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第9章
第1話(4)
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自分たちのことを祖父に知られてしまい、動揺してしまった。ふたりの関係のみならず、ヴィンセントの人間性まで否定されて、自分でも収拾がつかないくらいいろんな感情が溢れて呑まれてしまった。だが、口論になった自分と祖父をヴィンセントがなだめる役になったからといって、どうして彼が平気だったと思ってしまったのだろう。
あんなふうに言われて、傷つかなかったはずもないのだ。それなのに彼は、自分のことを後回しにして心ない言葉を投げつけ合う自分と祖父のあいだに入ってくれた。そのことに、どうして気づけなかったのだろう。
いつもどおり冷静に見えた。出逢ってからずっと、自分を守ってくれる大人の男性なのだと安心して甘えてきた。けれどヴィンセントにだって、傷つく心はあるはずなのだ。
「……僕、アルフさんに酷いことしちゃった」
「莉音くん?」
「アルフさんは立派な大人の男の人で、強くて完璧な人なんだってその優しさに甘えて、アルフさんの気持ちをちっとも考えてあげられなかった。あのときいちばんショックだったのは、アルフさんだったはずなのに」
「ああ、泣かないで泣かないで」
せっかくのおめかしがだいなしだよ、と早瀬は正面から莉音の背中に腕をまわしてよしよしと撫でた。
「大丈夫だよ、アルフは実際、強い人だから」
「でも……」
「たしかに今回の件は、アルフにとってもそれなりにキツかったと思うよ? でも、僕はかえって、いいことだったんじゃないかって思ってる」
「……え?」
「たったいま莉音くんも言ったけど、アルフは強くて完璧な人間でしょ? それなのに、ここしばらくずっと元気がなかった。もちろん表立ってどうこうっていうことはまったくないし、いつもどおりに仕事もこなしてた。だけど身近に接する会社の人間は、なんとなく感じるところがあったんだろうね。そんな矢先にあの熱愛報道でしょ? 普段ならそんな失態、絶対に犯すはずがない人なのに。それでみんな、自分たちが一丸となって社長を守らなきゃ!って」
早瀬は楽しそうにクスクスと笑った。
「完璧で非の打ちどころがなくて隙がないのもいいけど、そういう人間らしい部分を見せたことで、社内での彼の評判はむしろ爆上がり。人間万事塞翁が馬ってね。それにね」
早瀬はそこで言葉を区切って、思わせぶりに莉音を見た。
「たしかに莉音くんのお祖父さんに言われたことは、アルフにとってキツいものだったかもしれない。でもそれ以上に堪えたのは、莉音くんを怒らせて泣かせちゃったことみたいだよ?」
「ぼく、ですか?」
「うん。自分に余裕がなくなって独断専行しちゃったせいで、なによりも大事にしてる莉音くんの気持ちを蔑ろにしちゃったからね。アルフがしょげてたのは、それが原因。そしてみんな、そんな彼にほだされてしまった、と」
まあそんなわけで、と早瀬は言いながら、涙が滲んでいた莉音の目もとを取り出したハンカチでそっと拭った。
「今回の件ではアルフ自身も深く反省して、自分なりに解決策を見いだそうと動いてるみたいだったから、僕らも黙って様子を見守ってたんだけどね。義母に了承を取ってくるってアメリカに行ってるあいだにあの騒ぎでしょう? なんか、こういうときにかぎって全部裏目に出ちゃうっていう悪循環で、僕もびっくりしちゃったよ」
「ソイチロー、ワタシ、それなんて言うか知ってる」
黙って話を聞いていたリサが唐突に言った。
「ヨワリメにアタリメ」
「惜しい!」
早瀬は残念そうに言った。
「アタリメだとお酒が美味しく進んじゃいそうだね。正しくは、『弱り目に祟り目』。でもすごいよ、リサ。もうそんな言葉までおぼえたんだね」
「ニホンに来て一年イジョウ経った。ワタシのニホンゴ、さらに進化中ね」
「うんうん、その調子で頑張って」
夫婦で微笑ましい掛け合いをしたあとで、早瀬はコホンと咳払いをして、ともかく、と話をもとに戻した。
あんなふうに言われて、傷つかなかったはずもないのだ。それなのに彼は、自分のことを後回しにして心ない言葉を投げつけ合う自分と祖父のあいだに入ってくれた。そのことに、どうして気づけなかったのだろう。
いつもどおり冷静に見えた。出逢ってからずっと、自分を守ってくれる大人の男性なのだと安心して甘えてきた。けれどヴィンセントにだって、傷つく心はあるはずなのだ。
「……僕、アルフさんに酷いことしちゃった」
「莉音くん?」
「アルフさんは立派な大人の男の人で、強くて完璧な人なんだってその優しさに甘えて、アルフさんの気持ちをちっとも考えてあげられなかった。あのときいちばんショックだったのは、アルフさんだったはずなのに」
「ああ、泣かないで泣かないで」
せっかくのおめかしがだいなしだよ、と早瀬は正面から莉音の背中に腕をまわしてよしよしと撫でた。
「大丈夫だよ、アルフは実際、強い人だから」
「でも……」
「たしかに今回の件は、アルフにとってもそれなりにキツかったと思うよ? でも、僕はかえって、いいことだったんじゃないかって思ってる」
「……え?」
「たったいま莉音くんも言ったけど、アルフは強くて完璧な人間でしょ? それなのに、ここしばらくずっと元気がなかった。もちろん表立ってどうこうっていうことはまったくないし、いつもどおりに仕事もこなしてた。だけど身近に接する会社の人間は、なんとなく感じるところがあったんだろうね。そんな矢先にあの熱愛報道でしょ? 普段ならそんな失態、絶対に犯すはずがない人なのに。それでみんな、自分たちが一丸となって社長を守らなきゃ!って」
早瀬は楽しそうにクスクスと笑った。
「完璧で非の打ちどころがなくて隙がないのもいいけど、そういう人間らしい部分を見せたことで、社内での彼の評判はむしろ爆上がり。人間万事塞翁が馬ってね。それにね」
早瀬はそこで言葉を区切って、思わせぶりに莉音を見た。
「たしかに莉音くんのお祖父さんに言われたことは、アルフにとってキツいものだったかもしれない。でもそれ以上に堪えたのは、莉音くんを怒らせて泣かせちゃったことみたいだよ?」
「ぼく、ですか?」
「うん。自分に余裕がなくなって独断専行しちゃったせいで、なによりも大事にしてる莉音くんの気持ちを蔑ろにしちゃったからね。アルフがしょげてたのは、それが原因。そしてみんな、そんな彼にほだされてしまった、と」
まあそんなわけで、と早瀬は言いながら、涙が滲んでいた莉音の目もとを取り出したハンカチでそっと拭った。
「今回の件ではアルフ自身も深く反省して、自分なりに解決策を見いだそうと動いてるみたいだったから、僕らも黙って様子を見守ってたんだけどね。義母に了承を取ってくるってアメリカに行ってるあいだにあの騒ぎでしょう? なんか、こういうときにかぎって全部裏目に出ちゃうっていう悪循環で、僕もびっくりしちゃったよ」
「ソイチロー、ワタシ、それなんて言うか知ってる」
黙って話を聞いていたリサが唐突に言った。
「ヨワリメにアタリメ」
「惜しい!」
早瀬は残念そうに言った。
「アタリメだとお酒が美味しく進んじゃいそうだね。正しくは、『弱り目に祟り目』。でもすごいよ、リサ。もうそんな言葉までおぼえたんだね」
「ニホンに来て一年イジョウ経った。ワタシのニホンゴ、さらに進化中ね」
「うんうん、その調子で頑張って」
夫婦で微笑ましい掛け合いをしたあとで、早瀬はコホンと咳払いをして、ともかく、と話をもとに戻した。
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