった母が身近でごく普通に日本人として生活していたせいで、ヴィンセントのことも、ついおなじような感覚で見てしまう。あんなふうに英語でやりとりする姿を目にしてしまうと、一気に隔たりができたような気がして、なんとも言えない複雑な気分になった。
「僕、ひょっとしてすごい人に雑用とかさせちゃったのかな」
ふと、傍らで微笑む写真立ての中の母に話しかける。
手にしていたノートを閉じると、位牌と遺影がわりの写真を飾っているカラーボックスのまえに座りなおした。
一週間前、ヴィンセントの許へ移る際に、散乱した日用品の中から位牌と写真だけは見つけ出して、鍵のかかる引き出しの中にしまっておいた。またおなじことが起こっても、傷つけられたり壊されたりすることがないよう、厳重に緩衝材やタオルでくるんでから。
片付いた部屋の中で引き出しからそれらを取り出し、もとの位置に戻すと、少しだけホッとすることができた。
荒れ放題の部屋に、ずっと独りにしちゃってごめんねと心の中で謝りながら手を合わせる。こちらを見て笑っている母が、あんたが無事なら、それだけで充分よ、と言っている気がした。
ちょうどそのとき、玄関が開く音がして、人が入ってくる気配がした。電話を終えたヴィンセントが戻ってきたのだろうと、とくに警戒することもなく、おかえりなさいと振り返ろうとして、突如手袋を嵌めた分厚い掌に口を塞がれ、背後から抱えこまれた。
「――――――っ!?」
声を出そうとするが、あまりに強い力で口許を押さえこまれてくぐもった呻き声しか出すことができない。抵抗しようと暴れるのをものともせず、相手は莉音を抱えこんだまま、台所を突っ切ると玄関に向かっていった。ものすごい力だった。
なにが起こっているのか、まったく理解できなかった。
鳴ったのはヴィンセントの携帯で、画面を確認したヴィンセントは、なぜか一瞬だけチラリと莉音を見やった。不審に思うまもなくすぐに応答し、その言葉が日本語ではなく、英語だったことに莉音はハッとする。そのまま英語で受け答えながら、ヴィンセントは莉音に目線だけで離席することを伝えると、なにごとかを話しながら部屋の外に出て行った。
普段、あまりにあたりまえのように日本語でやりとりしているのでうっかり忘れてしまいがちになるが、こうしてあらためて英語で話しているところを目の当たりにすると、日本人ではなかったのだなと妙に不思議な感じがしてしまう。もちろん名前も顔もスタイルも、日本人とはかけ離れているのだが、ハーフだった母が身近でごく普通に日本人として生活していたせいで、ヴィンセントのことも、ついおなじような感覚で見てしまう。あんなふうに英語でやりとりする姿を目にしてしまうと、一気に隔たりができたような気がして、なんとも言えない複雑な気分になった。
「僕、ひょっとしてすごい人に雑用とかさせちゃったのかな」
ふと、傍らで微笑む写真立ての中の母に話しかける。
手にしていたノートを閉じると、位牌と遺影がわりの写真を飾っているカラーボックスのまえに座りなおした。
一週間前、ヴィンセントの許へ移る際に、散乱した日用品の中から位牌と写真だけは見つけ出して、鍵のかかる引き出しの中にしまっておいた。またおなじことが起こっても、傷つけられたり壊されたりすることがないよう、厳重に緩衝材やタオルでくるんでから。
片付いた部屋の中で引き出しからそれらを取り出し、もとの位置に戻すと、少しだけホッとすることができた。
荒れ放題の部屋に、ずっと独りにしちゃってごめんねと心の中で謝りながら手を合わせる。こちらを見て笑っている母が、あんたが無事なら、それだけで充分よ、と言っている気がした。
ちょうどそのとき、玄関が開く音がして、人が入ってくる気配がした。電話を終えたヴィンセントが戻ってきたのだろうと、とくに警戒することもなく、おかえりなさいと振り返ろうとして、突如手袋を嵌めた分厚い掌に口を塞がれ、背後から抱えこまれた。
「――――――っ!?」
声を出そうとするが、あまりに強い力で口許を押さえこまれてくぐもった呻き声しか出すことができない。抵抗しようと暴れるのをものともせず、相手は莉音を抱えこんだまま、台所を突っ切ると玄関に向かっていった。ものすごい力だった。
なにが起こっているのか、まったく理解できなかった。
33
あなたにおすすめの小説
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
【完結】最初で最後の恋をしましょう
関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。
そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。
恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。
交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。
《ワンコ系王子×幸薄美人》
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
黒に染まる
曙なつき
BL
“ライシャ事変”に巻き込まれ、命を落としたとされる美貌の前神官長のルーディス。
その親友の騎士団長ヴェルディは、彼の死後、長い間その死に囚われていた。
事変から一年後、神殿前に、一人の赤子が捨てられていた。
不吉な黒髪に黒い瞳の少年は、ルースと名付けられ、見習い神官として育てられることになった。
※疫病が流行るシーンがあります。時節柄、トラウマがある方はご注意ください。
あまく、とろけて、開くオメガ
藍沢真啓/庚あき
BL
オメガの市居憂璃は同じオメガの実母に売られた。
北関東圏を支配するアルファの男、玉之浦椿に。
ガリガリに痩せた子は売れないと、男の眼で商品として価値があがるように教育される。
出会ってから三年。その流れゆく時間の中で、男の態度が商品と管理する関係とは違うと感じるようになる憂璃。
優しく、大切に扱ってくれるのは、自分が商品だから。
勘違いしてはいけないと律する憂璃の前に、自分を売った母が現れ──
はぴまり~薄幸オメガは溺愛アルファ~等のオメガバースシリーズと同じ世界線。
秘密のあるスパダリ若頭アルファ×不憫アルビノオメガの両片想いラブ。
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる