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◇
――次の日は春を思わせるような暖かな日差しが心地よい日だった。
凛風はいつものように東屋で待っていた春鈴の元を訪れ、そして申し出ていた。
「え、タンユエン凛風が作ってくれるの?」
「うん……。 魅音様が――あの多分、菫大臣に言われたみたいで……」
「そう、なんだ? ――凛風……なんかあった?」
話の内容は置いておいたとしても、どうにも挙動なおかしい凛風に首をかしげながらたずねる春鈴。
「あ……あの……魅音様に「春鈴は龍族と仲が良いから」って言っちゃって……ものすごく怒らせちゃって……――それでその流れで、あんまり仲良くするなって……」
そう言いながらも、まったく視線の合わない凛風に春鈴は少しだけ胸が痛んだ。
「……もしかして、だからタンユエン凛風が作ることになった……?」
「……の、かも」
「……もしかして私と仲良くするとやばい?」
その質問に凛風は大きく肩を震わせ、無理やり作ったような笑顔で答えた。
「――仲良くしてもいいけど――……家族はどうなっても知らない。 ……って言われた」
「うわー……」
「……ごめん」
眉を下げ申し訳なさそうにいう凛風に、春鈴は同じように眉を下げながら口を開いた。
「――しょうがないよ、他人より家族だし」
「春鈴……」
そう言って驚いたように顔を上げた凛風。
その瞳にようやく映った自分の姿が春鈴は無性に嬉しかった。
少しだけ優しい気持ちになれた春鈴は、自分の気持ちを押し込めて凛風のことだけを思い口を開く。
「凛風や家族が私のせいでひどい目に合うのなんか絶対ダメ。 ――私、凛風と友達になれて良かったと思ってるし、これからも友達でいたい……――だから私と仲良くしちゃだめだよ凛風」
悲しい顔にならないよう、気を付けながら笑顔を作る春鈴。
「……ありがと。 ごめんね」
うつむいてそう言った凛風は、その話だけで菓子に手を付けることもなく席を立つ。
東屋に残された春鈴は、立ち去っていくその後ろ姿をじっと見つめていたが、凛風が振り返ることは一度も無かったのだった。
――緑春祭前日の蒼嵐の離宮の厨房。
全てのかたずけを終え、明日のための準備も完璧に準備したその部屋で、ここの護衛を一晩中するという龍族たちと共に、最後となる確認をしている春鈴。
「えーと……ヨモギよし! 寒緋桜も大丈夫。 もち米も水につけてあるし……餃子のほうも――粉はたくさん、具材も器具も準備万端! ……食器は私じゃないんですよね?」
何度も確認したことだたが、作業のように春鈴はその質問を繰り返した。
龍族たちのほうも、少しの苦笑いと共に同じ答えを繰り返す。
「ああ、食器類は心配しなくていい。 きちんと盛り付けに間に合うように劉家から運ばれてくる」
「じゃあ――問題ありません!」
ふんすっと鼻息も荒く、大きくうなずく春鈴に、龍族たちも気合十分に頷き返す。
「そのようだな。 では春鈴は安心して休まれよ。 ここの守りは私たちが責任を持とう」
「――ここの護衛なのに……お疲れ様です!」
「はははっ 今回の場合、ここを守ることこそが蒼嵐様の――劉家のためだからな」
「そう、なんです……?」
「今年の劉家の出し物は、お前の料理こそが本命といえる」
「――すごく普通一般的な菓子なんですけどね……」
「……それが龍族にとっての普通ならば、当家の料理人たちがとっくに出来るようになっている」
「なるほど……?」
春鈴たちの視線の先では、料理長をはじめとした料理人たちが腕組みをしながら唸っていた。
「――手順はわかるんだよ。 ただ、どうしてあんな薄い皮であんなベタベタしたもんが包めるのか……」
「紅白の団子のときなんか、中にたれ入れてたもんな?」
「……ありゃ一種の妖術ですぜ」
(そんなわけは無いだよなぁ……――いや、なんならそういうカラクリを作れば、この人たちでも簡単に料理が出来る……?)
「――おおいに期待しているぞ」
厨房の入り口からそう声をかけたのは、優炎たちを引きつれた蒼嵐だった。
スッと頭を下げ、場所をあけるように後ろに下がる護衛の男と料理人たち。
ニコリと笑って出迎えた春鈴は、ぎこちなく拱手礼をして見せながら芝居がかった声色で答えた。
「できうる限り力を発揮させていただきます!」
そんな春鈴の態度に鼻を鳴らした蒼嵐は、片手でその手を下ろさせると、春鈴のやる気をさらに上げるため、分かりやすい報酬をその鼻先にぶら下げる。
「――祭がうまくいけば、お前が欲しがっていた長椅子を買ってやる」
これまでの付き合いで、春鈴がものに釣られやすい性格であることを、十分に理解していた。
「――あのふかふかのやつ⁉︎」
「ああ 羊族が作り上げた一級品だ」
「こっちに置いてあるめっちゃ手触り滑らかな方⁉︎」
さりげなく、最高品質のものをねだる春鈴。
蒼嵐はその要求にグッと言葉を詰まらせたが、無理やりうなずきながら口を開いた。
「……まぁいいだろう」
「――明日はものすごく早起きして頑張るねっ!」
蒼嵐の懐は多少傷んだが、春鈴のやる気を跳ね上げることには成功したようだった。
「――美羽蘭に似てきたんじゃないか? ――強欲ぐあいが」
「――光り物のためにめんどくさい人間なんか守っちゃう龍族には言われたくありませんわー」
「……それは同感だな?」
「……お互い様かも?」
顔を見合わせて同時に吹き出す二人。
周囲の者たちも、ニヨニヨと口を緩めてそのやりとりを聞いていたのだった。
(――さて、明日が本番! 長椅子のためにもしっかり休まなくちゃね!)
――次の日は春を思わせるような暖かな日差しが心地よい日だった。
凛風はいつものように東屋で待っていた春鈴の元を訪れ、そして申し出ていた。
「え、タンユエン凛風が作ってくれるの?」
「うん……。 魅音様が――あの多分、菫大臣に言われたみたいで……」
「そう、なんだ? ――凛風……なんかあった?」
話の内容は置いておいたとしても、どうにも挙動なおかしい凛風に首をかしげながらたずねる春鈴。
「あ……あの……魅音様に「春鈴は龍族と仲が良いから」って言っちゃって……ものすごく怒らせちゃって……――それでその流れで、あんまり仲良くするなって……」
そう言いながらも、まったく視線の合わない凛風に春鈴は少しだけ胸が痛んだ。
「……もしかして、だからタンユエン凛風が作ることになった……?」
「……の、かも」
「……もしかして私と仲良くするとやばい?」
その質問に凛風は大きく肩を震わせ、無理やり作ったような笑顔で答えた。
「――仲良くしてもいいけど――……家族はどうなっても知らない。 ……って言われた」
「うわー……」
「……ごめん」
眉を下げ申し訳なさそうにいう凛風に、春鈴は同じように眉を下げながら口を開いた。
「――しょうがないよ、他人より家族だし」
「春鈴……」
そう言って驚いたように顔を上げた凛風。
その瞳にようやく映った自分の姿が春鈴は無性に嬉しかった。
少しだけ優しい気持ちになれた春鈴は、自分の気持ちを押し込めて凛風のことだけを思い口を開く。
「凛風や家族が私のせいでひどい目に合うのなんか絶対ダメ。 ――私、凛風と友達になれて良かったと思ってるし、これからも友達でいたい……――だから私と仲良くしちゃだめだよ凛風」
悲しい顔にならないよう、気を付けながら笑顔を作る春鈴。
「……ありがと。 ごめんね」
うつむいてそう言った凛風は、その話だけで菓子に手を付けることもなく席を立つ。
東屋に残された春鈴は、立ち去っていくその後ろ姿をじっと見つめていたが、凛風が振り返ることは一度も無かったのだった。
――緑春祭前日の蒼嵐の離宮の厨房。
全てのかたずけを終え、明日のための準備も完璧に準備したその部屋で、ここの護衛を一晩中するという龍族たちと共に、最後となる確認をしている春鈴。
「えーと……ヨモギよし! 寒緋桜も大丈夫。 もち米も水につけてあるし……餃子のほうも――粉はたくさん、具材も器具も準備万端! ……食器は私じゃないんですよね?」
何度も確認したことだたが、作業のように春鈴はその質問を繰り返した。
龍族たちのほうも、少しの苦笑いと共に同じ答えを繰り返す。
「ああ、食器類は心配しなくていい。 きちんと盛り付けに間に合うように劉家から運ばれてくる」
「じゃあ――問題ありません!」
ふんすっと鼻息も荒く、大きくうなずく春鈴に、龍族たちも気合十分に頷き返す。
「そのようだな。 では春鈴は安心して休まれよ。 ここの守りは私たちが責任を持とう」
「――ここの護衛なのに……お疲れ様です!」
「はははっ 今回の場合、ここを守ることこそが蒼嵐様の――劉家のためだからな」
「そう、なんです……?」
「今年の劉家の出し物は、お前の料理こそが本命といえる」
「――すごく普通一般的な菓子なんですけどね……」
「……それが龍族にとっての普通ならば、当家の料理人たちがとっくに出来るようになっている」
「なるほど……?」
春鈴たちの視線の先では、料理長をはじめとした料理人たちが腕組みをしながら唸っていた。
「――手順はわかるんだよ。 ただ、どうしてあんな薄い皮であんなベタベタしたもんが包めるのか……」
「紅白の団子のときなんか、中にたれ入れてたもんな?」
「……ありゃ一種の妖術ですぜ」
(そんなわけは無いだよなぁ……――いや、なんならそういうカラクリを作れば、この人たちでも簡単に料理が出来る……?)
「――おおいに期待しているぞ」
厨房の入り口からそう声をかけたのは、優炎たちを引きつれた蒼嵐だった。
スッと頭を下げ、場所をあけるように後ろに下がる護衛の男と料理人たち。
ニコリと笑って出迎えた春鈴は、ぎこちなく拱手礼をして見せながら芝居がかった声色で答えた。
「できうる限り力を発揮させていただきます!」
そんな春鈴の態度に鼻を鳴らした蒼嵐は、片手でその手を下ろさせると、春鈴のやる気をさらに上げるため、分かりやすい報酬をその鼻先にぶら下げる。
「――祭がうまくいけば、お前が欲しがっていた長椅子を買ってやる」
これまでの付き合いで、春鈴がものに釣られやすい性格であることを、十分に理解していた。
「――あのふかふかのやつ⁉︎」
「ああ 羊族が作り上げた一級品だ」
「こっちに置いてあるめっちゃ手触り滑らかな方⁉︎」
さりげなく、最高品質のものをねだる春鈴。
蒼嵐はその要求にグッと言葉を詰まらせたが、無理やりうなずきながら口を開いた。
「……まぁいいだろう」
「――明日はものすごく早起きして頑張るねっ!」
蒼嵐の懐は多少傷んだが、春鈴のやる気を跳ね上げることには成功したようだった。
「――美羽蘭に似てきたんじゃないか? ――強欲ぐあいが」
「――光り物のためにめんどくさい人間なんか守っちゃう龍族には言われたくありませんわー」
「……それは同感だな?」
「……お互い様かも?」
顔を見合わせて同時に吹き出す二人。
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