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第83話 おまえさんに野心はあるか?
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サゴイの街でお土産選びの買い物を堪能した俺はロイズさんの居館に戻ってきた。一応その旨を報告する為に、一旦自分に充てがわれた部屋に行って荷物を降ろして身だしなみを整えてから、ロイズさんへの案内を乞う為に同じ階の突き当りにある係の人が控えている部屋に向かう。
軽くドアを叩くと、中から案内役の人が姿を見せたので用件を告げる。「少々お待ちください」と言い残し、案内役の人は下の階へ降りていった。案内役の人には少し申し訳ないかなと思ったが、ロイズさんには聞いてみたい事もあったのでね。
暫く待っていると案内役の人が戻ってきて俺にこう告げてきた。
「エリオット・ガウディ様。ロイズ様はあなたのお帰りをお待ちしていたそうです。お帰りになられたらすぐに執務室の方へ来てもらうようにとおっしゃっていました」
「ロイズさんは俺を待っていたんですか。何か俺に急ぎの用でも出来たのかな? とりあえずそこへ案内してください」
コルとマナを部屋へ残して案内役に先導されてロイズさんの執務室に赴くと、部屋の脇にあるソファーセットにロイズさんが座って俺を待っていた。
「やあ、来たか。エリオット君はわしの真向かいのソファーに座ってくれ。そしてわしとエリオット君が話している間は執務室には人を近づけないようにしてくれ」
ロイズさんの言葉を受けた案内役の人は「承知しました」と言って執務室から出ていった。
「ロイズさん、お待たせして申し訳ない。街で買い物をしてたんですよ」
「いや、気にしなくていいよ。わしもさっきまで来客の相手をしていたからね。ところで街中の様子はどうだったかい? 君の素直な感想を聞かせてくれないか」
「綺麗で緑が多い街ですね。あと、一番驚いたのは多彩な壁の色の建物が織りなす奇抜な街並みです」
「ハハ、あの多彩な壁の色の街並みはサゴイの街の特徴だからね。元々は自分の家の場所がどこなのかわかりやすくする為に、自分の家の壁を青く塗った人がきっかけになってね。我も我もと競い合うように色とりどりの壁に塗る者が後に続いたのだよ。それならと、この居館も街に合わせて同じように奇抜な外観にしたのだ。今やそれがこの街の名所なのだから面白いものだ」
「そうだったのですか。聞いてみると納得です」
なるほど、この街の奇抜さにはそのような経緯があったのか。腑に落ちたよ。
「さて、ここからが本題だ」
そう言って俺の顔を見たロイズさんの雰囲気が一変した。今までの砕けた口調や柔らかい雰囲気とは打って変わって真剣な表情になっている。俺もその雰囲気の変化に表情を引き締めて姿勢を正すように背筋を伸ばした。
「ロイズさん、本題とは?」
「エリオット・ガウディ君。おまえさんに野心はあるか?」
いきなり野心はあるかと切り出されて俺は咄嗟に言葉が出てこない。静かな声だが俺に問いかけるロイズさんの表情は真剣そのものだ。
「野心……ですか?」
「そうだ。もっと活躍したい、自分の名を歴史に残したい。そういった野心が少しでもおまえさんにあるかね? もし、あるのならわしがその手助けをするつもりだがどうかね?」
もっと活躍したい、自分の名を歴史に残したい。底辺時代はそう心の中で思い描いていても、その時の俺はただの落ちこぼれの有象無象の雑魚でしかなかった。自分の名を歴史に残したいなんて、俺ごときが口に出すのも憚れるような叶えられる見込みがない望みだった。
今の俺の心の内はどうだろうか。コルとマナという頼もしい従魔を従え、多くの信頼出来る仲間や兄弟分達に囲まれている。雇われ身分とは言えどもコウトの街の部隊長という地位にもなれた。だが、それで満足かと言われるとそうでもないと思っている自分がいる。まだまだもっとやれるんじゃないかという内なる声が俺の胸の奥底から湧き上がってくる。
「野心はあります。今自分の心に問いかけてみました。どうやら俺には野心があるようです」
俺は胸の奥から絞り出すようにしてその言葉を口にした。
「フフフ、そうか。おまえさんには野心があるか。ならばわしの覚悟も決まった。おまえさんの為にやれるだけやってみよう」
「ロイズさんが俺の手助けを?」
「まず、その話をする前におまえさんに聞いてもらいたい事があるのだ」
「俺に聞いてもらいたい事とは?」
「わしの名前はロイズ・ガルニエだ。流れの行商人としてあの街でおまえさんと出会った時にわしは自分の名を名乗っておるが覚えておるか?」
「はい、何となくですが覚えています」
「そしておまえさんの名前はエリオット・ガウディで間違いないな」
「ええ、普段はそこまで詳しく名乗ってないですが、俺の名前はエリオット・ガウディで間違いないです」
「ガウディの名を持つ者はこのガルニエ家にとって何よりも特別な存在なんじゃ。実はな、ガウディ家は我がガルニエ家の主筋に当たる家なのだ。つまり、おまえさんのルーツのガウディ家は我らガルニエ家がその昔に主として仰ぎお仕えしていた家柄なのじゃよ」
「えっ、それは本当ですか? ガウディの家柄や昔の事などは死んだ親父も俺に話してくれなかったのでよくわからないのですが」
「なるほど。おまえさんはガウディという名が持つ過去の歴史について記憶や自覚がないのか。さて、どうするか。そうだ、何か親の形見とか譲り受けた物は持っていないか。おまえさんがガウディの血を受け継ぐ継承者ならばその品物のどこかにガウディ家の紋章があるはずじゃ」
親父の形見と言われても……ダムドで住んでいた家は燃やされて跡形も無くなってしまったし、俺が親父から受け継いだ物といえば何かあったかな?
少し考えていると、二つの物が俺の頭に浮かんできた。そうだ、マジックバッグと大剣がそうだった。居館内なので今は武器は身に付けておらず、どちらも部屋の中に置いてある。
「ロイズさん、ちょっと待っていてくれますか」
言うが早いか俺は席を立って執務室から出ていき、自分の宿泊している部屋へ一目散に向かっていった。部屋のドアを開けると床で寝そべっていたコルとマナが驚いたように顔をこちらに向けたが、俺だと知るとまた元の寝そべり体勢に戻っていく。
そして、俺は部屋に置いてあったマジックバッグと大剣を手に掴んでロイズさんのいる執務室へと駆け足で戻っていった。
「ロイズさん、この二つが俺が親父から受け継いだ物です。あなたが見れば何かわかりますか?」
「ちょっとわしに貸してくれ。調べてみよう。ガウディ家由来の物ならどこかに向かい合った二匹の犬だか狼だかの生き物と、その後ろに盾が描かれた紋章があるやもしれん」
ロイズさんは俺から受け取った大剣とマジックバッグを手に取った後、最初はバッグの方から確かめていく。暫くバッグを調べていたが何も発見出来なかったようで肩を落としている。
次にロイズさんは大剣を手に取りつぶさに眺めだした。そもそも自分の大剣だけど、底辺時代はほとんど使う機会がなくて手入れをする時以外はあまり外見に拘ってなかったからな。
そんな事を考えていたら、ロイズさんが急に大声を上げて叫んだ。
「あったぞ! 柄頭の部分にわかりにくいが小さく紋章が彫り込まれている。盾をバックに向かい合う二匹の狼犬の紋章だ。間違いない、これこそガウディ家の紋章なのだ!」
なんと……俺の所持する大剣からガウディ家由来の物の証拠となる紋章が見つかった。
軽くドアを叩くと、中から案内役の人が姿を見せたので用件を告げる。「少々お待ちください」と言い残し、案内役の人は下の階へ降りていった。案内役の人には少し申し訳ないかなと思ったが、ロイズさんには聞いてみたい事もあったのでね。
暫く待っていると案内役の人が戻ってきて俺にこう告げてきた。
「エリオット・ガウディ様。ロイズ様はあなたのお帰りをお待ちしていたそうです。お帰りになられたらすぐに執務室の方へ来てもらうようにとおっしゃっていました」
「ロイズさんは俺を待っていたんですか。何か俺に急ぎの用でも出来たのかな? とりあえずそこへ案内してください」
コルとマナを部屋へ残して案内役に先導されてロイズさんの執務室に赴くと、部屋の脇にあるソファーセットにロイズさんが座って俺を待っていた。
「やあ、来たか。エリオット君はわしの真向かいのソファーに座ってくれ。そしてわしとエリオット君が話している間は執務室には人を近づけないようにしてくれ」
ロイズさんの言葉を受けた案内役の人は「承知しました」と言って執務室から出ていった。
「ロイズさん、お待たせして申し訳ない。街で買い物をしてたんですよ」
「いや、気にしなくていいよ。わしもさっきまで来客の相手をしていたからね。ところで街中の様子はどうだったかい? 君の素直な感想を聞かせてくれないか」
「綺麗で緑が多い街ですね。あと、一番驚いたのは多彩な壁の色の建物が織りなす奇抜な街並みです」
「ハハ、あの多彩な壁の色の街並みはサゴイの街の特徴だからね。元々は自分の家の場所がどこなのかわかりやすくする為に、自分の家の壁を青く塗った人がきっかけになってね。我も我もと競い合うように色とりどりの壁に塗る者が後に続いたのだよ。それならと、この居館も街に合わせて同じように奇抜な外観にしたのだ。今やそれがこの街の名所なのだから面白いものだ」
「そうだったのですか。聞いてみると納得です」
なるほど、この街の奇抜さにはそのような経緯があったのか。腑に落ちたよ。
「さて、ここからが本題だ」
そう言って俺の顔を見たロイズさんの雰囲気が一変した。今までの砕けた口調や柔らかい雰囲気とは打って変わって真剣な表情になっている。俺もその雰囲気の変化に表情を引き締めて姿勢を正すように背筋を伸ばした。
「ロイズさん、本題とは?」
「エリオット・ガウディ君。おまえさんに野心はあるか?」
いきなり野心はあるかと切り出されて俺は咄嗟に言葉が出てこない。静かな声だが俺に問いかけるロイズさんの表情は真剣そのものだ。
「野心……ですか?」
「そうだ。もっと活躍したい、自分の名を歴史に残したい。そういった野心が少しでもおまえさんにあるかね? もし、あるのならわしがその手助けをするつもりだがどうかね?」
もっと活躍したい、自分の名を歴史に残したい。底辺時代はそう心の中で思い描いていても、その時の俺はただの落ちこぼれの有象無象の雑魚でしかなかった。自分の名を歴史に残したいなんて、俺ごときが口に出すのも憚れるような叶えられる見込みがない望みだった。
今の俺の心の内はどうだろうか。コルとマナという頼もしい従魔を従え、多くの信頼出来る仲間や兄弟分達に囲まれている。雇われ身分とは言えどもコウトの街の部隊長という地位にもなれた。だが、それで満足かと言われるとそうでもないと思っている自分がいる。まだまだもっとやれるんじゃないかという内なる声が俺の胸の奥底から湧き上がってくる。
「野心はあります。今自分の心に問いかけてみました。どうやら俺には野心があるようです」
俺は胸の奥から絞り出すようにしてその言葉を口にした。
「フフフ、そうか。おまえさんには野心があるか。ならばわしの覚悟も決まった。おまえさんの為にやれるだけやってみよう」
「ロイズさんが俺の手助けを?」
「まず、その話をする前におまえさんに聞いてもらいたい事があるのだ」
「俺に聞いてもらいたい事とは?」
「わしの名前はロイズ・ガルニエだ。流れの行商人としてあの街でおまえさんと出会った時にわしは自分の名を名乗っておるが覚えておるか?」
「はい、何となくですが覚えています」
「そしておまえさんの名前はエリオット・ガウディで間違いないな」
「ええ、普段はそこまで詳しく名乗ってないですが、俺の名前はエリオット・ガウディで間違いないです」
「ガウディの名を持つ者はこのガルニエ家にとって何よりも特別な存在なんじゃ。実はな、ガウディ家は我がガルニエ家の主筋に当たる家なのだ。つまり、おまえさんのルーツのガウディ家は我らガルニエ家がその昔に主として仰ぎお仕えしていた家柄なのじゃよ」
「えっ、それは本当ですか? ガウディの家柄や昔の事などは死んだ親父も俺に話してくれなかったのでよくわからないのですが」
「なるほど。おまえさんはガウディという名が持つ過去の歴史について記憶や自覚がないのか。さて、どうするか。そうだ、何か親の形見とか譲り受けた物は持っていないか。おまえさんがガウディの血を受け継ぐ継承者ならばその品物のどこかにガウディ家の紋章があるはずじゃ」
親父の形見と言われても……ダムドで住んでいた家は燃やされて跡形も無くなってしまったし、俺が親父から受け継いだ物といえば何かあったかな?
少し考えていると、二つの物が俺の頭に浮かんできた。そうだ、マジックバッグと大剣がそうだった。居館内なので今は武器は身に付けておらず、どちらも部屋の中に置いてある。
「ロイズさん、ちょっと待っていてくれますか」
言うが早いか俺は席を立って執務室から出ていき、自分の宿泊している部屋へ一目散に向かっていった。部屋のドアを開けると床で寝そべっていたコルとマナが驚いたように顔をこちらに向けたが、俺だと知るとまた元の寝そべり体勢に戻っていく。
そして、俺は部屋に置いてあったマジックバッグと大剣を手に掴んでロイズさんのいる執務室へと駆け足で戻っていった。
「ロイズさん、この二つが俺が親父から受け継いだ物です。あなたが見れば何かわかりますか?」
「ちょっとわしに貸してくれ。調べてみよう。ガウディ家由来の物ならどこかに向かい合った二匹の犬だか狼だかの生き物と、その後ろに盾が描かれた紋章があるやもしれん」
ロイズさんは俺から受け取った大剣とマジックバッグを手に取った後、最初はバッグの方から確かめていく。暫くバッグを調べていたが何も発見出来なかったようで肩を落としている。
次にロイズさんは大剣を手に取りつぶさに眺めだした。そもそも自分の大剣だけど、底辺時代はほとんど使う機会がなくて手入れをする時以外はあまり外見に拘ってなかったからな。
そんな事を考えていたら、ロイズさんが急に大声を上げて叫んだ。
「あったぞ! 柄頭の部分にわかりにくいが小さく紋章が彫り込まれている。盾をバックに向かい合う二匹の狼犬の紋章だ。間違いない、これこそガウディ家の紋章なのだ!」
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