ひろいひろわれ こいこわれ ~華燭~

九條 連

文字の大きさ
58 / 90
第8章

第1話(2)

しおりを挟む
「あ、えっと、かえって荷物になっちゃいますかね……。邪魔だったらごめんなさ――」
「こういうの」
 なにを言えばいいのかわからないまま、弁解めいたことを言っている途中で達哉の声がかぶる。莉音は口を閉ざして次の言葉を待った。

「あ、いや、その……、莉音くんはこういうの、よう作るんやろうかって」

 莉音はきょとんとした。

「え? いいえ。今日はじめて作りました」
「はじめて?」
「はい。あの、うち母もあんまりお酒は飲まなかったので、こういう経験はしたことがなくて。だから効果があるかどうかは保証はできないんですけど」
「え? ほんとに? ほんとにいままでだれにも、作ったことないん?」
「はい。あ、もちろん味見はちゃんとしましたけど」
「あ~、そうなんや。そっか、はじめて……」

 なにかマズかっただろうかと気になったが、達哉は途端に笑顔になった。

「いや、ごめん。なんでもない。すごく嬉しい。ありがたくいただきます」
「あ、はい」
 応えつつ、イマイチ状況が呑みこめない。だがとりあえず、受け取ってもらえたのでよかったと思うことにした。

「あの、それじゃあ僕、そろそろ失礼しますね。あんまり長居してもお邪魔でしょうから。お身体、大事にしてください。一週間、本当にありがとうございました。子供のころに遊んでもらったお兄さんに、十年ぶりに会えて嬉しかったです」
「あ、うん、こちらこそ」

 言ってから達哉はふと背後を確認し、そのまま上がりがまちを下りて玄関先のサンダルを履いた。

「一緒にそこまで」

 玄関のドアを開けてうながされたので、おとなしくしたがった。
 おもてに出ると、まだ午前中だというのにせ返るような熱気が全身を包みこむ。達哉は、あち~っ!と声をあげて風を送りこむようにTシャツの襟もとをパタパタと煽いだ。

「わざわざ来てくれてありがとう。疲れてんのに、スープまで作って持ってきてくれて」
「いいえ、全然。最後に顔も見たかったので」

 莉音が言うと、達哉も「俺も会えてよかった」と同意してくれた。

「あ~っ、これから大阪戻って明日から仕事とか無理~! ずっと実家でゴロゴロしてて~!」
 心底嫌そうに言うので、莉音も笑ってしまった。

「お休みって、あっという間に終わっちゃいますよね」
「ほんと、それな。なんならずっと莉音くんに料理教室の講師やってもろうて、専属運転手してたいわ」
「僕、お給料払えないですよ?」
「いやいや、莉音くんならすぐ人気講師になって、ガポガポ稼ぐようになるって」

 なんならパトロンも何人もつくはずやしと断言するので、その自信はどこからくるんですかとますます笑い転げた。
 先程までの微妙な空気はすっかりなくなって、いつもの打ち解けた雰囲気に戻っていた。

「あ~、ほんと、ずっとこうしてたかったな」
「また会えますよ。僕もこれからは、できるだけおじいちゃんたちに会いにこようと思ってるので」
「莉音くんは、いつごろ東京に帰るん?」
「そうですね、もうそろそろかなって」
「そっか……」

 田中家の畑がひろがる私道を抜け、農道に差しかかったところでふたりは足を止めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

36.8℃

月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。 ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。 近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。 制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。 転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。 36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。 香りと距離、運命、そして選択の物語。

処理中です...