ひろいひろわれ こいこわれ ~華燭~

九條 連

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第5章

第2話(1)

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 その日帰宅した莉音は、翌日の準備を早々に終えると、居間にいる祖父母の許へ顔を出した。

「おじいちゃん、おばあちゃん、いまちょっといい?」

 声をかけて祖父のまえに座ると、部屋の空気が張りつめるのがわかった。

「なんや、あらたまっち」
 素っ気ない口調で祖父が言う。莉音はそれに向かって、「うん、あのね」と静かに口を開いた。

「優子さんに頼まれた料理教室、明日で終わるでしょ? だからもうそろそろ、来週あたりにでも東京に帰ろうかなって思って」

 莉音の言葉に、祖父は顔色を失って大きく喘いだ。

「東京に帰るって、おまえまさか、あん男んところに……」
「うん。アルフさんのところに戻るね」
ダメだつまらんっ!」

 莉音の言葉尻にかぶる勢いで祖父は怒鳴り、テーブルを叩いた。

「お父さん……」
 祖母がおろおろとした様子で祖父をとりなそうとする。だが莉音は、そんな祖父としずかに向き合った。

「おじいちゃんはやっぱり、僕とアルフさんのこと、反対? 男同士だから気持ち悪い?」
「いまはそげな話はしとらん! あげな不誠実な男に、大事な孫は任せられんち言いよんっ!」
「……え?」
「莉音、おまえはやっぱしだまくらかされちょる。おまえがおらんあいだに、あげな……っ」
「お父さん」

 祖母が気遣わしげな様子で祖父のシャツの裾を引いた。祖父は途端にハッとした顔をする。直後に、口を引き結んで大きくかぶりを振った。

とにかくなんかなし、あげな男んところに戻ってん、手酷う裏切られち傷つくだけや。いい加減目ぅ覚ましち、あげな男たあスッパリ縁ぅ切れ。おまえん面倒くらい、儂が見ちゃん!」
 莉音はそこで、祖父がなにについて言及しているのかようやく理解した。

「おじいちゃん……、なんで、それ……」
「莉音ちゃん」
 茫然とする莉音のまえに、祖母が一冊の雑誌を差し出した。それは、例の記事が載っている週刊誌だった。

「これ…っ」
「今日ね、莉音ちゃんぅ会場に送っちくれたあとで、達哉ちゃんが持っちきちくれたん」
「え……、達哉さんが? なんで……」
一昨日おとつい帰っちきちから、莉音ちゃん、なんか思いつめた顔しちょったやろ? おじいちゃんが、えろう心配しち、達哉ちゃんになにかあったんかっち訊いたんちゃ」
「君恵! 余計なこと言うなっ」

 祖父はさらに怒鳴ったが、いつもは祖父に従う祖母も、今回は引かなかった。

「ちゃんと説明しちあげな、莉音ちゃんだってわからんやろう?」
 祖父に言ったあとで、莉音に向きなおった。

「達哉ちゃんも告げ口んごたっち嫌やったんやろうね。最初は渋っちょったんやけんど、おじいちゃんがあんまり気にしちょんもんだけん、一昨日ん帰りに寄った本屋じ、自分が買うた雑誌ぅ見ちから様子がおかしゅうなってん教えちくれち」

 ああ、そういうことかと理解した。

「それにね、相手ん、有名な芸能人なんやろ? 昨日ん昼間も、テレビでちいとやっちょったちゃ」
「そう…だったんだ……」

 莉音が呟くと、祖父は気まずそうに視線を背けた。

「あの、心配かけてごめんなさい。僕が変な態度取っちゃったからだよね。でも、大丈夫だから」
「なにが大丈夫だしょわねえ大丈夫なしょわねえことがあるか!」

 祖父は声を荒らげたが、莉音はやはり動じなかった。

「うん、そうだよね。こんなふうに記事に書かれて、テレビでも取り上げられちゃったら、事実だって思うもんね。僕も正直、この表紙見たときは結構ショックだった」
「ほらな、やけんあげな男は――」
「でもね」

 莉音は声を大きくして祖父の言葉を遮った。
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