うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人

文字の大きさ
3 / 171

第3話 うっかり『野良犬』を手懐ける

しおりを挟む
 数日後、いつものように目が覚めた俺は、裏にある共同井戸で顔を洗って朝食の準備をする。パンとキノコベースのスープだ。

 スープを温め皿に盛り、固いパンをスープに浸しながら食べていく。
 パンにキノコの旨味が染み込んで旨い。
 食べ終わったら食器を片付け、ギルドに向かうために服を着替える。
 バッグを担ぎ、家の戸締まりをして出発だ。

 今日は朝から晴れていい天気だ。

 このダムドの街は田舎で大した産業がないので人口はそれほど多くなく、それに比例して冒険者の数もそれなりの数しかいない。高ランクの冒険者は一つ山を越えた東隣の国へ行く者が多い。

 俺も冒険者になりたての頃は、いつかは高ランク冒険者になるんだと淡い期待を抱いていたけどね。まさか、スキルや魔法が覚えられずに底辺の落ちこぼれ冒険者のまま燻り続けるなんて思ってもいなかったよ。

 暫く歩いていくと見慣れた冒険者ギルドの建物が見えてきた。
 扉を開けて建物の中に入っていく。俺の姿をチラッと眺める奴はいるけど、ガンツのように口に出してからかってくる奴は今日はいないようだ。

 そもそも、基本的に皆は俺みたいな落ちこぼれ冒険者にはそれほど関心がある訳でもなく、普段は雑魚がうろうろしているな程度にしか感じていないのだった。

 早速、依頼が貼り出されている掲示板の前まで行き、何か良さそうな依頼はないものかと物色していたら、上級回復薬の材料になる薬草の臨時大量採取依頼があった。
 その薬草は常時依頼の対象だが、今回は臨時採取依頼ということで普段よりも報酬が高くなっている。

「おっ、これは願ってもない依頼だな」

 常時依頼と同じで、依頼票は剥がさずにそのまま採取した薬草を一人あたり一定量まで上乗せ報酬で買い取りをしてくれるらしいので、俺はすぐに薬草採取に向かうことにした。

 上級回復薬に使用する薬草はちょっと特殊で、街からは離れたところに生えているが、今までの経験でほとんど魔物が出ない秘密の群生場所を知っているから俺のランクでも危険性は低いので大丈夫だ。

 ダムドの街を出て山のある方角に向かって草原の中を通る道を進んでいく。
 目的の薬草が生えている場所までの道のりを歩いていく俺は、ある地点に来てから周りに誰も居ないのを確認して途中から山に分け入っていく。

「確かこの辺りだったはずだ」

 周囲を注意深く観察しながら薬草を探していく。
 すると、木々の間にギルドの依頼にあった薬草が群生しているのを発見した。以前も採取したことがある場所で、暫く行かなかった間にまた薬草が元のようにみっしりと群生していた。

「おっ、あったあった」

 喜び勇んで薬草を摘みまくる。
 なんてったってギルドの買い取り推奨期間だからね。
 薬草がお金に見えてくる。

 束にして紐で縛り、マジックバッグに薬草を詰め込んでいく。
 途中、昼食休憩を挟んでまた摘んでいくとかなりの量が採れたので今日の採取はここまでにしておこう。まだまだ摘みきれないほどたくさん残ってるから明日また来ればいいや。

 買取額はいくらくらいになるのだろうと考えるだけで自然に笑みが出てくる…
 だが、多くの薬草を摘めたことに喜んで、つい気が緩んでた俺はその生き物の接近に全く気がつかなかったのだった。

『ワウッ!』

 その吠え声に飛び上がらんばかりに驚いた俺が振り向くと、そこには狼のような犬が俺のすぐそばにいてこちらを見上げていた。

 慌てた俺は背中に背負っていた鞘から剣を引き抜き構える。
 その狼のような犬に襲われると思ったからだ。
 取り出した大剣は親父の形見で無骨だが切れ味の良い剣だ。しかし、その犬は俺を襲う素振りも見せずに同じ場所に佇んだまま俺を見上げてじっと俺の顔を見つめている。

「おまえ、もしかして群れからはぐれた野良犬なのか?」

 警戒しながらもその姿を観察していく。
 見た目は狼犬という感じかな。

 今のところ、大人しくしてるし俺を襲ってくる気配はなさそうだ。
 すると、口を開けて何か食べ物はないかという目で俺を見つめてきた。

「おまえ、もしかしてお腹が空いているのか? でもな、さっき昼飯は食べたばかりだしおまえにやれるような物は残ってないんだ。ごめんな」

 可哀想だが、コイツが食べられるような食べ物は今の俺には持ち合わせがない。

 いや、待てよ。確か入れっぱなしの干し肉のような物があったような気が…
 俺はバッグの中を探して布の包みに包まれた干し肉を見つけ、その中から一枚を目の前の狼犬の野良犬に差し出した。

「ほら、これをやるから食べ終えたらあっちへ行け」

 目の前に干し肉を差し出された野良犬は口を大きく開けてその肉を口に入れ、美味しそうに噛んでゴクリと飲み込んだ。その瞬間、野良犬の身体が白く光って俺の額と野良犬の額が光の筋で結ばれた。徐々にその光も薄れて野良犬が俺の前で尻尾を大きく振りながらぐるぐると回り始めた。

「あっ、そういえば食べさせた干し肉って行商人のおっさんに貰ったやつだったっけ。確か、どんな魔物や魔獣でも手懐けられるとかあのおっさんは胡散臭いことを言ってたけど、うっかり野良犬なんかにあげちゃったぞ…」

『ウオン!』

 大喜びの野良犬が俺に尻尾をブンブンと振りながら飛びついてきた。
 俺は自分の身体から野良犬を離そうとするが、思いっきり懐かれてしまったのか俺から離れてくれない。体高は俺の腰下くらいで立派な毛並みが綺麗で素晴らしいな。

 あっちに行けと追い払おうとしてもコイツ俺から離れないぞ。

「まいったな…これってもしかしてこの野良犬に懐かれちゃったかもしれないな」

 仕方なく俺は纏わりつく野良犬のフサフサとした毛並みをわしゃわしゃと撫でてあげると、野良犬は心地良さそうな顔で目を細めて俺を見上げていた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

処理中です...