【完結】龍王陛下の里帰り

笹乃笹世

文字の大きさ
46 / 55

46

しおりを挟む
(……その石……?)
 そして帆はその首飾りを手に取るとブチリと引きちぎりながら紫釉へと近づいていく。
 細い鎖を手に巻き付ける帆の表情は春鈴には見えなくなってしまったが、その背中が紫釉を全力で警戒していることぐらいは分かった。
 
 そんな帆の後ろ姿を見つめていた春鈴は、昨夜のガボクとの会話を思い出していた――

『……そういえば、石宝族って覚えてるか? 龍族に村潰されたってうわさの……』
『ああ、呪いで人王様を病気にしたっていう……』
『――ここにも何人か入り込んでるみたいだぞ』
『……襲撃仲間の中にいたってこと?』
『いや働いてるっぽかったな』
『……ほんとぉ? なんで分かったの?』
『本当だって! 実はあいつらを見分けるのにコツがあるって教えてもらったんだよ』
『――コツ?』
『全員、蛍色に光る石ぶら下げてんだとよ。 あ、普段は白っぽい石なんだけどな?』
(――蛍色に光る石ー⁉︎)
 
「――やめてっ!」
 春鈴は後ろから帆に体当たりをするように押しのけると、そのまま紫釉との間にその身体を割り込ませた。
「っ春鈴様……?」
 戸惑うような声を上げた帆を睨みつけながら、春鈴は混乱する頭を必死に回転させていた。
(……えっ⁉︎ この人はなに⁉︎ 凛風みたいに龍族のふりしてる人間なの⁉︎)
「っちょっと! ぶっ倒れてる場合じゃ無いんだけど! 起きてっ!」
 春鈴は印を結びながら紫釉に向かって大声を出す。
(蒼嵐……! 助けて!)
 そして一匹の桃色の蝶の形をした式を出現させると、短い伝言を持たせてすぐさま飛び立たせた。
 帆はそれを怪訝そうな顔で見つめていたが、すぐに興味をなくしたように倒れ伏した紫釉に視線を向けた。
 春鈴はその視線を遮るように身体を移動させると、ゴクリとつばを飲み込んで帆を見据えた。
 眉をひそめた帆と目が合いビクリと肩を震わせる春鈴だったがグッと力をこめてその場に踏みとどまる。
「――ぅあ……」
 その時、床に崩れ落ちている紫釉の口からうめき声がもれ、ギシギシと音を立てながら身体を起こしているのが分かった。
「起きた⁉︎ 起きたのね⁉︎ ならここから逃げるわよ!」
「なっ⁉︎ お待ちください危険です! その姿は暴走の兆し! 早くこちらを‼︎」
 春鈴の言葉に慌てた少年はそう言いながら、紫釉に向かって手を差し伸べながら懇願するように言う。
(もっともらしいこと言いやがって……)
 その手をジッと睨みつける春鈴。
 良く分からなかったが、帆が手に持つ石を紫釉に近づけようとするならば、それをさせてはいけないんだろうと考えていた。
「どいてください! ――貴女を傷つけてしまったら紫釉様は戻れなくなるっ!」
 紫釉に近づくのを阻止しようと動く春鈴に焦った帆は、春鈴を捕まえようとその腕に手を伸ばした。
「――殺そうとしたくせにっ!」
 春鈴は後ずさりながらもその手を払いのけ、怒鳴るように言い返した。
「……はぁ⁉︎ 何を馬鹿なことをっ! 暴走龍の恐ろしさを知らないのですか⁉︎」
(暴走龍の恐ろしさ――……やば……大爆発するんじゃなかった⁉︎ ――でもどうしよう、どいたら紫釉様殺されちゃう……いや、ここで殺したら私まで口封じされるんじゃ――⁉︎)
「――ちょっと聞いてる、そこの変態龍!」
「へ――っ⁉︎」
 背後から衝撃を受けたような紫釉の声が聞こえてきた。
「あんた私の目が好きなのよね⁉︎ 私の目が欲しいんでしょ⁉︎」
「あ、ああ……?」
「あんたが爆発したら木っ端微塵だからね! あんたの月バッラバラのひき肉状態だからねっ!」
「ば……ばらばら……?」
「それが嫌だったら気合い入れて暴走すんじゃないわよ⁉︎」
「ああ……」
「――ついさっき、私を守るって言ったよね⁉︎ だったら気合入れてしゃんとしなさいよ⁉︎」
「――……月光? ――っあ、あぐぅっ……あああああっ!」
 背後から聞こえる、紫釉の苦しそうな唸り声がどんどん大きくなっていく。
「――早く逃げてください⁉︎」
 帆は顔色を悪くしながらも春鈴に向かって必死に言うが、紫釉の様子に暴走の危険を感じてそれ以上近づけないようだった。
(――ばっちゃ……!)
 春鈴は胸元のお守りをギュッと握りしめ、祖母のことを思い自身を奮い立たせる。
 
――そして祖母に言われた言葉を思い出していた。
『――龍族に酷いことをされそうになったら、それでぶっ刺しておやり!』
 
(――……さすがに刺せないけど……)
「これあげるからっ!」
 春鈴は紫釉のそばにしゃがみ込むと、自分の頭からかんざしを引き抜き、鋭い爪が伸びはじめている紫釉の手にそのかんざしを握らせた。
「ぐうっ……あっ……――あっ、ぁ……? 私の月……?」
 かんざしを握りしめ、少しだけ自我を取り戻した紫釉に春鈴は再び声をかける。
「月でも星でも何でもいいからしゃんとしてっ! 爆発してる場合じゃないの!」
「――月の君……私の月光。 ――ここにいたんだね?」
 紫釉はうっとりとした声を上げて、かんざしにほおずりしながら大きく息をついた。
(――私はずっとここにいたんですけどねー⁉︎)
 思わずジロリと紫釉を睨みつけた春鈴だったが、両手で握りしめたかんざしを大切そうに胸に抱きしめる姿に毒気を抜かれた。
 次の瞬間――
 紫釉が抱きしめたかんざしが、ぽぅ……っと輝きはじめ紫釉の周りにふわりふわり……と蛍のような光がいくつも舞い上がり始める。
「え……蛍……?」
 なぜそんなことが起こったのか分からず、少しな間呆然とその光景を見つめていると、その無数の光に包まれじわじわと元の色に変ってゆく紫釉がいた。
そして――
 大切そうに抱きしめているその胸元のかんざしがより一層強く光り輝いていた。
 なぜ……? と疑問に思っているとかんざしの組紐飾りがシュルリ……と解け、その中から黄緑色に光り輝くとても大きな石が姿を現したのだった――
「――え……?」
(なんで? なんでその石がかんざしに……? ……え、でもこの石って龍族呪っちゃう人たちが持ってる石なんでしょ? ……あの大臣そんなこと言ってたじゃん! この石持ってたら全員仲間だって……――え、どういう事なの⁉︎)
「し……紫釉様! 良かった……本当にっ!」
 混乱する春鈴の隣を駆け抜け紫釉に縋りついた帆は、その目に涙を浮かべながら紫釉の色が元に戻ったことを喜んでいた。
「――心配を……かけたな?」
 少し咳き込みながらも、身を起こし笑顔を浮かべている紫釉。
(――待って? この帆って人は石宝村の関係者。 だって石を持ってるから。 ――でも完全に龍族で……いや、でも石を持ってるなら……石宝村の人……? ――ってことはやっぱり……)
「……人間?」
 春鈴は頭の周りに疑問符をたくさん飛ばしながら、どう見ても龍族にしか見えない帆を見つめながら首を傾げる。
「――春鈴様は、だいぶ考え違いをなさっているようで……」
 帆は涙をふきながら、困ったように苦笑いを浮かべながら言った。
「……帆は私の遠縁の者でね。 まだ若いがなかなかに優秀な子なんだよ?」
「え、親戚……?」
「ああ。頼りになる子なんだ」
(――つまりは正真正銘の龍族で……?)
「――春鈴、このかんざしは……本当に貰って構わないのだろうか……?」
「え、あー……うん。いいよ」
(あげるから爆発しないでって言ったのは私だし……――ちょっと惜しいけど……ここで爆発されるより全然マシ、だよね……?)
「――ありがとう……これがあれば、もう暴走なんて起こさない気がするよ」
 そう言った紫釉が再びかんざしを撫でると、ポウ……とかんざしが蛍色の光を出現させる。
「――そういえばなんであのかんざし……?」
(……――あれはばっちゃがくれたお守りなんだから、その石だってばっちゃが用意したもので……つまりは――ばっちゃまでもが、石宝村の……⁉︎)
 混乱する春鈴の耳に紫釉の感心したような声が届く。
「ああ……このかんざしにも星雫石が使われていたのか……――なるほど、正真正銘の春鈴のお守りだったのだな……」
(えっ……? じゃあ危ない時に使えって、石宝村の人たちに殺されそうになったら、これを見せてアピールしなさいねってこと⁉︎ わかりにくいにもほどがある⁉︎ 私半分くらい本気で刺して使うもんだと思ってたよ! これ本当に刺してたら「本気にするやつがいるかい!」っ怒られるやつじゃん……!)
「――新しいものはすぐに用意するゆえ、少し待っていておくれ?」
「あ、はい……――紫釉様も宝石商から買えるんです……?」
(……この帆って人と親族で、すぐに用意できるってことは……――やっぱりあの大臣と話してた宝石商に用意してもらうってことだよね……? 特別な人にしか売らない石だって聞いてますけど⁉︎)
「いや……この石はもう売られてはいまい……――取り尽くしてしまったからなぁ……」
 聞こえてきた言葉に春鈴の動きがピタリと止まる。
「……え?」
 
『龍族のせいで村を取り上げられた一族がいる――』
 
(――そうだよ……その村の石を欲しがってたのは龍族で……――つまり、取り尽くしたほうの人だあぁぁっ!)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...