すべてはあなたを守るため

高菜あやめ

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9.傷あと

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 まさかこのタイミングで、敵意を持った連中に囲まれるとは思わなかった……と考えてしまうこと自体、俺がいつもより油断してた証拠だ。猛省しよう。
(よし、とにかく何とかしなくちゃな)
 敵の姿はまだ見えないが、ジリジリと間合いをつめられていくのは感じる。四人、いや五人いる……くりかえすけど俺、丸腰なんだよな。大丈夫かな。大丈夫にしなくては。
(なにか武器になりそうなものとか、落ちてないかな……)
 こまったことに、小枝一本すら落ちてない。素手で戦うしかないのか。本格的に焦りはじめたところで、俺ははたとあることに思い当たった。
(もしかしてコレ、紅葉狩りがはじまってる?)
 あまりにも俺の戻りが遅いから、痺れを切らした殿下たちによって、はじまっちゃったのかもしれない。
(お昼ご飯を食べてからはじめるんじゃなかったの? 俺のぶんのご飯、とっといてくれるかなあ)
 我ながら食い意地が張ってるけど、お腹好きすぎてエネルギー切れたらどうしよう。早く片付けないととばかり一人、二人と素早く敵をなぎ倒していく。相手の戦闘レベルは中の上か、上の下ぐらい。でも運動不足がたたったせいか、四人目を倒したところで、けっこう息が上がってしまった。
(あっ、ヤバ。足がすべった)
 フツーの、なんてことない地面で足をすべらせた俺は、派手にすっ転んでしまった。その隙を突かれて、相手は俺に飛びかかってきた。
「ぐうっ……!」
 そのままもみ合う形で、ゴロゴロと地面を転げ回る。なんとかマウント取りたかったのに、最終的に下敷きになったのは俺だった。もはやここまでか。
「すんません、俺の負けです」
「……」
「もう戦意ないですから、そこどいてもらえませんか……あっ、ちょっと……」
 なんと上に乗ってる覆面姿の男は、俺の首をしめてきた。わずかな隙間からのぞく双眸からは、明らかに殺意がこもった視線が向けられてる。なにかが、おかしい。
(もしかしてコレ、本気のやつ?)
 刺客か? だとしたらヤバい。なんとか相手を押しのけようともがくも、びくともしない。このままでは首をへし折られてしまう……と、あせったところで、とつぜん拘束が解かれ、体が解放された。
「ロキ、大丈夫か!?」
 咳きこむ俺を抱き起こしてくれたのは、あろうことか青い顔した殿下だった。どうしてこんな崖の下にいるんだろう。
「あの、紅葉狩りは?」
「そんなのどうだっていい。ロキ、ケガはないか? どこか痛むところは?」
 強いて言えば、足が痛い。
「ないです」
「……そう。服は……着てるね?」
 殿下はなにかを確かめるように、何度も俺の全身をながめた。そしてようやく気がすんだのか、今度はヒョイと抱き上げられてしまう。
「帰ろう」
「え、紅葉狩りは終わりですか」
「うん」
 硬い声に深刻さを感じた。後からわかったことだけど、この時どうやら殿下は、俺が不埒な輩に襲われてると勘違いしたらしい。

 その後、王宮へとんぼ返りした俺たちは、おどろいて出迎えた宰相補佐を尻目に、殿下の寝室へ直行した。
「さあ、傷をみせて」
 殿下は慎重な手つきで俺をベッドに下ろすと、枯れ葉まみれの赤いコートを脱がせてくれた。
「ロキ……本当に痛いところはないの」
「ありませんよ」
 俺の言葉に、殿下は一瞬苦しげな表情をみせた。そんな殿下を見てられず、俺は視線を周囲にさまよわせた。豪奢なベッドの四方には、レースのカーテンが下されていた。室内には殿下と俺以外の気配はない。
(この空気に慣れすぎると、のんびりしすぎて油断しちゃうな。気をつけないと)
 思えば殿下のまわりには、いつも敵の気配がなかった。王宮の警備が優秀なのか、レイクドル隊長が目を光らせているからか。とにかく今さらながら、自分だけ役に立ってない。
(そもそも現場復帰が遅すぎたから、体も勘も鈍ったんだろーな)
 このひとつ前の任務は、かなりハードモードだった。送りこまれたのは激戦地で、怒涛の半年を過ごした。結果、俺は脚を負傷して、任務半ばで国へ強制送還、入院を余儀なくされた。
 治療もリハビリも、巻けるだけ巻いて、なんとか職場復帰した最初の仕事がコレだった。俺たちの国では、戦えない者に未来はない。役に立たなくなって、お払い箱になった末路は惨めだ。多くの尊敬すべき勇者だのヒーローだの、そういった先輩方が、国からの恩給で酒浸りになり、身持ちを崩した例をたくさん耳にした。あんな末路はごめんだ。
「ロキ、上着を脱いで」
「えっ」
「首、けがしてるだろう? 見せて」
 たぶん見せないと、殿下は納得しないだろう。あれだけ強くしめられた首は、間違いなくアザになってるはずで、おそらくシャツの襟だけはかくしきれてない。俺は観念してシャツの前ボタンを外した。
「……ひどいな」
「この程度のアザなら、ニ、三日で消えますよ」
「首だけではない、こんなにたくさんの古傷が……」
 伸ばされた長い指が、首の下から腹の辺りまで、そっとなぞっていく。
「こんなに深い傷あともあるなんて……」
「完治はしてるんですけどね。気分悪くさせちゃったなら、すいません」
「そんなことない。むしろ礼を言いたいくらいだ」
「礼?」
「これほどケガを負っても、生きのびてくれたから……僕は君と出会えた」
 たしかに。生きのびたからこそ、今こうして殿下のもとにいる。
「出会ってくれて、本当にありがとう」
「そんなふうに言われたのは、はじめてです」
「そうか、僕がはじめてなのか。ふふ、なんかうれしいね」
 それにこんなふうにやさしく抱きしめられるのも、はじめてだ。
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