清朝の姫君:『川島芳子』は、ハッピーエンドです

あさのりんご

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第4章

さんざし飴(28P)<エピソード>

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 芳子は、応接間で、溥儀ふぎ夫妻と話しこんだ。清朝のラストエンペラー溥儀は、世の中の変貌を嘆き途方にくれるばかりである。彼が、電話の応対の為に席を立つと、芳子と婉容えんようの話がはじまった。
 
 婉容えんようは赤い山査子さんざし飴をつまみ、美味しいそうにめ始めた。山査子は、500円玉くらいの大きさのフルーツ。一本の串に飴がけされた山査子さんざしが5,6個刺さったお菓子は、見た目も可愛い。
 婉容は、甘酢っぱい小さな林檎のような果物をシャキシャキと食べながら、
「芳子さん?あなたがうらやましいわ。自由があるのですもの。
 私もあなたのような才能があれば、妻の座を捨てて何かやりたの。
 ……結婚なんて、つまらないだけよね」と、ため息まじりにつぶやく。
「第二夫人は離縁されたのですか?」
「ええ。彼女も、溥儀様との生活が耐えられなかったのでしょう。
 欧米では、王様でも、妻は一人ですもの。こちらの社交界では、第二婦人の彼女は認めてもらえなかったしね」
「たしかに。でも、清の風習に従えば皇帝は百二十一人の嫁をもらう事になっている……」
「ほほほ。なんて、おかしな風習なのでしょう。これだから、西洋人にバカにされるのだわ。ああ。私も離縁したい」

 婉容は帝を愛していない、と芳子は思う。私と同様、政略の為に結婚をしたのだろう。
「ははは。おっしゃる通り。僕は自由勝手にやっております。
でも、婉容様と僕とでは、お立場が全然違う。清朝発祥の地である、満蒙の三千万大衆が帝をお待ちしているのです」
「この頃、いろんな方が新国の元首になって欲しいと頼みに来るのよ。きっと、日本人が裏工作しているのだわ。ここでの生活は、日本政府が援助してくれているの。
 でもね。私、あの人達が、嫌い」
「婉容様のお気持ちは、わかります」
「そうよね。帝も”予は、その器ではない”とお答えになっているのに、しつこいの。私達は、ここで、静かに暮らしていたいの」
「じつは、私がここに参りましたのは、帝をお救いする為なのです。ここは、危険です。帝のお命を狙う暗殺者や、便衣隊の奴らがうろうろしている」
「たしかに。そうね。いつ、殺されてもおかしくないわ。先日も知っている方の名前で、豪華な果物籠が送られてきたの。帝が、蓋を開けたら、ドカンと爆発よ!怪我はなかったけれど、驚いたわ」
「とにかく、安全な所に移りましょう」
「そうね。それがいい。あの人は男のくせに決断力がないの」
「婉容様、どうか、帝を説得して下さい。お二人を、必ず安全な場所にお連れします」
「わかりました。任せてちょうだい。では、芳子さん?お手配、よろしくね」
 婉容妃は、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

 溥儀が戻ってくると、芳子は新国家の夢は日本と手を結べば、必ず実現すると熱心に説得した。血の繋がる親戚同士、真心は通じるものである。
 宣統帝の心が日本へ動いた。 
 ついに、時は満ちたのだ。復辟のチャンス到来。
 芳子は、天津を立ち旅順にいる板垣大佐のもとへ向かった。


 
 芳子が、旅順駅に着くと、霧が立ち込めていた。ロシア風の緑の駅舎がかすんで見える。迎えの車で関東軍司令部に着いた。厳めしい建物に入ると、不思議に心がはずむ。山家に会える?そんな思いがちらりと頭をかすめた。
 板垣大佐は、溥義が船で天津を脱出した後、旅順の元粛親王府を提供して欲しい、と訴えた。芳子は、その為の段取りをつける為、軍の要請で大連に来ている浪速のもとへ走った。
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