ひろいひろわれ こいこわれ ~華燭~

九條 連

文字の大きさ
19 / 90
第3章

第1話(1)

しおりを挟む
 窓の外を見やると、大きな入道雲がひろがっていた。
 蝉の声が周辺一帯に響きわたっている。木々の緑と照りつける陽射しを眺めながら、今日も夕立になりそうだなと莉音はぼんやり思った。

 祖父母の家は、大分県西部にひろがる九重くじゅう連山麓付近の一角に位置する。莉音がこの家に来てから、すでに二週間が過ぎようとしていた。


 子供のころに何度か来たことがあるが、成長するにつれ訪ねることはなくなり、かれこれ十年ぶりの訪問となった。とはいえ、遊びに来ているわけではなく、滞在期間もいつまでになるのか、いまのところ不明。祖父との関係はぎくしゃくしたままで、慣れない土地柄、慣れない環境に気疲れする毎日だった。

 ヴィンセントに大分行きを告げた直後、莉音はほとんどやけくそになって航空券のチケットを予約した。運良くと言おうか悪くと言おうか、祖父母の予約していた便に空きがあったため、夜のうちに荷造りをして、朝にその旨をヴィンセントに告げると、そのまま出てきてしまった。
 なんだかもう、どうしてこんなに意固地で、聞きわけのない子供のようなことをしているのだろうと自分でも情けなくなる。ヴィンセントのまえで、自分のことは自分で決めると大見得おおみえを切ったくせに、半月が経とうとしているいまも、なにも手につかない状況がつづいていた。


 祖父母の家は、山間部の中腹に位置している。そのため、町へ出るにも車移動が必須だった。免許のない莉音は、必然的に地元のバスを利用する以外に交通手段がないわけだが、そういったものを利用しようと思うと、今度は人目が気になった。

 母同様、父もひとりっ子で、莉音には伯叔父母おじ・おば従兄弟姉妹いとこと呼べる存在はいない。それでも佐倉家の親類縁者はわりと近場に住んでおり、地元の付き合い自体が密なので、近隣の人々は皆、顔見知りだった。住民以外の人間は目につきやすく、噂にもなりやすい。現に、どういうひろがりかたをしているのかは不明だが、莉音の存在は、祖父母の家に到着した翌日には周辺住民全員の知るところとなっていた。

 余所よその人間はただでさえ目立つというのに、四分の一とはいえ、莉音には外国の血が混じっている。いまどきめずらしいことではないと思うのだが、人間関係が閉じた集落にあっては、莉音の存在はことのほか注目を集めた。
 これまで長期で家を空けたことのない祖父母が、一週間ものあいだ不在にして孫を連れて戻った。ものめずらしさもあってか、近所の人たちが入れ替わりに訪ねてきては、挨拶という名目で莉音を観察していった。気晴らしにちょっと周辺を散歩と思っても、見知らぬ人たちに『武造の孫』として頻繁に声をかけられる。一挙一動を見られているようで落ち着かず、いくらもしないうちに出歩くことはしなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

36.8℃

月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。 ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。 近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。 制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。 転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。 36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。 香りと距離、運命、そして選択の物語。

処理中です...