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第2章・婚約破棄は新たなる珍事を招く。
確実に目覚めた!コイツらまとめて鍛えよう。(笑)
しおりを挟む目覚めると視界には見慣れた天涯が見えた。はて?お風呂に入っていた筈が、ベッドに寝ているのが不思議だわ。しかしそれよりもっと不思議なのは、なぜ私は天涯付きのベッドに寝ているの?この見慣れた天涯にシーツは私のお部屋のベッドよね?すっかり馴れた固いベッドにせんべい布団。魔の森の合同宿舎の、重ねてもうすら寒さを感じる、ペラペラの毛布じゃない。
さすがにこれは酷いと感じて、すべてを天日で干したのが懐かしいわ。さらに隊長にお願いして、奥地にいる魔鳥の羽毛を狩りに行ったわねー。羽毛を持参したから、コメコメで安く布団を作って貰えたわ。鳥の肉と素材で支払えたしね。隊長は空を飛ぶのは討伐対象外だと難色を示していたけど、近隣の町や村では子供が魔鳥に拐われたりしてるの。一匹でも減らせば被害が減るのよ!さらには暖かい……ぐっすり寝られれば回復も早いし、翌日の討伐だって頑張れるわよね?それでもブツブツ言うから、隊長は要らないんですね?と言ったら即判子をくれたわ。
あの魔鳥の羽毛布団も暖かかったけど、公爵家のコレには負けるわね。なんの羽毛なのかしら?さすがにスカイバードの羽毛布団ではないみたいだけど、かなり良い羽毛だわ。久々にぬくぬくよー。気持ちよいわー。シルクの毛布を巻いて二度寝してしまおうかしら?このシルクの毛布も肌に吸い付くようにしなやかなの。素肌に巻いて寝ると最高よ。よし!下着も脱いじゃえーー!そしてお休みなさい!
私は素肌に毛布を巻き、ベッドに大分した。とたんに響く足音……やはり眠れないわよね?
「姉さん! 起きたの? お風呂で逆上せるなんてなにしてるのさ。みんな心配して待ってるのに! 」
「…………いーやー! ブライアン!女性の寝室を突然開けるなー! 」
「なに言ってるんだよ。姉さんはいつもスッポンポンで寝てたじゃないか。寝間着を着せても、脱いで毛布にくるまっていたくせに。さすがにそのまま廊下には出なかったけど、素肌にガウン一枚では歩いてたよね? それもパンツさえはいてなかったじゃないか! それなのにそんなこと言えるの? 」
はい……実家では確かにそうでした。しかし今は女性の少ない職場ですから、キチンと着ていますよ?コメコメプロデュースの、ポカポカもこもこ着ぐるみパジャマです。
男性ばかりの合同宿舎の廊下を、素肌にガウン一枚では恐ろしいことになりそうです。それくらいはさすがの私にもわかります。しかし着ぐるみもこもこパジャマでも危ないですね。魔物と勘違いされて、討伐されてしまっては困ります。しかしブライアン?随分お姉様に強気ではなくて?
「なんだ? 起きたならさっさと着替えてこい! お前は優しくしてると駄目だな。逆上せるなんて緊張感のないヤツだ。早くしろよ! 」
ロジャースってば口が悪いわね。まあ心配させたのは私。だから今回は多目にみましょう。しかしブライアンめ……そうだよとはなによ!ロジャースに同意するな!ブライアンのくせに生意気だわー。
緊張感のないのはそこのヤツよ!
「もう起きてるんでしょ? でもなんであなたがそんな所に隠れているのよ? てっきりエドワードのバカかと思ったわ。殺されないで良かったわね」
私から死角になるクローゼットの影からリーダーが出てきた。まだ目が赤いわね。しかもクマつきようやく起きた感じかしら?
「リーダーは私の見張りというか護衛なの?でも寝てたら意味がないじゃない」
「すまん。皇太子様が己で俺を指名したくせに、毎回エリーと二人になる前はクドクドとしつこいんだ。お陰であまり眠れない。落ち着くまで無理だな。ならば俺じゃない方が良いだろうと言ったんだが、エリーのためには俺が最適なんだと。新たに探すとなると、どうしても頭の古い貴族連中の、親戚や息子になるそうだ。それでは己も嫌だが、エリーが嫌だろうと……」
私の専属護衛か……本来は婚約者になった時点でついているの。でも私には必要なかったからね。でもこう心配事が続くと、さすがに上から付けろと言われたのね。しかも頭の古いお偉方からなのね。たしかにやつらの推薦してくる人物に録なヤツはいない。そこでリーダーに白羽の矢が立った。私が潜り込んでいた討伐隊のリーダーで実家は貴族だから、身元もしっかりしてるからね。
「だが俺が独り身なのか気にくわないんだと。おれはエリーに懸想したりしないわ!しかも単独で貴族位をやるから、貴族の娘から妻を迎えろとか、突然言い出したんだ! 散々討伐隊で庶民暮らししてきたのに、今さら俺が貴族の当主なんて無理だわ! 」
うーん。リーダーは貴族としての教養もマナーも学んでいる。所作も物腰も落ち着いているし綺麗よね。しっかり身に付いてるから、庶民らしくしていても、見る人が見ればわかるのよ。
たしかに領地を経営するなら無理かもしれないけど、領地を持たない貴族としてなら大丈夫よね?まあ領地を貰っても、今は代官に任せてしまえば大丈夫だし、奥様がしっかりものなら任せるのもありよ。それに専属護衛に単独での爵位は本来要らないわ。だって兼任しにくいじゃない。それは単に皇太子様の要らぬ詮索よ。貴族で無くても素敵なお相手が見付かれば黙るはずよ。だからきっと大丈夫。
「それはなるようになるわよ。しかし私の意思は無視して話は進んでいるのね……」
まあ一年も寝てたら仕方ないのかしら?まあ一応はまだ婚約者らしいから仕方ないのよね。よーし。リーダーの出世のためにも!エドワードを更正させよう。ユウをエドワードに従わせよう。だって現世はエドワードなのよ?昔から変態ではあったけど、今のエドワードは昔のエドワードですらない。まるでユウに支配されてるみたい。私はクリスじゃない。だからユウには寄り添えないの。よし頑張るぞー!てな訳で着替えるから出ていてくれる?
「着替えるときはでてるから、さっさと着替えとかの準備をしろよ。なるべく離れるなと言われてるんだ」
「……………………」
「リーダー? 今の今まで熟睡していたのね? 本当になにも聞いてなかったのね……私は今スッポンポンなの。もしかして見たいの?私の着替えがみたいのかしら? 」
エドワードが怖くて逃げたわね……リーダーが青ざめて部屋を出ていった。驚かせてごめんなさい。でもまだまだ青いわよね。リーダーが寝ている間は私でも解らないくらいだったのに、起きたらバッチリ。寝起きで認識阻害魔法が解けてしまうなんて駄目じゃない。かなり魔法を教え込んだつもりなんだけど……
でもリーダーは筋肉もしっかりつくタイプだし、魔力も少しづつだけどまだ成長している。もっとビシバシ鍛えれば、魔法もかなり使えるようになると思うの。でも考えることが苦手だから難しいしら?弟のブライアンとは反対のタイプよね。あいつは筋肉が付かないタイプなのよ。ああ見えてやるときはやるし、頭は切れるんだけどね。そうじゃなきゃ私は公爵家が心配すぎて、皇太子様の婚約者なんてしていないわよ!タイプ的には魔術師タイプなんだけど魔力量が少ない。筋肉量は魔力と関係なく感じるけど、まったく関係なくはないのよ?筋肉が多いのは体を鍛えているから。適度な運動を定期的に続けなければ、筋肉も衰えてなくなってしまう。つまり筋肉があるのは、体を常に鍛えているからってこと。体を鍛えれば体内の器官も鍛えられる。丈夫で鍛えられた肉体では、魔力も体の隅々にまでより良く循環するし、さらには沢山の魔力を体内にキープすることが出来る。つまり魔力を使用しても、直ぐに外界から魔力を取り入れ体に馴染ませることが出来るわけ。もちろん生まれながらに持つ魔力量の違いは埋められない。でも訓練次第では使用できる魔力を増やすことが出来るってことなの。
筋肉マッチョの脳筋戦士なんかは、魔力がまったく無いと思われてるけど、実はかなりの戦士が、魔力持ちだったりするの。体内気管が鍛えられてるから、知らぬ魔に魔力を効率よく体内に巡回させている。それを利用し本人も気付かない内に、魔力が筋肉強化や体力増量などの肉体強化に使用されているわけ。これらは自然に行っているから、己で操作は出来ないんだけど……一応魔法なのよ?私なんかか補助魔法をかけるのを、自然に己に常時展開している訳。
あとね?魔術師ってヒョロヒョロで魔法以外はまるで駄目みたいに思われがちよね?でも魔物と対峙するような魔術師は、剣も拳も使えるな細マッチョばかりよ。ヒョロヒョロなんて思い込みは、研究職の魔術師ばかりをみかける弊害よね。彼らは研究室に隠りきりだから顔色が悪いだけ。実は脱いだら凄かったりするのよ。
ブライアン……やはり魔方陣を読み込めるのに、魔力不足なのはもったいないわ。筋肉はつかなくても、体を鍛えることは出来る。私だって筋肉モリモリではないけれど、魔力量だけは自慢できるわ!やはり特訓よ!なんだか姉に強気に出るようになったし、これはやはりビシバシ行くべき。婚約破棄されて目覚めたのかしら?
なんて着替えながら考え事をしていたら、早くしろとドアの外から怒鳴られた。
リーダーめ……ブライアンと一緒に特訓してやろう…………
*****
リーダーに連れられて客間に到着した。やはりここは公爵家でした。私が湯冷めして寝込んでる間に運ばれたらしい。私ってば、湯冷めで何日寝込んだのよ!お父様が仏頂面をしています。心配かけてごめんなさい……
部屋に入るとまるで円陣を組むように、壁にそってイスがグルリと並んでおります。そして真ん中にイスが二つ……まるで誰かを吊し上げる会場のような……
いやーな予感がしてリーダーを見る。真ん中へ行けと……は、言われませんでした。良かったー。とりあえず窓際の真ん中に座るように指示をされました。さて?これから何が始まるのでしょうか?でも凄いな。皆さん揃い踏みですよ?
「ようやくエリーが来て揃ったな。まあエリーが一年も寝ていたから、あの事件はすでにすべて綺麗になった。その事後処理と経過をそれぞれに話して貰う。寝過ごしていたエリーは黙って聞いていろ。質問は後から聞く。時間がかかるので挨拶は省いてくれ。では元自称聖国、現正国からどうぞ」
…………レイシス王子と姫が立ちあがり真ん中へ歩いて行く。その後ろをユリウス様が追随する。王子に促され姫は席に座った。後方にいたユリウス様が、姫の後ろに立った。
「エリザベート様がお目覚めになり、我々一同ホッとしております。お礼とご挨拶はまた改めて伺わせて戴きます。先ずはあのパーティーの後の我が国のことをお話致します」
レイシス王子が立ちあがり、深く頭を下げたのちに話を始めた。
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