爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

文字の大きさ
202 / 408

第201話 視察の旅 その5

しおりを挟む
 ロドリスとの話は続く。ロドリスは、話を終えるとコーヒーを飲んで一服している。コーヒーはまだ浸透はしていないが愛飲者が少なからず出てきているのだ。ロドリスはその一人で、僕が持参しているコーヒーを手渡すと泣くほど喜んでくれた。そのコーヒーを二人で飲んでいるのだが、ロドリスが恍惚とした表情で飲んでいるので話し掛けづらい。

 「ロドリス。実はな、二村での事業を見直すことにしたのだ。もともとは砦とラエルの街を結ぶ中継的な意味合いが強かったから、農業を専業で行おうとしていたのだが、漁村としての性質を伸ばしていこうと思うのだ。あそこには、船着き場としては最適な条件を備えているからな」

 「それはいいですな。そうなると、人手が足りなくなるでしょう。この街から五千人ほど移動させたほうがいいでしょうな。もっとも、こちらも鉱山開発と農業、それに物流のための人手が必要なので、五千人が限界だとなのですが」

 僕が、住民の移動の事を言う前に分かってくれたようだ。話が早くて助かる。僕も、もう少し人数が欲しいところだが、無理を言っても仕方がない。優先順位からすれば、この街の方が重要だ。それに、新たに加わる五千人で八千人もいれば十分に漁村としての開発を進めることが出来るだろう。船大工のテドと相談して、航路の開拓もせねばな。

 「実はな、二村にもう一つだけ産業を興そうと思っているのだ」

 これには、ロドリスも分からないと言った様子だ。僕が、牛の飼育だというと最初は何のことか分からなかったみたいだ。やはり、牛が浸透していないから、すぐには理解できないのだろう。僕が牛の飼育の目的を説明すると、なんとなく理解は出来たみたいだ。

 「それでな、牛は調達することは出来たのだが、残念ながら飼育に長けた者がいないのだ。それについてロドリスに聞きたいと思ってな。なにか、心当たりはないだろうか?」

 首を捻って、考えている様子だったがいい結果は得られなさそうだ。何を思ったのか、ロドリスが僕の視察のコースを聞いてきたのだ。僕は、これから砦に行き、その後は元ガムド子爵領に向かうため、北の街道を利用すると言うと、でしたら、と話を続けてきた。

 「今もいるかは確信はありませんが、北の街道を進むと山に囲まれた盆地に出ることが出来ます。そこでは、昔から牛の食肉として飼っていたと聞いたことがあります。そこでしたら、飼育に長けているものもいるかもしれませんな」

 ほお。さすがはロドリスだな。有益な情報を得ることが出来たな。牛についても重要だが、盆地が存在することのほうが重要だ。僕の頭を悩ませている問題があるからだ。それは、元子爵領にアウーディア石の効果を波及させることが出来ないからだ。子爵領は、公国内だが飛び地みたいな形になっているため、どの町や村からも距離がある。そのため、中継となる場所が必要となるが、北の街道は山道を切り開いたような道のため、中継地となる場所がないのではないかと、諦めていたのだ。

 ロドリスの言う盆地があれば、中継する場所としては申し分ない。そうすれば、元子爵領の食料の生産性を戻すことが出来るだろう。僕が喜色を浮かべ、ロドリスに感謝を告げると、まだ話の続きがあるのです、と興奮気味になっている。

 「牛の食肉文化がある変わった土地ですが、あそこは、王国内でも有数の鉱山地帯なのです。そのため、幾度となく北の街道の拡張工事が行われたのですが、結局は失敗に終わったため、十分に開発もされずに放置されていたのです。ですから、多くの鉱石が必要ならば、開発することをおすすめします」

 食肉文化は変わっているとは思わないが。この周辺は、鉱山がたくさんあるのだな。ルドが、東に王都を築くなら、この辺りだと言ったのは分かってきた気がする。優良な港になりそうな地形、見渡す限りの平地、近くに優良な鉱山。なるほど。たしかにこれほど都にするのに適した場所はそうそうなさそうだな。僕は村を出るつもりはないが、一考する価値くらいはありそうだな。公国の都を。

 結局、ロドリスとの会話は一日がかりのものとなった。夜になり、ルドとゴードンと合流した。ルドとゴードンは、実際に町並みを見てきたらしく、僕がロドリスとの会話で得られた情報と擦り合わせて、今後の街の開発について話し合うことにしたのだ。その時、僕は公国の都を作る話も出た。といっても、酒を飲みながら、長期的な話だったので夢物語みたいな話だったが。ルドとゴーゴンは、半ば本気のような感じだったが、僕にとっては、遠い未来の話だと思っているので、おもしろい話であったとしか思わなかった。

 翌日、僕達は砦に向かうべく街道を西に向かって進んだ。ミヤとシェラは二日間、飲み続けていたためか朝起きれないという失態をして、馬車の中に放り込まれた今も夢の中だ。砦と街までの距離は数キロメートルしかないため、すぐに到着することが出来た。

 僕の目の前には、砦があるのだが、砦というには少しお粗末な印象を受けるものだった。この砦は王国軍の侵攻を防ぐための最前線の防御施設だ。そのためには長大な壁を築き、侵入を防がなければならない。もっとも、王都に続く道は山に挟まれているので極端に道が狭いため、長大な壁を築かなくても、敵の侵入を防ぐことが出来る。そういう場所を選んでいる。

 しかし、目の間にあるのは防御するための壁はおろか、すぐにでも壊されそうな外壁があるだけだ。しかも、折角、道が狭い場所を選んだのだから、そこに壁を設置しなければならないのに、そのずっと手前に設置しているので、容易に侵入を許してしまう形だ。いくら、時間がないと言っても、狭くなった場所に壁一枚作るだけで違うだろうに。

 僕達はとりあえず、砦の中に入るために門に向かった。そこには、赤い髪を風になびかせて堂々と立っているライルがいた。威風堂々と言った感じだが、背景がこの砦ではなにやら違和感しかない。

 「ロッシュ公。よく来てくれた。ここまで砦を作ることが出来たぜ。これで王国軍が来ても、追い返してみせるぞ」

 まさか、この砦で完成しているというのではないだろうな? これは由々しき問題だ。僕はゴードンの方を向いて、愕然とした。ゴードンが感心したような顔をしているからだ。ルドもだと⁉ どういうことだ? もしかしたら、砦の中に何か秘密があるのか? 長大な壁ではなく落とし穴があるとか。そうでなくては、この地形を選んだ意味がない。

 しかし、落とし穴なんてどこにもないし、砦の中も滞在するための建物や武器庫などがあるだけだ。百歩譲って、敵が公国内に侵入しないで砦に張り付いてくれたとしよう。このレンガだけを積んだ壁でどれくらい凌げるというのだ? 一時間か? 二時間か? どうしてこうなってしまったのだ。僕は話がしたいと言うと、砦内にある会議室に行くことになった。

 「ライル。一体、これはどういうことだ? 砦の意味がまったくないではないか!!」

 「ロッシュ公、何言ってるんだ? まさに砦じゃないか。ゴードンさんだってルドベックさんもここが砦ではないと思っているのか?」

 ルドとゴードンは困ったような表情をしている。どうやら、ここを砦と思っていないのは僕だけみたいだ。これから、皆に僕の考えている砦の説明をすることになったのだった。 
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...