36 / 93
第5章
第1話(3)
しおりを挟む
「莉音、落ち着きなさい。私は大丈夫だから」
「大丈夫じゃありません。全然大丈夫なんかじゃない! だって、母さんはそのせいで死んじゃったかもしれないのにっ」
「莉音っ」
そうだ。その考えがさっきからずっと頭にこびりついて離れない。今日の出来事も、空き巣のことも、ヴィンセントが怪我をしたときのことも、ほかに原因や理由があるかもしれないと思うそばから、全部自分のせいだったのではないかと思えて、それを振り払うことができなかった。
だってあの男は、間違いなく自分を狙っていた。空き巣に入られたのも自分の家だった。ヴィンセントも、家のすぐ近所で暴漢に襲われた。
すべてが偶然だったのだと思おうとしても、ほかに原因や理由があるのだと思おうとしても、どうしても全部自分のせいにしか思えなかった。
「母さんの死は、不慮の事故だったんだってずっと思ってました。だけど、そうじゃなかったのかもしれない。全部僕のせいで、だから母さんも巻きこまれて生命を奪われちゃったのかもしれなくて、そのうえ……そのうえアルフさんまでどうにかなっちゃったら、僕は、僕は……っ」
「莉音!」
両の頬を強く掴まれ、無理やり顔を上げさせられた。あざやかな輝きを放つ青い瞳が、怖いくらい真剣に莉音を見つめていた。
「そんなことは絶対にない。いままで起こったことは、君のせいなんかじゃない。これまでのことも、お母さんのことも全部。私が保証する」
まっすぐな眼差しを向けられて、パニックを起こしかけていた気持ちがスッと鎮まった。
「でも……、でもアルフさん、僕……」
「安心しなさい、莉音。私には君を守る力も、自分自身を守る力もある。決して君を独りにはしない。君が望むかぎり、そばにいると約束しよう」
「あ……」
ヴィンセントの親指の腹が、いたわるように頬を拭う。莉音はそれで、はじめて自分が泣いていたことに気がついた。
「ひとりで頑張らなくていい。私がそばにいて、君を守るから」
「アルフ、さん……」
気がゆるんだら、溢れ出す涙を止めることができなくなった。ヴィンセントは、そんな莉音の頭を引き寄せて優しく撫でた。
あたたかな手に髪を梳かれるのが心地よく、莉音はヴィンセントの抱擁に身を任せてひろい胸に縋りついた。なんの気負いもなくだれかに頼れることが、こんなにもホッとできることなのだとはじめて知った。
思えば母がいたときも、ふたりで生きていくためにしっかりしなければと、つねに気を張っていたような気がする。
「いい子だ、莉音。なにも心配しなくていいから」
耳もとで響く、低い、艶のある声が心地いい。
しゃくりあげる莉音をなだめるように、大きな手がポンポンと一定のリズムで背中を叩く。額に口づけが落とされ、深い安堵感に満たされながら、莉音はさらにヴィンセントに身を預けて目を閉じた。その目尻から、ふたたび涙が零れ落ちる。
「莉音」
気づいたヴィンセントが、顎に手を添えて、わずかに上向かせた。額の上にあった口唇が、頬に移動して涙を吸いとる。莉音がそれを受け容れると、今度は口唇の上に優しいキスが降ってきた。
驚くより先に、ヴィンセントから与えられる情愛に満ちた優しさが心地よくて、莉音はそれさえも素直に受け止めた。
啄むようなキスが顔中に落とされる。そして最後にもう一度、口唇を塞がれた。
「……っん…っ」
角度を変え、何度も啄まれるうちに、いつしかそれは、熱を帯びた濃厚なものへと変化していった。
「大丈夫じゃありません。全然大丈夫なんかじゃない! だって、母さんはそのせいで死んじゃったかもしれないのにっ」
「莉音っ」
そうだ。その考えがさっきからずっと頭にこびりついて離れない。今日の出来事も、空き巣のことも、ヴィンセントが怪我をしたときのことも、ほかに原因や理由があるかもしれないと思うそばから、全部自分のせいだったのではないかと思えて、それを振り払うことができなかった。
だってあの男は、間違いなく自分を狙っていた。空き巣に入られたのも自分の家だった。ヴィンセントも、家のすぐ近所で暴漢に襲われた。
すべてが偶然だったのだと思おうとしても、ほかに原因や理由があるのだと思おうとしても、どうしても全部自分のせいにしか思えなかった。
「母さんの死は、不慮の事故だったんだってずっと思ってました。だけど、そうじゃなかったのかもしれない。全部僕のせいで、だから母さんも巻きこまれて生命を奪われちゃったのかもしれなくて、そのうえ……そのうえアルフさんまでどうにかなっちゃったら、僕は、僕は……っ」
「莉音!」
両の頬を強く掴まれ、無理やり顔を上げさせられた。あざやかな輝きを放つ青い瞳が、怖いくらい真剣に莉音を見つめていた。
「そんなことは絶対にない。いままで起こったことは、君のせいなんかじゃない。これまでのことも、お母さんのことも全部。私が保証する」
まっすぐな眼差しを向けられて、パニックを起こしかけていた気持ちがスッと鎮まった。
「でも……、でもアルフさん、僕……」
「安心しなさい、莉音。私には君を守る力も、自分自身を守る力もある。決して君を独りにはしない。君が望むかぎり、そばにいると約束しよう」
「あ……」
ヴィンセントの親指の腹が、いたわるように頬を拭う。莉音はそれで、はじめて自分が泣いていたことに気がついた。
「ひとりで頑張らなくていい。私がそばにいて、君を守るから」
「アルフ、さん……」
気がゆるんだら、溢れ出す涙を止めることができなくなった。ヴィンセントは、そんな莉音の頭を引き寄せて優しく撫でた。
あたたかな手に髪を梳かれるのが心地よく、莉音はヴィンセントの抱擁に身を任せてひろい胸に縋りついた。なんの気負いもなくだれかに頼れることが、こんなにもホッとできることなのだとはじめて知った。
思えば母がいたときも、ふたりで生きていくためにしっかりしなければと、つねに気を張っていたような気がする。
「いい子だ、莉音。なにも心配しなくていいから」
耳もとで響く、低い、艶のある声が心地いい。
しゃくりあげる莉音をなだめるように、大きな手がポンポンと一定のリズムで背中を叩く。額に口づけが落とされ、深い安堵感に満たされながら、莉音はさらにヴィンセントに身を預けて目を閉じた。その目尻から、ふたたび涙が零れ落ちる。
「莉音」
気づいたヴィンセントが、顎に手を添えて、わずかに上向かせた。額の上にあった口唇が、頬に移動して涙を吸いとる。莉音がそれを受け容れると、今度は口唇の上に優しいキスが降ってきた。
驚くより先に、ヴィンセントから与えられる情愛に満ちた優しさが心地よくて、莉音はそれさえも素直に受け止めた。
啄むようなキスが顔中に落とされる。そして最後にもう一度、口唇を塞がれた。
「……っん…っ」
角度を変え、何度も啄まれるうちに、いつしかそれは、熱を帯びた濃厚なものへと変化していった。
33
あなたにおすすめの小説
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
【完結】最初で最後の恋をしましょう
関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。
そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。
恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。
交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。
《ワンコ系王子×幸薄美人》
黒に染まる
曙なつき
BL
“ライシャ事変”に巻き込まれ、命を落としたとされる美貌の前神官長のルーディス。
その親友の騎士団長ヴェルディは、彼の死後、長い間その死に囚われていた。
事変から一年後、神殿前に、一人の赤子が捨てられていた。
不吉な黒髪に黒い瞳の少年は、ルースと名付けられ、見習い神官として育てられることになった。
※疫病が流行るシーンがあります。時節柄、トラウマがある方はご注意ください。
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
あまく、とろけて、開くオメガ
藍沢真啓/庚あき
BL
オメガの市居憂璃は同じオメガの実母に売られた。
北関東圏を支配するアルファの男、玉之浦椿に。
ガリガリに痩せた子は売れないと、男の眼で商品として価値があがるように教育される。
出会ってから三年。その流れゆく時間の中で、男の態度が商品と管理する関係とは違うと感じるようになる憂璃。
優しく、大切に扱ってくれるのは、自分が商品だから。
勘違いしてはいけないと律する憂璃の前に、自分を売った母が現れ──
はぴまり~薄幸オメガは溺愛アルファ~等のオメガバースシリーズと同じ世界線。
秘密のあるスパダリ若頭アルファ×不憫アルビノオメガの両片想いラブ。
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる