ひろいひろわれ こいこわれ【完結済み】

九條 連

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第5章

第1話(1)

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 その後、ヴィンセントの通報で駆けつけた警察官から事情聴取を受けた莉音は、ヴィンセントに護られるようにして港区のマンションに戻った。
 空き巣のときのように、かなり時間をとられるかと思ったが、ヴィンセントがうまくあいだに入っていろいろ対応してくれたため、比較的早い段階で解放してもらうことができた。

 今日はデリバリーにするので夕食は作らなくていいというヴィンセントの心遣いに甘え、帰宅後は早々にゲストルームに引き上げた。
 持ち帰った荷物を整理する気にはとてもなれず、なにより、一刻も早く躰を洗い流してしまいたくて真っ先にシャワーを浴びた。アパートの部屋の片付けで埃まみれになったからというより、見ず知らずの男に抱えこまれた生々しい感触が躰のあちこちに残っていて、気持ちが悪かったのだ。

 服を脱いで裸になると、腕や足の至るところに痣や擦り傷ができていて、部屋から連れ出される際に、思いのほかぶつけていたことがわかった。連れ去られるまいと、必死で抵抗したせいだろう。

 熱い湯を頭から浴びて髪を洗い、ボディーソープでいつもより念入りに躰中を洗う。そうして全身がさっぱりすると、少しだけ気分も落ち着いた。

 これから、どうすればいいのだろうと考えるだけで途方に暮れる。いくら考えてみても、だれかに狙われる原因に思いあたるふしがなかった。
 職探しをするうえでも、いつまでのこのままでいるわけにはいかない。それでも、警察が懸命に動いてくれて、ヴィンセントもまた莉音の安全を第一に考えていろいろ配慮してくれているのだから、いまはとにかく、少しでも早く事件が解決することを願って、静かに過ごしているしかないのかもしれない。

 頭ではわかっていても、不安な気持ちが胸の裡を満たして崩れてしまいそうになる。この件が、母の事故の原因にまでたどり着いてしまったらと、考えるだけでどうにかなりそうだった。
 そんなはずはないと否定するそのそばから、そういう可能性もありうるのだと考えてしまう自分がいた。
 今日、自分が見知らぬだれかの標的にされていると知ってはじめて、その可能性に思い至った。

 どんなときでも笑顔で前向きに。それが信条のはずだったが、いまはとても、空元気を出すことさえできなかった。母を突然喪ったあの衝撃から、ようやく少しずつ這い上がれる余力が出てきたところだというのに――



 不意に、部屋のドアがノックされて、莉音はビクンと身を竦ませた。

「莉音、私だ」

 外から声がかかると同時に、ヴィンセントが顔を覗かせる。風呂上がりのパジャマ姿でベッドの端に座る莉音を見て、ゆっくりと近づいてきた。

「ピザが届いた。食べられそうか?」
 尋ねながらも、莉音の隣に腰掛ける。それから、莉音の不安を感じとったかのように背中に腕をまわし、自分のほうへと引き寄せた。

「今日は本当にすまなかった。私が軽率に席をはずしたせいで、君にとても怖い思いをさせてしまった」
 触れる手と、すぐそばで響く静かな声が心地いい。

「そんな。アルフさんはなにも悪くないです。僕こそ事態を甘く見てました。まだ帰るのは危ないって、あんなにアルフさんが心配してくれてたのに」

 引き寄せられるまま、ヴィンセントの躰に身をもたせかけて莉音は言った。
 昼間抱きしめられたときも思ったが、ヴィンセントがいてくれると、それだけで安心できる。ヴィンセントもまた、すでにシャワーを浴びたのか、部屋着姿のその躰から、かすかにボディーソープが香った。昼間のコロンとは、また異なる好ましい香り。

「アルフさん、ごめんなさい。アルフさんが襲われたのって、僕のせいだったのかも……」

 ポツリとした呟きに、ヴィンセントが怪訝けげんそうに莉音を見たのがわかった。
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