【完】相手が宜しくないヤツだから、とりあえず婚約破棄したい(切実)

桜 鴬

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第2章・婚約破棄は新たなる珍事を招く。

泡沫の夢……。

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更新が滞りまして、本当に申し訳ございません。喘息を疑われる様な気管支炎になり、病院通いをしておりました。全快しましたのでラスト頑張ります!と行きたいのですが、私用で8月末位まで多忙になりました。コツコツ描いてはいますので、お待ちいただけたら嬉しいです。

どうぞ宜しくお願い致します。久し振りの更新なのに、本文で無くてごめんなさい。

お読み戴いている皆様に感謝を♪

*****

私の世界は屋敷のお部屋の中。極端に言えばベットの中だけ。ベッドの背もたれを上げクッションを沢山支えにする。そこから眺める中庭が、私の唯一のオアシスだった。病気が悪くなるまでは、侍女が時おり車イスで中庭に連れて行ってくれた。

庭師のトムじいさんと、お孫さんが丁寧に手入れをしてくれるお庭。少しでも私の心の慰めになるようにと、四季にあわせた色とりどりの花を咲かせてくれた。ウサギやリスも放されていた。たまの中庭の散歩は、私へのご褒美だった。

お庭まで行けなくなっても、眺めているだけでも嬉しかった。寝てるだけより断然ましだもの。

でもね……。

成長すれば良くなると思われていた私の病は、一向にその気配を見せなかった。逆に徐々に悪化していたのだろう。優しい父や周囲のみなは、私になにも言わなかった。でも私が1番わかるの。だって自分の体なんだもの。

誕生日を迎えるたびに胸が痛くなる。これは気持ち的なことだけじゃない。本当に胸に痛みを感じている。なにか重い影が私の体内を蝕んでいる。そんな感じ。きっと私の命は長くはない。

お父様……。

1人にしてしまってごめんなさい。

お母様……。

私を生んでくれて有り難う。でも私は誰かの役に立てたのかしら?私もお母様の様に、誰かの役に立ちかたった。

ベッドから中庭を眺める。今日もいつもと変わらぬ日常が続く。気分の良い時は、本くらいなら読める。でも今日は無理みたい。少し体が怠い。頬をかする風が冷たくて気持ちがよい。その風にのって、珍しく人の話し声が聞こえてきた。

少し窓から顔を出すと、中庭の左側の温室と図書室へ向かう道がみえる。そこをお父様が侍従を連れて、何人かの人たちを引き連れ歩いている。

お客様かしら?もう少し良く見ようと、窓枠に手をかけて身を乗り出す。冷たい風にブルリと体が震える。バランスを保てず、体が傾いてしまう。慌てて支えベッドへ戻る。落下防止の仕掛けが有るから落ちる心配は無いけど……。正直本当に怖かった。まだ心臓がドキドキしている。やはり体も怠い。私は上掛けを引っ張り、ベッドへ潜り込んだ。

廊下を走ってくる足音がする。誰?家の者が走るなんてビックリよ。もしかして風にあたり、体調が悪いのがバレたのかしら?ならまたあの苦いお薬ね。嫌だわ……。

扉がいきなり開かれた。

「大丈夫か?どこか悪いのか?」

ドタドタと駆け寄ってくる男性。私と同じ年令くらいかしら?私の上掛けをはがして顔を覗きこんできた。

「佑真!女性の部屋にいきなりは失礼ですよ。お嬢様。驚かせてすみませんね。お体は大丈夫ですか?」

お2人の後から父がやって来た。下から私がバランスを崩したのが見えたそうだ。それで来てくれたらしい。

この時初めて、私は召喚事故の事実を知った。そして生き残りの人たちを我が家で保護し、先の生き方を学ばせていることも。この2人も図書室へ向かう途中だった。

優しいお兄様の様な龍治様。私より年上なのに、弟の様にヤンチャな佑真様。この日は私クリスティーネが、初めて2人に出会った日だった。

あの日からベッドの中での日々に潤いがうまれた。私は2人が大好きになった。こんな日々がずっと続けば良いと思っていた。でも私の体は悪くなるばかり。きっと2人は神様からのプレゼントだったのね。最後に2人と出会えて、私は神様に感謝していた。

そんな2人が突然元の世界に戻るという。私の体を治す薬を手に入れ、必ず戻ってくるからと……。私は行かないでと懇願した。2人が元の世界に戻ったら、もう2度と会えないかもしれないから……。

だって上手く戻れたら、私なんて忘れてしまうかもしれない。そんな不安もあったの。でもそれよりも何よりも2人が心配だった。父も色々と調べてくれたけど、異世界へ戻る方法は見つからなかったのだから。なにが起こるかわからない。私は2人に危険なことをして欲しくはなかった。

でも2人の決心は固かった。父は仕事でお城に行き、既に1週間ほど留守をしていた。戻るのには、更に1週間はかかる。公爵様が戻ると必ず反対されてしまう。だから私たちはすぐに出発する。必ず戻るからと私に置き手紙を残し、2人は私がまだ寝ている早朝に旅だってしまった……。

翌朝ユウだけが、ボロボロの身なりで1人で戻ってきた。その時の私は、すぐにユウが戻ってきてくれた嬉しさよりも、一緒にいないリュウへの心配が勝ってしまった。思わず声を荒げて問い詰めてしまったのだろう。

「ユウ!リュウは?リュウはどうしたの?なぜ2人ではないの?2人は異世界へは行かなかったの?ならリュウはどこ?遅れて戻るの?まさか怪我をしてるの?どこかに置いて来たの?なら早く助けに行かなくちゃ!魔物もいるんでしょ?早くお父様に伝えなきゃ!誰かを呼んで!」

「…………」

「ユウ!どうして何も言わないの?リュウは?リュウを助けなくちゃ!早くお父様に伝令を!」

私はベッド脇にある、呼び出し用のベルを手に取る。しかしそのベルはユウの手で払われ、壁との隙間に落とされてしまった。そのままベッドに乗り上げ私を見つめる空虚な瞳。その顔が近付いてくる。

「止めて!近寄らないで!」

「…………」

ユウの手が私の両手を拘束した。

「いや!ユウ何て大嫌い!リュウはどうしたの?リュウ!リュウ助けて!」

「龍治の名を呼ぶな!」

「お願い止めて……ユウも大好きなの。だから……」

「…………」

「ユウも……リュウもなんだよな……。大好きならクリスをくれよ!リュウはもういない!」

どんなに懇願しても、ユウの手は止まらなかった。可愛いヤンチャな弟の様に思っていたユウ。しかしその力は強かった。病弱な私の抵抗では、全く抗うことが出来なかった。

衝撃の痛みが私の体と心を打ち砕いた。それからの私はユウのされるがままだった。

父が屋敷に戻るまで2週間がかかった。そうしてようやく事実が判明した。ユウは初めから異世界へ行くつもりなんてなかった。リュウだけを戻すつもりだった。私との事も全ては計画的だった。

ユウは私を辱しめた後、私はリュウが居なくなり精神が不安定になった。だから自分が介助をする。公爵様も知っている。そう使用人には伝えていたそうだ。

「リュウは異世界に飛ばした。戻って来れるかはわからない。リュウが邪魔だった。だからわざと手を離し、狭間に突き飛ばした」

「酷い……」

「だって!クリスは2人とも大好きなんだろ?なら1人になれば大好きは僕だけだ!リュウが居なくなれば!クリスは僕の物だ!」

「私は物じゃない……それに私は私だけの物よ……」

「違う!そうじゃない!物だなんて思っていない!クリス……クリスティーネ……愛してるんだ……クリスも大好きだと言ってくれたよね?お願い……大好きだと言ってよ……」

「…………」

「愛してる。愛してるんだ。どうしてみんな僕を愛してくれないの?僕が愛する人はみんないなくなるんだ。きっとクリスも母さんみたく……。嫌だ!絶対に離さない!龍治も居なくなった!クリスティーネは僕だけのクリスなんだ!クリス……愛してる……僕だけをその瞳に写して……御願いだ……」

お母様?ユウは心に何かを抱えているのね。でも私はユウへの大好きが、愛してるなのかが解らないの。ごめんなさい……。

私とユウは離された。ユウは心の医者にかかりながら、親戚の家の家庭教師を始めた。私は2人に出会う前の日常に戻った。寂しい……。

これは2人を止められなかった私への罰なのね。

ユウ……。

愛がわからなくてごめんなさい。

リュウ……。

お願い無事でいて下さい。幸せになって下さい。異世界ででも良いの。無理をさせてしまった私を許してね。

私がユウを壊してしまった。私の病気は治らないのに……。あなたのクリスになっても、ずっと一緒にはいられないのに……。

なのにユウの未来を……。ならば私がいなくなれば……。

その晩、私は窓を全開にして就寝した。夜風にあたった私は、翌日高熱を出し生死の境をさ迷った。

目を開けるとお父様の顔が……。いきなり頬を叩かれた。

「お前は死ぬつもりだったのか!そんな事をしても誰も喜ばん!お前は誰かの役に立てたのか?そうありたいと言っていただろう。命を粗末にするな。もうお前だけの体ではない。だがどうすべきか……」

私だけの体ではない?まさか!?

私は身籠っていた。まだ何も感じないけど、このお腹の中には私の赤ちゃんがいる。小さな命が育っている。私の身勝手にも負けずに……。

愛しい……。

「お父様ごめんなさい。もう勝手なことはしない。約束します。だから赤ちゃんを生ませて。私の最後の我が儘です。たとえ私の命と引き換えても構わないわ。私はこの子が愛おしい。お父様には迷惑をかけますが、どうか許して下さい」

ユウの赤ちゃん。私がユウの役に立てるわ。こんなに愛おしい我が子を腕に抱ける。きっとユウの心も安らげるだろう。私がいなくなっても、この子がいればユウも寂しくない筈よ。

ユウに愛してると伝えられなかった私からのお詫び。そうよ。私はユウを愛していたわ。だからあの酷い告白を許せたの。ようやく気付けた。私たちには時間が足りなかった。もっと語り合えば良かったのよね。ユウもあんな強引に愛を伝えずに、普通に告白してくれたら良かった。それとも伝えてくれていたの?鈍感な私でごめんなさい。私の精一杯の愛をこの子に託します。

これで私もユウの役に立てるわ。もちろん、私も死にたくはない。この子の顔も成長もみたい。だから頑張るわ。

ユウが私がいなくなっても、幸せに過ごせます様に。

真っ白なおくるみに包まれた双子の兄妹。私は涙に潤む目を見開き、2人の顔を心に刻み付ける。小さな手のひらに指先をそわせ、元気に育ってと願いをかけた。ユウは喜んでくれてるだろうか?私を失いたくないから、堕胎しろと乗り込んできた顔がチラリとよぎる。ううん。ユウは大丈夫。最後には私の気持ちを汲んでくれたのだから。

「お父様有り難う。そしてごめんなさい……私やはり無理み……たい……」

私の視界が白く染まった。お父様、有り難う。ユウ、ごめんなさい。そしてリュウ……私の為に苦労をさせてごめんなさい。幸せになって下さい……。


しかしクリスティーネの思いは報われなかった。

そしてクリスティーネの願いも、佑真には届かなかった。

佑真は双子の顔も見ず抱きもせず、延々と亡くなったクリスティーネにすがり付き泣いていたという。

翌朝クリスティーネのお墓の前で、自決し冷たくなったユウの亡骸が発見された。

残された双子の運命の出会いは、この後にやってくる。

リュウは、龍治は異世界から戻ってきた。しかしクリスティーネには間に合わなかった。持ち帰った薬で代わりに助かった双子を見守り、仲良く親子の様に暮らしたという。しかしリュウは、最後まで後悔とともに生きていた。そしてやがて、双子の元を去ってしまった……。

しかしこれは泡沫の夢だったのだろうか。そうあって欲しいと願う者たちの願望だったのだろうか?

リュウが戻った事実はどこにも存在していない。双子との仲睦まじい日々も存在しない。何故ならリュウは異世界からは戻らなかった。もしかしたら、辿り着けなかったのかもしれない。

病弱な双子は健康に育ち、やがてそれぞれの未来を選ぶ。

龍治の巻き戻しの人生の真実を知るものは、互いを思い口を閉ざし……。

己の信じる道を選んだ。

*****
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