すべてはあなたを守るため

高菜あやめ

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4.晩餐会のトンデモ衣装

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 翌朝。殿下から晩餐会用の服と靴をプレゼントされた。
「君のイメージに合わせて、金色の生地で作らせたのだけど、どうかな」
 殿下の期待をこめた瞳に、服を広げた俺は絶句する。金色のテロっとした生地に、これでもかと縫いつけられた同色のレース……これってアレだろ、宴席の隠し芸とかで、大物歌手のモノマネやる時に着る衣装だよな?
(殿下の中の、俺のイメージって一体……)
 しかも殿下は、俺と色違いの服を着るとのたまう。コンビ組んで漫才でもやるつもりか。
(可愛くよろこんで差しあげるようにって、できるか!)
 あのクソ眼鏡に言われたセリフが頭によぎる。いやマジきっついわコレ。しかし雇い主の命令は絶対。俺は無理やり口角を持ち上げると、なんとか笑顔らしき表情を作ってみせた。
「わーい。俺こういうの着てみたかったんですよねー」
「気に入ってもらえてよかった。僕はこれから仕事だけど、夕方には迎えにくるからね。それに着替えて待ってて」
 殿下は麗しく微笑むと、迎えにきた近衛騎士と連れ立って部屋を出ていった。その場に残された俺は、衣装をそっと箱の中にもどす。
(俺、ちゃんと笑えてたよな。台詞はかなり棒読みだったけど)
 それにしても殿下は多忙だ。即位前にもかかわらず、すでに国王陛下としての仕事を任されているせいか、日中あまり顔を合わさない。
(やれやれ、朝っぱらから疲れたから少し休もうっと)
 殿下が仕事中は、近衛騎士が警護についている。なんでも近衛隊の隊長が専任で、はりついているらしい。さっき迎えに来たヤツがそうだ。
 そして仕事以外のプライベートの時間は、俺のターンだ。今夜は、このヤバめの服を着て、殿下をお守りするのだ。本気で着るのか、俺。
(今から気が重い……ま、これも仕事だ、仕事)
 ためしに着てみたら、わりと似合ってる気がした。国に帰れば、絶対笑われる案件。同胞にだけは見られたくない姿だ。

「素材がアレなわりには、と言いたいところですが、やめておきましょう」
 夕方。例の服に着替えたタイミングで、ワイダールの執務室へ呼び出された。なんの嫌がらせだろう、マジでこの恰好で廊下を歩きたくない。
 呼び出しの理由は、晩餐会の前の最終打ち合わせだった。けど結果、この衣装のお披露目会になってしまった。いやまあ、視線が痛いのなんの。
「しょせん赤猿は、赤猿以上に進化しませんね」
「なら、脱いでもいいですか」
「ご冗談を。殿下からのプレゼントを着る以外に、選択肢があるとでも?」
 選択の余地はないと思ったけど、ダメもとで言ってみた。ダメだった。
 あと実際着てみてわかったけど、ユニセックスなデザインだ。つまり女が着ようと男が着ようと、似合う奴には似合うし、似合わない奴には似合わない。ある意味、絶妙にやっかいな服だ。
(やっぱもう少し、かわいげがあってキレイな奴が、この任務につけばよかったんじゃないかな。俺じゃあ、どうしたって無理あるよな)
 親父も適当に仕事ふってくれたものだ。選ばれた理由が『年齢的に合いそうな奴が他にいなかった』らしいが、そんなことないだろう。そんなこと、ないはずなのに、俺が選ばれた理由は。
(いや、今さら深く考えるのは、やめておこう)
 ふとワイダールの視線に気づいて、俺はやけっぱちにクルリとターンしてみせた。
「進化はさておき、どうにか似合ってますかねコレ?」
「本気で聞いてますか?」
「いえ、冗談です。ところで、内輪の晩餐会って何人くらい集まりますか?」
「そうですね、まあざっくり百人程度でしょうか」
 予想よりもはるかに参加人数が多かった。聞けば『内輪』とは、どうやら国内でも王宮に出入りできるレベルの人たちって意味らしい。
「準備段階で、すでに四人の刺客を捕縛してます。開催中は、さらに捕縛できる確率が増すでしょう。こうした集まりは、悪だくみする連中をおびきよせる、絶好のチャンスになるものです」
 つまりこの晩餐会をのりこえれば、刺客の数もかなり減るってことだけは理解できた。
「でも俺、丸腰ですよね?」
「あなたに武器を持たせるわけにはいきません」
 やっぱ無理か。どうしてこう、かたくなに武器を持たせてくれないのだろう。殿下の安全面を考えても、装備してたほうがぜったい効率いいのに。なんなら刺客の捕縛も手伝えちゃうよ?
「代わりと言ってはなんですが、レイクドル隊長にも護衛についていただきます」
「へえ、俺一人じゃないんですね」
「まあ、晩餐会は仕事の一環ですからね」
 というわけで、今夜は二人体制で護衛につくことになったけど、俺がいる意味ないのでは。意味がないなら、晩餐会になんて出ずに部屋で待機したい。
(ところでレイクドル隊長って、俺の素性を知ってんのかな)
 するとワイダールは、まるで俺の考えを読んだかのように口を開く。
「当然レイクドルは、あなたの素性を知ってます。だからいざというときは、彼が対処します」
 なんだ、やっぱ俺いらないじゃん。マジで晩餐会なんか参加したくない。
「あのー、たとえば急な腹痛とかで、晩餐会をドタキャンすることって可能ですかね」
「可能なわけないでしょう。たとえ本当に腹痛があろうと、はってでも参加していただきます」
 ひでえ。
「でないと、殿下ががっかりされますからね。一応お伝えしておきますが、あなたをエスコートするのを、それは楽しみにされてますよ」
「へっ、殿下が?」
「ええ、その服を着たあなたを、ね」
 やっぱこの服は、どうしても着なくちゃならないみたいだ。晩餐会以上に、気が重い案件だ。
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