うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人

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第36話 なぜかエリオは皆に抱きつかれる

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 宿の部屋で中古で買ってきた漆黒の鎧やガントレットを装備した俺は、宝玉の力の吸収を一通り終えた後、コルとマナを部屋に残して余った玉を持ってリタとロドリゴが泊まっている部屋を訪れる。

 ドアをノックすると、部屋の中からリタの声が聞こえてきた。

「ロドリゴ帰ってきたのかい。今ドアを開けるよ」

 そしてすぐにドアが内側から開けられリタの姿が見えてきた。

「遅かったね、ロドリ……って、エリオじゃないか! あ、あたしの部屋に一人で来るなんてどうしたのさ!?」

「ああ、ちょっとリタとロドリゴに用があってね。でも、まだロドリゴが帰ってきてないのなら出直して来ようかな」

「出直さなくていいから部屋に入りなよ! ほら、早く早く!」

 俺が出直して来ようかと言うと、それを聞くやいなやリタが俺の手を掴んで引っ張り、強引に部屋の中に入れられてしまった。

「ちょっとちょっと、わかったってば」

 全く、困ったものだ。やれやれ。

「ところでエリオ。その身に付けてる真っ黒な装備はどうしたんだい? 黒で統一されていて意外と格好いいし渋いよ。何て言えばいいのかな……そうそう、二つ名で表現するなら漆黒のエリオって感じかな」

「ありがとう。見た目が陰気臭いのではないかと気になってたから、リタのその褒め言葉がとても嬉しいよ」

「どういたしまして。それでエリオはその装備を見せにあたしの部屋へ来たの?」

「ああ、それもあるけどそれだけじゃない。リタとロドリゴに出来れば使ってもらいたい物があってね。偶然というか、幸運というか、それは滅多に手に入らないとても貴重な物なんだ」

「それってあたしにプレゼントしてくれるの? 期待せずにはいられないじゃない。何をくれるのよ!」

「まあ慌てないで。ロドリゴが帰って来てからにしようと思ったけど、先にリタに渡しても構わないか。ロドリゴには後で渡せばいいしな」

「そうよ、弟はいつ帰って来るかわからないし先にあたしに頂戴!」

「わかったよ。これがそうなんだけどさ」

 俺はバッグから宝玉を取り出してリタに見せてあげる。
 最初リタはその玉が何なのか気が付かなくて、こんな玉が自分へのプレゼントなのかみたいに呆気に取られていたが、暫くすると見る見るうちに顔つきが変わり始め大きな声で驚きの声を上げた。

「ええっ! これってもしかして!?」

「しーっ! 大きな声を出さないで。君も見た事があると思うけど、これは例の宝玉だよ。リタにプレゼントしたいのはこの宝玉さ。この二つをリタに使ってもらおうと思ってさ。一つは『風魔法8』で、もう一つは『土魔法7』なんだ。君が欲しければだけどね」

「欲しいに決まってるじゃん。でも嘘じゃないよね、本当だよね? あたしがそんな高レベルの超レアな宝玉を貰っちゃっていいの? あたしだけじゃなくてもしかしてロドリゴも貰えるの?」

「ああ。俺と同じく土魔法を持つ仲間が欲しいんだ。あと、風魔法はミリアムとお揃いになるだろ? ミリアムには火魔法の宝玉を渡すつもりだ。ロドリゴには別の宝玉を渡そうと思ってる」

「貰えるのがあたしだけじゃないのはあれだけどね。でも、あたしだけ二つ貰えるって事?」

「ああ、そうだよ。色々考えてリタには二つ渡そうと決めたんだ」

「嬉しい、嬉しい。凄く嬉しいよエリオ!」

 その場でぴょんぴょんと飛び跳ねるリタは今にも俺に抱きついてきそうな勢いだ。

「ハハ、嬉しいのはわかったからリタは玉の力を吸収しなよ。玉を胸に当てて力をくれと念じると声が聞こえてくるから、はいと言えば力を吸収出来るよ」

 リタは「うん」と頷き玉を胸に近づけていく。
 そして「はい」と答えた後、しっかりと玉の力の吸収が出来たようだ。

「ほら、もう一つ残ってるぞ」

 リタは二つ目の玉を胸に当て、一度目と同じように玉の力を吸収する。二回目も上手くいったようだ。俺一人では見れる範囲や出来る事は限られる。周りの人達が強くなる事によって相互補完が出来るようになれば戦い方の選択も増えるだろう。リタの魔力効率や魔力量まではわからないが、魔法の扱いは早くて得意そうだしな。

「あたし今までは闇と水の魔法だけだったけど、風と土を覚えて一気に四つの魔法が使えるようになったよ! エリオありがとう、大好き!」

 リタはそう叫ぶと、俺に思いっきり抱きついてきた。ハハ、結局抱きつかれたか。嬉しいのはわかるけど。興奮した勢いで抱きつきながらどさくさに紛れて頬にキスしてくるのはやめなさい! こんなところを誰かに見られたら誤解されるだろ!

『ガチャリ』

 ドアが開く音が聞こえたので恐る恐るそちらを見てみると、そこにはロドリゴが大きく口を開けて唖然とした顔をしながら立っていた。

「こ、これは違うんだ!」

 俺は慌ててリタの体を引き剥がす。ロドリゴの誤解を解かなくては!

「いや、エリオさんと姉貴のいいところを邪魔しちゃって申し訳ないっす。僕は姉貴とエリオさんがこうなるのはむしろ嬉しいっすよ。僕にも兄がいればなってずっと思ってましたし、それがエリオさんなら大歓迎です。姉貴は雑な人に思われがちですけど優しくて家庭的なんすよ。これからはエリオさんを義兄さんって呼ばせてもらっていいっすか?」

 何でそこまで話が飛躍すんだよ?
 しかも、リタまで顔と耳を真っ赤に染めてるぞ。

「ロドリゴよ。こうなった理由を説明するから聞いてくれ」

 俺の必死の説明にロドリゴは一応納得してくれたけど、遅いか早いかの問題なだけで、俺がロドリゴの義兄さんになるのは確実っすと、そこだけはどうしても譲らなかった。もうおまえの中では既に俺とリタの未来は確定事項なのかよ? ああ、考えてるうちに何だか俺もそうなるような気がしてきたぞ。

 面倒臭くなった俺はその話を打ち切り、ロドリゴに宝玉の説明をして実物を見せるとさっきと同じように口を開けて唖然とした顔で玉を見つめていた。

「ほら、ロドリゴ。早いとこ玉の力を吸収しろって」

「槍術8って本当っすか? まさか僕を騙してませんよね?」

「いいから、さっさとその玉を自分の胸に当ててみろ。そうすればわかる」

 俺に促されて覚悟を決めたのかロドリゴは胸に玉を当てる。
 一連の流れが終わって槍術8のスキルを身に付けたロドリゴは感激いっぱいの表情をしながら俺に抱きついてきた。おまえも俺に抱きつくのかよ!

「エリオさん、ありがとうっす!」

「ほら、これでリタが俺に抱きついてきた理由もわかっただろ?」

「それとこれとは全然別っすよ。僕は感激の抱きつきっすけど、姉貴は好き好き大好き絶対に離さないの抱きつきっすからね。同じように見えて全然違うっすね」

 意味わかんねえよこの姉弟。

 その後、おれはリタ達の部屋を後にして、ミリアムの部屋にも行って同じように火魔法8の宝玉をミリアムにもプレゼントしたらこちらも大喜びだ。

「エリオさん、ありがとう!」

 そこにはリタ達と同じように俺に抱きついてくるミリアムの姿があった。何で皆俺に抱きついてくるんだよ?

 ラモンさん、そんな怖い目で俺を見ないでくれ!
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