ひろいひろわれ こいこわれ【完結済み】

九條 連

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第5章

第1話(3)

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「莉音、落ち着きなさい。私は大丈夫だから」
「大丈夫じゃありません。全然大丈夫なんかじゃない! だって、母さんはそのせいで死んじゃったかもしれないのにっ」
「莉音っ」

 そうだ。その考えがさっきからずっと頭にこびりついて離れない。今日の出来事も、空き巣のことも、ヴィンセントが怪我をしたときのことも、ほかに原因や理由があるかもしれないと思うそばから、全部自分のせいだったのではないかと思えて、それを振り払うことができなかった。

 だってあの男は、間違いなく自分を狙っていた。空き巣に入られたのも自分の家だった。ヴィンセントも、家のすぐ近所で暴漢に襲われた。
 すべてが偶然だったのだと思おうとしても、ほかに原因や理由があるのだと思おうとしても、どうしても全部自分のせいにしか思えなかった。

「母さんの死は、不慮の事故だったんだってずっと思ってました。だけど、そうじゃなかったのかもしれない。全部僕のせいで、だから母さんも巻きこまれて生命を奪われちゃったのかもしれなくて、そのうえ……そのうえアルフさんまでどうにかなっちゃったら、僕は、僕は……っ」
「莉音!」

 両の頬を強く掴まれ、無理やり顔を上げさせられた。あざやかな輝きを放つ青い瞳が、怖いくらい真剣に莉音を見つめていた。

「そんなことは絶対にない。いままで起こったことは、君のせいなんかじゃない。これまでのことも、お母さんのことも全部。私が保証する」

 まっすぐな眼差しを向けられて、パニックを起こしかけていた気持ちがスッとしずまった。

「でも……、でもアルフさん、僕……」
「安心しなさい、莉音。私には君を守る力も、自分自身を守る力もある。決して君を独りにはしない。君が望むかぎり、そばにいると約束しよう」
「あ……」

 ヴィンセントの親指の腹が、いたわるように頬を拭う。莉音はそれで、はじめて自分が泣いていたことに気がついた。

「ひとりで頑張らなくていい。私がそばにいて、君を守るから」
「アルフ、さん……」

 気がゆるんだら、溢れ出す涙を止めることができなくなった。ヴィンセントは、そんな莉音の頭を引き寄せて優しく撫でた。

 あたたかな手に髪をかれるのが心地よく、莉音はヴィンセントの抱擁に身を任せてひろい胸に縋りついた。なんの気負いもなくだれかに頼れることが、こんなにもホッとできることなのだとはじめて知った。
 思えば母がいたときも、ふたりで生きていくためにしっかりしなければと、つねに気を張っていたような気がする。

「いい子だ、莉音。なにも心配しなくていいから」

 耳もとで響く、低い、つやのある声が心地いい。
 しゃくりあげる莉音をなだめるように、大きな手がポンポンと一定のリズムで背中を叩く。額に口づけが落とされ、深い安堵感に満たされながら、莉音はさらにヴィンセントに身を預けて目を閉じた。その目尻から、ふたたび涙が零れ落ちる。

「莉音」

 気づいたヴィンセントが、顎に手を添えて、わずかに上向かせた。額の上にあった口唇くちびるが、頬に移動して涙を吸いとる。莉音がそれを受け容れると、今度は口唇の上に優しいキスが降ってきた。
 驚くより先に、ヴィンセントから与えられる情愛に満ちた優しさが心地よくて、莉音はそれさえも素直に受け止めた。
 ついばむようなキスが顔中に落とされる。そして最後にもう一度、口唇を塞がれた。

「……っん…っ」

 角度を変え、何度も啄まれるうちに、いつしかそれは、熱を帯びた濃厚なものへと変化していった。
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