魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

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第108話 暴虐

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『モウ、ユルサナイ…』

 目の前の男は俺の『敵』だ。殴ったり叩いたり、『壊し』ても良い存在だ。ならば『そう』しない理由は無い。

 怒りが俺の全ての感情を飲み込む。少しでも油断するとその『怒り』で俺自身が灼き尽くされてしまいそうな程に。
 その思考を最後に俺の意識はプツリと途切れてしまった……。

 ☆

 …今、俺の目の前には「かつて新井だった物」としか表現できない肉塊が横たわっている。

 体中の関節は逆方向に折られ無理やり表現するなら「土下座した姿勢から首を真後ろに回転させた」形だ。

 奴の右腕は肩から、左腕は肘から捻り切られ身体と分離し、それぞれ数m先に無造作に放り投げられている。

 恐怖を張り付けたまま真後ろを向いた顔は、左目が抉られ前歯が4~5本欠けていた。

 これを俺がやったのか…? いや、間違いなく『俺がやった』。行動を起こした『意思』は俺の物では無かったが、俺の目はその惨劇の全てを間近で目撃しているのだ。

 ゆっくりと状況が思い出されてくるが、その光景はハッキリと記憶に残っている。目の前の『これ』は夢や幻などではなく、れっきとした現実だ。
 
 俺の身体は俺では無い何者かに乗っ取られて、子供がオモチャをもて遊ぶ様に、いとも簡単に新井の息の根を止めて見せた。
 それはまるでVRで映画を観ているが如く、現実と切り離された様な不思議な気分だった……。

 ☆ 

 俺の背中の剣に手を掛けて抜こうとする新井、死にかけた俺に対する警戒度はゼロのまま薄笑いで手を伸ばしてくる。

 俺の『身体』は新井のその動きに対し、勝手に応じて奴の腕を掴む。まるで哀れみや慈悲を求めて縋り付く様に。

「はっ! 死に損ないが無駄な抵抗しやがってよ!!」

 右手を掴まれた新井は、「よ!!」のタイミングで、残った左手で俺の顔面を殴打するべく大きく振りかぶり、俺に向けて振り下ろした。

「ギャァァァッ!!」

 しかし悲鳴を上げたのは新井の方だった。振りかぶられた拳が俺に到達する前に、奴を掴んだ俺の左手が、奴の右手首を握り潰したからだ。

 痛みに対する防衛本能から右手を抜こうとする新井だったが、その渾身の力に引かれる形で俺は立ちあがり、そのまま反動を付けたパンチを… いや『人差し指』を新井の左目に突き立てた。

 ズボッ、と言う耳障りする音と共に、再び新井の絶叫が決闘の野原に響き渡る。
 生涯イジメられっ子だった俺だが、さすがに目玉を抉られた経験は無い。他人事ながら『痛そうだなぁ』とは思ったよ。

 右手と左目を潰された新井は更にパニックに陥り、大声で意味の無い事を喚きながら俺から離れようともがき出す。

 だが奴の右手は相変わらず俺に拘束され、左手は潰れた左目に添えて痛みと恐怖に耐えるのに精一杯だ。

「離せ… よっ!!」

 両手が使えなければ次は足だ。新井は俺から離れようと、左足からの上段蹴りを繰り出してくる。

 だがそんな苦し紛れの蹴りが当たる訳は無い。俺はその足を空いた右腕で受け流し、そのまま奴の脚ごと上に持ち上げた。
 当然新井はバランスを崩して、背中から仰向けに倒れるのだが、地面に倒れ込む瞬間に俺は奴の顔面に上から拳を叩き込んだ。

 その攻撃で何本かの前歯が損傷し、新井の表情は『恐怖』の一色に染まり切る。

「ま… 待って… マジて、止めてふれぇ…」

 歯が欠けてうまく発音出来ないのか、間の抜けた言葉で命乞いをしている。先ほどの俺はここで仏心を出してしまったが、今度はどうかな?

 俺の『身体』は新井の言葉など聞こえなかったかの様に、奴に跨ったマウントポジションで二度三度と殴打を繰り返していた。

「お、俺を殺ひたら、包帯男の事は聞けなくなるぞ? ほれでも良いのか…?」

 マウントで殴られながらも抗弁する新井だが、俺の攻撃の手が止む事は無い。ガドゥの情報を得る為には、この辺で手を止めて生かしておいた方が良いんだけど、今俺の身体は俺の制御下に無い。どうなっちゃうんだろ、これ?

 やがて命乞いすらも諦めたのか、或いは気絶してしまったのか、新井の動きが完全に止まってしまった。まだ微かに息はあるみたいだから、助けるなら今がラストチャンスだと思う。

 俺の『身体』は、新井の上から立ち上がり、両手で新井を首から吊り上げる様に持ち上げる。
 そして新井の体が直立するかどうか位のタイミングで、大きな骨の外れる音を鳴らして新井の首を前後180度真後ろに捻って見せた。

 これで新井は「死んだ」。誰がどう見てもここで「終わり」だ。

 だが俺の『怒り』は気が済んでいなかったらしく、新井を両手で持ち上げたまま、力無くぶら下がった彼の脚を蹴り始めた。

 膝や脛を蹴り上げ、足を折って『もう死んだ』男の体を激情に任せて『破壊』している。
 遂にはその両腕を引き千切り放り投げ、残った体をメンコ遊びの如く地面に叩きつけた。

 捕食の為に獲物を狩る猛獣ですら無い。全くもって破壊衝動に突き動かされただけの悪鬼羅刹の所業だ。まぁやったのは俺なんだが……。

 あと新井に金魚の糞の如く付き従っていたチンピラ達は、俺が新井の首を折った辺りで完全に戦意消失し、その後の新井の『解体ショー』を呆然と見送っていた。

 やがてそのうちの1人が正気を取り戻したのか、叫び声を上げてこちらに背を向けて一目散に走り出し、残りもそれに追従し散り散りに逃げて行った。 

 と、ここで俺の意識が戻って冒頭のシーンになる訳だが、我ながら何が起きてこの様な事が起きたのか分からない。
 分からないが、まず間違いなく俺の『怒り』がスイッチとなって、俺の中の『暴虐神』が顕現したのだと思う。

 新井も暴虐神の加護を受けていたはずだから、暴虐神の力を持つ者同士の戦いで俺が勝利した、というだけの話なのかも知れない。

 だが今更ながら自分のコントロール出来ない力に翻弄される恐ろしさも感じる。
 だって俺が乗っ取られていた間、魔剣を抜いていないからね。素手で強化された人体を肉塊に変えているからね。

 これが俺の『暴虐』の力なのだ……。

 今までの戦い、苦戦はあったものの、魔剣パワーのおかげで今日ほどの『怒り』や『絶望』を感じた事が無かった為になかなか表層化しなかったが、まぁ使い勝手はお世辞にも良さそうには思えない。

 ピンチの際に変に暴走して味方を巻き込んだりしたら意味が無いからな。この力は封印し、もう使わない方向で考えておこう……。

 ☆
 
 大体の自己分析が終了して気持ちを落ち着けた次の瞬間、新井の死体から何か細い煙の様な物が立ちのぼる。

 放っておけばそのまま消え入りそうな細い細い煙……。

 何だか既視感があるな…? そうだ! 確かベルモの森で『蛇』を退治した時に出てきた『蛇の魂』だ。そう言えばあの『蛇』も自らを「暴虐神ガラドの下僕」だと言っていた気がする。

 目の前の細い煙は『新井の魂』なのかな? 『蛇』の時も奴の力を吸い取って、俺はパワーアップしたんだよな。それならば今回も…?

 俺は予感に導かれる様に背中から魔剣を引き抜き、星明かりのまたたく夜空に高く掲げた。

 すると案の定、新井から立ちのぼった煙は俺の剣へと吸い込まれていく。そして『蛇』の時と同様、俺の体中に邪神の力が満ち満ちていく。

 それにより新井に刺された致命傷は完全に回復し、他の傷も含み俺の体力ヒットポイントは全快した。

 そうだよ、この回復が無かったら、俺も絶対にこの場で死んでいたよね。マジで今回はヤバかったわ……。

 前回の『蛇』の時の様な無敵感や爽快感は湧いてこなかったが、無事に命を繋げただけでも御の字だろう。

 何より色々な意味で俺のトラウマを刺激する『新井』という存在を、自分の手で滅する事が出来た達成感は、暴虐神の存在とは別に俺の心を満たしてくれていた。
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