ひろいひろわれ こいこわれ ~華燭~

九條 連

文字の大きさ
78 / 90
第10章

第2話(2)

しおりを挟む
「それに早瀬さんたちだって、今日のために東京からわざわざ飛んできてくれて、アルフさんに至ってはアメリカから帰国したその足でここまで……っ」
 並べていくうちに、周りの人たちからの好意に甘えすぎなのではないかと不安になってきた。
「どうしよう。僕、どうやって皆さんにお返ししたらいいか……」
「莉音」
 呼ばれると同時にやわらかく手を握られる。莉音は口をつぐんだ。

「大丈夫だ。茉梨花と桂木氏へのお礼の目処めどは、もうついている」
「え?」
「ふたりの披露宴は、うちのホテルが引き受ける」

 莉音は大きく目を見開いた。

「あ……、え? でも茉梨花さん、ご自分の家のホテルでされるんじゃ……」
「今回の件で、こちらが変に遠慮したり気を遣うことがないよう配慮してくれたんだろう。自分たちの挙式と披露宴は、婚約発表も含めてそっちでやらせてもらうから、この貸しはそこで返してもらえればいいと、あらかじめ言われていた」
 そう言ってヴィンセントは苦笑した。

「たった一日の準備期間でここまでしてもらったからには、こちらもそれなりに報いなければな」
 その際には、ぜひ一緒に考えてほしいと言われて、莉音はすぐさま了承した。

「宗一郎たちの件も気に病む必要はない。強引に呼び寄せたのは私の我儘だ。その詫びというわけではないが、宗一郎にはこのまま夏期休暇に入ってもらって、宿泊費と往復の航空券はこちらで持つことにする」
「でも……」
「それに今日は、武造さんたちのご厚意に甘えさせてもらっているらしい」

 言われた意味がわからず、きょとんとしていると、ヴィンセントは笑いながらタブレットと一緒にわきに置いてあったスマホを取り出して莉音に画面を見せた。途端に莉音は声をあげた。

「これっ!」
「ついさっき、宗一郎から送られてきた。どうやら、あちらはあちらで楽しんでいるようだ」

 そこには、見慣れた古い日本家屋の和室で満面の笑みを浮かべる早瀬夫妻と祖父母、お馴染みとなった田中家の人々の姿が写っていた。早瀬は祖父の甚平じんべいを、リサは浴衣を着ている。宗太は、祖父の膝にちょこんと抱かれていた。

「おふたりをお宅にお送りしたあと、そのまま今日の話で盛り上がっているうちに飲みはじめて、結局今夜は泊めていただくことになったらしい」

 上機嫌になった祖父が途中で田中家の人々を呼び寄せて、リサの寝間着がわりにと優子が浴衣を持参して貸してくれたのだという。小柄な祖母の服では、サイズが合わなかったのだろう。
 あまりに思いがけない賑やかなショットに、しばしポカンと見入っていた莉音はやがて笑い出した。

「すごい。まさかこんなことになってるなんて」
「すっかりみんなで意気投合して、宴会中だそうだ」
「おじいちゃん、まだ宗太くん抱っこしてる。昼間もずっと膝の上から離しませんでしたもんね。早瀬さんやリサさんとも、すぐに打ち解けてたみたいだし。僕のかわりに、おふたりにおじいちゃんおばあちゃん孝行してもらっちゃってますね」
「宗一郎も、念願だった帰省気分を味わえて満喫していると喜んでいた」
「早瀬さん、ご実家も東京でしたもんね」
「両親ともに東京の人間で、子供のころは夏休みや年末年始に家族で田舎に帰省する友達を羨ましく思っていたと言っていた」
「おじいちゃんたちも孫はずっと僕ひとりだったから、一度にたくさん孫が増えたみたいで嬉しいんだと思います。それにひ孫まで」

 早瀬とリサに挟まれ、宗太を抱いて満足そうに笑う祖父を見ながら莉音は笑った。そんな莉音の肩をヴィンセントは抱き寄せた。

「莉音との関係を修復できたことが、武造さんにとってなによりの喜びとなっているんだろう。だがそれは、私もおなじだ。ようやくおふたりに我々の関係を認めてもらうことができて、本当に嬉しい。莉音をなんとしてもこの手に取り戻したくて、またしても強引な手段に出てしまった」
 莉音のことになると、私はいつも平静ではいられない。ヴィンセントはそう言って、莉音の頬を愛しげに撫でた。

「さっき莉音は、今日のためにみんなに無理をさせてしまったと気にしていたが、茉梨花に相談を持ちかけたのも、宗一郎とリサを大分まで呼び寄せたのも私だ。なりふりなんて、かまっていられなかった」
「アルフさん……」
「莉音をあんなふうに傷つけて泣かせてしまってから、どうするのが正解だったのかずっと考えていた。そしてこれから、どうすべきなのかも」

 考えて考えて、起こってしまったことを取り消すことはできないのだから、それを上書きするための最善を尽くすことにした。

「結局また、独善的になってしまったことで多くの人たちを巻きこむ結果になった。だから莉音が気に病む必要はまったくない。すべて、私のしたことなのだから」
「そんなこと、ないです」

 莉音は頬に触れる恋人の手に、自分の手を重ねた。

「全然、独善的なんかじゃないです。全部、僕のためを思ってしてくれたことだから」

 そうしてまっすぐにヴィンセントを見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

36.8℃

月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。 ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。 近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。 制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。 転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。 36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。 香りと距離、運命、そして選択の物語。

処理中です...