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第2章・婚約破棄は新たなる珍事を招く。
二者択一すべき時。
しおりを挟むうわー。ローズマリーにレイシス王子だけかと思ってたら、魔術師団長(仮)と騎士団長(仮)まで居るよ。これだけいたら騒がしいわよ。でもユリウスは居ないのね?
ん?何だか頭悪そうなヤツも居るな。あれは誰だろう?
「何を側室腹の姫が偉そうに!私は次期王だぞ!まあそんな生意気を言えるのも今の内だ。貴様への結納金で、コイツらも少しは生き長らえるだろう。お前の忍耐にコイツらの飯がかかってるんだ。若い娘が好きらしいから楽しみにしとけ!ローズマリー行くぞ!」
「お兄様!私にはブライアン様が!」
「煩い!あんな若造より彼方の方が金が有る。しかも死ねば莫大な遺産も手に入る。死んだら貴様を再婚させる。更に結納金が入るわ!お前など王家の血筋しか取り柄が無いのだ!少しは役に立て!レイシス!そいつを黙らせろ!先に行くぞ!」
・・・・・。
・・・・・。
「お兄様…。」
「すまない…。」
あーあ。修羅場だよ。しかしレイシス王子は情けないな。少しはピシッとしやがれ!
「はーい。皆さんこんにちは!本日の献立は何ですか?固い黒パン2個に野菜スープですか?あら?このスープには具が無いわよ?ではでは私が魔法をかけちゃいましょう。取り出したるは魔法の調味料に、不思議な野菜。これらをスープにポチャンと入れまーす。再度火にかけ、グールグルとかきまぜたら出来上り!あらこれは?ビックリ具沢山に早変り!」
辺りにふんわりと、優しいクリーム煮の良い香りが漂い始めます。匂いに釣られて集まる人々。そこへリーダーと、合流したグレイシー様が現れ、更に調理をはじめます。勿論こちらもコメコメ大商会の調味ソルト使用。ウサギの丸焼きです。その脇の大鍋では更に、小さめにカットしたお肉を、グツグツと煮込んでいます。
こんがり焼けたウサギは、次々と切りわけられていきます。千切りにされたお野菜と共に、次々と大皿に盛り付けられます。柔らかく煮込んだお肉にはお米を加えおかゆモドキに。玉子でふんわりとじたらできあがり魔の森で採取した果物も切り分けられます。
「皆さん!黒パンはクリーム煮に浸して食べると柔らかくなります。黒パンにこちらのウサギ肉とお野菜を挟み、食べても美味です。お肉は食べやすく串焼きにもしてます。色々なお味が有りますので楽しんで食べて下さいね。足りなければ焼きますので、遠慮なく食べて下さいね。」
周囲がガヤガヤと騒ぎ始める。たしかにそうよね。お肉が気になるわよね。
「このお肉は魔の森で討伐された魔物のウサギを調理した物です。どうしても無理な方はスープをどうぞ。こちらのクリーム煮には入っていません。」
わぁっとスープ煮の鍋の周囲に群がる人々。あっと言う間に無くなる。味を変えながら、追加のスープを作って行く。お肉には誰も寄ってこない。遠目にチラチラ見るのみ。やはりかなり洗脳されてるわね。ひと息ついた所で、私とリーダーとグレイシー様も昼食を戴く。パンにお肉を挟んだ、照り焼きラビットバーガーにスープ煮。勿論串焼きも戴く。しかしこの調味ソルトは絶妙よね。これを刷り込むだけでめちゃ美味になるんだから素晴らしい!モグモグごっくん。
うん。うんまーい。
沢山の視線と喉を鳴らす音が聞こえる。子供達が食べたそうに見ている。しかしこちらからは言い出せない。押し付けになってしまう。誰か勇者は居ないのか?
「すまない。話を聞いても良いだろうか?」
振り向くとレイシス王子がいた。
「はい?何でしょうか?」
レイシス王子は意を決した様に言う。
「その肉は魔物だと言ったが、食べて大丈夫なのか?」
「さあ?私達は皆食べてますよ。畜産出来る動物が少ないのです。食べられる魔物を食べて何がいけないのでしょう。勿論、毒性の有る魔物は食べませんよ。魔物を食べたら襲われる?魔物に理性は有りません。食べようと食べまいと、出会えば襲われます。ならば食べても襲われぬ様に対策を立てるべき。食べずに餓死するのと、どちらが現実的でしょうか?」
・・・・・。
「美味しいですよ。因みに魔の森には貴重な薬草なども生えています。それらは資源です。この国以外は合同で討伐隊を出したりと協力しあい、資源を有効的に使用しています。素材が多分2度と手に入らぬと思われる、万能薬もつい先日調剤されたんですよ。」
!!!!!
「あの幻の万能薬がか!?」
「はい。」
私が遺跡から脱出した際に乗っていたポット。その中で意識を落としていた私に降り注いだという、萎れない沢山の花びら。それの調剤レシピ。みてビックリ。それはどんな病でも治癒出来ると言う、幻の万能薬のレシピだった。しかし萎びぬあの花の素材の仕組みは解らない。2度と調剤する事は叶わぬだろう。
「しかし人間病は気からと申します。食事がままならぬなら、病所ではない。ここにいる方々には、先ずは食事が必要なのでは?貴方達は魔物に操を立て餓死するおつもりですか?」
・・・・・。
「お兄様!私がご馳走になりますわ。お姉様?このお肉を戴いても宜しいでしょうか?」
お姉様…。ブライアン?私は結婚前に呼ばれちゃったわよ。中々芯の強い良い姫様じゃない。度胸も有るみたい。
私は串焼きのお皿を手渡す。ついでとばかりに、千切り野菜にマヨソースをかけ差し出した。姫様が串焼きを手に取りかぶりつく。
「・・・。お…美味しい…。」
パンに野菜とお肉を挟み、レイシス王子にも手渡す。暫し戸惑い、姫様同様にかぶりつく。
「こっこれは肉汁が…。生まれて初めて食べる味だ。旨すぎる。」
痩せこけた子供の手を引く母親が、あずおずと声をかけてきた。
「どうぞ遠慮なく食べて下さいな。小さなお子さんやお年寄りには、消化の良いおかゆをどうぞ。こちらはお肉を、柔らかくなるまで煮込んでいます。お米を入れてるので腹もちも良く、玉子で栄養満点です。」
器におかゆをよそい、風の魔法で少し冷ます。
「熱いから良く混ぜて冷まして食べてね。沢山有るから慌てないで。」
おかゆの鍋に沢山の子供達が集まってくる。おかゆを食べるのを見た大人たちも、徐々にお肉に手を伸ばし始めた。王子と姫も率先して手伝いを始めた。
気づくとグレイシー様は、王子様と話をしていた。姫様は子供達の補助をしている。グレイシー様と王子様が、キョロキョロし始めた。誰かを探してる?もしかして私かしら?
その反対側から怒鳴り声が聞こえてきた。良く見ると神官らしき人々の塊を、リーダーが1人で抑えている。いったい何事なのかしら?
「貴様らは神を冒涜するのか!何故魔物肉を喰らう!人間をやめるなら、魔の森へ行け!この国の者達に迷惑をかけるな!」
「そうだ!もし魔物が報復の為に入り込んだらどうするんだ!血生臭いその身を恥じて死ね!死にたいなら国から出て行け!神様を蔑ろにすると天罰が下るぞ!」
洗脳されてる悪の権現。まあまだまだ下っ端の神官さまのご登場ね。しかし神って言っても、大元に気付けなかったあの神様よね?ちょっとマヌケよね?漸く介入して修正しようとはしてくれてる。でも流石にあの神様でも、魔物に操を立て餓死しろとは言わないわよねぇ?
因みにこの世界の神様は1人だからね。国により教義や姿は変われども、神は唯一の創世神様のみ。創世神様が、この世界の全てを司ってるのよ。私はリーダーの側に行き、大声を張り上げる。
「魔物肉を食べないのはこの国、自称聖国のみよ。聖国以外では常識となっている、魔物肉を食すという食事情。この世界を創世したと言う神様が、世界の常識を否定する筈がないじゃない。」
そんな訳あるか!屁理屈を言うな!と罵声が飛び交う。喋り続ける私に掴みかかろうとまでする。勿論こちらは、結界で防御済みよ。
でも私は最後まで言い切るわよ。だってこの神官達の体格も肌艶も良いんだもの。肉なしの食生活で、どうしてそんなに余裕が有るのよ。まさか大神殿で養鶏でもしてるの?家畜になる動物といったら、コッコバードとモーモー位。しかしどちらも貴重でお高くて入手しずらい。更にはタマゴとミルクをとるのが優先で、食肉になるのは年を取ってから。本当に少ないのが現状よ。漁獲量の少ない海産物何てなおのこと。断崖絶壁のこの国では到底無理。どれも手に入れられるとは思わないのだけど?
「だってこの国以外では、魔物肉は普通に食料だもの。だって食べなきゃ死ぬのよ。神様だって己が創り育てた世界を、人間を滅ぼしてまで壊したい筈が無い。違うかしら?」
神官達はまだ文句を垂れているが、飢えた庶民の人々は静かに私の声を聞いている。静まり返る背後から、啜り泣く声が聞こえてくる。
「生きる為に魔物肉を食べるなと神が言うならば、神は代替となる食物を与えてくれる筈。なのに何故家畜となる動物が少ないの?何故驚異となる魔物は増え続けるの?魔物も人も、食物連鎖により生かされてる。それが真実では無くて?それとも既にこの世界は、唯一の創世神様に見捨てられてるのかしら?」
「「「貴様は我々の神を冒涜するのか!」」」
「私はそんな事を言って無いわ。因みに貴方方は、毎日肉類を食べてるのかしら?その肌艶に体型なら食べてるわよね?その肉は畜産された物?コッコバードもモーモーもかなり高価で希少だけど、大神殿は随分お金持ちなのね。」
「神に遣える我々には、寄進としてタマゴやミルクが毎日届くのだ!魔物肉等食べとらん!」
「え?肉では無く、タマゴやミルクを食してる?でもタマゴやミルクも、お肉と同じ家畜から得るのよ。お肉よりは安価だけど、畜産された物はかなり高価よ。我が国でも魔物のタマゴやミルクを代替えにしてる。畜産の品なんて、王族がパーティーで使う位よ。出所は確かなの?鑑定して差し上げましょうか?」
押し黙る神官達。さてもうひと押しかしら?
「お前ら惑わされるな!大神官様が間違いを申す訳が無い!煩い!煩い!黙れー!魔物を食し堕ちた外道が何をほざくー!!」
グループとは違う神官らしき人物が、喚き散らしながら走りよってくる。その後ろからは魔物が2匹。ゴールデンバッファだ。人々は2匹の魔物に戸惑い逃げ惑う。
「我々は魔物を食べん!貴様らが食べたからだ!穢れたその身を魔物に差し出し、国に潜入させた責任を取れ!」
そう騒ぎながら逃げ惑う神官達。あのー?貴方達は魔物を食べぬのなら、魔物から逃げなくても大丈夫なのでは?己らが逃げたら、食べなくとも襲われるって証明してる様なもんよね?バカだねー。
「結界発動ー!」
私は広場を覆う様に円形に結界をはる。その中心にはバッファが2匹。2匹は結界に阻まれ、円形の結界をドーナツ状にしている。
「リーダー!庶民の人達を結界の外に出さないで!1度出たら戻れない。水色の枠が結界よ。解りやすく色を付けたわ!やだ!神官さん達は入る必要は無いじゃ無い。」
ドーナツ状の結界を半分に割り、神官達だけをドーナツ結界から切り分ける。ドーナツが割れると同時に、バッファ2匹が飛び出す。神官達の入る結界に向かい突撃し、ドンガンと体当たりを始めた。腰が抜けたのか、坐り込み動かない神官達。
「うーん。随分な腰抜けね。流石にここで結界を外したら鬼よね。流石の私も寝覚めが悪いわ。」
仕方無い。行くわよ!
神官達の入る結界に雷を落とし、電撃を纏わせる。体当たりをしていた2匹のバッファは、体に伝う電撃に麻痺し動きが鈍くなる。
「ミニチュアウィンドカッターいけー!」
動きの鈍くなったバッファに、次々と魔法を当てる。しかしバッファまでが遠い。己の背後には、戦えない人達の結界を抱えている状態。もしもの時に結界を修復できる者が、余りにも離れるのは不味い。リーダーは今だに混乱し泣き喚いている人々を誘導し、背後の結界内の人々を守っている。
どうしよう。やはり私が前に出るべきなの?神官達の結界を気にしなければ、ドカンと魔法をぶっぱなせるけど、流石にそれは無理だ。多分結界は保つと思うけど、確実だとは言えない。流石に殺したら夢見が悪いわ。それに最近何だか魔法の威力が上昇してる感じがするのよ。
全く制御が難しくて困る…。
あ…あれは!
結界に阻まれているが、確かに人影が見える。右手奥の結界の陰に、剣を構えたグレイシー様が見えた。
「グレイシー様!聞こえますか?出来るならトドメをお願い出来ますか?」
グレイシー様は何故か動かない。聞こえてないの?魔物とは別の方を向いている。もしかして結界に包まれた神官達の向こうに誰かいるの?確かにグレイシー様が剣を構えてる何て変。グレイシー様は、魔術師だもの。しかも無詠唱で杖も持たない。剣も余程の事が無いと使わないと聞いたわ。
これは甘えてられない!
「結界内の神官達は耳を塞いで踞れ!トルネードカッターいけー!」
竜巻が神官達の結界を中心に渦を巻く。やがて竜巻の力に屈し、2匹のバッファは崩れ落ちた。
!?!?
「レイシス王子!脇にさす剣はお飾りですか?もう魔物は殆んど動けません!貴方が1番魔物に近い。トドメをお願い出来ませんか!」
レイシス王子が駆け出す。2匹の魔物にトドメを刺した。多分本物の魔物を見るのは初めてだろう。だけど鍛練はしてるのね。中々様になってるわ。
私は魔物に近より生存を確認する。魔物の処理をし収納して安全確認。結界内で姫様と話をしていたリーダーに手を振る。リーダーが気付いた為、庶民側の結界を外す。
後は姫様に任せたのか、リーダーが駆け寄ってくる。私は背後に振り返り、神官達の結界を解いた。
解いた結界の跡には、腰を抜かし踞る神官達。泡吹いて気絶してるのもいるわね。全く情けない。
グレイシー様は!?
結界が完全に消滅した。色の付いた結界が無くなり、視界がクリアになる。
そこには相対した2人の人影。
グレイシー様と…。
女性?絶世の美女。否。男性ね。多分この人が…。
「クリスティーネ様。いえ。今回はエリザベート様でしたか?また出会えましたね。しかし貴女は、今回も私をお忘れなのでしょうね。そしてまた忘れたまま彼奴と…。」
やはり…。
貴方が大神官のユリウスなのね。
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