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第9章
第1話(3)
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「莉音くん、ひょっとして今日、あんまり乗り気じゃなかった?」
「え?」
驚いて声をあげた莉音に、早瀬は表情を曇らせた。
「もしかしてまた、アルフがひとりで暴走しちゃったかな」
「……また?」
「うん。莉音くんの大分行き、アルフが独断で決めちゃったんでしょう?」
言われて、莉音は目を瞠った。
「あ、えっと……」
どう答えていいのかわからず、思わず口籠もる。そんな莉音を見て、早瀬は深々と嘆息した。
「もうね、事情聞いてびっくりしちゃったよ。普段ならそんな一方的なこと、する人じゃないんだけど」
「アルフ、サイテー」
早瀬の後ろで、リサも批難めいた口調で言う。
「リオンの気持ちムシ、ゼッタイだめ! ソイチローやったら、即離婚。ワタシ、ソータ連れてすぐアメリカ帰る」
早瀬は、そんなリサをまあまあとなだめて椅子に座らせると、莉音に向きなおった。
「アルフなら、ちゃんとお祖父さんたちと話して、まるく収めることもできたはずなんだけどね。あんまりにもらしくなくて、莉音くんが怒るのも当然だよってリサとふたりで責めちゃったんだ。そしたら、すっかり拗ねちゃって」
「……え?」
莉音は瞬きをした。ヴィンセントが、拗ねた?
「本人としては『気分を害した』ぐらいに言ってほしいところだろうけど、あれはもう完全に、拗ねたとか、ふてくされたの類いだよね」
自分が悪いってわかってるところに図星さされちゃったもんだから、ぐうの音も出なくてと早瀬は笑った。
「全部アルフ悪い。ワタシたち、リオンの味方! だからイッパイ怒っておいた」
息子をあやしながらも、リサは加勢する。
「え、でもアルフさんは、僕とおじいちゃんたちのこと考えてくれたから……」
「うん、それは僕らもわかってるんだけどね。ただ、そこはちゃんと莉音くんの気持ちも汲むべきだったんじゃないかなって」
むしろそこをいちばんに考えるべきだったのだと早瀬は問題を指摘した。そのあとで、不意に表情をゆるめて擁護するように言った。
「なんかね、動転しちゃったんだって」
「どう、てん……?」
「うん。莉音くんのお祖父さんに頭ごなしにふたりの関係を否定されて、それでなんとか話を聞いてもらうためにも機嫌を取らなきゃってあわてちゃったみたい」
早瀬の話を聞いて、莉音は言葉を失った。
あのヴィンセントが動転した? あわてた? 祖父の機嫌を取ろうとして判断ミスを犯した? そのことを早瀬たちに批難されてふてくされた? そんなことが本当にあるのだろうか?
どれだけ考えてみても、まったく想像がつかなかった。
自分の知る恋人は、つねに知的で落ち着いていて、非の打ちどころのない完璧な人なのだから。
「あの、でも、あのときは僕とおじいちゃんばっかり感情的になってしまって、それをあいだに入ってとりなそうとしてくれたアルフさんは、すごく冷静でしたよ? いつもとまったく変わらなかったっていうか」
「まあ、そりゃね。アルフも起業家としてそれなりの修羅場はかいくぐってきてるから」
内心の動揺を見せないように取り繕うのはお手のものなのだと、早瀬は軽い調子で言った。
「あとはやっぱり、莉音くんのまえではかっこよくありたい、みっともない姿は見せたくないっていうのがあったんだろうね。だけど結局、冷静さを欠いて下手を打っちゃってる時点でボロが出まくってるっていう」
やれやれとでも言いたげに肩を竦めて苦笑する。その横でリサも、「オトコのミエ、uncool……」と容赦なくこき下ろした。
「……僕、全然気づきませんでした。あのときは僕も頭に血がのぼっちゃってたし、自分のことでいっぱいいっぱいになっちゃってたので」
「そうだよねえ。たぶん莉音くんだけじゃなくて、あの場にいた全員がそうだったんだと思うよ? みんなが当事者だったわけだし」
「そう、ですね……」
早瀬の言葉に、莉音は胸を衝かれる思いがした。
そうだ、ヴィンセントだって当事者だったのだ。
「え?」
驚いて声をあげた莉音に、早瀬は表情を曇らせた。
「もしかしてまた、アルフがひとりで暴走しちゃったかな」
「……また?」
「うん。莉音くんの大分行き、アルフが独断で決めちゃったんでしょう?」
言われて、莉音は目を瞠った。
「あ、えっと……」
どう答えていいのかわからず、思わず口籠もる。そんな莉音を見て、早瀬は深々と嘆息した。
「もうね、事情聞いてびっくりしちゃったよ。普段ならそんな一方的なこと、する人じゃないんだけど」
「アルフ、サイテー」
早瀬の後ろで、リサも批難めいた口調で言う。
「リオンの気持ちムシ、ゼッタイだめ! ソイチローやったら、即離婚。ワタシ、ソータ連れてすぐアメリカ帰る」
早瀬は、そんなリサをまあまあとなだめて椅子に座らせると、莉音に向きなおった。
「アルフなら、ちゃんとお祖父さんたちと話して、まるく収めることもできたはずなんだけどね。あんまりにもらしくなくて、莉音くんが怒るのも当然だよってリサとふたりで責めちゃったんだ。そしたら、すっかり拗ねちゃって」
「……え?」
莉音は瞬きをした。ヴィンセントが、拗ねた?
「本人としては『気分を害した』ぐらいに言ってほしいところだろうけど、あれはもう完全に、拗ねたとか、ふてくされたの類いだよね」
自分が悪いってわかってるところに図星さされちゃったもんだから、ぐうの音も出なくてと早瀬は笑った。
「全部アルフ悪い。ワタシたち、リオンの味方! だからイッパイ怒っておいた」
息子をあやしながらも、リサは加勢する。
「え、でもアルフさんは、僕とおじいちゃんたちのこと考えてくれたから……」
「うん、それは僕らもわかってるんだけどね。ただ、そこはちゃんと莉音くんの気持ちも汲むべきだったんじゃないかなって」
むしろそこをいちばんに考えるべきだったのだと早瀬は問題を指摘した。そのあとで、不意に表情をゆるめて擁護するように言った。
「なんかね、動転しちゃったんだって」
「どう、てん……?」
「うん。莉音くんのお祖父さんに頭ごなしにふたりの関係を否定されて、それでなんとか話を聞いてもらうためにも機嫌を取らなきゃってあわてちゃったみたい」
早瀬の話を聞いて、莉音は言葉を失った。
あのヴィンセントが動転した? あわてた? 祖父の機嫌を取ろうとして判断ミスを犯した? そのことを早瀬たちに批難されてふてくされた? そんなことが本当にあるのだろうか?
どれだけ考えてみても、まったく想像がつかなかった。
自分の知る恋人は、つねに知的で落ち着いていて、非の打ちどころのない完璧な人なのだから。
「あの、でも、あのときは僕とおじいちゃんばっかり感情的になってしまって、それをあいだに入ってとりなそうとしてくれたアルフさんは、すごく冷静でしたよ? いつもとまったく変わらなかったっていうか」
「まあ、そりゃね。アルフも起業家としてそれなりの修羅場はかいくぐってきてるから」
内心の動揺を見せないように取り繕うのはお手のものなのだと、早瀬は軽い調子で言った。
「あとはやっぱり、莉音くんのまえではかっこよくありたい、みっともない姿は見せたくないっていうのがあったんだろうね。だけど結局、冷静さを欠いて下手を打っちゃってる時点でボロが出まくってるっていう」
やれやれとでも言いたげに肩を竦めて苦笑する。その横でリサも、「オトコのミエ、uncool……」と容赦なくこき下ろした。
「……僕、全然気づきませんでした。あのときは僕も頭に血がのぼっちゃってたし、自分のことでいっぱいいっぱいになっちゃってたので」
「そうだよねえ。たぶん莉音くんだけじゃなくて、あの場にいた全員がそうだったんだと思うよ? みんなが当事者だったわけだし」
「そう、ですね……」
早瀬の言葉に、莉音は胸を衝かれる思いがした。
そうだ、ヴィンセントだって当事者だったのだ。
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