34 / 55
34
しおりを挟む
◇
――春鈴が与えられた部屋。
寝支度を整えた春鈴が、部屋の明かりを消した瞬間。
――コツン。
と、どこかになにかが当たる音が聞こえた。
「なに……?」
春鈴は寝台横の台に置いてある角灯に妖術を使って火をつけると、それをガラス戸のほうに掲げながら、息をひそめ辺りの気配を探った。
少しの時間そうしていると、再びコツンと同じような音する。
「……さすがにこの時間のイタズラは無い……よねぇ?」
そう呟きながら、そろり……とガラス戸に近づいていく春鈴。
春が近いとはいえまだ肌寒く、歩くたびに部屋の中の冷たい空気が春鈴の足にまとわりついた。
音のしたガラス戸に近づき、その向こう――庭園に続く露台に角灯を向けて辺りを探る。
すると、ガラス戸に一枚の紙切れが差し込まれているのを見つける。
――明らかに怪しいその紙切れの存在に、どうすべきか少しの間迷った春鈴だったが、この紙を取るまでずっと付きまとわれる予感に襲われ、諦めたようにため息をつくと、しゃがみこんでその紙をシュルリと引き抜いた。
そしてその場でその紙を広げ、角灯で照らしながらそこに書かれた文字を読む。
「……うっそくさ……」
そこに書かれていた文字に、春鈴は思わずそう漏らしていた――
《春鈴助けて! 今すぐ南の森近くの大きな木――初めて話したあの場所に来てほしいの! あなたにしか頼めない。 どうか私を助けて! 凛風》
(……確実に凛風の字じゃないんだよなぁ……――万が一、凛風が書いたんだとしても、こんなことする意味が分からない……メモ置きに来たのが凛風なら、ついさっきまで物音立ててたのは誰? 凛風だったらそこで声かけるべきでしょ……)
春鈴はチラリと外を伺うが、凛風どころか確実にさっきまでいたであろう人物の気配すら感じられなかった。
(でも……これ、無視して大丈夫かなぁ……? ――どう考えたって魅音が絡んでるでしょ……? その場合、式飛ばしちゃうと今でも私と凛風がやり取りしてるって凛風の立場が悪くなりそうだし……)
「これの対処法厄介過ぎない……? ――だってあのイカレ女だったら「春鈴が助けにかなかったのが悪いのよ!」とか言って本当で凛風にヒドイことするまであるよ……?」
春鈴は頭を抱えるように額に手を当て、ううん……と、唸りながら頭を悩ませた。
(――結局、凛風でいるのかどうかなんだけど…… 式飛ばさなくても無事かどうか確認する方法ってある……?)
しばらく、唸りながら悩んでいた春鈴だったが、足元から冷えていくその感覚に決意を決めた。
――昼間は暖かな日が増えたとはいえ、未だ春になれきれていないこの時期、夜ともなれば白い息を吐く程度には冷え込む。
魅音の気まぐれにより、凛風があの場所で一晩放置されるようなことがあれば、万が一があるかもしれない……彼女は龍脈の気に当てられてしまう純粋な人間なのだから……
――そんなことを考えながら、春鈴は初めてできた同年代の友人の安全を確保しなくては……! と、この誘いに乗ることに決めた。
「――確実にアイツの嫌がらせだけどねー……」
外套を着込みながら春鈴はボソリと呟く。
そして春鈴は机から一枚の紙を取り出すと、印を結んでその紙を口に押し当てた。
そして蒼嵐宛の式を作り出す。
《魅音の侍女、凛風から助けを求める手紙が届いた。 念のため様子を見にいく。 場所は最初の夜に浩宇と出会った場所近く》
春鈴が言い終わると、その紙は薄ピンク色の蝶に姿を変え、ヒラリヒラリと廊下へ出て行った。
その姿を見送った春鈴は、角灯を持ったまま凛風が待っているはずの木の下へ急いだ。
――春鈴が与えられた部屋。
寝支度を整えた春鈴が、部屋の明かりを消した瞬間。
――コツン。
と、どこかになにかが当たる音が聞こえた。
「なに……?」
春鈴は寝台横の台に置いてある角灯に妖術を使って火をつけると、それをガラス戸のほうに掲げながら、息をひそめ辺りの気配を探った。
少しの時間そうしていると、再びコツンと同じような音する。
「……さすがにこの時間のイタズラは無い……よねぇ?」
そう呟きながら、そろり……とガラス戸に近づいていく春鈴。
春が近いとはいえまだ肌寒く、歩くたびに部屋の中の冷たい空気が春鈴の足にまとわりついた。
音のしたガラス戸に近づき、その向こう――庭園に続く露台に角灯を向けて辺りを探る。
すると、ガラス戸に一枚の紙切れが差し込まれているのを見つける。
――明らかに怪しいその紙切れの存在に、どうすべきか少しの間迷った春鈴だったが、この紙を取るまでずっと付きまとわれる予感に襲われ、諦めたようにため息をつくと、しゃがみこんでその紙をシュルリと引き抜いた。
そしてその場でその紙を広げ、角灯で照らしながらそこに書かれた文字を読む。
「……うっそくさ……」
そこに書かれていた文字に、春鈴は思わずそう漏らしていた――
《春鈴助けて! 今すぐ南の森近くの大きな木――初めて話したあの場所に来てほしいの! あなたにしか頼めない。 どうか私を助けて! 凛風》
(……確実に凛風の字じゃないんだよなぁ……――万が一、凛風が書いたんだとしても、こんなことする意味が分からない……メモ置きに来たのが凛風なら、ついさっきまで物音立ててたのは誰? 凛風だったらそこで声かけるべきでしょ……)
春鈴はチラリと外を伺うが、凛風どころか確実にさっきまでいたであろう人物の気配すら感じられなかった。
(でも……これ、無視して大丈夫かなぁ……? ――どう考えたって魅音が絡んでるでしょ……? その場合、式飛ばしちゃうと今でも私と凛風がやり取りしてるって凛風の立場が悪くなりそうだし……)
「これの対処法厄介過ぎない……? ――だってあのイカレ女だったら「春鈴が助けにかなかったのが悪いのよ!」とか言って本当で凛風にヒドイことするまであるよ……?」
春鈴は頭を抱えるように額に手を当て、ううん……と、唸りながら頭を悩ませた。
(――結局、凛風でいるのかどうかなんだけど…… 式飛ばさなくても無事かどうか確認する方法ってある……?)
しばらく、唸りながら悩んでいた春鈴だったが、足元から冷えていくその感覚に決意を決めた。
――昼間は暖かな日が増えたとはいえ、未だ春になれきれていないこの時期、夜ともなれば白い息を吐く程度には冷え込む。
魅音の気まぐれにより、凛風があの場所で一晩放置されるようなことがあれば、万が一があるかもしれない……彼女は龍脈の気に当てられてしまう純粋な人間なのだから……
――そんなことを考えながら、春鈴は初めてできた同年代の友人の安全を確保しなくては……! と、この誘いに乗ることに決めた。
「――確実にアイツの嫌がらせだけどねー……」
外套を着込みながら春鈴はボソリと呟く。
そして春鈴は机から一枚の紙を取り出すと、印を結んでその紙を口に押し当てた。
そして蒼嵐宛の式を作り出す。
《魅音の侍女、凛風から助けを求める手紙が届いた。 念のため様子を見にいく。 場所は最初の夜に浩宇と出会った場所近く》
春鈴が言い終わると、その紙は薄ピンク色の蝶に姿を変え、ヒラリヒラリと廊下へ出て行った。
その姿を見送った春鈴は、角灯を持ったまま凛風が待っているはずの木の下へ急いだ。
0
あなたにおすすめの小説
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる