ひろいひろわれ こいこわれ【完結済み】

九條 連

文字の大きさ
78 / 93
第9章

(13)

しおりを挟む
「莉音」

 呼ばれて、莉音はヴィンセントに視線を戻す。

「いままでとおなじように暮らしたい。さっき君が言ったその希望の中に、私の存在はもう、含まれていないのだろうか?」
 これまでにないほど真剣に問われて、返答に窮した。

「あ、の…、僕……」
「君がこの家を出てからの日々、なにもかもが虚しくて味気なかった。自分でもそれ以前の生活を、どうしていたのか思い出せないほどに。私はもう、君なしではいられないのだとつくづく思い知った。君は? 莉音は私がそばにいないほうが、幸せか?」

 宝石のように美しい青い瞳が、まっすぐに自分を見据える。その瞳を見返す莉音の目から、ふたたび涙が溢れて零れ落ちた。

「僕……」

 心が大きく揺れる。
 答えなら、もうとっくに出ている。自分の気持ちは最初からただひとりに向いていて、諦めることも、忘れることもできないから苦しくてつらかった。
 この先の人生に、希望が見いだせなくなるほどに――


「莉音」
「僕もアルフさんに、ずっと、会いたかったです……」

 ポツリと本音を漏らしたら、想いが溢れて止まらなくなった。

「ずっと会いたくて、寂しくて、そばにいてほしかった。でも、アルフさんには婚約者がいて、あんなにお金持ちで綺麗な人で、僕は足手まといだから邪魔しちゃダメって。わかってるのに、何度も自分に言い聞かせてるのに、それなのにすごくつらくて、悲しくて。毎日、いつも会いたいって、大好きって……っ」

 伸びてきた腕に絡めとられるように、莉音はヴィンセントの腕の中に抱き竦められた。

「すまない、つらい思いをさせて。本当に悪かった。莉音、おまえにもう二度と、こんな思いはさせない」
「ア、ルフさん……、……き……。大好きっ」

 顎をとらえるヴィンセントの手に上向かされ、そのまま口づけられる。

「っん、……ふ……っ、ん、ん……っ」

 口の中に侵入してきた舌に情熱的に貪られ、口腔内を犯されて、たちどころに理性を奪われていく。だが次の瞬間。
 莉音はビクッと身を竦めて小さく呻いた。眉間に深い皺が寄る。
 ハッとしたヴィンセントは口唇を離し、そっと莉音の左頬に手を触れた。

「ひょっとして、口の中も切れているのか?」

 訊かれて、莉音は大丈夫と笑った。食事のときには意識して傷口にあまり触れないよう気をつけていたのだが、一度にいろいろなことがありすぎて、すっかり忘れていた。

「クソッ、私の莉音に酷いことをっ」

 眉を顰めたヴィンセントは、普段の紳士的な彼に似つかわしくない、荒々しい口調で悪態をついた。その様子を見て、莉音は泣き腫らした顔でふふっと笑う。気づいたヴィンセントが、怪訝な顔をした。

「アルフさん、さっきも言ってくれたけど、『私の莉音』って」

 嬉しそうに言う莉音に、ヴィンセントは途端に苦笑を閃かせた。そして、まだ熱を持って赤みの残る左頬を、そっと撫でた。

「あたりまえだ。私はもうずっと、そう思っている。私の愛する莉音、と」

 ヴィンセントの手に自分の手を重ね、莉音は目を閉じて頬を擦り寄せた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。 そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。 恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。 交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。 《ワンコ系王子×幸薄美人》

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

黒に染まる

曙なつき
BL
“ライシャ事変”に巻き込まれ、命を落としたとされる美貌の前神官長のルーディス。 その親友の騎士団長ヴェルディは、彼の死後、長い間その死に囚われていた。 事変から一年後、神殿前に、一人の赤子が捨てられていた。 不吉な黒髪に黒い瞳の少年は、ルースと名付けられ、見習い神官として育てられることになった。 ※疫病が流行るシーンがあります。時節柄、トラウマがある方はご注意ください。

あまく、とろけて、開くオメガ

藍沢真啓/庚あき
BL
オメガの市居憂璃は同じオメガの実母に売られた。 北関東圏を支配するアルファの男、玉之浦椿に。 ガリガリに痩せた子は売れないと、男の眼で商品として価値があがるように教育される。 出会ってから三年。その流れゆく時間の中で、男の態度が商品と管理する関係とは違うと感じるようになる憂璃。 優しく、大切に扱ってくれるのは、自分が商品だから。 勘違いしてはいけないと律する憂璃の前に、自分を売った母が現れ── はぴまり~薄幸オメガは溺愛アルファ~等のオメガバースシリーズと同じ世界線。 秘密のあるスパダリ若頭アルファ×不憫アルビノオメガの両片想いラブ。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

処理中です...